18の定石
第186回 今の日本には「農耕型企業風土づくり」の経営が必要とされる(4)
先週からの続きです。
e) 一言で言い表せる「企業風土」
他の会社に無い企業文化を持つことで、「違い」を実感させ、自らその違いを営業現場などで体験させることです。
ある時期から、一言で自社の「企業風土」を言い表せる社員が多くなりました。
これにはいろいろな努力の結果です。経営をしていた私自身は、自社の企業風土の特徴を皆が簡単に顧客や他の人びとに言い表せると、自信を持っていましたが、実はそうではないことにある時気づきました。それならと当時、会社の企業文化を「SOSFCCQ」の言葉で具体的に表現したところ、一気にこれが社員の間、更に外部に向かって情報発信できることになったことを覚えています。会社の思想がより深く浸透する契機になりました。
・Sはスピードです。
・Oはオープンで会社の情報などを全て公開するものです。
・Sはシンプルです。複雑なことに嘘があり、単純、且つ、簡潔明瞭にすることです。
・Fはフリ-です。自由闊達に仕事をする環境をつくることです。
・Cはチャレンジです。すべての社員が新しいことに挑戦する義務を負うことです。
・Cはクリエイティブです。創造性をとにかく重視していました。
・Qはクオリテーです。以上の中で相互矛盾をきたす時は、クオリテーを最優先に考えることです。
このように自社の目指す企業文化を明示的に表現して、日常の仕事、教育訓練、採用等すべての活動局面で、会社の全構成員がこのことを頭から一刻も離なさず、実践することに決めたのです。
このようなことは経営体験を通じより深く味わるので、彼らが営業、現場のサービス提供局面、企画等全体を経験して、なるべく早くグループ長として経営者に育つ訓練を、ローテーションを通じて計画的に実施していました。
このことが、冒頭や飲み会に書いた、かつての社員からのいろいろなメッセージになったのではないかと思います。
f) 仕組、仕掛け
社員には自分を鍛える訓練が出来る「仕組」や「仕掛け」をつくりました。
年間計画、月間報告、週間報告を義務付け、しかも、これを自分の言葉で「書き表す」習慣を付させました。書き表すことで自己の考えや将来像を固めさせるためでした。勿論それが、会社が目指す目標と重なることを経営層としては望んでいましたが、それにこだわることは社員個々人の価値観を強制することになるので、それはしませんでした。
しかし、社会も受けいれられる戦略目標を会社が定めることで、社員の価値観との同心円で重なる部分が大きくなることも分かりました。
自分でやるべきことをリストアップしその達成状況を週間報告で記述させました。手書きで書かせることで、テクノロジーの支配から解放させ、自分で考える時間をつくるようにさせました。社員の心の揺れも文字から分かるようになりました。しっかり考え、計画し、優先順位を自分自身で考えていくことで、自分が合意した計画目標を、切迫感を持って実行させるためでした。
このことで、社員個人が重点的に取り組まなければならないことを意識し、結果として自分の時間を有効に使う知恵を学ぶようになったと思います。一度に一つだけ実行させ、次月にそれを質問し報告させることにしていました。重要なことを後回しにすることで結果として約80%の仕事が後々影響を受けるのを避けるためでした。彼らはそれで自分の自由にできる時間をつくる工夫を学び、「すぐやる」ことが如何に重要なことかを学ぶ機会にさせました。
g) 対話
最後に重要なことは、「対話」です。
これは上司、部下という立場を抜きに、人間対人間が話し合うことを意味しています。
上司と部下との会話で悪い例は、上司が部下の話の途中で、「それはこうだよね。あなたの言いたいことはこうだよね。」と部下の話を「括る」ことです。これでは、部下の意見を吸い上げることにならず、上司が考えていたことを部下の前で披瀝することにすぎません。
実は、ほとんどのビジネスでの会話がこのパターンです。忙しいことを理由として、話を「括る」のです。建前上は、「何でも君の考えを話してよ。」としながらも、実は一方的です。「対話」になっていません。
これを避けるには、上司の我慢意外に方法はありません。部下の話は、時にまとまりがなく、時に冗長です。しかし、我慢しながら聴いていくと、彼らの本心が何かに行き当たります。こうなるとしめたもので、次の正確な対策につながります。また、部下からの貴重な意見を得ることにもなります。
こうなって初めて、上司と部下との信頼関係の糸口がつかめるのです。
結論
以上のような「ソフト面」を経営上充実する結果として、私が主張する「農耕型企業風土づくりの経営モデル」は、一旦この企業風土を作り上げると、極めて強固な組織になります。詳細は、『これからの課長の仕事』,『これからの社長の仕事』(ネットスクール出版)『礼節と誠実は最強のリーダーシップです』(クロスメディア・パブリッシング)に譲りますが、私はこのことを約20年間の経営で実証してきました。
アメリカ流のマネジメントにもたくさん学ぶところがあります。しかし、このスタイルのマネジメント経営だと、万一、経営リーダー機能が不全になった場合、全組織が多大な影響を被るというネガティブ面のリスクが大きいのではないかと考えます。
日本に於いては、私の主張する「農耕型企業風土づくりの経営」のほうが企業の中・長期的な発展には適していると確信しています。
極端な例ですが、リーダーは善で「社員はこのリーダーに従え」的な一元的発想による経営の場合、経営においてリーダーの機能に狂いがで出ると、たとえ法規制や諸制度の保護があったとしても、ミドル・マネジメントを中心としたチームワークによる自主的補完機能がないために経営上芳しからざる結果を招くことが多いのです。
特に、「資本の論理」を全面に出す資本家的経営リーダーが経営者としてアサインされたときは、このリスクを大いに警戒せざるを得ません。
社員の知恵が仕組として生かされる「農耕型企業風土」のような経営組織が、そのようなマネジメントには組み込まれていないからです。「農耕型企業風土」に根差した組織では、現場の経験の集積が知恵の塊として存在しこれを生かす仕組があるので、万一の場合にも経営リーダー機能の一部をカバーする力があり、この点でも組織を強固にしています。
人間が作り出すシステムで利益を追求する組織ではある以上、「効率」を重視するのは当然のことです。経営システムも然りです。
しかし、これが行き過ぎると経営システム全体が一部の特権的リーダー中心の単純化した仕組になりやすい、と私は考えます。
効率がキーワードで、この言葉自体に論理的に大義名分があるので、なかなか正面を切って異を唱えるのが難しくなります。「効率」をキーワードにどんどん経営が単純化され、いわゆる経営の「遊び」の部分を無くしていくことこそが「良い経営」と株主からは賞讃されることになるかもしれません。
実は、ここに「落とし穴」が潜んでいます。単純であればあるほど、これが上手く作動している場合は良しとして、何か経営のリーダーシップに狂いが生じた場合、経営システム全体が作動しなくなるリスクが大となる傾向があります。
私は経営に故意に「遊び」や「効率を阻害する」仕掛けを組みこませる努力をしました。それらの仕掛けが「人間の心」や「仕事と生きがい」の観点から本来人間という生命体が持っている自然な姿に近いものであると信じ、「遊び」や「効率を度外視した」仕掛けも併存的に組みこませていました。
組織として生きた状態、活性化した状態を永く維持するには、このことが必要不可欠なことだと約20年間の経営で学びました。
そろそろ除夜の鐘が鳴りそうです。
皆様、良い新年をお迎えください!!
第185回 今の日本には「農耕型企業風土づくり」の経営が必要とされる(3)
前回の続きです。
「ソフト面」の部分の基本的で主要な要素は次の通りです。
a) 信頼の土壌づくり
社員が経営から派生することにも積極的に関心を払い、他方経営層が社員を、社員が同僚や上司を尊重し合う信頼の世界をつくることが第一です。
信頼できる人にしか自分の仕事上のノウハウを教えないのは人間として一般的なことです。また、経営側が社員全員に考え方や方針を噛み砕いて何回も説明し、彼らの心や魂に訴えかけることで、経営層と社員相互の信頼をベースとした仕事場環境ができます。知識や情報の共有が一層可能となります。知識や情報を共有できることが、次の改善やイノベーションにつながりやすいのです。
逆に、管理や監視の環境下では社員の自由度が無くなりイノベーションは生まれにくいです。信頼をベースとした自由闊達な環境下からこそ発想の自由が生まれるからです。
b) チームワークで強固な組織
レベルの高いチームワークが重要です。
私は小グループの店単位の経営を重視していました。構成人数の大小もありましたが、一番効果を発揮したのは、10人前後のグル-プでした。そこにしっかりとマネジメント出来るリーダーを据え置きました。
この規模では情報の共有にも特段の仕掛けを必要とせず、しかも、グループが上手く作動し沈没しないよう全員が実力以上のクリエイティブなマインドと努力をおしまない雰囲気ができるからです。
他方、そのチームのまとまりが良すぎて同質化のシグナルもウォッチしていました。時には同質な人材のグループ編成を意図的に破壊して、あえて異質な人材を入れて、一見まとまりの悪いと思えるチームを編成したこともありました。これで安逸から組織の活性化につなげたのです。
組織は多数の小さいグループで成り立つことを目指してグループの長に相当な権限と自由度を託し、一定の枠内で本人が自由にグループをマネジメントできる組織です。この組織は、全体系が人間の心や集団の中で人間が本来あるべき姿を仕事環境でもできる限り実現することを基本とした経営組織です。
ミドル・マネジメントを主軸として多くのグループ間でお互いにチームとして支え合う、助け合うシステム体系で、ほかのグループとのチャンネル接点の入口が多数用意されていますので、どこかの小組織(グループ)に突然何らかの障害が生じたとしても、類似した経営をしている他のグループからの補助・補完により、そのグループが速やかに再生可能となります。
この補完機能が備わっていることで、全体が非常に強固な組織となります。
c) 勉強、勉強、また、勉強できる環境
「構成社員の「知」レベルの総和以上には会社が成長しない」というのが、私の持論です。
したがって、構成する社員自身が勉強、研修して成長してもらわなければなりません。
それぞれの社員に発展段階の違いがありますが、各人が自己の「足りない」ことを常に意識してもらわねばなりません。グループに貢献するには、今の自分の知識や情報のレベルでは限界があること、自分が勉強して、知性豊かな人材にならなければグループに貢献できないことを認識してもらわねばなりません。
リーダーたる上司は、皆がこれを実行できる「時間」と「場」の環境を与えることです。少しでも変化に対応できる知恵を個々人が増やすことにつなげられるからです。
d) 語り継ぐ人
事の背景やあることを成し遂げた心意気などが、マニュアルでは伝わりにくいです。完全に説明できにくいことが多いからです。ここにストーリーの語り部の役割が必要となります。
私の場合、これを「分身」と思える社員に手伝ってもらいました。一連の失敗や成功の体験を物語として語ることです。単に文字になっていることを読むのでなく、体験した本人が自分の言葉で部下に語ることがどれほど実のある教育・研修になるかを、私は実体験で学びました。
「分身」を通じて語られるストーリーが彼らの心に残るので、眼に見えない威力を発揮します。この語りは営業マンだったり、部長が困難な局面を乗り越えた経験だったりしますが、聴く人の心に紙芝居的な映像として残ります。
私自身は約20年の経営の中で、自らの苦難の経営局面を自ら社員に語ることは、ある時までは、約10秒だけでした。
確か株式公開が出来た後の挨拶で、一言「本日、株式公開が出来ましたが、ここに至るまで過去苦難の局面があったことを忘れないで頂きたい。」と。 私からすれば、資金の工面経験などは、経験させたくない、彼らのマネジメントにとってはあまり役にたたない、もっとマネジメントにとって優先順位の高いことがあるとの思いが強かったからです。
ところが、ある時、元、オリコの副社長だった田中顧問が、「園山社長、そろそろ昔の苦労した局面ことを知っている社員が少なくなったので、それを語った方が良いですよ。」とのアドバイスを強力に受けました。彼はその時は会社の顧問で、かつて裁判で死闘を演じた男です。「敵ながらあっぱれ」と、それ以前から長く役員を引き受けてもらっていました。
これは会社の経営を引き受けてから、株式公開、そして上場と邁進し、大分時間がたった頃の2003年頃のことです。アドバイスに沿い、局長クラスの数十名に過去の倒産寸前の苦難の経緯を話したことを覚えています。局長クラスのメンバーが私の「分身」として自らの言葉で自分の部隊の部下にその内容を語り継ぐストーリーテラーの役目を担ってくれたことを記憶しています。さらに私の経営に関する考え方の浸透が増してきたことを覚えています。
e) 捲土重来のチャレンジできる制度
失敗しても捲土重来チャンスを与えることです。
私の経験を振り返っても沢山の失敗から学びました。特に若い頃、沢山の失敗をしました。上司から怒鳴られた経験もあります。顧客から出入り禁止を食らったこともあります。
私が経営を引き受けた時には、このような経験がどれほど役にたったのかを思い知り、この趣旨を社内の人事制度に反映させました。
挑戦して、仮に上手くいかなくても再度チャレンジして捲土重来を期す機会をあたえるものにしました。このことで現場の組織の活性化のみならず、「チャレンジしろよ!!」という私の言葉が偽りなく本気なのだとの評価が定着し、経営への信頼感につながったことを、以後社員から聞きました。社員が安心して仕事が出来たようです。
第184回 今の日本には「農耕型企業風土づくり」の経営が必要とされる(2)
前回の続きです。
「農耕型企業風土づくりの経営」は、組織を構成する個々人に自分の仕事はしっかりやりぬくことを要請しますが、決して個々人を他の人と孤立する関係に置くのでなく、むしろチームとして助け合う関係に置きます。一緒に楽しく仕事をするもので、ましてや禁欲的な勤勉さを要求するものではありません。そのような働き方では会社と社員、社員間の信頼関係の醸成が疎外され、結果として社員の勤務期間が長続きしないからです。
日常的な運営の主役は現場の社員
この経営では、企業が目指す戦略や目標がまず設定され、これを効果的に達成するための手段や行動の選択肢を社員に落とし込みますが、同時にその手段を上手く使いながら諸問題を現場で解決するもので、この経営の日常的な主役は、構成する社員そのもの、彼らの主体的なアクションの集合になります。
経営層が決定した戦略や目的に表現されているある種の思想に、彼らが主体的に共感するには、経営層の常なる努力や熱き思いが必要です。これを何回も説くうちに社員の胸の内に落ちて社員間の連帯感が醸成され、組織が「燃える集団」化するのが理想です。結果として、日常の業務の中での日本的経営の特徴と言われる「改善」や行動の徹底化といった精神的支柱をつくることにつながります。まさに「企業風土づくり」そのものとなるのです。
本年の12月中旬、大阪でかつての部下の飲み会がありました。30数名参加したとのことです。あいにく所用で参加できなかった私は幹事さんに一言挨拶を託しました。拝見した動画には、感激して言葉を詰まらせるS氏の姿などが映っていました。「企業風土」が「園山イズム」までのレベルに達していた証左を垣間見た感じです。彼らがリーダーとして独り立ちしてくれている姿を拝見したのが何より嬉しかったです。「企業風土」が人材づくりにつながったのです。
誇るべき「5S運動」と家族的連帯感
そもそも日本で近代的な経営を導入しはじめたのは、明治の時代に入ってからです。当時の欧米流の経営を導入して、何とか欧米に追いとこうと、先人が並々ならぬ努力を注いだことには頭が下がります。
欧米流の良い所を導入しつつも、片方で、日本で特色ある経営スタイル、いわゆる家族的経営スタイルも注目されてきました。これにより運用された「5S運動」なども、日本企業の競争力の原動力となったのはご承知の通りです。整理、整頓、清掃、清潔、躾の徹底です。社員の活動の中にある種の家族的連帯感を植え付けることで生産性を向上させる手法です。
実は、これが上手く作動した背景は当時の日本に終身雇用の制度があったからです。その企業に入社することは、先輩や後輩と一緒に家族として「同じ釜の飯を食う」感覚でその企業の発展に一緒に努力をし、自らもその恩恵を享受するという時代でした。
短期志向、数字先行の経営へぶれる
しかし、第二次世界大戦後、というより1980年代ごろから欧米の経営が株主重視、数字先行型の経営に変貌してから経営がぶれ始めました。日本でもグローバル化の流れに乗る口実の下、1990年代頃には、短期志向、数字先行の経営に傾き始める企業が増えてきました。「5S運動」などに代表された日常の活動の中に改善を見つけ、それを徹底する行為の中で社員間の連帯意識を植え付けようとする余裕もなくなってきました。「短期的に利益を追う、数字目標のみを狙う、一株当たりの利益を上げること」が最優先され、それに直接的に役にたたない活動は非効率、非合理的として排除される傾向が出てきたのです。
雇用形態も終身雇用から流動性のある雇用環境に大幅に変わりました。誠実に任務を実行していたが、何かの事情で残念ながら会社を去ることになった時、感謝の心を持って会社を去るという姿が無くなったのは残念です。反面、非合理的なことを極端に排除することで、社員の忠誠心を失い、ノウハウは伝承されず、結果として、企業の中・長期的は発展につながらないことが、心ある経営者にはわかってきました。
成長し続ける企業の特徴
私が観察する限り成功をし続けている会社の特徴として、その呼び方はいろいろあるとしても「農耕型企業風土づくりの経営」の要素を備えています。すなわち、戦略や目的を重視することと併せて、社員間の連帯、信頼、チームワークなどを重視している企業が成長を続けているのです。
他方、株主満足を前面に出し、コストや数字、サプライチェーンや資本効率のみを多くの企業が重視しています。
勿論、これを無視した経営は成立しません。しかし、もっと卓越した企業になるためには私が言う「内臓部」の活動、社員行動にインパクトを与える「ソフトの面」を重視しなければならないと思います。
「ソフト面」の重要さ
私のビジネスモデルを説明するために、「骨格部」と「内臓部」の関係を体系的に整理していますが、今回はこれを省き、「内臓部」の「ソフト面」のみに焦点を当てることにします。社員の自主的な働きぶりに直結するからです。
第183回 今の日本には「農耕型企業風土づくり」の経営が必要とされる(1)
今の日本の経営には、私が主張する「農耕型企業風土づくりの経営」を必要としています。欧米型でなく日本独自の特色を活かした経営スタイルです。今こそこの経営方式を沢山の企業に広めていく必要を感じます。
何故なら、欧米型の経営、特に株主のみを優先し極端に短期的な数字を追及する経営では、あらゆるところに限界が来ているからです。社員の会社に対する忠誠心は今や過去最も低く、ほとんどの社員が少しの給与差で転職を考えているとの統計資料もあるほどです。すなわち、最も重要な資源たる社員からもそのような経営に対する信頼性が下がってきていることです。
今、必要とされる経営スタイル
私の主張する「農耕型企業風土づくりの経営」の方が、企業の中・長期的成長・発展を図ることが出来ます。この経営では、経営の定石を18に区分けし、これを大枠、経営の「骨格部」と「内臓部」に区分けます。エネルギーロスを少なくし組織を円滑に運営できる「仕組」も当然この中に入っています。
骨格部は、経営の戦略や目的を明確にして社員を一つのベクトルに持っていく仕掛け部分です。
また、内臓部は、経営の戦略や目的を組織の末端まで浸透させ、社員が一丸となって連帯して活動できるための血液循環作動部分です。
詳細は後に譲りますが、欧米型は、「骨格部」に力点を置きすぎる経営です。最近の日本でも欧米の影響を受け、残念ながらこの軸に偏る経営を見てきています。「内臓部」にうんと力点を置いた経営は、かつての日本の家族的経営スタイルです。
ビジネスモデルの「フォーミュラ」
骨格部と内臓部の18の「定石」を上手く運用して、「農耕型企業風土づくりの経営」を通じて企業の中・長期的な成長・発展を図れるビジネスモデルの「フォーミュラ」は以下の通りです(参:『これからの課長の仕事』、『これからの社長の仕事』、ネットスクール出版)。
このビジネスモデルで成長するフォーミュラ(公式)
「いろいろな施策で社員を幸せにすると、本人(社員)の心理と脳の特定の働きかけにより社員のモチベーション、創造性、革新が高まってイノベーションをもたらし、本人と会社の成長に導く。」
これが「農耕型企業風土」づくりを通じて会社を成長させる「フォーミュラ」です。
この「フォーミュラ」を分解すると、
1.「対話をする」「場をつくる」などのいろいろなステップを踏んで社員を幸せにする努力をします。
2.この社員を幸せにするステップが本人の心理と脳の特定の働きかけにより、社員のモチベーション、創造性、革新性を高めイノベーションをもたらします。
3.このように個々人の社員の心を「わくわく元気」にすることが、チームプレイや人間関係を重視する環境と相まって個人の成長のみならず、組織集団のパワーアップをもたらし会社の成長につなげていきます。
この「フォーミュラ」の特色は、いろいろな施策や仕掛けを通じて社員の幸せ感を維持する努力が会社の成長につながることを意味しているもので、極論すると、会社の成長が社員を幸せにすることではないことを強調したものです。
欧米の短期志向の経営スタイルからの揺り戻し
私は、過去約20年間の経営を通じて、これらの双方のバランスを貫く経営が重要なことを実証してきました。日本人を中心とした経営組織集団で成功する秘訣とも言えます。同種同文のアジアの地域でも同様な経営が必要と考えますが、個人的にこれは未実施です。
この経営に「農耕型企業風土づくりの経営」と名前を冠したのは、余りにも欧米型の経営が跋扈し出して、「内臓部」の構成要素である社員のチーム力や働く人々の個性や意欲を軽視した経営に対する揺り戻しを強調し、日本的な経営の良さを敢えて前面に打ち出し、軸を戻すためでした。
組織の一員として、ビジネスマンである前に皆一人の人間であること、その人間が意欲を持って主体的に何かを成し遂げようとするには、働きやすい特定の環境、私の言葉で言えば、良い「企業風土」なるものが必要であることです。どんな崇高な戦略や目的を経営者が明示しても、これが構成する社員の思想にまで浸透しなければ絵に描いた餅です。社員が連帯して戦略目標達成に向かって活動する姿こそが、まさに生きた経営の醍醐味です。
「ほんとに楽しく仕事をさせてもらいました。お蔭で、他の会社の良さ悪さが瞬時につかめ、改革の方向がすぐ分かり実行に移せます。沢山学ばせて頂いたお蔭です。」と、かつての社員からの感謝の言葉を聞くにつけ、社交辞令を差し引いても、社員も含めた全員による「農耕型企業風土づくりの経営」の良さを彷彿させてくれる表現だと思っています。
経営側にいた私こそ感謝の言葉が自然にでるほどの一体感ある会社づくりでした。これほどトップの経営層と一般社員層との距離が短かったのかと、いまさらながら「農耕型企業風土づくりの経営」の良さを痛感し、この良さをもっと広めたい気持ちでいっぱいです。
経営幹部の育成のために、あなたはどう良い道筋をつけていますか?
とにかく、正しい質問をすること
私の体験です。「農耕型企業風土」づくりの経営路線を通じてある会社を建て直し、会社を成長・発展させることに成功しました。この時に実際に指導・採用した施策を本年書いた本で「フォ-ミュラ」と「18の定石」として纏めました(「これからの課長の仕事」「これからの社長の仕事」特設サイト)が、私は幹部育成の一環として、この本に記載した「18の定石」の説明の中で使った言葉を少しモディファイして、経営幹部に質問を投げかける方法をとることにしています。
この質問は大くくりに纏めると、顧客のファン化について、社員の幸せや成長実現について、サービスのデザイニングについて、経営者の理念の内容と覚悟について、チームの中での個人の成長についてのモラール・マネジメント等など、となりますが、「18の定石」が実現されるように質問する側が正しい質問をすることを心がけています。
自分自身やチームで回答をみつける
質問を投げかけるというこの方法の利点は、答える方が考えざるを得ないという点にあります。答える側で思考のプロセスを楽しめると同時に、回答のプロセスを通じて仕事の面白さや仕事に対する愛着心を抱くことにも通じます。
考え考え抜いていきますと、相手の良い意見に気づいたり、自分の知識の足りなさの限界にも気づきます。また、考え方を狭く取ると答えが発展的でなくなるので、もっと広がりを持った発想の必要性にも気づきます。
思考や発想の広がりの必要性は、皆頭の中では分かっているかもしれませんが、私の場合はこれを具体的に考え活用する機会を社員に提供していくことで、幹部社員の成長を促進していくものです。
私の例です。「サービスのデザインイング」について質問をすると彼らは、最初は難しそうな反応を示します。しかし、会社内の論理から消費者や利用者の論理に関することを質問すると、彼らは顧客に対するサービス導線の思考と行動の重要性にすぐ気づきます。気づいたサービス導線をチームで議論していく過程で個別顧客に対応でき、かつ広がりのあるオリジナルな導線を皆でみつけ大喜びをしている場面を見ました。他の部門では実行していたが、それを上手くカスタマイズした修正サービス導線を捜しあてたりすることで、そのチームが「わくわく元気」になったことも見てきました。それほど、正しい質問をすることは効果のあるやり方でした。
最後は信頼関係
信頼というと信用とは少しニュアンスが違います。
信用と違い信頼は、内容の善悪の判断は別にしても「あの人の言うことなら」、「あの人の恩義に報いたい」などの文言で表現されるように、信頼の関係はその人とある種の無条件な依存関係をつくることになります。
これは、私が『これからの社長の仕事』の定石11の「チーム」や「公」に貢献する、の項(P114)で、
- 皆さん一緒に仲良くしましょうね
- 仲間外れをつくらないようにしましょうね
- 悪いことをしたら謝りましょう
- 困った人がいたら助けてあげましょう
と幼稚園の先生が園児に徹底する言葉を紹介しましたが、こうしないと相手からの信頼を得られないのではないでしょうか。子供の世界だけでなく大人の世界でも同様です。園児に向けたこれらの言葉を、大人用に言い換えれば、チームを大事にする、相手に敬意を払う、困っている人(やチーム)には助け船をだす、嘘はつかない、約束を守る、何かに縛られない自由な発想をする等ではないでしょうか。
これらの外に、信頼を深める方法は見つからないと考えます。信頼とは、それほど人生の長い期間をかけて日常の一挙手一投足から造り上げるものなのかもしれません。
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