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顧客の声

第154回 事業発展の経営手法(2)

Posted on 2015-05-07

前回の続きです。

 

(II)黒字だが、更にその額と幅を大きくしたい会社では

 大多数の中小の会社は、少ない利益、多分5%位の利益率しか計上していません。それでも事業を継続しています。利益が少なくても、財務管理をしっかりすれば一応会社が回るからです。

 しかし、経営者たる者、これで満足するわけにはいきません。

 

1.「一点集中」

 事業を始めた時、ビジョンや、やり遂げたい目標があったはずです。

 これを実現するには、「あれもこれも大事」という発想を捨てることです。私は、「一点集中」と言っていました。限られた人、物、金、ノウハウの各種経営資源を一点に集中投資をして勝負に挑むことです。

 「一点集中」には、結構度胸が必要です。しかし、賭けではありません。論理的な思考が不可欠です。この時重要なことは、ビジョンや目標を実現するために経営尺度を持ち、それに照らして判断することです。事業の内容によってその尺度に違いがありますが、私は、経営資源たる各種のインプットを利用した結果として、将来得られるはずのアウトプットたる「限界利益」を重要な尺度の一つとしていました。

 今やっている事業の限界利益(率)より多くの限界利益を上げると予想できる事業や商品順に、優秀な人材と資金を投入する努力をしていました。ただ、将来沢山の限界利益を上げるはずの事業でも、環境の変化次第で予期せぬ展開になりうることを想定し、「撤退ルール」を事前に決めて、ダラダラと人とカネを投資するリスクを回避する努力もしていました。

 

2.「質」を重視の作戦転換

 量的なことも重要ですが、この頃からは、質の問題を真剣に取り組まなければなりません。会社の発展段階により顧客の内容も変化します。ある程度の商いの量となると、購入の担当者もあなたの会社の魅力のみでは押せない事情も出てきます。このため、会議などで、こと品質面で他のメンバーからネガティブな意見が出てこないように、質、クオリティ面に最大限の配慮が必要となる頃です。価格差はまだしも、品質面での議論には購入先を切り替えさせる議論に大義名分がありそうだからです。

 この段階で質の面を徹底的に充実してから、一段上の量的拡大を図ることです。

 

3.商売方法に新機軸

 既存の商売のやり方に疑問を呈して、やり方を変革することです。

 今の商売のやり方は、もう峠を過ぎた商売のやり方かもしれません。世の中には新しい道具が沢山出てきています。しかも、多数の顧客の支持を受けたものも見られます。

 会社が伸びる時には、必ず何かを変えています。変える要素として何を選ぶかは、その会社により違いますが、他の業種や業界を参考にして、商売のやり方に何か新機軸を取り入れるのが大きく伸びる一つの方法です。

 

4.商品の種を試行

 新しい商品開発を手掛けることです。儲けている商品の寿命も考えなければなりません。儲けている時こそが意外に危険な時期です。忍び寄るリスクの話題は、儲けている事業部の批判に聞こえてしまい、なかなか持ち出しにくい雰囲気が出てくるからです。しかし、競合相手が出てきます。儲けている商品であればこそ、競合もその分野を狙います。

 多少黒字化した今の段階で、次の商品の準備をすべきです。ほとんどの商品が成熟したマーケットで競争をしていますから、その商品がすぐに売れるようになるとは限りません。そこで試行錯誤の連続です。そのために、早い段階で複数の商品をトライして、上手くいきそうな商品(限界利益が大きくなりそうな商品)に絞り込むプロセスが必要です。

 

参考になりましたでしょうか。

 

第153回 事業発展の経営手法(1)

Posted on 2015-04-30

 経営アドバイスをしていると、意外なことに気づきます。事業の発展段階が違うのに、それに相応しい経営をしていないことです。どこかで聞きかじり、発展段階が違うのに、それをそのまま自分の会社の経営に取り入れる愚を犯していることです。結果として、成長のスピードを遅らせています。

 そこで、今日は、(I)長年赤字続きの会社、(II)黒字だが更にその幅を大きくしていきたい会社に絞って、経営者がすぐに取るべき策のヒントを提供したいと思います。

 

(I)長年赤字続きの会社では

 このような場合、社員の士気も内実は低いはずです。それにも拘わらず、第三者にそう見られないために、無用なカモフラージュをしているかもしれません。

 大事なことは、早く黒字転換することです。黒字化すれば銀行からの資金の導入も楽になりますし、社員の士気も上がります。そのためにどうするか。

 

1.本当の強みを真剣に探り、事業のターゲットを絞る

 自社の本当の強み、魅力は何かを、徹底して探ることです。

 「あなたの会社の強みは何ですか?」と質問をすると、返ってくる返事は教科書に書いてあるような、仰々しくお定まりの文言のことが多いです。しかし、このような答えに、私は納得しません。その会社の人々が、伝承で勝手に強みだと思い込んでいることも多いからです。 そして早晩、更に業績が悪くなる傾向が強いです。

 上司から伝え聞いた自社の強みを、そのまま鵜呑みにせず、顧客の声を聴き、顧客の本当の声を集めてください。赤字続きの会社は、この部分の分析が弱いことが多いです。顧客がなぜあなたの会社から商品を買っているのか、会社側の論理での思い込みでなく、顧客があなたの会社の何に本当の魅力を感じているのかを真剣に知らなければなりません。

 それを知れば、それにターゲットを当て絞れば良いのです。いろいろな策で時間とカネを使うのは愚の骨頂だと思います。だから赤字が消えないのです。

 私は、よく『「差異化」をはかりなさい』と指導することが多いのですが、それは顧客が感じるあなたの会社の魅力に、あなたの会社の全エネルギーを注ぐことを意味しています。

 

2.「売り」に焦点を当てた情報提供

 最近は、購入側が最初にアクセスするのが会社のホームページ(HP)であることが多くなりました。従って、これの設計を軽んじ、過去のデータの更新がなされず、なんとなく情報を流しているように見られるHPは、大きなマイナスです。また、HPを見ると、何でもかんでも掲載している会社があります。総合的なデパートにしています。

 前段で述べた論理の通り「売り」に焦点を当てた最新情報の説明になっていなければなりません。赤字段階の状態にある今、会社の顧客はあなたの会社にデパート的なものを求めてはいないのではないでしょうか。あなたの会社のHPを通じて、「差異化」された特別なものがあなたの会社にあるかを捜していると思います。

 その意味で、もし会社自身の説明が焦点をぼやかし総合陳列的な説明になっているとすれば、早期に策を打つべきです。

 

3.単純な「仕組み」つくり

 「仕組み」の単純化が必要です。

 赤字会社に限って、やたら社内の仕組みが複雑なことが多いです。単純な作業なのに、これを省力化せず後生大事に継続しています。単純作業は代替可能なのに、他の人がタッチできない「仕組み」のまま、時間が過ぎています。これでは本来の効率が出ていなくて当然です。無駄なコストをかけて、赤字に貢献していることになります。

 最初は抵抗があっても、毎期の計画を達成するために、受注に至るプロセスを管理でき、売り上げとコストを正確且つ迅速に把握でき、しかも、社員全員にこの同じ数字が「見える」状態にすることです。

 フォーマットも簡単な、しかも、本質的なことのみ押さえるフォーマットにして、それを下にマネジメントしていくことで、生産性が確実に上がります。上司が部下に指示する内容そのものも変容してきます。上司が人に仕事を託す意味も分かってきます。

 

4.世間体は一切忘却

 「○×会」、「○×クラブ」などの入会肩書や世間体を気にしないことです。そのような余裕はないはずです。

 経営者自身が見栄や体裁を捨て去り、社内の黒字化、できればその先の戦略にのみ時間を費やすことです。そのためにも顧客に回商することを最優先し、顧客があなたの会社に魅力と感じることの作戦に頭と時間を使うべきです。

 

 

 

本物の人間力

Posted on 2012-11-01

 私は沢山の本物の人物に恵まれました。

 一般的な言葉で言う「著名な人」ではありませんが、市井の中に本物の人物がたくさんいることを体験しました。ある会社の経営を託され、その経営に尽力する過程でたくさんの人と出会い観察する機会が多かったことが幸いしたかもしれません。

「真金不鍍」

 本物は「真金不鍍」と言われる通り錆びません。

 しかし本物と偽物の区別は結構難しく、個別の現象を一定期間累積して見るしかありません。

 義務ではないのに人が集まる、その人から人が離れない、人が指導を乞ってくる、このような人に出会いました。

 他の言葉で言い表せば、対価や役職を要求せず相手を扶助する精神があり共感性が豊かで、厳しさの中にも優しさがあり、誠実で約束を破らない肝が据わっている人と、表現できるかもしれません。

集団を引っ張る力

 私が経営を託されていた会社の福岡の支店に、清水和仁君という人がいました。今も他の会社で活躍・チャレンジしています。

 彼の集団を引っ張る力は他の追随を許さないほど力強いもので、多くの人との接点、つながりを大事にしていました。おまけに、彼の業務能力も抜群でした。

 集団に不利なカードが回ってきた時の対処法や、並行的に複数のことに同時に対応して集団のリスクを分散することも常に考え、最後は自ら集団のリスクを取る用意がある人で、根は楽観的で魅力的な男でした。

 その一方で集団が調子に乗りすぎずないように引き際をわきまえ、どこかで集団のツキが落ちることを前提に、早めにゲームを切り上げる判断力もわきまえている男でした。

顧客の声を聴く力

 また消費者の声を会社としてどう活かしていくかに、彼ほど熱心な人物はいませんでした。

 企業活動の中でまずその企業が顧客に何を約束するか、この約束履行に対して誠心誠意、心から実行する意思がまず顧客に見え、かつ伝わることが肝心です。

 私の言う「サービスデザイン」と関係してきます。

 形のみが整備されていても、この意思と実践力が顧客に見えない時には、顧客対応の仕組みが形骸化してしまいます。」これを回避するために顧客訪問などを通じて会社の約束事を守ろうとする清水君の誠心誠意な行動には、本当に頭が下がりました。

 約束の履行に対する反応として、顧客からいろいろな意見が会社に寄せられます。手紙、電話、メール、ソーシャルメディアなど、方法はいろいろあります。問題は、この顧客の声(Voice of Customer)を吸い上げる努力にかかる知恵とエネルギーを惜しまず、顧客の声の表面だけでなく、言葉の背後に潜むインサイトをどう掴むかです。

 経営者であった時、私はこの視点を一番大事にしていました。

 分析手法もいろいろありますが、ポイントは顧客にどう喜んでもらえるかという視点で顧客を観察することです。清水君はそれを一番わかり実践していた人の一人で、非常に優れていました。

 彼はインサイトを何とか見つけたいと、顧客と日常的に接点を持っている人々を通じて、彼らが顧客との接点で「一番嬉しかった」ことを口頭や紙面に述べてもらう「場」を持つことを頻繁に実践していました。顧客に喜んでもらった個別事象から、さらに顧客に喜んでもらう知恵の塊、インサイトを現場の社員から発掘し、ファン層も含む顧客の口コミなどの醸成、拡大で顧客と一緒にさらに良いものを創るためです。

幹部を育成する場所

 福岡にあったこの支店を、私は次の経営幹部を育成する「場」と位置づけしていました。明示的ではありませんが、次の幹部候補の人材はこの支店の長を経験させることにしていました。

 それは、清水君などが中心となって石城君、鶴田さん、丸山さん、河津さん、角田くんなどあげたらキリがありませんがこの支店が、集団の状態を効果的に特定の目的に引っ張り仕事を遂行する能力を組織として持っており、会社全体の良き企業風土を伝承していると認識していたからです。この支店には清水君のような人物が沢山いるので、どんな幹部候補者が赴任してきても、良い経験と企業風土を体験し、確実に成長してくれるからです。

人間力の評価

 人を評価するのに人事考課という制度があります。

 この制度は会社の目的、目標を踏まえて、個人の目標の遂行度に対する上司の評価として客観的に数字に表れるものと、主観的だが数字や度数に換算し直したものの構成要素を総合集計するのが一般的です。

 人を評価するのに、人事的には給与の上下と連動させるために、その総合点で評価するのが一般的ですが、私は、評価項目の個別の内容を見ることも重視していました。

 個別の内容を業務遂行のスキル力、構想を練る力、人間力などに分けて評点づけがなされるとすれば、先ほどの清水君の例では、彼の人間力が最上位に位置付けられる人物でした。人生と同様、組織としていろいろな難局があろうとも、彼はその人間力で、集団を無手自在に良い方向に引っ張ってくれる人物の一人です。