金融資本
そろそろ金(カネ)中心の発想を転換すべき時期と思いませんか?
アメリカでも数か月前に、中央銀行が国債引き受けという「禁じ手」を実施したのは、皆様のご記憶に新しいと思います。
しかし、その施策以後もマーケットは安心できるとは言えない状態が続いています。
また、格付会社のスタンダード&プアーズがアメリカ国債をAAAからAAプラスに下げたのも衝撃的な事実でした。アメリカに頑張ってもらわねばなりませんが、私は、かつてのドル機軸の経済通念が、ここにきて完全に揺らいでいる印象を持ちます。
かたや、ギリシャの財政危機に端を発して、EU圏を中心にヨーロッパでも金融危機がなかば恒常化しています。スペインの財政危機もとりざたされ、救済措置が講じられる報道が発表されていますが、どう具体化するのかが何となく見えてきません。あわせて、EU内では国民や国の間の所得格差が大きくなり、社会での二極化現象がでてきている報道があります。
実態として経済は、非常に不安定な状態が続いていると私自身は認識しています。
こうした中で我々は、特にアメリカという国をどうとらえたら良いのでしょうか。
行き過ぎた金融資本主義と「人間中心の経営」
大学で「需要と供給の一致で最適解を見つけられる」ことを市場論理として教わってきました。確かに、この論理でわれわれの物理的生活水準が上がってきたのも事実ですが、一部の金融機関を中心にした昨今の行き過ぎた金融資本主義、すなわち、実物取引とは乖離した実質資産の裏付けのない投機的な取引がマーケットを凌駕しているのは如何なものでしょうか。非常に憂慮すべきことだと、私は考えます。
私は、「農耕型企業風土」づくりを通じて継続的に企業が発展するには、このようにカネを中心に物事を考える習慣を今や大きく軌道修正し、「人間中心の経営」発想をすべきではないかと警鐘を鳴らしている一人です。
なぜこのようにカネ中心の発想をするようにことになったのでしょうか。
それは、アメリカ人が本源的に持っている考え方と関係しているかもしれません。私は1961年、AFS留学生として、ニューメキシコ州というアメリカ西部の高校に留学して、彼らの考え方に強烈な印象をもちました。
19世紀後半までのアメリカでは、カリフォルニア、テキサス、ニューメキシコ州やこの近辺で西部開拓が行われました。新しい市場を開拓して、そこから富を探して得ることが、彼らの考え方の根底に染みついていると思います。ところが20世紀後半頃、西部が開拓しつくされました。
そこでアメリカは、新しい市場を求めて海外に進出しようとしましたが、その途端にそれらの地域はすでにヨーロッパ列強が押さえている、即ち海外にも開拓するところが亡くなったという事実に直面したのです。一部地域では、アメリカは武力で奪う方法も取り入れました。しかしアメリカは、武力で彼らのテリトリーを奪う戦略より、むしろ金融の力で市場を開拓し、最終的に支配できることに着目したのです。
アメリカの頭の良い仕組みと日本の対応
アメリカは賢いシステムを構築したものだと、批判的な立場から私は感心しています。
アメリカは米国債をどんどん刷り、米国の借金を増やし世界の金(カネ)をアメリカに流入させたのです。アメリカはこの金を上手く使い、経済発展を実現させました。アメリカが外国からの安い輸入品を購入するので、アメリカに物を売る立場の相手国も輸出でメリットを受けハッピーです。かつての日本や中国などのように、輸出でメリットを受けた相手国が、儲けた金でまた米国債を買います。そしてアメリカでは需要に合わせてさらに国債を刷る、というアメリカにとっての善循環になるのです。債券を刷り現金をばらまく作戦で自国が繁栄を享受する方式です。モノとは関係なくカネがカネを生むアメリカにとっては好都合なシステムなのです。
その考え方は今も根底で踏襲されているのではないかと思います。こう考えると、最近のアメリカの戦略の裏側が見え透いてくるようです。
ここ数年で、世界のGDPの3~4割を占めるといわれるアジアの市場にアメリカが深く関与・開拓し、多少極論すると、そこから富を奪う作戦ともみえます。それを実現するために、アメリカは市場開拓のためのルールを、時に簡単に変えてきます。
彼らはまずカネをばらまきます。相手国が喜ぶのも束の間、次にそれ以上のカネが自国に流入する論理を前面に出して、いろいろな経済交渉をしてくると思います。
日本も参加するか否かで国論が統一されるところまでは至っていませんが、TPP交渉も含めてアジアの舞台でアメリカがこの様な姿勢で臨んでくるのは、彼らの論理からすると全く不自然ではなさそうです。
問題は、これに日本を含むアジア各国がアメリカの論理にどういう戦略で臨むのかという、こちら側の問題となります。政治に、このような認識と交渉力量を望むのは私だけでしょうか。
今、日本の政治は何の戦略も打ち出せず、停滞しているように私には見えます。スピード感と、アメリカ的手法でない我が国独自の戦略構想が見えません。「これからの日本」の発展のために夢のある将来像を打ち出してもらいたいと望みます。
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