園山征夫のビジネスコラム 園山征夫のビジネスコラム 園山征夫のビジネスコラム

諜報

第203回 国の情報戦略という諜報活動をどう考えるか

Posted on 2016-05-19

国による情報検索

 私の友人の或るアメリカ人曰く、「アメリカでは個人の情報は全て監視されている」と。

 多少の誇張があるとしても、ほぼこの通りかもしれません。いろいろな報道を通じて知る限り、我々と価値観を異にする国家体制下で、国家が個人をいろいろな方法で監視していることはほぼ常識の域だと思いますが、自由主義体制の代表選手のアメリカでも、マイクロソフトやグーグルなどインターネット企業のサーバーに蓄積されたデータに、国家機関がアクセスして、常に監視していると思われます。

 彼の話によれば、光ファイバー網を通過する情報をも収集していると言われているほどです。対象としたい特定個人のパソコンに「xxウェア」なるソフトを忍び込ませて監視をしていることが、その分野の専門家の間ではよく言われているとのことです。真偽のほどは分かりませんが、そのような評判が出ること自体、何か背景があると思うのが自然です。個人情報の秘匿云々の大きな建前は、国家の前では全く踏みにじられていると言っても過言ではありません。安全保障上とはいえ、国家によるある種の諜報活動です。

 数年前、ヨーロッパの複数の首脳の会話をアメリカの機関が盗聴していたというニュースが流れたのをご記憶だと思います。

 この例で分かる通り、今や世界の国々でお互いにいろいろなレベルの情報を盗んでいるのはほぼ常識的理解です。あらゆる手段を使って、敵や同盟国の情報を盗み自国の安全保障のために活用しています。

 方法として一番力を入れているのが、サイバー・インテリジェンスと言われています。すなわち、インターネットを活用して情報を収集して、自らの国に有利、敵に不利な状況を作り出す諜報活動、いわば、国家ぐるみのスパイ活動です。自国の安全保障上必要とされる情報を収集して分析の上、相手の国との関係で自国に有利に対応する活動です。

 

個人を特定される情報網

 ご承知の通り、インターネットは元々軍事目的のために開発されたもので、その設計概念上から、どこの誰からの情報か、個人が特定される情報網です。特定情報を個人と紐付をすることが情報戦略の肝であることを考えると、世界の標準となっているインターネット網の、サイバー上の情報はまさに宝です。情報の収集が個人若しくは個人の情報端末と直結しているので、それにアクセスできれば諜報活動が最も効果的に出来るからです。

 このことが個人情報との関連でいろいろな議論を呼ぶことになりますが、残念ながら個人が特定されないインターネットに代替する情報網は、現在の所世界の標準となっていません。世界の知恵者が将来インターネットに代わる網を構築できれば、日本からそれを世界中に広めるものが出てくればと、私は夢を見ています。

 

インテリジェンスに関わる法規制

 国際法上の法規の中にはインテリジェンスに関わる活動の制限規定が現在はないようです。戦争では守るべき義務が明文化され、それを順守しないと軍事裁判にかけられます。ところが、サイバー上の情報戦争では今のところそれを縛る直接的な規定がない状況のようです。

 実際、アメリカのオバマ大統領と中国の習近平主席がアメリカで対談した折、アメリカ側が中国のサイバー上の諜報活動を強硬に非難したことに対して、双方の応酬が続いたという報道があったのは記憶に新しいのですが、報道を見る限り、双方の言い合いに終わったのが事実ではないでしょうか。本当は誰が自国のシステムに攻撃を加えたのかを明確に立証することが難しい、若しくは、お互い様だからです。各国が被害を受けても外交上の問題に発展するくらいで、為すすべがないのが現実のようです。

 

サイバー攻撃でのアメリカの悩み

 諜報活動は自国にとり有効だとしても、アメリカをはじめ先進国で悩みが深刻なのは、サイバー攻撃で相手から戦争を仕掛けられた時です。特に、インターネットを社会基盤のベースとしていち早く実用化したアメリカでは、サイバー攻撃を受けるとたちまち大きな被害が発生することになります。国家の機密情報まで外部に漏えいし、国家的な安全保障に関わることになります。

 エドワード・スノーデンというNSAの技術者がアメリカの国家の機密情報を外部に漏えいしたことは記憶に新しいと思います。外部には絶対漏らしてはならないものが「国家機密」情報であるのに、これが特定の職員から簡単に外に漏れてしまった。アメリカの悩みは深刻です。

 また、中国からの情報攻撃に対して業を煮やしたアメリカが、2015年5月に中国人民解放軍の5人を名指しし、産業スパイ容疑で訴追したことは、アメリカでのサイバー攻撃被害の深刻さを如実に示していると考えます。

 

インテリジェンス活動に強い国が新しいルールを作る

 インテリジェンス活動の行く先の視点に目を移すと、サイバー・インテリジェンスが度を過ぎるといろいろな問題が発生してくるように見えます。アメリカや他の強い国主体で、既存のルールを簡単に変えることが可能になりそうだからです。

 パキスタンに潜伏中のオサマ・ビン・ラディンが、特殊部隊により殺害された事実と作戦の概略が報道されましたが、パキスタンという国家の主権があるのに、その国家に何の断りもなく侵入し、彼や家族を殺害したと要約されます。オサマ・ビン・ラディンは例外的だと言ったとしても、この報道内容を一般論として引き直すと奇異に捉えられないでしょうか。「テロは犯罪でなく戦争だ」という新しいルールをつくったことになります。

 パキスタンで起きたような極端な例以外のサイバー・インテリジェンス活動でも新しいルールが強い国から設定され、それを他の国が事実上受け入れざるを得ないことが今後どんどん起きそうに危惧するのは、私の考えすぎでしょうか。