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経済

第205回 EUの課題から学ぶ

Posted on 2016-06-02

 G7サミットが先週伊勢志摩で開催されました。当然のことながら報道からしか情報はありませんが、やはり各国の選挙事情を抱えてか総論は賛同しながら考え方や意見スタンスに微妙なズレを感じるのは私だけでしょうか。

 G7国ではないので全体写真には勿論写りませんが、EUからはドナルド・トゥスク大統領が出席。世界の経済や諸問題の解決を引っ張る役目の一部をEUも背負っていますが、いろいろ課題があり難しいかじ取りを要求されます。

 

いろいろな意見

 ところで、海外でEUのことについて質問しても、それぞれの国の置かれた立場によりさまざまな意見が返ってきたことを、私は経験しました。

 ドイツが強くなり過ぎることを曲がりなりにも防止できているという意見、次の戦争のきっかけをヨーロッパから作らせないことに成功しているという意見、形の上では欧州人という認識でヨーロッパが一枚岩になっているという意見などなど、政治面では一定の評価をする人が多いと感じます。過去の戦争体験から次の世界大戦だけは起こしたくないとの強烈な政治姿勢は、加盟各国に見られると個人的には思います。

 政治的な面に関しては、EUが連帯して諸課題を解決していこうとする姿が前面に出ており、ある意味でこれには満足する意見が多いかもしれません。

 

経済・金融の諸課題

 ところが、経済・金融的にはどうでしょうか。

 前身である欧州共同体、EC発足後の20年間は創設国全体の経済成長率は高く、平均で約5%でした。しかし、その後の20年間に関しては、イギリスや米国などの成長率を下回っています。ドイツは1~2%、フランスは2%~2.5%位と低い成長率です。

 日本のGDPの成長率よりは良いでしょうが、最近の低成長率は顕著で、加盟国の国民は満足していません。イギリスでは、EU加盟国として残るか離脱するかをこの6月に国民投票で決定するほど国民の重大関心事になっています。

 何故こうなったかです。日本が今後学ぶべきところかもしれません。基本的には(1)「統一のルール」では各国の経済政策が難しい状況下にあること、(2)EU職員の意識に集約されます。

 

ルール統一の難しさ

 第一に、労働者間の軋轢がどんどん増していることです。

 元々その地域にいる労働者とその地域に移民として入ってきた労働者間の軋轢です。新聞報道などでこの一部はご存じのことだと思います。しかも、このような現象はどこの国でもある程度発生することです。しかし、EUの場合、この軋轢が大きくこのことからそれぞれの国にいろいろな不安定要素を持ち込んできています。

 EU内では統一ルールにより、域内の労働の移動は原則自由で、より労働条件の良い場所での雇用を捜して労働者が国を移動しています。個々人では理論的に妥当な行動で、このことで本来その国の経済活動上貢献しているはずですが、全体で考えると、労働者間の軋轢を経由して不安定要素を各国で生み出しています。

 日本でも労働人口の絶対数および生産人口数の減少を補うために移民の緩和が議論されています。政治的問題は別としても、経済的面からもEUのような様々な課題が生じる可能性を深く吟味した上で、政府は一番適した判断をすべきだと思います。

 第二に、EU域内にEU共通の労働関連法規を統一的に適用することで労働市場が窮屈になっていることです。一国の中での東京と地方の差とは全く異質な問題です。

 それぞれの国の生成過程が違えば、労働や雇用環境の違いもある。そこに共通の労働ルールを持ち込むことで、労働時間、マイノリティー対策、雇用環境の整備などで一部の国にとってはEU加盟後に窮屈な点が多くなったと言われています。労働関連法規などが整備され、労働や雇用条件が進んでいる国が相対的に有利に働くことになります。

 日本でも、規制緩和の名の下に労働や雇用関連の条件が最近大きく変わってきました。日本独自の労働慣習などをすべて欧米基準のルールに合わせることが本当に日本にとって良いことか、今一度考え直すべき時かもしれません。強者が強いるルールは基本的には強者のためにあると考えるべきです。

 第三に、EU域外の国との各国の貿易は「共通のルール」に従わなければならないことです。国によっては独自のルールでの貿易の方が有利だったのに、EU内での共通のルールに従うことで本来のチャンスを失うことが出てきているようです。自国のルールで積極的に貿易を促進できる機会を失ってしま結果として経済的に打撃を蒙っている国もあります。競争環境が乏しくなって活力が失われている国も出てきました。強い国の一人勝ちです。競争でなく共通のルールを強いてEU内の調和と統合に力点を押し過ぎた結果ではないでしょうか。

 ところで、各国の議会の承認を得られれば、TPPの非関税域の拡大が現実のものとなります。一般的には、強い通貨の国が貿易では有利に作用します。弱い産業は他国からの輸入に代替されます。このために日本では、関税の撤廃でも他の国に対抗できるよう国内の産業の抜本的強化に早期に取り組まなければ非関税域ないでの貿易メリットを活かせなくなります。

 第四に、統一通貨も問題を秘めています。

 1999年のユーロ発足当時は大成功でした。ECBが低い金利を設定してくれました。お蔭で加盟各国は比較的贅沢な暮らしが出来た良き時代でした。ところが、問題が発生。経済原則通り、生産性の低い周辺国ではドイツより早いペースでコストと価格が上がりインフレ傾向が出始めました。このため、ドイツの周辺国では競争力が失われ、輸入が増えて巨額の経常赤字を計上する国が増えてしまいました。

 国によっては、自国の生産性から算出した購買力平価と統一された共通の通貨の価値とがかい離してしまっています。2012年にはギリシャをはじめ数か国が離脱をするのではないかとEUの危機が訪れたことは記憶に新しいです。現在もイギリスがEUから離脱をするかで国民投票を行う段階になっているほどです。

 EUも経済情勢を打開するために、資金の量を増やす方法もあります。世にいう量的緩和です。米国もやりました。日本もやりました。これをEUもやろうとしていますが、これまでドイツやイギリスは反対でした。今回のG7サミットでも日本の財政出動に、ドイツは本心では反対です。同様にEU内の議論でもドイツは積極的ではありませんでした。EU加盟の他の国の負担をドイツの自国民がカバーすることになるからです。それでもやるとすれば、ドイツの納税者からの大反対に会うのは必須で、これぞ、EUの結束を損なう大きな問題です。

 日本でも、現状を打開して世界の契機を引っ張るため、金利、通貨の発行量、財政赤字の解消など識者の知恵を取り入れて最適な政策選択を、タイミングを逸しないでやるべき時ではないでしょうか。

 

EU職員の意識

 第五に、EUの公務員の給与の高さです。

 公務員数の多さはギリシャなど個別の国であることですが、ブリュッセルを中心としたEUの官僚などの意識と給与の高さに加盟各国の不満が募っています。良く調べていませんが、国連の職員の給与以上かもしれません。欧州委員会の委員長の給与は、ドイツの首相やフランスの大統領の給与より大幅に多いのは確実です。

 日本の公務員でなく民間企業日産のゴーン社長の報酬がどこかで報道されていましたが、このような報酬体系や経営者意識が日本の産業で本当に妥当なのかについて、今一度考える好機かもしれません。

 

他山の石

 EUはどうすれば良いか。早く経済的な課題を解決しなければEUは厳しい状況になると、個人的には見ます。政治的な面のみを前面に出して乗り切ろうとすればするほどおかしくなるとの意見もあります。

 政治上の理由のみで経済課題が先送りされないようEUで発生している諸課題を、日本も他山の石とすべきところが多くあるのではないでしょうか。