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経営視点

第258回 経営視点を変える(2)

Posted on 2017-10-12

前回からの続きです。

急降下を止める策

 この急降下を食い止めることができなければ、残念ながらその会社は衰退の一路を辿ることになります。そうならないための策を数点あげると、

・自社のドメインを再定義してみる

 環境の変化によって、既存のドメインでの商いは顧客や消費者にとっての魅力が乏しくなっている場合が多いです。

 魅力の乏しさの背景には会社側の事情に起因するいろいろな理由があるはずです。それを調べ上げ、新しい環境に適合するようなドメインに再定義してみると、意外に自社の強みを充てられるマーケットが近場にあることに気づくはずです。

・現場視点での新たな創業を目指す

 急降下しそうな会社には、創業時のやり方が何時でもベストである、それに従っていれば問題ないとの時に根拠の乏しい信念めいたものが会社内にまかり通っていることが多く見られます。

 これを打破するには、新たな創業のためのプロジェクトを立ち上げるのも方法です。ただし、この時留意すべきは、現場の第一線のメンバーを多くし、創業時のメンバーをなるべく少なくすることです。

 多勢に無勢でどうしても新しい意見が通りにくくなることを避けるためです。特に、創業経営者の場合、ご留意ください。本人が意図しなくても、結果として、自分が創業した時の昔の戦略や方法論に誘導しがちになるからです。自社の現場の社員から新たな創業の意欲と戦略が自由に出てくるように導こうとの思いがあっても、それと逆行する結果を招きかねないからです。経営者としての器の大きさが試されるときとなります。

・成長を引っ張るドライバーを再チェックしてみる

 成長している限り、どの会社も成長を引っ張ったドライバーがあったはずです。ところが、環境が変化するに従いそのドライバーの効き目が悪くなってきていることに気づいていないかもしれません。競合が新たな、しかも強力なドライバーで自社のマーケットに入り込んできたかもしれません。

 それにも拘わらず、古めかしいドライバーで競争をしていたのでは、会社の成長が鈍化、もしくは、急降下するのは当たり前です。むしろそのことに気づくのが遅すぎたとみて至急ドライバーの再チェックが必要です。

 ドライバーを再吟味するには、冷静で客観的視点が重要です。

 「創業時は・・・だった。なのに、・・・」云々の議論は参考にはなっても、マーケットで今後戦うのに未だ「勝てるドライバー」であるか否かは疑問です。新しいドライバー探しが急務です。そのためには、冷静で客観的な視点を持った議論が重要です。これまた、創業時のメンバーの比率を少なくして議論したほうが、客観的視点に立てるという意味で生産的かもしれません。

・閉じる、強化する事業を明確にする

 どの会社でも見られるケースです。成長過程で事業に手を広げすぎた部分がある。その場合、再度、自社のコアの事業に特化する。加えて、本当に自社の成長を引っ張る可能性を秘めた事業には、重点的に投資するメリハリの効いた治療も必要となります。

 この時留意したいのは、「閉じる」部門のメンバーの処遇です。この対応を誤ると、タメにした作戦がかえって自社の急降下を加速することになりかねません。部門のリーダーが

 業績不振の責任をとるのは当然としても、部員に関しては彼らの能力を他の部門で生かす策を考えておいた方が良いかもしれません。論理を重んじすぎ、人の情の部分を完全に割り切った方法は、逆に企業風土づくりと将来の成長に禍根を残すことになりやすいからです。

・「顧客視点」を実践している現場社員に重きを置く

 急降下を食い止めるには、自社の顧客を維持するのが一番重要な施策です。

 これができるのは、現場の社員が健在だからです。彼らが急降下を止める使命感に燃え「何とかしなければ!!」と歯を食いしばって頑張ってもらう。これがないと会社は沈没の危機に瀕します。

 このためには彼らのモラールマネジメントが重要です。

 顧客と現場社員を起点とした改革につなげていくには、彼らのモラールを高く維持していかねばなりません。

 「彼らが会社の将来を担っている」、「顧客を維持しているのは最前線の彼らである」旨の強力で偽らざるメッセージと行動が経営陣から現場社員に肌感覚として伝わるか否かがポイントです。社員一人一人が顧客維持のための知的ワークを自律的に遂行してもらうためです。

・抜本改革のため、例えば非上場化する

 上場会社で急降下のシグナルが出てもこれを食い止めることが困難な局面では、事業の閉鎖、売却等組織全体の抜本改革を必要とすることが多いです。規模の拡大に伴い官僚主義が跋扈して組織運営が機能不全に落ちてしまった、改革への貴重な人材が流出したなど、過去の成長ドライバーの力が完全に削がれてしまったケースでは必要となります。

 このような場合、上場を維持するメリットももちろんありますが、時間をかけないで改革路線を進むには非上場化も重要なオプションになります。ただし、多数の利害関係者を説得するに値する「その後の会社の姿を」明確に描き、それを実施できる裏付けデータを伴わなければならないことは論を待ちません。

 皆さんの経営の参考になれば幸いです。

 

第257回 経営視点を変える(1)

Posted on 2017-10-05

いろいろな企業のアドバイスをしていて気づくことがあります。経営上、非常に重要な事なので今回このビジネスコラムで取り上げることにしました。

 

経営視点を変更

 持続的な成長を遂げるには、会社の成長過程の各ステージで経営視点を変える認識を持ち、これを実践していくことが時に必要であるにも拘らず、これを分かっている経営者が意外に少ないのが残念です。

 創業時の苦しい時を乗り越えた視点は、それはそれとして大事ではあっても、これにずっと拘泥しても解決できないことが多いということを教わっていないのです。経営者から過去の苦労話ばかりされても、直近に入社した社員からすれば、その苦労体験をもう一つ素直に受け取れないことが多いのもその一例です。

 私自身も会社の経営の過程で、この認識のギャップに気づき、過去の苦労話は社員に一切口に出しませんでした。それに代えて、苦労体験を踏まえてできた経営理念や経営哲学の内容を新しく入社した社員に説くことにしていました。これを聴いた社員が理念や経営哲学に沿って行動してくれれば、苦労話以上の生産性と成果に結びつくと分かっていたからです。現実、この通りになりました。

 業種態様は別としても、経営の過程でどの経営者も直面する経営の変化点があります。

 

急成長時の過負荷ステージ

 まず会社が急成長する時の変化点です。ある意味で、会社が成長するが故の危機ともなりえます。

 急成長のある段階で、社員が高い経営目標に対して、負荷の過重を感じ始める時です。もし、創業時の視点を当たり前として突き進む経営陣がいるとすれば、その間に大きな溝が発生することから起きやすい経営の変化点に留意しなければなりません。

 この場合、いくら「顧客が大切だ!」と経営陣が説いても、高すぎると感じるノルマを達成するために、「それどころではない!」という潜在意識と雰囲気が社員に蔓延し、結果として会社全体の収益性を下げてしまいます。必然的に、事業目標に対する社員の意識も希薄になり、結果として急成長の曲がり角を迎えることにもなりかねません。経営陣と社員との意識ギャップから、急成長のある時点で、危機を招きかねないのです。

 

成長からの鈍化、急降下時ステージ

 次に直面するのは、成長鈍化、もしくは、成長から急降下の時の経営の変化点です。そのまま放置すると会社の衰退と崩壊の危機に直面するので、この変化点の認識が重要となります。

 成長鈍化や急降下の原因はいろいろあります。

 例えば、環境の変化への察知能力が乏しく自社のビジネスの成長のギアとして潮流の変化要素を捉えることが出来なかったケース、世界的な金融危機などへの対応遅れのケース、新たなビジネスモデルの誕生により自社を取り巻く市場の激変に追いつかなかったケースなどなどの場合です。環境変化への備えや対応が不十分なため、その会社の存在が危機に晒されることになります。

 この場合、鈍化と急降下を防ぐためにどう立て直すかがポイントになります。

 自社のビジネスモデル自体が環境の変化に追いついていないがために急降下しそうだとすると、自社の経営の相当抜本的なことを必要とします。

 誰かがマーケットに新しいビジネスモデルの登場をもたらしたことで市場が激変した場合、特に重要な点は、そのこと自体は自社の急降下の「引き金」であって「原因」ではない、「原因は他にある」ことを経営陣自身が認識しなければならないことです。鈍感な経営陣が居座っていること、組織として俊敏な決断ができないこと、経営の優先順位に迷いがあること、社員のアンテナからの意見を吸い上げる仕組みが実質的に作動していないことなどなど、他に原因があります。