稼働率
サービス業のポイントを何と心得ていますか?
サービス業のポイントは、単純化して考えますと①稼働率、②顧客の固定化(ファン化)、そして、③社員の心の動きの3点ではないかと私は思います。
稼働率についての考え方
まず、第一に稼働率です。時間単位やユニット単位で稼働率を測定するなど、方法にはいろいろあると思いますが、肝要なことは、a)設備稼働率、b)人的稼働率、それに、c)ノウハウの稼働率を意識することです。
サービス業でも設備を多く抱えている会社とそうでない会社では違いがあります。しかし、ほとんどの会社でオフィスの家賃は支払っていると思います。社員が仕事をしやすく、楽しく働けるようにオフィスを有効に稼働させていますか?
働く環境を画期的には変えることはできなくとも、オフィスに何らかの変化をもたせることが、スペースの積極的な活用、ひいては、稼働率に関係してくるのです。花を活ける、絵を飾る、プライベートを保て休息できる場所をつくる。何でも結構です。蛇足ですが、以前、多くの会社に喫煙所がありました。ここが「会社の中で最も気持ちが落ち着き、部門を越えた多くの人と本心でコミュニケーションができる場所です」とある人が言っていたことを思い出します。
次に、人材の稼働率です。
このことを全く失念している企業はないと思います。しかし、生産性と稼働率の関係を明確にわかって人材の稼働を考えている会社は少ないのではないかとも危惧しています。
すなわち、人材の稼働率を上げることが結果として人材の生産性を上げることにつながるのに、逆に、人材の生産性を上げる策の結果部分のみに躍起になっている企業をたくさん見ます。人材の稼働率を上げるためには、社員がやりたいと思うことをやらせ、会社としてその社員の仕事の範囲を広く決めることです。
この範囲をガッチガッチに決めると、本人の自由度が狭くなり応用動作ができなくなります。何も指示をしなくとも、自分の好きなことには時間を忘れて稼働するでしょう。工夫をしながら稼働するので生産性も当然上がっていきます。
さらに、ノウハウの稼働率です。このことを真剣に考えている企業は、意外に少ないかもしれません。
会社はそれぞれの強みを持っています。この強みは、その会社が保有するノウハウに起因していることが多いのです。単に、ノウハウが企業に貯蔵されているのでは意味がありません。これを活用するのです。企業提携、競争戦略のために活用していくと、その過程でこのノウハウが更に確固となる傾向があることがわかってくると思います。
蓄積されていることに安心して、「わが社にはノウハウがある」とタカをくくっていると、ノウハウは結構なスピードで陳腐化しています。ノウハウは活用して初めて、その陳腐化のレベルがわかることもありますので、ご留意ください。
稼働率と段取りなど
以上あげた3点に共通なことがあります。それは「段取り」と「稼働率の程度」です。
「段取り」はある種の計画で、メーカーのセットアップに相当します。「段取り」が「最初に適正に」なされるためには、仕事の全体像を想像していく力が不可欠です。その仕事を成就するには、設備をどう稼働させるか、人材をどう活用するか、さらに、ノウハウをいかに活用するかのサービス全体のデザインを念頭に置かない限り、良い「段取り」ができかねます。
また、稼働率が高ければ高いほど良いわけではありません。あまりに高すぎるのは、逆に余裕がないことにつながります。「適正な」稼働率でないと、エンジンが焼き付き○X症候群をつくりだして生産性を落とすか、人材が流出するリスクがあります。この時に支払う代償は、そうでないときに比較すると甚大です。物理的設備、人材、ノウハウいずれにしろ、「適正な」稼働率を維持することが必要です。
顧客の固定(ファン)化に対する努力
サービス業のポイント第二、顧客の固定化も大きなポイントです。ファン化とかロイヤルティー化とも言われます。
例えば、資格取得に関わるビジネスで言えば、その会社の教材を利用して簿記の2級に合格した受験者が、1級を受験する場合に、確実にその会社のサービスを選ぶかどうかです。顧客にブランドスウィッチを起こさせず、自社の固定的なファンになってもらいたいとどの企業もが思っています。
しかし、その会社が顧客の要望にふさわしい価値ある製品、商品、ノウハウ、サービスを提供しない限り、それは実現しません。またコンテンツの開発など、顧客に向けたさまざまな施策と努力がその会社のサービスの差異化につながるレベルまでいかないと、競争上の強烈な武器とはなりません。
留意したいのは、上記の①と②、すなわち、稼働率と顧客の固定化は相互に密接不可分な関係があることです。
一見無関係のように見えますが、稼働率が低いところで顧客の固定化が図られているのを現実に見るのは、よほど特殊で高品質でブランド力の高い商品を扱っている会社以外、珍しいことです。顧客のファン化に熱心な企業では、さまざまな要素の稼働率が高く、会社が活性化していることが多いのです。
社員の「心」の動きに敏感に反映
サービス業のポイントの第三、最後の決め手が社員の「心」の動きです。これについては、働きやすさ、チャレンジできる環境、教育に熱心でキャリアアップできる機会がある、経営層と現場の信頼関係等いろいろなことが複雑に関係していますが、会社は社員の「心」の動きに意外に鈍感で、この部分を避けてほかのテクニカルな面のみに論を展開しやすい傾向があります。
そこで、私は、二冊の本を通じて「農耕型企業風土」づくりの切り口から、社員の心に良い作用を及ぼすもろもろの施策をあえて述べさせていただいたのです。本の中で述べた「18の定石」は、一見簡単そうに読めますが、社員の心を捉えるためにはこの定石遂行にあたり、相当地道な努力のステップが必要とされます。
サービスのコストダウンのための「投資」
ところで話は少しそれますが、サービスのコストダウンと「投資」との関係について触れておきます。上司がコストダウンを指示すると、まず課長が取り組むのが経費のカットや残業代の強制的削減、さらに人員の整理の段階まで手を付けるのが世の常です。
もちろん、このことで短期的効果が上がることに異論はありませんが、中期的効果を生むためには、もっと根本的な手を打つべきです。残業をさせなければならない根本的な原因は何か、人員をたくさん投入せざるをえない原因は何かなどなどを探りあて、コストダウンの手を打つべきではないでしょうか。
中期的視点での投資判断
いろいろな会社と接点を持っていた経験を踏まえると、このような原因を抜本的に排除してコストを削減するには、タイミングよく必要な投資をすべきことです。「中期的に売り上げを伸ばしていくためにはどうしたらよいか」、これを真剣に考えれば考えるほど、現場レベルでも、これまた、「今、投資が必要だ」という投資のタイミングの帰結に至るはずです。
サービス業のポイントは先述の通り①稼働率、②顧客の固定化、③社員の心の動きです。
効果的な投資をすることで、もし良い「サービス導線の仕組み」を作ることにつながれば、結果として、この3つのポイントに良い影響を及ぼすことになるのです。
例として、人材の稼働率の低さについて。仕組みができていないが故に同じような仕事の繰り返しが強いられているような場合です。会社の各部門が顧客と過去どのような接点を持って、コミュニケーションの内容経歴が全くなく記憶のみに頼って対話をしている場合、一定人数を超える顧客のファン化を実現するには相当大変な思いをするはずです。
さらに、必要な投資をすることにより前記の①②を仕組みで解決することが可能になり、人材のエネルギーが、会社の事業目的遂行にとってもっと大事な人間の創造力を発揮できる部分に注がれることになるとすれば、これまた③の社員の心に訴え、全体の効果は大のはずです。
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