監督
第288回 ミドルの重要な役割(2)
先週からの続きです。
ミドルが会社変革のリーダーになるには、どうすれば良いか
a) 「サラリーマン性」が物事をダメにしているのではないかという認識を、私は持っています。ミドルマネジメントの中で何かの変革を志向するのであれば、世に言うサラリーマン性を捨てる仕組みが必要ではないでしょうか。
何もない平和な時を長く経験していると、どうしても人は何もしないことで安心する、何かを考えたりしなくなる傾向がでてきます。これをサラリーマン性と呼ぶとすれば、それでは大きな事件や災害があって初めて対応するという「Too Late」のドタバタ劇を見ることになり、変革自体が遠くなってしまいます。
先週このコラムで述べたミドルの仕事背景から、ミドルは現場を監督する権限があるはずです。しかしサラリーマンにはこれがないと勘違いしている人が多いのではないでしょうか。監督でなく処理屋さんになっています。現場を監督できる人は、時には社長より実質的に大きな仕事を差配できる立場にいることを忘れないで欲しいです。
b) 一律主義を捨てる。この手法は便利だが、これでは上手くいかないことに気づくことが必要です。
マネジメントでよくあるパターンは、部下全員に同じことを求める過ちです。この「全員・・をする」手法は、短期での手続主義的解決には一見効果がありそうです。しかし、陥りやすい落とし穴があります。一律の指令を出した本人たる上司はそれで、物事が解決したと勘違いする。本質的な解決には至っていないことを理解すべきです。
変革には大きな壁や衝突が沢山あり、意見集約も大変です。
この場合の解決方法として、こう考えてみてはどうでしょうか。意見の対立がある場合、どの意見が正しいか、何が正しいかをあまり考えないクセを持つ。いずれも正しいと考える。時に同じ事柄でもそれぞれ違った面を見ているに過ぎないのです。
こうすることで、大きな変革にも敵を増やさず着手づることができます。
c) 内部での勝ち負けを気にしないこと、外との競争を意識することです。
トップからミドルへの仕事の落とし込みの関連で、トップはどの仕事も重要で欠かせないことをよく分かっています。しかし、経営戦略上特定の仕事や事案に重点を置かざるをえません。その場合、特定の事象を担当するミドルが脚光を浴びやすいことになりますが、そこでミドル間の内部での勝ち負けを鮮明にするほどトップは馬鹿ではありません。ミドルもそのようなことを気にしていては他流試合など望むべくもありません。
むしろ戦いは外との戦いですので、ミドルの変革のマインドセットの時に、ミドル自身この点を意識すべきです。
d) 対症療法のみで、抜本的な改革に取り組まない風土打破に率先して手を付けることです。
重要な仕組み、システムに取り組まないが故に、同じことが再発している例をどの会社でも見ます。結局、対症療法に長けた同じ人が担当するので、抜本的改革は掛け声倒れになってしまうのです。
この判断で勘違いしているのは、システムを機能だと思っていることです。個人的にはシステムは機能ではなく、それを作った人に依存していることを忘れているのです。
改革を目指すのであれば、多少の摩擦を恐れず、これを担当したり作ったりした人間を代えることです。ローテーションの一環で他の仕事をさせ、全く違うことをさせる。彼も仕事の幅が広がり将来得することになります。参勤交代で新たな体験をすることが対症療法から抜本改革への重要なステップではないでしょうか。
e) 良いコミュニティーをつくる努力をすることです。
良いコミュニティーは自然発生的にできるもので、上からの指示だけではダメと心得て欲しいです。動員力のところでも述べましたが、その人の人徳に皆が魅力を感じてコミュニティーが出来るのです。変革を目指すのであれば、動員が必要な時に備え普段から人徳を磨き、賛同者のコミュニティーを作ることが望ましいです。
f)総務的仕事のやり方の重要性を意識して行動する。
機能のみを強調すると無機質になりやすい。私が日本型の経営で一番重視している視点の一つです。日本的経営の良さを組織の潤滑油として織り込む考えのほうが、変革を着実に実現する近道と考えるからです。
組織を機能で細分化してもどうしても隙間ができる。仕事の繋ぎ、結びが欲しいと皆思っているのです。何かを変革しようとする時には、特に隙間の幅と種類が多いはずです。それを埋めるには「何でもやります」的に人が嫌がる仕事に積極的にも手を出し、隙間を埋める癖を持っては如何でしょうか。
第287回 ミドルの重要な役割(1)
最近いろいろなところでミドルマネジメントの役割の重要性に遭遇します。トップリーダーの存在の重要性は論を待ちませんが、それにも増して日本の企業を実質的に動かしているミドルの役割が重要です。
特に、日本での経営では、変革のキーがミドルマネジメントであると言っても過言ではありません。
何故ミドルが変革のリーダーか
何故でしょうか?
a) 文字通りトップと現場の中間の、自由な位置にいるからです。
ミドルは、自分が実現したいことを自分の言葉で部下に指示できる立場にいます。このことがどれほど重要なことかは、大きなプロジェクトを動かしてみるとよくわかります。ミドルは、トップと現場をつなぐ自由な位置にいます。
b) 現場の情報に一番近い、しかも、マネジメントの立場にいるからです。
ミドルは現場の地図にも詳しい。日常の状況把握から何かが発生してもほぼ察しがついているので、現場で現実的な対応がとれる。トップの指示は現実を改革したい思いが強すぎるので、時として状況を無視した指示が出やすいが、その意をくみ取って上手く調整できる立場にいます。
c) 実質的に動員できる部下が多数いるからです。
人員の動員は大変苦労することです。私は、沢山の人材を擁する企業でのマネジメントの評価の一つに「動員力」を挙げています。指示や指令がなくても「一声かければx人が集まる」状況が、何かを成し遂げる時に如何に重要かを知っているからです。ミドルはこれができる立場にいるのです。
d) 社内の政治力を発揮できる立場にいるからです。
良いか悪いかは別として、公式と非公式の使い分けができる立場にいます。上意も下意も中間でのろ過工程を必要とする場合多い。その時に、ミドルの政治力の作動が益することが現実凄く多いのです。
e) 他部門のミドルとの交流を通じて、他の部門の知恵を拝借できるからです。
何か仕事をするときには、仕事の受け渡しが必要となります。ここで結節点が発生します。この結節点での減価を最小限に食い止め、最終成果物を最善の形で仕上げるためには、他の部門との情報交換が不可欠です。その交換を通じて自部門の仕事を革新する知恵を拝借する機会でもあります。ここことを頻繁に実施しているミドルマネジメントからは、「情報が下りてこない」などの発言を聞くことが少ないのではないでしょうか。
以上のことを意識していないミドルが多い企業は、成長速度が鈍いことを目の当たりにすることが多いのです。
そもそもミドルマネジメントは何をする仕事かの再認識
一言で述べれば、日常の業務遂行のために、部下にジョッブをアサインして部下の総動員と他部門の協力を得て、計画した結果をだすことです。すなわち、この仕事は、
a) 目標設定
b) 職務分担
c) 達成支援
d) 仕上げの検証と評価、更に、部下がレベルアップするためのアドバイス
をすることに分解できます。しかも、これらが繋がったサイクルであることが肝心です。
こう述べるのも、これが出来ていないミドルが実に多いからです。それぞれの分解内容は次の通りです。
a) トップの方針がブレークダウンされ、それをうけて各部門の目標を設定します。
それは、数字を設定する前に目標(Objective)という、目指す「こと」から始まり、それをやるためのキーになる達成数字を設定しなければなりません。これが曖昧だと、部下に職務の落とし込むときに焦点がボケた形となってしまいます。
b) 部下にはいろいろな価値観を持った人がいます。それぞれの目指すことを把握した上で、しかも部門のキーになる数字を達成するため、部下にジョッブをアサインすることになります。
多くの企業で、ミドルも部下もなんとなく期の初めにスタートして、なんとなくそれで仕事が回っているので、ジョッブのアサインを軽視しがちです。しかし、部下からすると「自分は何を期待されている」のか非常に不安になります。結果として、マネジメントサイクルが上手く回らなくなってしまいます。
c) ジョッブがアサインされた部下が一生懸命仕事をしても、上手くいかないことが多い。予期せぬ事態が発生することもある。その場合、上司たるミドルが部下を支援しなければなりません。
自分でできる支援と他の人の助けを借りることがあると思いますが、どんな方法でも部下への手助けを行うことが肝要です。
上司と部下との信頼関係はこのようなことを通じて醸成され、マネジメントが上手く回るものと考えるべきです。
d) 一定の期間で、部下の仕事の検証をし、それを踏まえて評価することになります。
この時重要なことは部下の人間を丸ごと評価するのでなく、期初に設定した、部下へアサインしたジョッブが達成されたか否かを中心に評価しなければなりません。ましてや、最初にアサインしていなかった仕事を「お前はやっていない」ことを理由に評価下げするのは、ルール違反です。部下とのヒヤリングを通じて、直接評価の内容と背景、理由を説明する。加えて、更に本人がレベルアップするにはどうするのが良いかなどをアドバイスして、部下の成長を支援する。
以上を一つのマネジメントサイクルとして回していくのが、ミドルマネジメントの仕事です。当たり前に見えても、果たして皆さまがこれを意識して日常のマネジメントをしているかが問われます。
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