洞察
第242回 環境の変化を戦略に繋げる
将来を洞察する
今、劇的な変化が、いろいろなところで起きています。生産人口の急激な減少、IoTの導入によりビジネスモデル再定義の必要性が発生、労働環境の変化などなど。そのような変化を如何に早く推量し読み解くかは、自社の将来にとって極めて重要なことです。
しかし、それは簡単なことではありません。
私たちは、どうしても自社を中心に発想しがちです。外部の環境の変化を客観的に見ることを怠りがちになります。今起きていることは、ある程度分かった気持ちでいる。加えて、ある程度先を読まなければ上手くいかないことも分かる。
翻って事業計画や戦略の策定に当たっても、これと同様なことが起きています。真っ先に外部環境の変化の分析が課題に上るはずだが、上滑りの議論で終わってしまいすぐ策定に取り掛かる。これでは、仮に、策定できたとしても、通り一遍の計画に成り下がる憂き目にある。
これを回避し、少しでも将来を的確に洞察するにはどうしたらよいでしょうか。
1.まず、起きている、若しくは、起きるはずの外部の環境の変化を客観的に捉える。
自社のドメインの事業環境の変化は、死活問題です。
しかし、長く経営を続けていると、マンネリが原因で今確実に起きている変化に気づかないか、気づきたくない人も多いのが実態です。
生産人口は減る、65才以上の人口が四分の一以上になる、IoTの急激な導入が生産の流れに変化をもたらす、若者の価値観が変化している、規制緩和で参入障壁が一気に下がる、革新的な技術の開発で事業モデルが変革を余儀なくされるなどなど、現実に明らかに大きな変化が起きています。その中で事業を展開しなければならない。
これらの変化を客観視しないで立てた事業計画が、的外れな政策群の列挙になってしまっているケースを見ます。
この轍を踏まないために、私は毎年度の事業計画の策定の最初に「外部環境の変化」を真っ先に、かつ、真剣に捉えることを薦めています。しかも、出来るだけ客観的に捉える。今起きている事象が良くても悪くても、事態の変化に対して自らの事業に正面から向き合うことを薦めます。
簡単そうに見えますが、これが意外に難しい。経営がマンネリ化すると、自分が環境の変化に追いついて経営していると勘違いしている人が多いからです。一度、ゼロにリセットして環境事象をつぶさに観察して将来像を描いてみる機会かもしれません。
2.将来の姿をできるだけ鮮明に把握する努力をする。
私は自社の将来に関係ありそうなことについていつもメモに落とし込む努力をしていました。頭の中で想像していただけでは、将来の姿は漠としか映らない。しかも日によって姿や景色がどんどん変わる。これらのことを何回も自ら体験しているからです。
なんでもよい。将来起きそうなことをメモや書類に落とし込んでできるだけ細かく把握する方法です。この作業は結構大変です。しかし、この方法を継続すると、将来の姿が自分なりになんとなく鮮明になってきます。一定期間この情報をつぶさに眺めると、将来像の輪郭が浮かび上がって見えてくるほどです。
海の向こうの変化のパターンを研究するのも方法です。一時期日本の企業がとっていた手法です。今でもこれが通用するかは少し疑問ですが、先進的な国で発生していることが一定の時間差で起きることがあるかもしれません。
3.人々が欲しいと思いながらも、それが充足されていないことを捜す。
次に描いたマクロの未来像の中で、消費者の欲求の変化などを推察します。
新しい技術を利用した商品開発がなされる。それを消費者が利用して便益を被る。しかし同時に、利用する消費者はまた新たな欲求を求めてきます。
今の商品に対して満足する部分と不満足な部分、こうなればと思う部分の双方が一定のバランスを保ちながらも彼らの心に常に残っています。彼らの不満足やこうなってほしいと思うところは、ある変化点を過ぎると急速にしぼんでしまう傾向がある。他の代替品にブランドスイッチするからです。その前に、もしそれらを解消できる商品が出せれば、人々の欲求は従前の商品で充足されます。開発担当者が消費者の欲求の変化に上手くミートした喜びを感じる時です。
しかし、消費者は皆、不満足を感じているのが通例です。それでも我慢しながら生活している。そこで彼らが充足されていない内容をできるだけ詳細につまびらかにする努力こそが大きなヒントとなります。
これも結構難しいことです。観察眼は必要です。常に、消費者の欲求の変化を追う姿勢で消費行動を観察しない限り彼らの変化点を掴めません。優れた経営者にはこの切り口の観察力を習得しています。
自社の戦略に結び付ける入り口
将来像を洞察できたら次に肝要なのが、ミクロ環境を理解して、自社の戦略に結び付けることです。環境の変化を自社の戦略に結び付ける入り口です。
そのためには、顧客について、彼らがどんな「価値」を求めているのかを本気で掴む努力をすることです。
デジタル化の進展やボーダーレス化で顧客の選択肢は広がる一方です。更に、競争条件を考えると、自社の商品が代替される可能性を秘めています。
喫茶店でコーヒーを飲む時代からコンビニで美味いコーヒーを購入できる時代になったのです。私の青年時代には考えられないことが起きています。
顧客が求めている選択肢の幅と「価値」感が変わってきているのです。その変化を捉えて代替商品が出てくる事実を正面から見なければなりません。
そこでポイントは、自社の「売り」が顧客の求める「価値」に上手く対応できているかです。
「売り」を考える時、サービス全体の「売り」の自社のバリューチェーンの譲れない所と、譲っても良い所の境界を明確に定義しているかを考えなければなりません。「サービスのどの部分は徹底的に機械化するが、この部分は絶対人間が対応する」というような考え方はこれに該当します。自社がメーカーなら、自社の製品にとって死活となる部品はどれで、それは絶対自製・自作するなどのバリューチェーンの考え方もこれに該当します。
結局、「差異化を徹底する」ことにつながります。顧客が求めている「価値」に何を付加して自社の「売り」を主張するかを明確にすること、これが環境の変化を洞察して自社の戦略策定につなげる決定的に重要な入り口となります。
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