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原油

第204回 原油市場の影響を概観

Posted on 2016-05-26

 最近はあまり話題に上りませんが、個人的には原油市場の及ぼす影響に目が離せません。

 原油市場は産油大国の供給側の思惑で動いていると言っても過言ではありません。特に、最近は供給国のサウジアラビアと米国の動きが気になる所です。

 一時ほどOPECの団結が無くなった今、原油の供給のためのバルブの締め具合と政治のカードが複雑に絡み合い、各国が自国の安全保障と経済的利益を増すために虚々実々の演出をしているように見えます。

 

原油価格の下落

 2014年6月イスラム国が国の樹立を宣言しました。この直後です、原油の供給の不安定さが今後生じるのではないかと市場が受け取り、原油価格に混乱が生じました。この動きを鎮静化させるためにサウジアラビアが原油の日量生産量を大幅に増産、この動きに追随してイラクとシリアも増産しました。結果として、原油価格は1バレルあたり105ドルから93ドルに下落。2015年には一時50ドルまで下がりました。

 このことに加えて、後で述べるシェールオイルの商業生産を経済的に可能とする技術がアメリカで開発されたことで、原油価格は一時30ドルを切る所まで下落してしまいました。

 

技術開発

 シェールオイル・ガスからの石油抽出に成功した米国では、原油の増産に走るのは当然の帰結でした。この結果、傾向としてOPECから原油生産のシェアを奪いつつあります。シェールオイル(頁岩)は供給源としては以前から分かっていたことでしたが、これまでは、頁岩や頁岩の間からオイルやオイルガスを抽出するコストが高すぎて商業生産に至らなかった。そこに技術が開発され経済性が出てきた背景があります。技術開発が商品価格の低落を招くと言う経済原則通りの動きとなってしまいました。

 

産油国地図の変貌

 シェールオイル企業の投資の限界費用は現在の所、20ドルほどと言われています。全ての生産コストをリカバーするにはまだ50ドル必要とも言われていますので、原油価格は、理論的には当面20~50ドルの範囲何に推移することになります。

 なんとシェールオイル技術による商業生産のお蔭で、2008年にアメリカの日量500万バレルだった原油生産が、2000年頃には900万バレルになったと報じられています。増産量のほとんどがシェールオイル・ガスを言われているほどです。

 これまでも原油の潜在的埋蔵量は実質世界一と言われながら、自国の安全保障のために米国は原油を地下にため込んでいます。ところが、シェールオイル・ガスの開発で原油供給に更に余力が出てきたことやロシアなどへの政治的動きの一環として、米国は今や日本にも原油を輸出するほどに政策転換してきました。私は大きな転換点と見ています。米国が今後世界最大の産油国になる可能性を秘めているともいえるのではないかと考えます。

 

原油価格の下落による諸問題

 ところが、原油価格の下落で問題はいろいろあります。

 原油価格の急落による油関連企業が発行している債券で信用度が低い、いわゆるジャンク債が心配だという議論が以前からあります。今のところは問題が顕在化していませんが、原油価格低落により原油関連企業の収益の悪化を招き債務返済が不能となり、経営が破たんし、世界の経済が大きく影響を受ける経済的影響の問題です。

 また、政治的にも問題が出てきました。産油大国のサウジアラビアと米国との関係がギクシャクし始めています。

 OPECの代表選手であったサウジアラビアの石油の権益を米国は第一次世界大戦前から死守していましたが、このスタンスが最近変化してきています。米国での国防費の削減が必要なこと、米国の外交が内向きになり世界の警察官を放棄し、中東地域の安定が米国の外交の基本政策でなくなってきたことが主な理由と見ます。

 こうなると、世界の政治的、また軍事的地図がややこしくなってきています。アジアの隣国がアメリカの代替役を引き受ける名目で旧帝国主義的な動きを加速しかねない懸念が現実に増大してきます。中国の人民解放軍はインド洋に軍艦の配備などを拡大すると発表し、インド洋は中国が守ると言い出しかねない状況です。

 そうなると、日本に原油を運ぶインド洋の海上ルートの確保がどうなるかです。日本の資源確保の意味でも、マラッカ海峡のみならず、インドは決定的に重要な役割を持つことになります。

 米国内では外国産の原油の需要が減る一方、原油需要面でみると経済の成長に伴って中国が今後のアジア最大の輸入国となります。資源の確保に積極的な方法を講じてくるのは当然です。他方、日本の原油資源の需要が減らないことは当然のこととして、発展するアジア諸国での原油需要も増大します。

 結果として、各国商業用船の航行の自由にとりシーレーンの確保が極めて重要になり、対立関係が極めて如実に出てきます。自国の権益を守る名目で弾道ミサイル搭載の原子力潜水艦を配備などの軍事的な手段が前面に出て、第二次世界大戦のきっかけと同様な構図にならないことを望むだけです。

 資源という原油の市場の影響を概観してみました。