園山征夫のビジネスコラム 園山征夫のビジネスコラム 園山征夫のビジネスコラム

価値の共有

ビジネスモデルを成功に導く組織としての学習

Posted on 2013-05-09

 私は、「農耕型企業風土づくり」に関して言及した『これからの社長の仕事』の中で、成功するビジネスモデルには「18の公式」があるという趣旨で原理原則を説明しました。

 同時に、その本の中で会社が成長するためのステップを明示しました。

 個人と同時に組織が原理原則に従って学習し成長しなければ、そのビジネスはモデルとして成長しないからです。

 このことを今回は違う言葉で、企業の中・長期的成長の近道について述べます。

 20年の経営体験で組織の中の特定の部門の活性化にたいする障害を見る機会が多くありました。その場合、その組織の学習障害に速やかに手を打つことを心掛けていました。組織の学習障害があることは、会社組織がある意味で活性化していないことの証明だからです。組織は対処法を間違えなければ良い方向に向かって学習していきます。

 学習する組織になるにはいくつかの特質があります。

a)    共有すべき価値、別の言い方をすれば、ビジョンが必要です。組織が学習すべきベースが必要だからです。

 価値を全員で共有することは組織の学習のため不可欠なステップです。しかも、共有すべき価値として経営者一人の人間のビジョンを押し付けるのでなく、多くの人が心から賛同しうるものにしなければなりません。

 また、価値を共有するわけですから、当然の理論的帰結として、共有した価値を一定の方向に向かって実践することのコミットをすることになります。そのため理念を業務の全段階で社内に浸透させ、各業務の現状認識、分析、意思決定、実行の全プロセスにおいてこの理念との関係で実現することになります。

b)    戦略が単純で社員に理解されやすく、しかも、戦略の軸がぶれない意思決定を日常的にしていることです。

 新しい事業をやると組織に複雑性が増し、経営と現地現場との距離がかい離する場合があります。時に、甘いささやきに、会社の軸がブレることがありますが、戦略が単純明快であれば、社員もズレに気づき修正行動のトリガーとなります。

 戦略の単純さは組織の健全性の証明です。

c)     チームワークが必要です。チームの対話とディスカッションです。対話はお互いの考え方を聴くことでお互いの合意をめざすことを目的としません。

 ディスカッションは最善の考えを追及するものですから、二つは違うものですが、相互に補完していきます。

 「自分の仕事はxmだから」、「悪いのはあちらで・・・」と出来なかった言い訳をよく耳にします。組織が学習していません。

 垣根を自ら作ってこのように言い訳しても何の役にも立たないこと、会社全体としては一つの組織で部門が相互に有機的に結合していることの指導を受けていないからかもしれません。あるいは、そう言わせる深い背景がこの組織にはあることを暗示している場合もあります。

d)    個々人全員の仮想モデルがあることが望ましいのです。「こういう人になりたい」というイメージの人を置いていることです。

 年齢的に離れすぎない存在の人が望ましいです。私の経営経験でも信頼できる仮想モデルの存在は組織の成長に大きな効果があります。自分の成長イメージを重ね合わせる人がいるからです。

 学ぶことでまず自分がレベルアップするとの考え方が重要です。

 個人が学習することでのみ、組織は学習するのです。また、個人が学習したからと言って学習する組織にはなりません。

 しかしながら、前段のことは最低限必要なことです。なぜかと言えば、「人」が原動力だからです。したがって、私は経営するにあたって「社員の物心両面から、彼らが幸せになること」を主眼に置いて人材がレベルアップする経営をしていました。

e)    その会社で絶対に譲れない一線を堅持することです。しかもこれを「仕組み」におとすことです。学んだことや自社の競争上の優位性をビジネス基盤のなかに組み込むためです。

 私は、大きな設備投資をベースとしたサービス業の経営を任せられていましたが、絶対に譲れない線として会社の提供するサービスの「クオリティー」に置きましした。

 これをダムの水源に例え、他の社員の努力がどんなに大きくとも一人の社員のこの水を汚す行為がすべてを台無しにすることになるので、クオリティーを絶対に譲れないこととしてしつこく徹底していました。

 トヨタのカンバン方式などもこの例です。トヨタのラインにある「アンドン」で不具合を知らせる表示はよく例に出されます。トラブルが発生したらラインすべてをストップさせ問題を解決することを会社として譲れないルールとしている例です。品質を徹底すべくあくなき風土が定着し、このやりかたを絶対に譲れない一線として堅持しています。

 M.ポーター氏は戦うポジションを強調しています。ユニークなポジションを占めて「どこで戦うか」も非常に重要ですが、上の例のように「どう戦うか」かにあたって絶対に譲れない戦い方を明確にすることも重要です。

f)     確明に差別化されたコア事業に絞ること。事業の焦点をボカさないことです。

 はじめて事業化する場合は、まず、「どこで戦うか」のドメインを明確にしなければなりません。M.ポーター氏は、彼の著書の「持続的競争優位」の主張の中で、勝ち続けるには競争が少なく参入障壁が高いニッチなエリアでユニークなポジションをとることの主旨を述べています。

 最初の時点では、多角化の失敗リスクを回避するために、会社の投資とエネルギーをコア事業にしか投入しないことです。

 

あなたの会社は活性化していますか?

Posted on 2013-03-14

会社の活性化は経営にとっても働く社員にとっても極めて重要なことです。また顧客に「そういう会社でなら自分も仕事がしたいな」と共感をもたれる企業には潜在的に成長のエキスが溜まっています。顧客は生き生きと仕事をしている社員の姿を見て組織の中身まで推量するのでしょう。

組織の診断

上記のことからお分かりの通り、会社の活性化は組織が健全か否かと不可分な関係です。

ここに組織の健全性とは

  • 組織が動きたい方向に、
  • 最適なスピードで、
  • 最適エネルギー量が発揮でき、
  • 組織自体に自浄・改善・改革作用が働くこと

です。

価値の共有

従って、会社の活性化には、第一に、会社や組織が行きたい方向に動けるのは、志向している価値が全社員で共有されていることが重要です。

 「価値の共有」です。

具体的に表現すると価値とは、会社の社是、経営理念、方向性、戦略などの総体です。しかも体系的に一貫したもので、かつ、社員がそういう中で仕事がしたい、頑張りたいと共感を覚えるものが必要です。自分の会社として「共有する価値」を何に置くのかを、会社の発展段階に応じて真剣に考え直すことも必要になるかもしれません。

今の時代、競争優位に長く座ることは非常に困難になってきましたが、それでも時代にマッチした価値を共有し、社内外の「知」を組み合わせることでたくさんのビジネスチャンスを生むことが、会社の活性化につながるからです。

このためには、内部の意見の衝突を真剣な議論を経て一定方向に集約、意思統一することが不可欠です。しかも、情報はなるべくオープンに議論することです。個別の政策は別ですが、会社の理念、方向性、優先順位などは統一が必須です。

この過程で生まれる相互の信頼感をもとに、社員の力を同じベクトルに結集するリーダーシップが要求されます。決定のプロセスや内容の開示についても、全員が同一レベルで理解できるよういろいろな工夫が必要となります。

沢山のエンジンで「知」の組み合わせ

 第二に、統一された方向に向かってスピードとエネルギーを最適にするには、会社のエンジンが一つでなく、いくつものエンジンを持った上でトップがそれに対して統合的に采配を振るうことです。

このことは社員全員のエンジンがモラール高く作動しなければなりません。必要な「仕掛け」や「仕組」をつくり社員の創造性と働く意欲を促すため、自主性と自由度を重んずる風土づくりと直接リンクすることです。

このようなモラールアップの「仕掛け」や「仕組」がある限り、経営陣としては業務の大半を権限移譲しても問題が生じません。また、権限を委譲された社員の自律的な行動が会社の活力が増すことにつながるのです。

「知」の組み合わせには「物」が問題でなく、「人」が問題なのです。上杉鷹山の言葉に「人多き 人の中にも 人はなし 人となれ人 人となせ人」(言志四録)とあり、人の心が問題と解せる部分があります。ご留意願いたいです。

顧客に近づく組織

 第三に、会社の発展段階に応じて組織のあり方が変わっていくべきです。中小の企業が10億円の壁をなかなかクリアできないのは、組織の自浄・改善・改革作用が正しく働き、その発展段階に応じて変化していないからです。

重要なことは、社員全員が顧客にいかに近づくかということに常に思いを巡らせる組織か否かです。すなわち、営業が顧客接点を持つとか、どの部門は管理だとかに関係なく、それぞれの個々人が各人の範囲内で顧客に真剣に向き合う組織風土がなくなってきた場合にも、速やかにその修正行動が取れる組織になっていることです。

今の時代、情報は内外を問わず簡単にアクセスが可能です。会社が志向する資源を手に入れるのは工夫次第でいかようにも可能です。むしろ内部の資源のほうの価値が低くなっていることも発生します。

その意味で、他の会社と手を組む発想を常に持つことです。守るべき本質的なところに自前主義を抑え、できる限りオープンに他社と付き合うほうが顧客にスピードをもって近づくことができ、自社の発展につながるのではないでしょうか。