仕事
第212回 今、リーダーに求められている経営の視座(7)
前回の続きです。
海外の幸せ観の例
幸せの国際比較をした研究があることもも知りました。2006年イギリスのレスター大学が178か国を対象にしたもの経済成長率のみでなく、健康、景観、教育、信仰心などを基準に各国の幸福度を計測したものです。
日本は90位ですが、1位はデンマークです。
この国は地図で分かる通り、平坦で比較的暖かい。農業が強い国で、社会保障制度を早々に充実させ福祉国家を築いた国と社会科で学びました。
なぜ幸福度が高いのかは別として、本題との関係で幸せに焦点を当ててみます。
この国出身の童話作家のアンデルセンが有名です。
皆さんご存知の童話、『マッチ売りの少女』が幸せを語っているのではないかと思います。これはデンマーク人に幸せの考え方を諭したものとも捉えることができます。以下は、Wikipediaからの全文引用です。
「むかしむかし、雪の降りしきる大みそかの晩。
みすぼらしい服を着たマッチ売りの少女が、寒さにふるえながら一生懸命通る人によびかけていました。
「マッチは、いかが。マッチは、いかがですか。誰か、マッチを買ってください」
でも、誰も立ち止まってくれません。
「お願い、一本でもいいんです。誰か、マッチを買ってください」
今日はまだ、一本も売れていません。
場所を変えようと、少女が歩きはじめた時です。
目の前を一台の馬車ばしゃ)が、走りぬけました。
危ない!
少女はあわててよけようとして雪の上に転んでしまい、そのはずみにくつを飛ばしてしまいました。
お母さんのお古のくつで少女の足には大きすぎましたが、少女の持っているたった1つのくつなのです。
少女はあちらこちら探しましたが、どうしても見つかりません。
しかたなく、はだしのままで歩き出しました。
冷たい雪の上を行くうちに、少女の足はぶどう色に変わっていきました。
しばらく行くと、どこからか肉を焼くにおいがしてきました。
「ああ、いいにおい。・・・お腹がすいたなあー」
でも少女は、帰ろうとしません。
マッチが一本も売れないまま家に帰っても、お父さんはけっして家に入れてくれません。
それどころか、
「この、役立たずめ!」
と、ひどくぶたれるのです。
少女は寒さをさけるために、家と家との間に入ってしゃがみこみました。
それでも、じんじんとこごえそうです。
「そうだわ、マッチをすって暖まろう」
そう言って、一本のマッチを壁にすりつけました。
シュッ。
マッチの火は、とても暖かでした。
少女はいつの間にか、勢いよく燃えるストーブの前にすわっているような気がしました。
「なんて、暖かいんだろう。・・・ああ、いい気持ち」
少女がストーブに手をのばそうとしたとたん、マッチの火は消えて、ストーブもかき消すようになくなってしまいました。
少女はまた、マッチをすってみました。
あたりは、ぱあーっと明るくなり、光が壁をてらすと、まるで部屋の中にいるような気持ちになりました。
部屋の中のテーブルには、ごちそうが並んでいます。
不思議な事に湯気をたてたガチョウの丸焼きが、少女の方へ近づいて来るのです。
「うわっ、おいしそう」
その時、すうっとマッチの火が消え、ごちそうも部屋も、あっという間になくなってしまいました。
少女はがっかりして、もう一度マッチをすりました。
すると、どうでしょう。
光の中に、大きなクリスマスツリーが浮かびあがっていました。
枝には数え切れないくらい、たくさんのロウソクが輝いています。
思わず少女が近づくと、ツリーはふわっとなくなってしまいました。
また、マッチの火が消えたのです。
けれどもロウソクの光は消えずに、ゆっくりと空高くのぼっていきました。
そしてそれが次々に、星になったのです。
やがてその星の一つが、長い光の尾を引いて落ちてきました。
「あっ、今、誰かが死んだんだわ」
少女は、死んだおばあさんの言葉を覚えていました。
『星が一つ落ちる時、一つのたましいが神さまのところへのぼっていくんだよ』
少女は、やさしかったおばあさんの事を思い出しました。
「ああ、おばあさんに会いたいなー」
少女はまた、マッチをすりました。
ぱあーっとあたりが明るくなり、その光の中で大好きなおばあさんがほほえんでいました。
「おばあさん、わたしも連れてって。火が消えるといなくなるなんて、いやよ。・・・わたし、どこにも行くところがないの」
少女はそう言いながら、残っているマッチを一本、また一本と、どんどん燃やし続けました。
おばあさんは、そっとやさしく少女を抱きあげてくれました。
「わあーっ、おばあさんの体は、とっても暖かい」
やがて二人は光に包まれて、空高くのぼっていきました。」
上記の引用を勝手に簡略化して解釈すると、冬の寒い夜に貧しい少女がマッチを売っていました。なかなか売れません。凍え死ぬような寒さの中、少女が自分を温めようとマッチを擦ると、ストーブが目の前に現れてきます。ところが、暖を取ろうとストーブに近づくとストーブは消えてしまいます。次にマッチを擦ると、ご馳走が並び燭台が現れますが、それを手に入れようとすると、ご馳走は消えてしまいます。
また少女がマッチを擦ると、おばあさんが現れ、少女を抱き上げて天国に連れていきます。
翌日、残ったマッチを抱えながら少女が死んでいる姿を見ることになるのです。
デンマークの幸せ概念
この教訓は、人間は幸せを求めようとすると、なかなか得られない。たとえそれが得られることがあってもすぐに消えてしまうことを暗示しています。さらに、高望みをすることが如何に無益なことかも警告しています。
欧米の一部の経営者には、家庭を犠牲にしてまで高額の経営報酬を求めて働き続け、さらに高望みを追い求め、結局、際限のない欲望の壁に突き当たり人生を棒に振った人もいます。そのような人を私は見てきました。
そのようにならないようにアンデルセンは、玄侑氏の説く人間関係というより、自己を律する厳しい心を前提においているとみられます。彼の考え方がデンマークやヨーロッパを代表する意見かは不確かですが、幸せの考え方の違いが見えます。
人は自己を律しそこそこの幸せを求めることによってこそ、満足度の高い人生を送ることができることです。この考え方が日本にないわけではありませんが、玄侑氏の人と人との関係から幸せを説く意見も非常に参考になります。
ゼロ成長時代の幸せ観
日本のようなマイナスの人口成長率では経済成長率は高まるはずがありません。高めるには出生率(含む移民)を上げるか、資本の成長率、技術進歩率を上げることが必要だと慶応の時、経済原論で習ったのですが、それを実現する策がもちろん必要です。
加えて、ゼロ成長率の時代の日本での「幸せ度」をいかに上げるかという、これまでになかったテーマに正面から取り組むことが国家施策として必要ではないでしょうか。
ご参考になれば幸いです。
第211回 今、リーダーに求められている経営の視座(6)
前回からの続きです。
「幸せ」の概念
私は、「これからの社長の仕事」(ネットスクール出版)の中で「農耕型企業風土」づくりを通じて会社を中・長期的成長と発展を実現できる「フォーミュラ」を説いていることを、この「今、リーダーに求められている経営の視座」の数回前に書きました。
この「フォーミュラ」の特色は、社員を幸せにすることで会社の成長につなげることを骨子としているもので、会社の成長が社員を幸せにすることではないことを逆説的に強調したものです。
これを国レベルで例えると、国の経済力がその国民の幸せレベルに必ずしも比例していないことでも分かる通り、国民の幸せ度はGDPなどの数字では測れません。
現在もこの考えが踏襲されているかは未確認ですが、1976年にブータンの国民総幸福(Gross National Happiness)という概念(詳細省略)が紹介されたのも一つの試みです。
日本的幸せ観
幸福度の国により考え方の差があるかは後述しますが、ここで一番言及したいのは日本人ならではの「しあわせ」観です。幸せの感じ方が日本での経営に大きく影響する考えているからです。
たまたま読んだ玄侑宗久氏の『しあわせる力―禅的幸福論』に面白いことが書いてありましたので、参考のために要約紹介します。
語源
「しあわせ」という言葉は和語で、室町時代には、人と人との関係がうまくいくことを「仕合わせ」と呼んだと言います。詳細な説明は省きますが、すなわち、日本人が考えたしあわせは、常に相手がおり、西洋的な計量できるしあわせ観と違うというのです。
幸福の幸という文字、日本人はこの一字で「さいわい」と読んでいます。「さいわい」は、「さきわう」という言葉が変化したもので、さきわうは賑やかにいろいろな花が咲いている状態のことだから一人では無理だと玄侑氏は言います。
要するに人間関係、人と人との間で「しあわせ」が決まると日本人は考えたと、玄侑氏はいいます。人間関係がしあわせをもたらすものだということです。
玄侑氏によれば、「日本人がしあわせを感じるのは、思わぬことが起きて、その中で揺らぎながら何とかやりくりしつつそれを楽しんでいるような状況」ということになりますが、すべてロジックで片ずけ因果律で考え、確実な近未来を想定しようとする現代社会の発想とは違います。その発想では、予定外のことが受け止められなくなり、そのため、しあわせは、起りえないと彼は説いています。
私もそう思います。
障子で覆われた三畳の小さな茶室に寝そべり、障子に映る外の四季の移ろいを楽しむ。光も音も遮断しないのに、幽かな心豊かな瞬間を楽しむ。この自然との相対の中で変化を楽しむ国民性が日本人には本来あるはずです。
物事は相対的です。関係性を重視し、これに上手く対応することが日本人の幸せ感の根底にあると、私も思います。
行き過ぎた個性の主張が妥当か
これに対して最近気になるのが個性という言葉だと、玄侑氏は論じています。
自己の輪郭を明確にすることを迫られ、明確にすればするほど説明できない事柄が増えています。
自己の輪郭を明確にするには自己言及をすることになりますが、これにはきりがない。ちょうど自分のしっぽを咥えて食べる蛇のようなもので食べれば食べるほど苦しくなります。本来自己というものは関係性の中に成立し、関係は絶えず変わり続けるものと日本人は考えていたと、」玄侑氏は述べています。
弱い人間が生き残ってこられたのは、集団で暮らしていたからで、こういった集団を作れる力が「しあわせる力」といえる。ところが、現在われわれは人の世話にならないシステムつくりをどんどんすすめてきています。「核家族」、「一人住まい」してその結果、人間の本質的な力がどんどん衰え、コミュニケーション力も弱まったのではないでしょうか。
皆で仲良く
七福神という集団がしあわせをつくることも紹介されています。七人の幸せを運ぶ人です。昔自宅の神棚の横に七福神が飾ってあったのを記憶しています。
七福神をめぐって歩く習慣は、江戸時代に江戸で始まったようです。七福神そのものは、室町時代末期ごろ、京都の臨済宗のお坊さんが考えだしたと言われています。
なぜ七福神を作ったのかです。
八百万のイメージなのだそうです。インドからの毘沙門天、大黒天、弁財天、中国から福禄寿、寿老人、布袋さん、あと一人日本から恵比寿さん、合計7人です。
八百万のどの一つにも正義を求めないという日本人の感性が凝縮して示されている。正統も異端もなく横並びにごちゃまぜであることがしあわせなのだ。全員一致などありえないと、玄侑氏の本に紹介されています。
日本人の幸せ感、素晴らしい意見だと思います。
第209回 今、リーダーに求められている経営の視座(4)
前回の続きです。
前回リーダーの資質などについて述べましたが、そのリーダーにも沢山の艱難が待っています。
困難へのリーダーの対処
ビジネス上、沢山のトラブルや困難が一度に舞い込んでくる時があります。この時も、トップは我慢しなければなりません。特にベンチャー的な発展段階ではしかりです。
いろいろなことが同時に発生し、その解決も単純ではありません。それでも、自分の仕事を投げ出さずに我慢して課題を解決しなければなりません。この時、リーダーはどう対処したらよいでしょうか。
・普段から情報開示を旨とし、常に開かれたコミュニケーションルートを経営上目指すことが大事です。
自由に意見を言えない、何か発生しても隠す風土があるとしたら、これがリーダーの姿勢から発生していることが多いです。
何かの事態が発生しても、リーダーは状況を隠さずありのままに開示して、全員が共通の理解の上で課題を解決する方向に持っていきたい。
・リーダーが自分の心理をコントロールする。
実は、このことがリーダーとして非常に重要なことです。
不安定な心理状態は、すぐ社員に伝わります。「何かあったのか?」、「自分の仕事はどうなるのだろう?」など不要な不安を社内にまき散らす原因となります。
友達に相談することも方法です。また、自分の悩み事を何かに書き留めて問題を整理することも方法です。やたら不安を社内で掻き立てないことです。
・社員、商・製品、利益のうち、社員を最も大切にする。
働きやすい環境を作ることにリーダーが努力をしていれば、社員という仲間がいるので、困難に直面してもリーダー一人で悩み背負い込むことがなくなります。
・社員への教育を重視することです。
社員への教育投資を惜しまない。
社員が辞める理由は、上司が嫌い、何も教えてもらえない、教えて育てる環境がない場合が大半ですが、もし社員への教育のなさをなげいているとすれば、そのような状態では生産性が下がるのも当たり前です。
にもかかわらず、リーダーがこのことを認識していない場合が多いのは残念です。
・社内の政治力学に押されない経営をすることです。
実績評価や給与査定のルールを厳格にやり、政治力学が作動しにくい仕組みとするのも方法です。リーダー自身も注意しなければなりません。よく相談に来る人をリーダーは評価しがちになります。これでは、リーダー自らが社内政治を作り出す原因になっているかもしれません。
私の体験では、会社の成功を第一に考え、その副産物として自分の成功を考える人を採用したつもりでも、優秀な人材は最悪な社員になりうることも留意必要です。リーダーもしかりです。
心の習慣を変えるストレス・マネジメント
今やリーダーはじめ世のビジネスマンにストレスに対する対策が不可欠になってきました。
企業のリストラ、年功序列もなし、一定年齢になると給与がカットされるなどストレスが溜まるモノばかりです。ビジネスマン自身が限界感を感じてしまいます。
特に、団塊の世代の人々は、仕事上、特定の居場所に上り詰めることに全力を注いできたからです。居心地が悪くなると酒、たばこに走る。しかし、それでは今の時代を乗り切れないのが今の世界です。
しかし、人間にはこのようなストレスから回復する能力を元来備えもっていると言われています。へこんでも回復する力を持っています。
笑いも良いでしょう。私の友人が「笑いの場」を設けて参加者を喜ばせています。心の生活習慣を変えることになります。
深呼吸、体を動かす運動、睡眠、仲間や家族、自然との触れ合い等いろいろな方法があります。これらを実践すれば、ストレスからの回復力が増します。私もこれらのことを意識しています。
人間性格があります。これをチェックするパーソナリティー指標も勿論あります。理想が高く厳格な人、受容的で思いやり豊かな人、客観的な人、自由で明るく行動的な人、自分の気持ちを抑えて周りに合わせる人等タイプがあります。
自分の性格を知った上で、不足分を補う努力がストレスを予防できる方法です。決めたことをやらないと気が済まない性格の人もいますが、環境の変化に適合させて柔軟になるのも一つの方法です。
ストレスからの回復力を高める資質の一つは、気楽に考える習慣です。辛いことがあっても「こういうことは起こり得ることだ。しかし自分は何とかやっていけるはずだ、大変でも意味がある」と思い、乗り切っていける資質です。
リーダーはこうありたい。
最後の方法として、とりあえず休むのも方法です。立ち止まり考えることです。焦ることは禁物です。
組織を動かすルール
困難への対処も全てある目的に向かって組織を動かすためです。
リーダーの統率する組織自体は複雑です。今、ますます複雑になってきているので、対処すべきことが多くあるように見えますが、「組織を動かすルール」は意外に単純です。
私が「定石」と称することと重なるものです。
・組織をうまく動かすために、私は人間としての社員個人を、彼の行動を「知る」ことを重視していました。
社員個々人を理解することと言いかえることもできます。今、何を望んでいるか、何をしているか、そのことで彼がどう満足をしているか等、とにかくその人を知ることです。
・社員、特に中間管理職の権限と自由に判断できる総量を増やすことにしています。
社員個人に裁量を与えると、個人の行動を変えることにつながり、組織の動きが活発になるからです。
・助け合う環境を重視します。
チーム自体が自立しながら協業する、チームワークを常に意識をすることです。集団で目指すアウトプットの共通理解がある前提です。対チームワークをよくして共同で何かの目標を達成する。このために対話の努力が必要となります。
・結果を共有することです。
中間期、期末に目指した目標に対しての成果と反省を社員全員で共有することです。場合によりお祝いをする。
助け合った人々に対して報いることです。しかもこれを単に金銭的なもので無く表彰など全員の前に彼の成果を示せる方法も得策です。
・組織を動かすために、もう一つ肝要なことは、対話力です。
あらゆる仕事で、対話やコミュニケーションの取り方が重要です。商談、会議、報告会などビジネスマンならずとも、あらゆる人にとり仕事の重要な要素です。
対話には言葉のメッセージによる対話と、ボディランゲージなど言葉以外のメッセージによるものとがありますが、リーダーにも双方が必要です。
リーダーが「すみません、すみません」と公約を実現できなかったことを何回も社員に謝罪しながら、表情や体の動きから「本心が違うのでは?」と、我々には分かることがあります。ビジネスマンならず、だれでもこの違いを察知する能力を持っています。ところが、リーダーという立場になったとたんに、このことを忘れてしまう人もいます。時には、対話に於いて言葉より以上にリーダーの組織を動かす仕事に大きく影響を及ぼすことを忘れてはなりません。
第208回 今、リーダーに求められている経営の視座(3)
前号の続きです。
リーダーの仕事
トップたるリーダーの仕事は沢山ありそうですが、一番大切なことは常に自社の発展の機会と策を考え続けることです。
事業の計画をいかにして達成するか、そのための商品戦略、人材戦略をどうするかなどを考え続けることです。考え続けると不思議と「知恵」が湧いてくるように思います。その知恵を紙に言葉で落として、自分自身で妥当性などを検証してみる。戦略の具体策を言葉でストーリーにして、社員に説明して彼らの共感を得られるかを試してみる。更に考え抜いた挙句、自分の言葉でビジョンを浸透させる。戦略に落としていく。
これが私自身が実践していたリーダーの仕事です。実行段階では、我慢しながらも現場のマネージャーに任せる、決して箸の上げ下ろしまでの指示をしない経営を行うことです。
リーダーの仕事で具体的なものとして特に重要な一つは人材育成です。
人材育成の例
人材育成には、基本的に本人自身の習慣づけが肝要です。それを支援するために会社や上司が何ができるかを常に考えておかなければなりません。
・良い手本に多く触れさせ、社員が自分の目を肥やす機会を与える
手本と比較して、自分がどういう状態かを正しく認識するきっかけが習慣づけの始まりです。優れた同僚や上司の中に育成したい人材を入れることです。
・上司によるレビューなどの機会を持ち、本人が真摯に振り返るプロセスを持たせる
学習する良い習慣ができたら、その習慣を定着させるために上司にできることがあります。育成のため、PDCAをしっかりまわす方法を講じることです。
育成を狙って適切な、少し実力より上の仕事を与える。失敗するまであえてやらせてみる。失敗したら、そこで初めて失敗の原因などを彼にフィードバックする。二度と同じことをしないように彼の俊敏な修正行動を意識したアドバイスを行う。自らもこのプロセスを回す癖をつけさせることです。
フィードバックの時に失敗した事実を受け入れる素直さを彼に持たせる工夫が重要です。
・効果的な育成には業務を分解して難易度に分けて実践させ、そこから学ぶ機会を増やす。
私は、成長のレベルにより質問の仕方を変えています。
ビジネスの効率化を例にとると、「ビジネスの手順が滅茶苦茶だ。どうする?」と問う方法をまずとります。
それでも難しい場合には、「顧客とのやり取り、手順が複雑すぎるかも、少しそこら辺を見てくれる?」と仮設を投げます。
それでも難しい場合には、「契約書の内容を簡便にしてくれる?」と、具体的な仕事に落とした指示を出します。
結構難しいのですが、いずれの場合も、そのレベルに合わせて、部下が成長できる機会を上司として与えるためです。今アドバイスしている企業でも、社員の成長段階に即して、同様な質問を工夫しています。
リーダーの資質
考え抜き、
それを戦略として社員に落とし込み、
具体策を彼らにゆだねるのがリーダーの大きな仕事だとすると、
リーダーの資質自体が問われることになります。
私が考える資質は:
・リーダーは、本質を見抜く洞察力が第一に要求されるとしてそれをどう育むか。
生まれながらにして本質を見抜く力を持っている人は少ない。
勉強して知識を身につけ、それを下に経験を積み重ね失敗から知恵を身に着けることです。経験を積むことで、新しい事象に対しても類似のケースをもとにした対処方法を見つけられるようになるからです。
・公と私の峻別ができ、それを実行できる人です。
特に、お金の使い方に公と私の判断基準が出てきます。この原稿を、6月11日に書いていますが、どこかの知事の金銭利用問題が報道で論じられています。個人的には、そもそもこのような人はリーダーになる資格が最初から欠如していると考えます。個人の私腹を肥やすことしか考えず、市民を幸せにする戦略など考えていない。税金、すなわち民の努力の結果の税金を勝手に私用したとしたら、政治資金規正法があろうがなかろうが、本来はいわゆる「泥棒」と同じ行為です。どんな説明をしようが、キャッシュの動きが真実を語っています。私も幹部社員で同様なことが発生したことを明確に記録に残しています。
・リーダーの仕事も第一線の社員の仕事も、こと仕事という観点から言えば、全て平等であることを前提に社員に対処することです。
よもや、社長の仕事が、第一線の社員の仕事より重要だなどとの発想を抱かないことです。社長には社長の仕事が、現場の第一線には彼の仕事があります。どの仕事が無くても事業はバランスよく成長しません。皆の仕事がかみ合って初めて、顧客に商品を提供できるからです。ベンチャー企業のリーダーには、この平等意識が欠如している人を多くみます。
・相手の立場になって考える余裕を持つことです。
『言志四録』の中で佐藤一斎が説いている「恕」です。相手の立場を慮る行動です。
仕事が人と人との人間関係を抜きにしては考えられない以上、リーダーは相手の立場、部下の立場に一度戻って考えることが必要になります。
・専門家、プロを大事にすることです。
自らが全ての分野で専門家にはなれません。リーダーもしかりです。
何でもかんでも自分でやろうとの考えは、余り生産的ではありません。しかし、少なくとも事業分野に一定の知識を持ち、経営上必要な議論が出来るくらいのレベルは必要です。部下の専門性を大事にしながらも、変化の激しい時代に対応できる経営選択肢を適格に選べる素養を持たなければなりません。
・本物志向です。
シンプルで本質的なものが誰かに選ばれやすいです。削いでいき最後の本物の部分が残ると思います。それにはリーダーが普段から本物に触れる機会を増やすことが肝要です。
・何かに遭遇したら、止まる勇気を持てるかです。
慌てない。漂流を避けるために止まってじっくり考えることです。戦略目標の実現のため暫く止まって周囲の状況を見るのが、結果として早く目標に到達できるかもしれません。
ベンチャーの経営者には逆の動きをする人を多く見かけます。バタバタ慌てて、失敗を重ね、結局資金を自ら枯渇させてしまう。止まって失敗の原因を探り、次のステップに入ればよいのに、入らずこのような不幸を自ら招く人も、残念ながらいます。
第207回 今、リーダーに求められている経営の視座(2)
前号からの続きです。
時代の変化に対応する経営の中でも重要なこと
今、ものすごい勢いで時代が変化しています。特に、技術革新のスピードがただならぬ勢いで進んでいます。この結果、産業や社会の構造自体が変革をきたしているのを、皆さま目の当たりにしておられると思います。まさに情報を中心とした新しい産業革命の真っただ中にいると、私は認識しています。
しかし、この変化の中でも、変わる経営と変わらない、若しくは、変えない所を明確にしたいのが私の持論です。
何故なら、時代の変化に対応した経営をしなければ生き残れない、しかし、変えないことこそ長く生き残る秘訣でもあるからです。
変わるもの--時代の流れ
まず、変わる部分です。情報を中心とした産業革命の主役はコンピューターとネットワークです。最新のコンピューターで人工知能まで組み込み、生産活動を自動化・AI化、IoT化を図ることで生産や流通の最適化、省力化を図る流れがすごい勢いで来ています。
ご存知の通り、生産面のネットワーク化はもともとドイツが政府主導で始め、現場をネットワークで結び国中の工場を結び付けようとしたのが始まりです。工場現場のデジタル化とスマート化を図るものでした。
ところがアメリカでは、国防省を源とするインターネット技術の促進で、更に進めて工場のみならず、産業全体をスマート化しようとする壮大な構想を実現し、今やアメリカのみならず世界を巻き込んだ取り組みが行われています。まさに産業革命真っただ中です。
この潮流は止めようがありません。それどころか、我々の生活に沢山のメリットをもたらしてくれているのも事実です。
自分独自の趣味や嗜好に合ったものを単品で速やかに届けてもらうメリットを、誰でも享受できる時代になりました。数十年前には、これを実現しようとすると大変な時間とコストがかかり、特定の人しか利用できませんでした。大規模生産の経済性からまさに多品種少量生産の中での経済性に移りつつある段階です。
しかも、このようなネットワーク化の傾向は、過去の技術の蓄積を現象的には無にすることも出てきます。卑近な例で言えば、デジタル革命により、アナログの電話網に関わる財産とそれまで蓄積してきたノウハウが、一瞬にしてその価値が失せる事態が発生してしまいました。
また、世界の工場立地や労働力供給の流れを変えてきています。安い労働力の供給源だった国が、一変してネットワークを介した知恵の供給源と化し労働力を含めた生産資源の供給源も激変することにもなります。高い技術力で世界の拠点をネットワークで連結、コントロールし、海外に進出していた工場の生産も日本国内に呼び戻す最近の傾向に拍車をかけることにもなります。単純に労働賃金の比較によるよりも、ITの技術力が世界の産業構造を変えて、しかもリードすることにつながるほどの時代になりました。このように技術の革新が生産や工場立地、雇用などを含む経営の在り方自体を変えることにつながります。
変わらないもの――モチベーションを高めること
ビジネスモデルが上記のように変わるとしても、人間が働きたくなる動機や生産性を上がるために高いモラールを如何に持続していくかなど、人間の心に関係する部分は不変だということが、実は極めて重要なことです。
私が提唱する「農耕型企業風土づくりを通じた経営モデル」の「内臓部」、すなわち、「ソフト部分」の重要さが、逆説的ですが、今後経営上かえって増すことになると確信しているほどです。
このことを考えると、経営トップ・リーダーの仕事は、IT革新の中でも、社員のモラールを高める心の部分を重視する経営をすることが重要課題であることを忘れてはなりません。そのため、ビジョンを提示し、社員を一つの方向に持っていくビジョン型の新しいリーダーシップが求められることになります。
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