人つくり
第290回 リーダー意識(2)
前回の続きです。
それでは,目指す「リーダー人材」になるには具体的にどういうマインドを持ったら良いのでしょうか。
協業のマインド
協業の発想を重視します。
まず取引先とともに成長する視点です。そういう取引先を選ばねばなりません。
買う側と売る側の交渉で気を付けねばならないことがあります。購入側が仕入側の立場も尊重しなければ、長い付き合いはできなくなります。急場で助けてもらえなくなるからです。
また社内では、目標(Objectives)達成に向けて隣の部門と一緒に協力する視点を重視します。会社の最終目標に向けて各部門が自分の仕事をしてから、バトンを次の部門に受け渡す。それぞれが目標(Objectives)も持っています。両者が協力してそれぞれの部門目標を一緒に達成することのマインドが肝要です。
これらは、私が言う「三方一両得」の発想で、皆がそれ相応に利益の分配、最悪は、損失の分配にあずかる発想です。
長所を見るマインド
さらに、上に立つ人は、部下の長所を見る癖を持つことです。
人間誰でも自分本位で発想しやすいものです。どうしても「自分はしっかり仕事をしている」のに、「部下が仕事をしないので」計画が未達だと、部下を責めやすくなるものです。
はたして、この発想で皆が得をする、マインドを積極化する展開になるでしょうか。
部下の短所のみ見るとその部下に安心して仕事を任せられなくなります。いつも心配することになります。
部下も思い切り仕事にエネルギーを投入できません。いつ怒られるかわからないので戦々恐々としたマインドです。安心できないので、仕事の効率など上がるはずもありません。
この結果は、最終的にはあたかも「ブーメラン」のようにその上司に帰ってきます。
この場合、上司も部下も会社も誰も得をしていない「三方一両損」の最悪のパターンとなります。
「一人結果責任」のマインド
最終結果はリーダー一人の責任になります。
リーダーが「自分は一生懸命仕事をしているのに、部下が・・・」というような発想では、事業の運営サイクルはほとんど例外なく、負のスパイラルにはいります。
こうならないためには、その責任者が、結果は自分一人の責任であるという基本的認識をもって仕事をすることが重要なのです。
前の項で述べた通り、部下の長所をどう褒めるかという発想に切り替えることです。たまには、部下を本気で怒らなければならないことがありますが、そこにかける比率をうんと低くすることです。
戦略を「思考する」マインド
私は、「考える」、一人で考えることを非常に大事にしています。
経営者の指導でも、ことあるごとにこのことを言っています。
私が提唱する「農耕型企業風土」づくりのキーとして、個人が自立してこそチームをレベルアップできることを強調している項があります。「最初に、適切に、仕事をする」を個々人で考えることの事例です。何をどうしたら全体の目的を達成することにつながるのかをチームの一人として真剣に考えることです。
これを慶応義塾の創設者、福沢諭吉先生は「独立自尊」と表現されたかもしれません。「一身独立して、一国独立す」とも言われています。横並び的発想や群れることを排して、自立を促しています。
一人でじっくり戦略を考えることで、人間は成長するのではないでしょうか。
一人だからじっくり考えるとも言えますが、考えて、考えて人間ははじめて独り立ちすると思います。リーダーは「Whyで発想する」習慣を持つと、考える習慣がつきます。
事業展開の中での「仕掛け」のマインド
中・長期的に成長・発展し「勝ち続ける会社」になるには、「仕掛け」、「仕組み」が必要です。
このことを『これからの課長の仕事』と『これからの社長の仕事』で書きました。また、事業計画や経営戦略の教科書的に、『勝ち続ける会社の事業計画のつくり方』の本でもふれました。
しかも、「人間臭い」仕掛け、仕組が今必要です。なぜなら、「乾ききった人間関係」に飽き飽きし、もっと「湿り気のある関係」に、皆が重要性と魅力を感じているからです。
入社3年目の社員をしっかりフォローするために、新人を「里子」とみなして「里親」を、また2年目の社員に、「里兄、里姉」の役目を与えるバーチャル家族の共同体を会社の中に作った社長もいます。
私は、重要な「仕掛け」の一つとして収穫祭を兼ねたイベントをやっていました。役員が社員、家族や取引先をイベントに招待して、徹底的に楽しんでもらう仕掛けです。
集まる人々の醸し出す雰囲気や人間集団の出会いを通じて、会社との一体感を醸成するのに役立ちました。
ある会社で「金曜しゃべろう会」を実践し始めました。一週間の終わりの金曜日の夕方、会社内のバールームに社員が三々五々集まり、ビールでも飲みながら、自部門の自慢話を披露したり、仕事の進捗を皆に開示したり、普段接点の薄い部門の人からの意見を聞いて自部門の知恵としたりと、目的はそれぞれ多種多様ですが、自由に裃なしの普段着で喋る「場」を提供するものです。これも仕掛けの一つです。
社員の発想を柔軟にするマインド
企業には飽くなき「知の探究と知の深化」が要求されます。
知の探究のために、常に新しいことに取り組まなければなりません。即ち、知の幅です。
また知の深化のためには、自社の得意とするところを深堀しなければなりません。これまた、新しい商品や開発事業に触手を伸ばすことに関係します。
このためにはいろいろな方法があると思います。一つは、社員に常にこの発想を持たせる仕掛けを仕組みの中に入れることです。毎週、毎月の社員からの報告に、「どんな新しい取組をしたか?」を入れて、そこを議論することです。
米国の3Mで採用をしているといわれる方法は、日頃アサインされた業務以外に、ある一定の自分の業務時間を使ってもよいというものです。その時間を新しいことを開発するアイデア醸成のために全社員が使うとすれば、どれだけ新機軸につながっているか想像してみてください。
この事例のように、新しいことに触手を伸ばさなければならない危機感を全社員と共有し、アイデアを出してもらい、それに本気で取り組む仕掛けを仕事に組み込む。そのような企業風土をつくる。その企業風土を醸成しようとするリーダーとしてのマインドがここに試されことになります。
第289回 リーダー意識(1)
社会に何を築いていくかの根本的マインド
「儲かる会社」、「儲かる事業」などという表現をよく耳にします。
会社としての最大の目的が、たくさんの顧客を発掘して、結果として利益を上げることだとすれば、「儲かる」ことは当然の表現です。会社を支える株主を考えれば、所期の利益を上げ、「儲ける」のはリーダーとして最小限必要なことで「勝ち続ける」ことがポイントです。
しかしながら、これだけで十分でしょうか?
リーダーには、もっと大事なことを目的の一つにして欲しいと私は考えます。
その会社が社会のために業界の中でどんな新しい橋頭堡を築いたか、築いていこうとしているかが大事なことではないでしょうか。
どのリーダーにも物語、ある種の野望があります。この野望が単にリーダーの私利私欲でなく、世の中を変革して新しい何かを築いていくことになれば、これくらい幸いなことはありません。
長いスパンで考えると、結局はこのことがその会社の価値を決めることになるのではないでしょうか。
リーダー人材づくり
社会のために何を築くのかの内容は、リーダーの野望やその事業が置かれた業界や業種によって違いがあります。
私は、いろいろな過程を経て、「人つくり」で社会に橋頭堡を作るのも大きな責務と考えています。しかも、本人自身を高めつつも、集団のことに配慮し、人の心に情熱と安心感を抱かせることができるリーダーたる「人つくり」です。
このような「人つくり」こそ、今の時代に必要だと確信しています。
私個人はHow-toにたけた「人つくり」ではなく、社会に何かを残す上記のような「リーダーになれる人材つくり」こそが、一番の社会貢献になるものと考えています。
多少コストがかかってもこのような「人つくり」に重要なターゲットを置き、これで会社の社会的価値づけをしようと考えていましたが、今もこのスタンスに変わりありません。
ここで私が目指す「リーダー人材」になるには、具体的にどういうマインドを持ったら良いのでしょうか。
顧客密着を徹底するマインド
モノやサービスが売れない限り、会社は成長しません。
私が事業で常に発想しているのは、自社の商品やサービスが本当に顧客に受け入れられているのかを常に振り返ることです。
売れないのはあくまで現象で、顧客に受け入れられていない時にはその背景があるからだという根本的認識が不可欠です。
顧客の要望を、いろいろなチャンネルやメディアやイベントを通じて把握することから始まります。汗をかく地道な仕事になります。
顧客の声を聴き続けると、「顧客に受け入れられているはず」という社内の力がある部門や特定の人の一言で全てを通してしまっていることが、意外に会社の成長を大きく妨げていることを猛省する機会になります。
社員集団の知恵を生かすマインド
同様に、自分の会社が社員にどう映っているのかを、経営側として常に気にしている視点目標を大事にしています。
これは社員に媚を売ることを言っているのではありません。
経営陣、社員、取引先などの共同体組織がたまたま会社という形態をとって、社員を雇用しているという理解から発想しているからです。
会社の内容が社員によく映ることは、彼らの脳の回転を積極的にし、彼らのマインドが活性化することにつながります。全員で協力して会社をさらによくしていこうという発想につながります。これが結果として、顧客に受け入れられることにつながるのです。
やることでマイナスはありませんが、特段大金をかけて「社員満足度xx調査」などする必要性なども本来ありません。社員への映り方の把握のために、有益な情報は社内のそこら中に沢山落ちているからです。上司と社員の「1:1の対話」こそを、常に心がけているかがポイントになります。
経営施策が社員にどう受け入れられるか、どう映っているかを出発点とし、集団の知恵で創意工夫をこらし「PDCA」を回して、自社の商品やサービスを買う側、利用する側の視点で、皆で改善することにつなげていきます。
商品やサービスの開発も、顧客の要望をどうくみ取り、自社が顧客と一緒に、いかに繁栄していくかの社員の視点を基本とします。
何に差異化を置くかのマインド
さらに、差異化をどうするかを重視するのも当然のことです。この発想がある限り、「景気の波が・・・」と他のことを理由にする議論から少し距離を置けることになります。
景気の悪い時期をプラスに利用できる発想もでてきます。
皆が苦しいこの時期、自社も苦しい。
しかし、逆手に取ってその期間に自社の差異化に時間とエネルギーを費やせば、競合より相対的メリットが多く出せます。
そのような期間に革新的なことに取り組む機会です。例えば、競合に先駆けて顧客をサポートする革新的体制をどう作るかなど、景気が悪いその時期にこそ取り掛かれる。このことがどれだけの大きな差異化になるのか、実は、その時より後になって分かることなのです。
継続的に伸びる会社は何が違うと思いますか?(2)
私の著書「これからの課長の仕事」、「これからの社長の仕事」の中で「農耕型企業風土」づくりで会社を成長させるための「フォーミュラ」について述べ、2012年10月12日の本コラムで継続的に伸びる会社のポイントを違う側面から言及しましたが、今回はその続きを述べます。
社会のために「人つくり」の視点
よく「儲かる会社」、「儲かる事業」などと表現されます。この表現は、会社としての最大の目的が沢山の顧客を発掘して結果として利益をあげることだとすれば当然で、所期の利益を上げて株主に還元するためにも最小限必要なことです。
しかしながら、もっと大事なことがあると私は考えます。
それは、その会社が業界の中で社会にためにどんな橋頭堡を築いたか、築いていこうとしているのかということです。長い事業スパンで考えると、それこそが、その会社の価値を決める違いになるのではないでしょうか。
社会のために何を築くのかは、その企業が置かれた立場や業界の特色によって違いがあります。
しかし、多少の違いはあるとしても、「人つくり」という仕事はどの会社にとっても競争上で一番の橋頭堡になるものと私は考えています。その意味で、多少コストがかかっても「人つくり」を重要なターゲットとすることは、非常に多くの意義があるのではないでしょうか。
Whyを考える「人つくり」
この「人つくり」でも「How to」にたけている人よりも、「Why」を考える人こそ重要だと思います。
細かい情報が沢山氾濫している現在、ある問題に対して解答を得るためのHow toを教える人やその機会が沢山あると思いますが、思考のルートやヒントを与えてくれる人や機会が少なくなってきてはいませんか。
人間がレベルアップしていくには、起こりうるいろいろな事象に対して、それを克服するための応用問題を解く能力が要請されます。
また、応用問題を解くアプローチも沢山あるという理解が重要です。選んだそのルートは、その応用問題のみは早く解けるが違う応用問題では限界があって苦労するようなルートかもしれません。ルートの選択で思考するクセもつきます。そのような素養を持つ「人つくり」を心がけたいものです。
「仕掛け」造りの工夫
継続的に儲かる会社には、「仕掛け」があります。
週間報告書(週報)や月間報告書で対話をするのも、私が取り入れていた「仕掛け」の一つです。この「仕掛け」を習慣化していました。
本来は報告書のファーマットで学習させレベルアップすることが目的です(その詳細は先述の本に譲る)が、一定期間に実行したこと、できなかったこと、人間関係を含めて悩んでいること、会社への提案など何でも記載結構です。
何でも記載可能な形にしていましたので、上司と部下のある種の交換日記的役割も全うしていました。報告書の中に「隣のAさんが最近沈んでいるようです」などの一言の記載から、実はAさんでなく本人が沈んでいることを表現したものと察し、必要なサポートをタイムリーに差し伸べることに成功したこともありました。
上司を通じて私も週報を読み、コメントを手書きで返すことで「対話」を継続的に実施することにしていました。
また、イベントも大きな「仕掛け」として年2回大規模に実施、習慣化していました。
このイベントで社員、同期社員、家族、従業員と会社の一体感を醸成するのです。日頃の労苦に会社が感謝の意を込めて開催するこの収穫祭のイベントを、皆楽しみにしていました。「その一瞬で半年の苦労も吹っ飛び、また新たな気持ちで頑張ろうという意欲が湧いてきた」という感想を聞いていました。
メンターと言う制度も一時期作ったことがありました。新しく入社した新人は右も左もわかりません。そこでいわば本人の「里兄、里姉」的に「里子」である新人をサポートするものです。皆から信頼される社員をメンターに充てることで、その新人の以後の成長度に大きな違いがあることに気づきました。新人のサポートをすることで、メンター自身も成長することにつながりました。
決裁の承認の関門をなるべく少なくしました。
組織をフラット化して稟議の関門を少なくすし、やりたい人が自己の才能や思いをなるべく障害なく実行出来る「仕掛け」にしました。特に、新しいことにチャレンジするような案件には前例がないが故に、提案者にとっては稟議承認で消極的な関門が多くなりやすいものですが、そこを省力化して若手のやる気を応援するためでした。もちろんコンプライアンス上のレビューは当然必要なことですが、会社が大きくなると自分の存在感を主張するために、何かに意見や文句を言う人が多くなる傾向がありますので、これを回避してチャレンジする心を応援する「仕掛け」です。
クオリティー改革など、いろいろなアイデア・コンテストも実施しましたが、これはなるべくたくさんの社員をこの企画に巻き込み、隠れた才能を持った人を発掘するためでした。優れた考えを持った社員が沢山いました。良い企画には褒美のみならず、それを実行に移すことを会社として担保し、単なるショウに終わらせない工夫もしました。
その会社の置かれた事情で「仕掛け」の内容は異なると思いますが、この「仕掛け」を習慣化して、継続的に会社の仕組みの中に組み込むことが不可欠です。
オープンなコミュニケーションができる土壌
継続的に儲かる会社には、円滑なコミュニケーションがあります。
組織に「甘えの構造」がみられる場合には、限られた閉鎖的なメンバー間でのコミュニケーションのみで満足していることが多いものですが、これでは限界があります。組織内に全員がオープンにコミュニケーションできる「場」が欠落していることで、会社として本来持っているエネルギーが失われてしまいます。
特に幹部社員には「マネジメントの定石(参考:「これからの社長の仕事」)」として、オープンなコミュニケーションを実行させる習慣を身につけさせることです。簡単そうですが、これには結構努力が必要です。一度はできても継続的に実行することが危うくなることもあります。
また、幹部社員が忙しいこととオープンなコミュニケ-ションが無いこととは、全く無関係です。多忙は隠れ蓑で言い訳以外の何物でもありません。一方的な上意下達の話のみで、部下の立場に立ったコミュニケ-ションができていないかもしれません。
コミュニケーションをよくしようとする本心があれば、どんなに忙しくてもコミュニケ-ションの工夫によって閉鎖的な部分をけん制・打破でき、素晴らしい企業風土をつくることにつながります。
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