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事業計画

第237回 継続的な成長を図るために不可欠な「経営力」(2)

Posted on 2017-02-09

 2017年1月26日に掲載したコラムの続きです。

「経営力」の強化のために、組織体のエネルギーを結集するためのポイントが本日のテーマです。

 

社員をはじめ組織体のエネルギーの結集を図る

 1月26日の前号に示した「経営する力量」の6)の部分、「社内のベクトルの統一とエネルギーを結集して実績を出す」について述べます。

 あなたが立派で遠大なヴィジョンを持ち、これを実現するための「経営目標」を設定して走り出したとします。そこで思い知るのが戦略や戦術を実践していくには社員や会社の関係取引先の協力が不可欠なことです。立派な戦略があっても失敗する事例が沢山あります。私自身も、社員のエネルギーを特定のベクトルに向けて結集できる力量こそ、「経営力」の肝の部分であることを、約20年の経営体験から学びました。

 国のリーダーしかり、組織の長としての会社の経営者しかり。彼らが構成員の「やる気」をどう高めていくかに腐心しています。強権的に特定の方向性に向かわせることは理論的にはありです。しかし、そのやり方で「勝ち続ける」ことは至難の技です。社員の心の中に「従いたくない」負の力が常に作用しているので、彼らの自主性やモラールが低くなる。これをリーダーが「社員が悪い」と勝手に判断し突然強権的に社員を異動する、リストラを実施する。ますます負のスパイラルに入り、勝ち続けることは絶望的になってしまいます。

 このような事態にならないようにするため、経営にあたって組織体のエネルギーを結集するには何がポイントでしょうか?

・まず、会社の「ヴィジョン」が社員の価値観と一致する部分が多いこと

 リーダーたる人は、社員の心に火を点ける、「インスパイア」する役目があります。火のつけ方にはいろいろな方法があると思いますが、まずもって、「ヴィジョン」の中味です。経営哲学で火を点ける。

 経営者の野望や夢は彼の個人的な価値観を反映したものであるとしても、ある程度の社会性を持つものが望ましい。ヴィジョンの中味に社会的に意義がある内容が多い時、価値観を共有できます。インスパイアされやる気を刺激され、初めて組織が一丸になって動き出します。

価値観の違う社員がたまたまその組織に参集して一緒に仕事をすることになる。考えてみれば、これはほとんど偶然です。彼らの価値観は多様なはずです。ここでその価値観が違うとしてもそれを変えさせるのでなく、ヴィジョンの中味自体が彼らの賛同を得るに値する内容に仕立て上げられているかがポイントです。

 一丸になって取り組むことになるヴィジョンの内容に社員の価値観と重なる部分が多い時、初めて社員がその経営哲学に賛同し彼らの共感を得られ、エネルギーの結集につなげることができるからです。加えて、そのエネルギーを、「どこに向かって、いつまでに、何をやるか。それを実現したら社員にはどんなメリットがあるのか」の全体像もヴィジョンとともに示すことが肝要です。

 このようなヴィジョンが策定されれば、目標に向かって戦略や戦術が効果的に実行に移せる社員のモチベーション醸成のイロハが出来たことになります。もし、経営者が自分本位で発想し自己の利益のみを考える、社員の成長やキャリア・デベロップメントをないがしろにするなどの発想があるとしたら、一般的にヴィジョンと社員の価値観の不一致部分が多すぎて、成長し続けることは困難となります。

 更に、社員の心を動かすヴィジョンの伝え方も工夫が必要となります。 これは経営者に限ったことではありませんが、多数の雇用責任を負うリーダーには特に必要なことです。

 いろいろな方法があると思いますが、私は、Why(何故)の部分から情報発信をする工夫をしています。Why(何故)を説き、次にそれを現実にするためのHow(実現方法)を丁寧に話す方が、理念実現のための戦略絵図と具体的作戦展開にあたり、社員に浸透しやすいからです。このWhyの部分を説く過程で社員の心に響くレベルが即分かり、共感を得るためのタイムリーな修正につなげることができるからです。

・「人づくり」の姿勢が具体的に見えること

 人づくりを簡単に言えば、社員を大事にし、社員とともに経営者も会社も成長するという基本的な考えが背景にあります。逆に、社員の成長のことにあまり配慮せず、経営者のヴィジョンや夢の実現に協力しがたい雰囲気を持った経営姿勢が見え隠れする会社が、継続的に成長をしている姿を見るのは稀です。その経営姿勢が、人づくりの具体策にも現れてきます。経営側が社員の成長を組織的に図ろうとしている熱心さが、見える形になっていることが望ましい。

 その時々の思い付きで「社員は大事である」旨の発言があったとしても、それを裏付ける教育・研修体制やキャリア・デベロップメントのプログラムの明示がない限り、そのうち社員はその言葉に全く反応しなくなります。むしろ、その言葉を聞くたびに、「また・・・!!」と心の中では反発を感じる社員も出てきます。

 この制度の形が見え、しかも確実に実践されている証拠が必要です。いろんな会社を見ると、意外にこの部分への注力を失念しているところが多い。 この制度やプログラムは一見会社の負担増に見えますが、まったく違う。採用、訓練、退職、採用、訓練の繰り返しのコストをはるかに凌ぐほどの大きなメリットがあります。

 会社のノウハウや知的財産の大部分は社員個人の頭の中に保存されている場合が多いとしたら、会社の発展は、優秀な社員の在籍期間、社員の潜在的なレベルの高さとその力を発揮できる機会の有無に左右されます。採用した社員が早期に一人前になり、更に高いレベルの仕事をできるほうが会社にとっても生産性寄与が大です。社員本人にとっても自己実現に近づく機会を得ることになり、彼らのモラールアップを通じて社員のエネルギーの結集に必ずつなげることができます。

・何か新しいことに取り組める機会があること

 社員は変化を求めています。ほとんどの仕事がルーチン化されている中でも、何かの変化を探しています。

 日々のルーチンの中に埋もれて流されている自分と、「これではダメだ。チャンスを見つけ更に成長したい」秘めたる意気込みを持っている自分との間にジレンマの中で葛藤しています。

 事業を経営している経営者も、環境の変化に対して、既存の事業や商品だけでは先行きの成長・発展に限界を感じている。新しい取り組みをしない限り、経営目標の達成が危ぶまれる危機感を覚えている。

 ここに経営側にとっても社員にとってもメリットがある双方をつなぐ一つの方法は、新規事業などの新しい取り組みです。

 環境の変化に対して、会社を変革しなければならない。そのために経営者はいろいろな新機軸を考え、手を打つことになる。これは社員の立場から考えると、変革の実践過程で自分が挑戦できる機会が訪れる可能性を察知する。会社か否かがもちろんすべての社員がこの分野に参画できないかもしれない。それでもよい。いつかは自分も関係できるかもしれないという期待、そのために今のうちに自己研鑽しておこうという意気込みが湧くかが、彼らのやる気の分かれ目です。何か新しいことへの取り組みが社員のモチベーションのアップに大いに寄与し、結果、エネルギーの結集につながります。

 新しいことの取り組みを続けている過程で、ゼロベースで発想し、新しいことを思考し、それが評価される企業風土が育ちます。挑戦することが尊重される企業文化です。

 逆に、「それをやると、必ず失敗するので・・・」といった挑戦を排除した消極的な発想の論理思考がまかり通る場合には、それに即した企業風土となります。ここでは社員のやる気が起きません。できれば「新しいことにチャレンジしてみたい。それを上手く実行するためには、隣の部門にも是非協力をお願いしたい」との前向きな議論ができる風土をつくりたい。社員のエネルギー結集に相乗効果を発揮するからです。

・「マネジメントの仕組み」があること

 社員は、「何時かは係長、課長になりたい、その立場で大きな仕事をしたい」と、思っています。営業、製造、間接部門を問わず、「いつかは自分も課長として・・・」と期待を抱いています。

 「否、私は、・・・」とそのポジションに興味が無さそうな発言をする人でも、その中の50%の人は言葉とは真逆のことが多いです。もちろん、子育てやいろいろな事情で、マネジメントの立場につけない人もいるのは事実ですが、大半の人は昇進したい、マネジメントの職に就きたい願望をもっています。

 しかし、いきなりなれない。最初は係長や課長たる上司に仕えることになり、そこで上司のマネジメントのやり方を見ることになります。上司が既存のマネジメントの仕組みをどのように有効に活用しているか、時代遅れの仕組みをどう変えようと努力しているかなどを、部下の立場で観察しています。すなわち、会社のマネジメントの仕組みが、自分が頭の中で描いている像かどうか、部下たる自分の成長を支えてくれるものかを見ています。

 マネジメントの仕組みは、会社の経営目標を実現するため、組織の中に組み込まれています。このように本来会社側の論理でその仕組みは作られている。しかし、会社側の論理のみならず、社員の自己実現をサポートする仕組みの視点が組み込まれているか否かが、社員のモチベーションに大きく関係していることを忘れてはなりません。

 その仕組みが、社員が頭の中で描いているマネジメント像の一部でも満たしてくれているか、逆に、いくら努力をしてもその努力がマネジメントサイドにネグレクトされてしまうかは、社員のエネルギーの結集に決定的な影響を及ぼすことになります。

・組織に新陳代謝を図る力があること

 会社が成長していくには、脱皮が不可欠です。脱皮しても従前と同じ形で現れるのでなく、できれば過去を捨てて違う形で現れたい。過去を捨てて、新しい視点に軸足を持ってくる、新しい形をつくることで新陳代謝して欲しいと、社員は願望しています。

 経営側としては、「捨てる」ものと「捨ててはいけない」ものとの峻別がまず必要となります。脱皮すべく「捨てる」には決断が必要です。

 この前提で、会社の組織を見ると、結構さび付いているものが見えてきます。環境の変化に対応した新しいノウハウが蓄積されてきているか、単に古いノウハウが貯蔵されているのみか、迅速に動ける現場主導の組織の仕組みになっているか、環境変化に鈍感な運営体制のままになっていないかなどなど。このように会社全体の組織の在りようを洗濯してみると、新陳代謝を怠っているものが沢山見つかります。

 これはどこの会社でもあることです。問題は、これに迅速に修正対応する力が組織としてあるか否かです。

 トップダウンでこれを実行する力がある場合は問題が少ないのですが、そうでない場合どうするか。社員の有志にかかってきます。困難な事かもしれない。しかし、それでも旧態依然になっている状況を熱く議論して、一人でもたくさんの賛同者を得ることで、少しずつ新陳代謝を図る。そのうち、流れが変わります。新しいものに入れ替える努力を応援する流れが優位に立ち、じわりじわりと効果がでてくる。トップをはじめ幹部社員を動かすことに繋がります。

・オープンなコミュニケーション環境があること

 限られた閉鎖的なメンバー間のコミュニケーションのみで満足している組織を時々目にします。甘えの構造がある組織です。別の言い方をすれば、既存の階層意識や村社会的環境の中での限定されたコミュニケーションをよしとして、外との開かれたコミュニケーションに消極的な組織です。ここで育った人は、逆にオープンな環境下では自分の地位の危険性を感じているのかもしれません。

 問題は、そのコミュニティーから外れている社員のモチベーションです。これは推して知るべしで、その人から会社の方針を一生懸命推進していこうとする仕事の姿勢と気力が段々失せてくるのは自然の論理です。

 上意下達のみでなく下意上達の双方のルートが円滑に作動するオープンな環境がある時初めて、組織にイノベーションが生まれやすい。イノベーションがあると、社員のやる気が湧く。この意味で、社員のエネルギーの結集のためにオープンなコミュニケーション環境が不可欠です。

 円滑なコミュニケーション・ルートを図るに当たり、幹部社員の多忙さが時に議論される。しかし、彼らの多忙さとオ-プンなコミュニケーションができないことは無関係です。経営者をはじめ幹部社員が閉鎖的な環境を排除しオープンな環境を尊重する姿勢とそのための具体的な行動が組織に根付いているか否かが、エネルギー結集のために問われることです。

 以上、このコラムでは「経営力」を高めるために、組織体のエネルギーを結集するためのポイントを列記しましたが、改めて人の上に立つ人の訓練と寺子屋的指導の重要性を痛感します。

 

 

第235回 継続的な成長を図るために不可欠な「経営力」(1)

Posted on 2017-01-26

 会社の成長拡大のためには、勝ち続けなければならない。個別の勝負で一回勝つことは簡単だが、勝ち続けるのは大変です。しかし、勝ち続ける時に初めて、会社が成長拡大するのも現実です。

 

勝ち続ける決め手

 それでは、勝ち続ける決め手は何でしょうか?ズバリ列記すると、

   a) 社長の覚悟に裏付けられた経営力の大きさ
   b) 壮大で、綿密な事業計画
   c) 組織の運営力
   d) 企業風土・企業文化

と考えます。

 しかも、これらの4要素が複雑に絡み合うことを考慮の上で、それぞれの要素を上手く展開しなければならない。そう指摘すると、スーパーマンでないと経営は上手くいかないのではないかと誤解する人がいます。決してそうではありません。これらの4要素の内容をしっかり把握しながら、少しでも理想形に近づく経営努力の過程こそが、結果として、「勝ち続ける決め手」を経営者が会得することになるのです。これが、経営の醍醐味です。

 

経営力とは

 まず、上記a)の「経営力」の部分について述べます。低成長時代になり競争激化の環境下でこそ真の経営力が試されると、言われます。

 ここに、経営力とは何でしょう。

 経営力とは、「経営する力量」です。具体的には、

   1) 将来の経営目標(灯台)に向かって確実に近づく意思をもち、
   2) 現状の分析などから他社との差異化を図れるドライバーを探し、
   3) 自社の強みを活かしたドメインと経営の方向性を決め、
   4) 経営目標など将来の姿を実現可能な戦略群と武器群に優先順位付けをして、
   5) そこに経営資源を集中的に配分する。
   6) 社内のベクトルの統一とエネルギーを結集して実績を出す

 力であると、私は主張します。

 

経営ヴィジョンを実現していく覚悟

 上記のうち、2)~5)に関しては、別途「事業計画」の戦略にふれる箇所で言及ことになりますので、ここでは、特に1)と5)について触れます。

 まず1) の部分、すなわち、経営目標に向かってそれを実現する意思に関する部分です。

 会社を起業した時、または、家業の状態から公の企業として脱皮をしたいと思う時に、経営者が必ず遭遇することがあります。そもそも「自分は経営で何をやりたいのか?」、「社員の力を結集できるのだろうか?」と悩みます。

 起業の時や、次の飛躍のために経営を抜本的に改革したい時、最初のポイントとなるのは、経営者がどんなヴィジョンを掲げ、将来何を目指そうとしているのかです。

 これに関して、現在若手の経営者層の経営指導を通じて私がいつも感じることがあります。

 「ヴィジョンが不足している」か、その「ヴィジョンに壮大さが不足しているな」と思う経営者が多いことです。ヴィジョンの大きさが会社の将来のスケールを決定する大きな要因だと考えている私からすると、この点は非常に残念です。現にこのことは日本のみならず、アメリカでも起きていると聞きます。MBAの学生では起業すること自体が目的化しており、将来何を目指して、どう社会での存在価値を訴えて貢献していきたいかの価値観が起業に当たって不足していると。

 他の国でも起きている現象かもしれませんが、我が国から立派な経営者が育ち、イノベーションを起こしていただきたい。

 経営者自身がやりたいことは、最初は野望や夢と呼ばれるものかもしれない。また、最初はまとまった言葉になっていないかもしれない。それを文字で書き落としていくうちに、少し洗練された言葉や内容ととなり、世の中で一般的にヴィジョンと呼ばれるものとしてまとまるものですが、問題は、それを実現していく覚悟です。

 ヴィジョンを実現するために、「経営目標」、すなわち、「x年でxxをやりたい」などの具体的な目標設定が重要です。しかも、その目標は、「何故(Why)」、「どのような方法(How)で」などの肉付けされたものでなければ組織体の多数の賛同を得られません。

 私は「経営目標」を灯台の火に見立てて話す場合が多いですが、大海の荒波の中で会社という船をどうやって限られた時間内に灯台に到着させられるか、経営者として不退転の覚悟がなければなりません。世の中の優秀な経営者をみると、皆覚悟が違います。艱難辛苦に遭遇しても、いろいろな脅威や苦しい環境を克服する心の強さを備えています。

 すぐひるむ、すぐ目標を変更するような度胸のない経営者では、経営力の入り口のところで失格となります。

 「経営目標」の具体的な内容については、個々の経営者の価値観によるので千差万別ですが、社会の変革に寄与するような目標は貴重です。経営者本人がやりたい、実現したいそのヴィジョンを数字目標も加味した「経営目標」として設定した以上は、これをやり抜く覚悟を持つことが、「経営力」の入り口と考え、勝ち続けるために不可欠な要素です。

 

第233回 何故、我が社が伸びないか?

Posted on 2017-01-12

 新年からいきなり「ひどいテーマ」と、思われるかもしれません。

 しかし、私のようなプロの経営者から特定の会社の経営を観ると、「そうだな、これでは会社が伸びないな」と思うことがよくあります。経営のエキスに照らして、特定の経営の仕方について思い当たる節があるからです。

 会社が伸びない要素は沢山あります。

 それを要約すると、

 (1)経営者の力量の問題、

 (2)組織の運用力の問題、

 (3)ストーリー(物語)になった綿密な「事業計画」や経営計画がない問題

 の3つです。

 これら3つの要素が多層的に重なり合って生じる諸問題が、「何故会社が伸びないか?」の答えとなりますが、今回は、この三番目、綿密な「事業計画」や経営計画の部分に焦点を当てたテーマを取り上げることにします。

 

綿密に練られた事業計画

 もちろん、経営者の勘と才覚である程度は伸びる会社もあります。しかし、それでもある段階から自社の成長・発展に壁を感じてくるはずです。「何故もっと自社が伸びないんだろう?」と誰にも言えない悩みを、経営者は抱くはずです。

 私自身も、ベルシステム24の経営を託された最初の段階でこれと同様な感じを抱いたことがあるので、その気持ちがよく分かります。これを感じない幸せな経営者も世の中にいるかもしれませんが、その経営の行く末は予想がつきますので、ここでは取り上げません。

 全ての事業の先行きは不確定要素だらけです。しかし、それでも経営者は経営のかじ取りをしなければならない。環境の変化に合わせて臨機応変に対応できる天才的経営者もいるのですが、それは少ない。だとすると、一定5年後の読みや洞察を組み込んだ将来に向けての事業計画(この策定の仕方は別稿の予定)が必要になります。

 これが必要ないという議論も、もちろんあります。しかし、日夜競争で戦う社員すべてがベテランで優秀な粒ぞろいである場合は、これが是でしょうが、一般的には、そうならない。それでも競争で勝ち続けるには、やはり綿密に練られた「事業計画」が大きな助けになることを、私も体験して知っています。

 

経営のスピードが違う

 頭ではそのことを分かっていても、それを重視しない経営者が結構多いことを最近感じています。一定の中期的スパンで捉えると、「事業計画」が策定されない場合、経営のスピードで損をしていると私は捉えます。経営にとって重要な潮流の変化への、会社全体の対応に遅れが生じているはずです。

 経営の軸が定まっていないことからそうなります。これを「事業計画」の中で明示していくべきなのですが、それがない。事業計画の中で、自社は「x年後に、こういう姿でありたい。そのためにこんな戦略を実践したい。第1年目にはこの戦略を重点的に展開したい。・・・」と、数年後の自社の理想的姿と各年度の事業計画をデザインし、その実現を目指したストーリー(物語)を描いていないからです。

 これを描くことは、会社の「仕組み」を整備することになるはずで、これも経営のスピードを上げる大きな要因となります。万一自社の計画の実現が危ぶまれると察知した時には、その原因、環境の変化と経営計画での作戦との対比で、軸のブレ度合いをチェックでき、速やかに軌道修正がとれる。このことが、結果として、「経営のスピード」を増すことにつながります。すなわち、「事業計画」こそ、会社が伸びる大きな要素をはらんでいるのです。

 

事業計画の策定をさせない誘因

 この事業計策定を積極的に後押しさせない誘因は何でしょうか?

 ・事業計画自体に対する経営者の無知による

 この場合は、経営者本人が無知であるだけで、その解決は容易です。経営者に経営指導することで解決できます。

 ・経営者の自信過剰に起因する

 これは少し厄介なところがありますが、これも指導が可能です。

 ただし、経営者自身に相当の覚悟が必要となります。本人の自信の鼻を時にへし折られるような経営指導内容が発生するかもしれない。しかし、それでへこたれるような経営者は、元々プロの経営者になる資格の入り口で不合格になるか、普通の経営者で終わる運命にあると考えます。

 ・「まだ大丈夫・・・」と現状把握の弱さに起因し、計画行動を先延ばしする

 これは沢山の経営者に見られる現象です。経営計画を早く策定すれば、それだけ、エネルギーロスが少なくて済むはずなのに、経営者が環境変化への洞察や作戦の着地が遅れ、結果として、事態の急変を知り、慌てて突然降ってわいたように社員に無計画に仕事を落とすことにもなりかねないのです。経営の混乱をきたします。

 創業時の仲間意識を引っ張る経営者に時々見られる現象で、「まだ大丈夫」と、仲間意識で物事を見る従前の癖がこびりついてしまっている場合です。時代の変化のスピードが経営者を始め創業時の仲間の成長のスピードよりはるかに超えていることに気づかない、もしくは、気づきたくないケースです。

 この場合も、現状認識を再認識させるための少し荒療治が必要ですが、経営指導で何とかリカバー可能です。

 ・古い体質を引っ張る現場の抵抗に抗しきれない

 現場に環境の変化を察知する能力が欠けているか、変化に対して現場が毛嫌いする社風が全社の隅々にこびりついている場合です。加えて、現場の長に無言の力がある場合、これはさらに大変です。現場の長の成長が会社の成長の器に入りきれない場合です。

 このように現場の指導者の意識変化ができない場合には、たとえ創業時からのメンバーでも、「泣いて馬謖を斬る」くらいの経営者の決断が不可欠となります。

 学ぶこと、挑戦すること、環境の変化を先取りするマネジメントをすること、などの体質を植え付け、常に自らを変革する社風を創る努力を普段から浸透させておかなければなりません。

 これも少し荒療治になりますが、解決可能です。逆の事象でないのがむしろ幸いです。現場が変化したいのに、経営者がそれを洞察しない、適切な行動を起こさない、これらを事業計画として反映させない場合は、かなり問題が複雑で解決に時間を要します。主要人事も含めた対応が不可欠となります。

 ・経営に本気度が欠如している

 実は、経営者自身が会社の成長・発展へどの程度の本気度があるかが最後の大きな問題です。しかも、経営者が会社の成長・発展と社員の自己実現をどれだけリンクさせた発想を持った上での本気度か否かが問題です。

 いろいろな障害があっても、描いた経営目標を達成しようとする「気魄」が経営者にあるか否かが、このことと関係すると考えます。

 「気魄」の「気」は経営活動や生命を維持するエネルギーです。この文字は、旧字体では「米」の分解文字をもっており、お米を炊いた時にわき上がる湯気、上流へ気が流れる様子とも考えられ、「魄」の文字も脈打っている状態を表しています。すなわち、上流に向かう脈打つエネルギーです。

 健康な経営を全うするには、経営者自身が事業計画の内容を一定期間かけてやり遂げようとするこの「気魄」が無くてはダメです。しかもこの「気魄」が日常的に行動で表現さればなりません。社員を沢山雇用し、その社員を巻き込んで経営目標を実現したいのであれば、目指す目標、戦略内容、資源の補充も含めて事業の計画の中で具体的に明示しなければ、社員のベクトルは合いません。エネルギーは結集できません。

 是非、「事業計画」を綿密に策定するところから始め、必ず自社が成長する筋道を見つけてください。

 

第227回 経営者にとって事業計画、事業戦略の本質的捉え方

Posted on 2016-11-24

 経営をするにあたり他の会社と異質なことをやって会社を成長させたい。経営者なら皆、発想することです。

 そのためには「何をどうしたら良いのだろう」。このような相談を受けることが沢山あります。

 今回は、これについて本質的なことのみを簡潔に取り上げ、その相談・質問への解答とします。

 

基礎設計と動機付け

 経営者の仕事をごく単純化すると、(1)戦略や事業計画を立てるアーキテクト(基礎設計)部分と、(2)特定の方向に社員を向かわせるモーチベート(動機付け)の部分があります。双方ともないがしろにできない重要な仕事です。

 この中で、多くの会社の経営者は、どちらかと言えば戦略や計画策定の部分が不得手とみます。それでも以下のことに注力すれば、もっと経営を上手く差配できるのではないでしょうか。

 たまたま今、「事業計画」のつくり方の本、『成長し続ける会社の事業計画のつくり方』(12月に直接販売で刊行予定)の中でもふれていますので、今回はこのテーマを取り上げることにします。なお、ここに言う「事業計画」とは経営戦略の策定から毎期の年度計画の策定までをも包含した概念です。

 

アーキテクト(基礎設計)のデザイニング

 経営者の仕事の第一番目です。

 会社の将来像をどうデザインするか、戦略策定や計画策定の中でもキー要素、これが仕事です。

 アーキテクトの基礎設計部分で、このデザインの大きさ、堅牢さ、優越性が会社の将来の成長拡大の路線と範囲を規定するといえるほど重要な要素です。

 したがって経営者は、自分が描くヴィジョンの実現にむけて、この部分を最重要視して取り組まなければなりません。

 日本の経営者の一部が前任者やこれまでのやり方を踏襲して、新規性のあるイノベーティブなアーキテクトのザインを株主や社員に呈示できていない、そのような訓練を受けていないために、海外の企業に比して経営的に後れを取っている部分があるのではないかと、私は憂慮しています。

 この背景としては、基本設計のデザインの質の差、更に結果をもたらす視点やその能力に差があると思います。当然このアーキテクトのデザイン仕様が、戦略や計画に反映されることになるので、経営力の差が益々大きくなります。

 

優れたアーキテクト(基礎設計)にするには

 そのために経営者にとって重要なことが三つあります。

・第一に良いデザインをアーキテクトするには、一見バラバラに起きている諸事象を統合して把握する能力が経営層にあるか否かが、問われます。複雑な現象をどう統合して捉えるか。それらの諸事象が自社の経営にとってどう影響を及ぼしそうか、ヴィジョンに描く姿と統合した事象が価値的にどうつながるかを感じる能力です。「一を見て十を知る」センスを加味した能力が不可欠です。

・第二に、先読みができる予測能力が必要となります。いろいろな技法で環境や現状分析をする。それらの分析から将来起きそうな事態をどう予測して自らの事業をどう方向づけるかは、優れて、経営者の先読み力にかかっています。

 先を予測して、競争を優位に引っ張るドライバーを選定して、これを戦略や計画の中に活かす。これが優れたアーキテクトで勝負に挑む近道です。

・第三に、これを株主や社員に説く能力です。これは冒頭、経営者の仕事の(2)と関係しますが、戦略や計画の浸透の幅と深さ、スピードに関係します。戦略や計画実現の裏方を握ることになります。

 

統合力と予測力を磨く

 上記の能力は経営者万人には備わっていないかもしれません。それでも、少しでもこれらの力に近づくことができます。第一と第二の能力に近づくにはどうすれば良いか。

 このためにはまず、物事の因果関係を正確に把握することが必要です。

 詳細は省きますが、成長率が鈍化したことの事実の背後には、そうなる因果関係が必ずあります。原因があり、結果があるのです。その関係性の中から太い線を引けるものを見つけて、素早く手を打つための分析をする。

 原因と結果の関係を逆に捉えて満足する経営者が時々いますが、その後のその会社の盛衰は推して知るべしです。

 次に、「何故そうなったか」を徹底して何故、何故と考え続けることです。原因は統合する程度が低かったからか、予測のレベルが低かったからか、予測の範囲が狭すぎたかなどなど、何故を考える。これを習慣づけする。このことがなされていない経営を意外に多く見ます。一足飛びに結論に導き失敗する例です。

 「何故、何故」は、結果の良い時には実行の効果が大きいのですが、ほとんどの会社では、悪い結果の時にしかこれを実践しません。また、結論を急ぐために「臭いものには蓋をしたい」一心で、全うな「何故」ができずに、残念ながらまた同じ事態の発生を見てしまいます。

 因果関係と何故を含めて考える。以上の二つに留意して統合力と予測力に近づいてください。このところができれば経営の50%は上手くいくことになります。

 以上参考になりましたでしょうか。

 残りの比率は、経営者の第二番目の仕事、(2)モーチベートする策をどうするかにかかっていますが、これに関しては別の機会にふれることにします。