コンセプト
第269回 新規事業の発想で革新(2)
以下前回の続きです。
外部人材も含めた異能集団のプロジェクト編成
新規軸を導入することになるので当然いろいろな部門のメンバーが参加することになりますが、外部の人材も入れた編成として、しかもその分野のプロのメンバー構成を薦めます。職位の上下はあまり関係しません。
戦略のプロ、コンセプト固めと基本設計のプロ、サービス展開のプロなどなどです。このため私はいろいろな分野のプロを入れたプロジェクトを打ち立てることを薦めています。
既存の社員のみでは無理な場合が多いす。皆、現場を持っている立場上、どうしても片手間的な対応をしがちで時間がかかる、コンセプトが従前のモデルに引っ張られてぶれてくる、サービス設計段階で全く新しい取り組みに苦労しすぎてしまい、そのメンバーが腰折れになってしまうリスクも多いからです。
併せて頭の良い人間だけでは無理です。感性や感度に優れた異能人材が不可欠です。
前段で述べたサービス設計の部分では頭の良さで解決できる部分が多いとしても、戦略やコンセプト固めの部分では、先をどう読むかの感性が非常に利いてきます。
当然、環境の変化の読み方、自社の強み、弱み、機会や脅威の分析を基にして、これからの先を読むことになりますが、ここに洞察力が必要となります。これは、ある種の感性の部分です。同じ景色を見てもその中から見出す絵図の切り取り方が全く違う、この感性です。
また、異業種の経験者も参加させたい。異業種を経験した彼らがデジタルの武器の組み合わせで既存業種を眺めると、既存パラダイムをひっくり返せるヒントが湧いてくるかもしれません。新しい切り口を思い起こしてくれるかもしれません。
実験段階での迅速なレビューサイクル
価値を創出できるサービス設計まで落とし込み、会社としてgoのサインが出ると、ここでいろいろな判断が必要です。まず、開発体制をどうするかです。個人的には開発については、技術的に可能なら自社開発を薦めます。以後の修正展開などの際に、自社ペースを守れること、また、自社の開発過程でいろいろなノウハウが溜まるからです。
開発ステージが終了すると、一定規模の実験に着手することになります。とりあえず新しい事業展開に必要とされる重要な要素と機能のみを織り込んだプロトタイプで実験することになりますが、そこで出てきた課題を、如何にスピードをもって評価、修正して、当初のコンセプトを実現できるサイクルに乗せるかが新機軸の商用化の評価に影響します。
この時までの投資コストも集計しておかなければなりません。この実験で出費が予想以上にかかる大半のケースは、最初のステップ(戦略、コンセプト固め、基本デザイン、サービス設計)の詰めが甘いから発生する場合が多いです。この意味で、最初の段階で如何に経営層がしっかり厳しく案件内容を吟味するかが重要なことになります。
大胆な発想を基にした新規事業が難しい背景
上記のような発想をもって新規事業へ着手することがほとんどの企業で可能なはずです。にもかかわらず、それを困難にしている背景があります。
既存ビジネスの枠組みで考えてしまう場合、既存の事業である程度の収益をあげているので新機軸を打ち立てる議論がしにくい場合、過去の成功物語を引っ張っているボス的存在がいる場合、全て自社対応の発想で他社との協力関係を築くのが下手な場合、当面の資金の創出に窮している場合などです。
しかしこれらはどれも、本来自社で経営コントロール可能なことばかりです。
是非、新たな柱を作るべく、大胆な発想で新機軸を戦略的に考える努力をして下さい。
第268回 新規事業の発想で革新(1)
どの会社にも、成長してきた理由や背景がある。その成長・発展路線を更に推し進めるのも戦略として重要である。しかし同時に次の成長の柱を作ることも更に重要です。この一環として新機軸の重要性を経営者がいろいろな機会に唱えるのはもっともなことです。
時代の変化にマッチした新機軸を発想しなければなりません。
特に、デジタル化の時代には革新を起こすチャンスが沢山あります。そのチャンスをものにする新規事業の発想について私が普段肝要だと思っていることを述べます。
新規事業の発想プロセス
新機軸を成功裏に登場させるプロセスは、誰が考えても一般的にほぼ同じアプローチになるはずです。すなわち、
a) まず、環境変化や自社の強みなどの分析を経て戦略をたてる、
b) 次に戦略を実現できる事業コンセプトを固める、
c) さらに、事業コンセプトを基本デザインに整理する、
d) この基本設計をサービス展開した時の運用設計図を描く、
e) 同時に、この新機軸全体のリスクと投資効果を比較考量して、
f) 新規事業の着手可否の判断をする
ことになります。
しかし、アプローチは同じでも、発想の深さ、内容の固め方などが、実は成功する人と失敗する人の分かれ道になります。残念なことに失敗した後で、このことを知ることになるのが一般人の常です。
何を主軸に新規事業を発想するか
革新を起こす新規事業、これは言葉では簡単ですが、しっかりした発想をもって新規事業に着手するには、新機軸案件の本質的要素をしっかり満足しなければなりません。
a) まず、競合が沢山いる中で、それを凌駕し世の中に一石を投ずるに値する価値創出を支える新たな仕組みがなければなりません。
これが結構大変なことです。これをクリアしないために、アイデアどまりの新規案件が多くなってしまいがちです。
価値創出の部分は、顧客を引き付けるため自社がどのマーケットでどんな価値を創出して収益をあげるモデルにするかが問われます。大きなマーケットを狙ってそれにふさわしい大きな発想を必要とする場合、自社の既存のビジネスモデルが足かせになる傾向が強い。従って、既存ビジネスモデルに大変容をきたすくらいでないと、大きな価値創出案件にはなりにくいことに留意してください。
b) 加えて、沢山の顧客に対してこれまでのヴァリューチェーンとは違うチェーンを提供するに値するサービス体制も築かねばなりません。
既存のチェーンでは対応できなくなり、いろいろ関連する会社のノウハウとの組み合わせによる新たなチェーンづくりの協力展開になるはずです。結果として、自社のサービスの効率化によるコスト引き下げで顧客にとっての魅力を増すことになります。
c) これらの要素のどこに主軸を置くか、すなわち、新機軸での重さの置き方が重要です。
できれば両方とも大きく満足する新機軸にしたい。この思いは分かっても、投資金額、時間の関係、人材資源、協力会社群の関係などでそれが果たせない場合に、どう位置づけした新機軸とするかを経営層で定めておかなければ、結局どっちつかずの案件となり、新機軸が名ばかりに成り下がってしまうリスクにもご留意ください。
嫌われる仕事をする社員の「やる気」をどう高めていますか?
「仕事に貴賤上下はない」と、いくら言っても、一般的に人が嫌う仕事があるものです。今は「3K」とか言われている仕事がありますが、私が経営を引き受けた当時の1990年頃は、そのような言葉を発する余裕があったかどうか記憶にありません。
それでも現実に下請け的な立場にある中小の企業では、一般的には人が嫌がる仕事に従事されている社員が多いのではないでしょうか。ほとんどの会社ではこれらの業務が収益源かもしれません。したがって、この人たちの「やる気」が問題です。
人が嫌がる仕事のモチベーション
私が関係していた会社の最初の頃の主要な収益ソースは、秘書代行業務や他の人が眠っている夜間帯の仕事でした。当時はこれらの業務からの収益比率が90%ぐらいだったと記憶しています。苦情が多い業務、夜間帯の業務という理由から誰もが喜んで引き受ける仕事ではありませんでした。
私は以後、意識的に会社のビジネスモデルの転換を図っていきましたが、これらの業務が会社の原点であるとの認識を常に持ち、何があっても、これらの業務は大事にしていきました。
当時この業務に携わっていた方々の顔が今も目に浮かびます。この社員たちが会社の屋台骨を支えてくれました。彼らと熱心に議論したことが、私のノートに記してあります。心から感謝しています。
秘書代行業務は、秘書を雇用しないでその機能の一部を電話で代行する仕事ですが、顧客との「言った、言わない」のトラブルが発生する業務でした。
当時は通話の録音機能も限定されていたため、手書きのメモを頼りに対応し「電話したのに何故つながらなかった、適切に対応してもらえなかったので大きな不動産取引が没になった。どうしてくれる。損害賠償だ。」などと、電話口でしつっこく責め立てられるようなこともある仕事で、これに嫌気がさして担当の社員がやめてしまう事態も発生していました。クレームの電話をした人の関係者が会社に押しかけてきたので、私自身も苦渋の対応したことを記憶しています。
また、夜間の仕事の例として損害保険会社の業務の代行として自動車事故の第一報受付業務などがありました。その時の事故状況を明確に把握・記載しておく必要があります。このような事故の発生は時間を問いません。事故直後の特別な心理状態にある中で、事故の正確な把握のためとはいえ夜間業務の対応者が投げかけた無用な言葉で、事故を起こした人の満足度は一気にさがりクレームにつながりかねません。
細心の注意を払ってもトラブルに発展する可能性を常に秘めています。電話口の向こうの人に「感性豊かな対応」をするのも結構難しい状況もあります。多少の時給のプラスをしても皆が嫌う仕事で、彼らのモチベーションの維持は大変でした。
仕事のやりがいを説く経営者の努力と社員のモラール
このような業務を担っている人々に対してどうモラールを高めるか。私は経営者として考え抜きました。そして「コミュニケーション・サービス」という新しいコンセプトを打ち出したのです。
これを基に仕事の社会的意義を説くことです。とにかく執念を持って説くことです。「皆さんの仕事はコミュニケーション・サービスを提供してエンドユーザーの顧客満足度を高めることです」と、「単なる『言った、言わない』の伝言ゲームでなく、ビジネス上のコミュニケーション機能を担っている非常に重要な仕事です」。
さらに、「一年365日、一日24時間ビジネスは眠りません。夜でも人が生活している以上、自動車事故は発生します。誰かがこの重要な仕事を引き受けなければなりません。夜間の予期せぬ事故に遭遇した人に『感性豊かな対応』をすることで、事故を起こした人に安心感を与えることは、社会的にかけがえのない重要な仕事です。できれば『良い対応をしてもらい安心しました』と顧客から感謝の言葉をいただけるように努力をしてください。」と、新しいコンセプトに絡めて彼らの仕事の社会的意義を説きました。
私が、時には幹部社員の塩森君や石田君が先生となって彼女ら、彼らに説きました。
心理学も含めてうんと勉強もしました。ちょうどこの頃米国で、顧客満足のマーケテイング上の意義についての議論が盛んになっていたので、書籍を買い込み知識を体系化し、現場視点で顧客満足の重要性を本当に真剣に説きました。また、同時に日本のマーケテイング業界にも顧客満足についてのメッセージを発信しつづけました。
コンセプトが浸透するにつれ、社員も自分の仕事の社会的意義を理解・納得し、自分の仕事が一段上の段に上ったと認識を持つようになりました。彼らの仕事に対する態度が変化したその瞬間を、私も一緒に体験したのです。
新しいコンセプトをもとに、人が嫌がる仕事をしている社員に社会的に意義ある仕事をしているプライドを植え付けることに成功したのです。
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