しあわせ観
第206回 今、リーダーに求められている経営の視座(1)
私は以前から「農耕型企業風土づくりの経営」を主張しています。人間関係も含めた日本の伝統的企業風土の良さを最大限生かすには、この経営が適しているからです。
この詳細は、『これからの課長の仕事』、『これからの社長の仕事』など私の書いた本に譲りますが、今回は少し別の視点で、この経営の良さに4~5週間かけて触れてみます。
アメリカのモチベーション重視経営
実は、アメリカでも私の主張とほぼ同様な議論があるのを見つけました。
幸福な職場では社員が最高の仕事を行っている、その環境を整えるには下記のことがポイントであると、モチベーションを専門とする社会心理学者のロン・フリーマン氏が『最高の仕事が出来る幸せな職場』の中で述べています。
内容的には、私が「農耕型企業風土づくりの経営」で主張している18の「定石」とほぼ同じです。アメリカでも社員のことを最優先して考える経営こそ、会社成長の秘訣であると正当に主張できる証左をこの本でみつけ、私の主張に意を強くしています。
その一部を紹介します。
・失敗を奨励すること。
スティーブ・ジョブスはAppleなどで多くの失敗をして、iPhoneを設計しました。グーグルの元CEOのエリック・シュミットは2010年にグーグルウェブの開発を中止した時に「私たちは失敗をたたえる。難しいことに挑戦して成功しなくても、そこから学び、新しいことに活かすことが出来ればよい」と言ったと、この本で紹介しています。
皆様がご存じの例かもしれませんが、会社内部で失敗自体を奨励しないまでも、批判しない環境の重要性について、私も同じ意見を持ちます。
・業務時間内に遊びを組み入れること。
人間は幸福の状態を維持するのが下手で、ある状態が続くとそれがすぐ当たり前になる。この順応プロセスを遅らせるために、遊びや散歩などの変化の頻度を多くすることをロン・フリーマン氏は奨励しています。リラックスした時にアイデアが生まれるからです。
しかも、変化が順応を遅らせるので、熟考するにもまして、あえて本題とは無関係な事に気を紛らわすことも奨励しています。
私が、経営の中に遊びを持ち込み、イベント、配置転換などで変化を経営上重視していることとほぼ同じ内容です。
・社員同士が親密な関係を築くことを助けること。
仕事場のコミュニケーションをよくするために、誕生日会、昇進を祝う会などのイベントを薦めています。
・自主性を与え、内発的動機づけを促すこと。
意思決定の権限を与え、学会やセミナーへの出席を促進する、時には、褒章として旅行切符を手渡す方法などで社員の内面的な動機づけを重んじています。
まさに現場に最大限の権限を付与し、現場社員が自主的に行動する経営が大事だと、私が主張していることと同じ内容です。社員の自主性はモチベーションに極めて重要なことです。
・効果的なフィードバックを行うこと。
必要な指摘や指導を、同僚の前で発生の時に行う。
著者の主張は上記の通りですが、私が述べる「農耕型企業風土づくりの経営」でビジネスを成長させることと同じ主張です。
私のポイントを、経営の「フォーミュラ(公式)」や「定石」として以下の通り整理しました。
「農耕型企業風土づくりの経営」の「フォーミュラ」
この「フォーミュラ」は、
「いろいろな経営施策を通じて社員を幸せにすると、本人(社員)の心理と脳の特定の働きかけにより社員のモチベーション、創造性、革新性が高まり、経営のイノベーションに積極的な影響を及ぼし、本人と会社双方の成長を導く」というものです。
このフォーミュラを分解すると、
1.「対話をする」、「場を作る」、「現場に任せる」などのいろいろな「定石」と私が呼ぶステップを踏んで、経営側が社員を幸せにする努力をすること、
2.社員を幸せにする経営側などの諸々のステップが社員の心理と脳の特定の働きかけにより社員のモチベーション、創造性、革新性を高め、経営にイノベーションをもたらすほどの影響をもたらすこと、
3.社員個々人の心を「わくわく元気」にすることが、チームプレーや人間関係を重視する環境と相俟って、社員個人の成長のみならず組織集団のパワーアップをもたらし会社の成長につなげていく、
ものです。
この「フォーミュラ」は、いろいろな施策や仕掛けを通じて社員の幸せ感を維持する経営側の努力こそが、会社の成長につながるという流れを、強調しているものです。
極論すれば、会社の成長こそが社員に幸せをもたらすとの世の中の一般的な主張を、余り積極的に考えないことを強調したものです。
会社の構成員たる社員の自由闊達な発想と行動力こそが会社成長の原動力であるとの考えに基づいた経営です。
経営の骨格部と内臓部と私が位置付ける18の「定石」を上手く運用して、「農耕型企業風土づくりの経営」を通じて企業の中・長期的な成長・発展を図ります(参、『これからの課長の仕事』、『これからの社長の仕事』、ネットスクール出版)。
過去20年の経営体験のみならず、最近若い経営者の経営指導を行う中でも、上記の経営がいかに大事かを、私は私は身をもって体験しています。会社がベンチャー的な経営体であろうが、伝統的な経営体であろうが、この重要性にあまり大きな差異がないと感じています。
権限を現場に与え、現場のメンバーが自律的に動いてスピードをもって対応する、これを私は20年前から実行してきました。働く目的や意義をビジョンの中に織り込み、これを噛み砕いて伝え、メンバーが腹落ちした段階で、この内容をチームで具体化すべく彼らが自律的に作動する環境を作る。上司の指示待ちでなく、マニュアルから離れ自分の意思と判断で行動する経営環境を作って経営しました。
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