本物の戦略
戦略策定時の落とし穴(2)
前回の続きです。戦略策定時に陥りやすい落とし穴についてです。
一般的な教科書にしてしまうこと
戦略には、一般的なマーケットの流れを記述しているのみで、自社にとっての重大な課題に取り組んでいないものが多く見られるものです。
つまり総論のみ。しかも、どこの評論家も指摘している客観的な事実情報を、さも大事の事実として指摘するのみ。それと自社の事業が具体的にどうリンクして影響を受けるのかの接点部分にほとんど触れられていないことが多いものを見受けられます。このような戦略は、一回は学習する人の頭に中を通過しますが、「それでどうなの?」いう印象を与えてしまうもので、かえって戦略の焦点をボケさせてしまう。二度と頭の中に入らないものとなります。
絵姿の美しさに拘ること
また、戦略の見栄えを気にしすぎて、数年後の会社の絵姿をあまりに理想形にしすぎてしまう落とし穴にはまることがあります。時折、その美しが、どこかの本からの切り抜きではないかと思われるようなものもあります。
戦略目標として目指すものがあまりに非現実的になっているのです。本の知識からの思い込みが前のめりに出て、その会社の諸事情を見ずに、綺麗な絵姿のみを描いているものです。また、イメージを描けば何とかなるだろうという安易すぎる考え方からきている場合のものもあります。
部門の集計目標に成り下がること
さらに、およそ戦略という代物とは似て非なるものもあります。その背景は、多分、戦略策定者の主体的な意思が明確でなく、全体構造が描けなかった帰結かもしれません。
各部門からの計画を、表現を少し変えて網羅している状態で、部門計画の寄せ集めの状態。どの策を講じると会社としての成長・発展に早く近づけるのかの道標が全くなし。全体構造に基づく戦略道標のルート選択も反映されていないものです。
この場合、部門の業績目標と戦略目標は違うのにもかかわらず、業績目標が戦略目標になりすますことが多くなり、会社として、戦略の形を整えたのみという不幸なことになります。
主体性が欠如していること
「作れと言われたからつくる」的に戦略が形骸化したものが見受けられます。
形式的には戦略の各要素が記載されていますが、少し見ただけで、およそ実行までやり抜く意思が全く感じられないものです。おそらく担当者が、よくある穴埋め方式のチャートか何かを利用し、その筋書きにしたがって、戦略テンプレートを埋め込んだようなものです。売上x%アップ、受注y%アップなどと他人事のように描かれ、なぜそうなるかの全体の構造が不明なまま、埋め込んだとしか考えられないものが見受けられます。
最後に、戦略の成否は指標で判断するのがベストです。プランを修正しやすく特定の指標を管理し、それに基づいて判断をすることです。指標には、上がった、下がった、変化なしの三つしかないので、指標の管理さえ徹底されていれば、戦略が自社の修正行動につなげやすいものになります。
戦略策定時の落とし穴(1)
皆様も、企画部門に配属されて戦略の策定に関係することがあると思います。その時に是非、配慮しておいていただきたいことがあります。この落とし穴にはまらないことです。
基本構造が脆弱なこと
これは決定的に大きな落とし穴です。戦略が十分な根拠に立脚した基本構造(核)をもっていない場合です。
私の経験でも、この落とし穴に気づくことの重要性を、自分自身が樹てた戦略群を、今になって比較してみると、明確に認識できます。姿や形は少し幼稚でも、最初に立案した戦略において、基本構造が一番明確でした。会社が実質倒産の憂き目に瀕していたので、どう生き延びようかと必死で現状を分析して違いのある方向性を示し、実践しようと考えた時です。社員の生活も含めて安心させるための将来像を、本気で立案した時でした。
その後数回、中期の戦略を立案しました。これらが会社の成長・発展に貢献する道標になったことは間違いない事実です。しかし、後の物は「何となく、恰好をつけている」部分が多くなってきたのを、今振り返ると感じます。外部の目などいろいろなことを気にしだしたことが一因かもしれません。
私の戦略構成では、基本構造(核)は現状の分析、基本方針と行動の3つから成り立っています。まず、現状を分析して課題を特定することから始めます。私の場合は、現状を分析した結果、顧客のためにサービスの質を高めることこそ、最大の課題として明確にしました。
次に、その課題をどういう方針でアプローチするかを吟味します。いろいろな未来を洞察し、自社のシナリオを複数描き、勝負する場所を合理的に選択、現時点で使える戦術をリストアップして、アプローチ方針を検討していくものです。P.ドラッカーは、「未来は知りえない。未来は、現在存在するものとも、我々が予想するものとも異なる」と、述べている通り、予測でなく仮説を立てて、アプローチを選択することとなります。
更に、行動の一貫性が必要です。行動こそポイントで、上手くいかない場合、修正の起点となるものです。
自社の業界内に拘ること
ほとんどの戦略が、外で起きていることの自社内への影響を考えてはいますが、意外に、この部分に重点が置かれていない。対岸の火事として安易に考えている場合が多いのですが、逆に、トレンドと最新動向を見据えて、ここに重点を置く戦略こそ、中期的に自社を救うものになります。業界の外で、すでに起きていることが自社に起きないかを自問自答することになります。「もしそれが起きたらどう対応する」と、企画担当が未来予想ゲームをすることになります。
専門用語を多用すること
まず基本的なことですが、素人ほど専門用語や業界用語を多用しています。内実を伴わないものが多いことを立派に装う目的で、普通の社員が普段触れることが少ない用語で「煙に巻く」ものです。
私も何回もこのことを、レビューする立場で経験しました。その時点では、「なんとなく立派なことを報告する部下だな。」と思うこともあったのですが、じっくり考えてみると、あまり本質的なことを言っているわけではなく、専門用語で内容のないところをカモフラージュしているのであるのに気づきました。本人もその意味を本当に分かっているか疑問なこともありました。
それ以後は経営者の立場で徹底して、「難しいことを丁寧な言葉でわかりやすく説明するのが、本当のプロです」と、報告者に戒めていました。子供に分かりやすく説明するには、相当内容を詳しく知っていないとできないのと、ほぼ同じことです。
実のある戦略を樹てていますか?(2)
経営戦略の策定に当たっての留意点で、前回のつづきです。
4.マーケットの総論を煌びやかに表現しない
一般的なマーケットの流れを記述しているのみで、自社にとっての重大な課題には取り組んでいない戦略も危険です。つまり総論の披瀝のみです。
しかもどこの評論家も指摘している客観的な事実情報を、さも大事の事実として指摘するもので、それと自社の事業が具体的にどうリンクして自社がどう影響を受けるのかの一番重要な接点部分にほとんど触れられていないことが多いのです。
したがって、このような戦略は本質的なことが本当にわかっている人には、「それでどうなの?」「それで当社にとってどんな特色あるビジネスモデルになるの?」との指摘を受けるのは日の目を見るより明らかです。
5.寄木集め的なものにしない
さらに、およそ戦略という代物とは似て非なるものもあります。おそらく、戦略策定者の主体的な意思が明確でないか、全体構造が描けなかった帰結としてこうなるのかもしれません。
各部門からの計画を、表現を少し変えて網羅している状態で、部門計画の寄せ集めの「平面的寄木細工」です。部門の業績目標が名前を変えて戦略目標としてなりすますことが多くなり、会社として全く不幸なことになります。
どの策をどういう順序でどう講じると会社としての成長・発展に早く近づけるのかの道標ルートとつなぎが全くありません。全体構造に基づく戦略道標のルートを選択できるオプションも反映されていないのです。
6.専門用語で煙に巻かない
専門用語や業界用語を多用しているものを見受けます。内実を伴わないことが多いのに、立派に見せるためにドレスアップする方法です。一般の人が普段触れることが少ない用語で「煙に巻く」ものです。
私も何回もこのことを経験しました。
その時には、「立派なことを報告する人だな。」となんとなく思うこともあったのですが、じっくり考えてみると、その報告者はあまり本質的なことを言っているわけではなく、専門用語を散りばめて内容のないところをカモフラージュしているのみだと気づきました。
そのようなエセ戦略家が会社の経営ポジションにいるとしたら、その会社の社員にとっては非常に不幸なことなのに、皆それに気づいていないかもしれません。
経営者の立場で私はそのことに気づいていました。
「難しいことを丁寧な言葉でわかりやすく説明するのが、本当のプロです」と、事あるごとに報告者を戒めていました。子供に分かりやすく説明する時には、本質的なことを相当詳しく知っていないことには理解されないのとほぼ同じことです。
実のある戦略を樹てていますか?(1)
私自身、一番経営の中で得意とするところは経営戦略の策定です。
過去私が経営を任されていた会社の成長の要因の一つは的確な経営戦略を樹てたことだと自負しています。もちろんこの戦略はひとりでできるわけではありません。たくさんの社員をヒアリングなどで巻き込んで策定するのですが、戦略策定の過程で見つけたことがあります。
裏を返せば、本質から外れているにもかかわらず、戦略案を一般の人の目を引きやすく、かつ、もっともらしく見せるテクニックがあるので、経営者には、以下のポイントに留意して戦略のエセ部分を見抜く力が必要です。
1.戦略の基本構造を立体的に描く
基本的な構造項目すべてを網羅した教科書的な戦略なものになることを回避したいです。教科書的な戦略は一見綺麗で合理的に見えますが、構成が平面的になりやすく、実践にあたって実効性に疑問を持ちます。
- 顧客(現在顧客と潜在顧客)と社員(正社員、契約社員全て)を最上位に置き、
- 顧客の満足と社員の働きやすさと幸せを実現する仕組みや仕掛けに重点を置き、
- それを実現する組織や制度等の全体を組み立てる戦略構造にすれば良いのです。
すべてをなんとかしたいという思いはわかりますが、スピードが求められるので現実にはそれほどのリソースと期間はないはずです。
2.優先課題を設定する
先述のように顧客と社員を優先課題の第一義に設定し、置かれた現状が何故(Why)そうなるのかを冷静に分析し、具体策を策定して、一貫性をもってそれを一体的に実行することになります。
私は、その戦略を実行に移すことまでを含めて責任を持たなければ本物とは言えない、という考えを持っています。「私は戦略を作る人です」、「あなたがそれを実行する人です」と、戦略の中で実践プロセスを分離すると、単なる評論家的な戦略で責任感の欠如した形骸作品に成り下がってしまいかねないからです。
私の経験でも、この陥りやすい失敗について自分自身が立てた戦略経験で明確に分かります。私が過去に経営を託されていた会社でも、「第x次中期計画」などと称して、約3~5年ごとに戦略を策定していましたが、その中でも、最初に立案した戦略が基本構造は一番明確でした。姿形は少し幼稚ですが、顧客と社員のことを明確に最上位に置いて作を練っています。
会社が実質倒産の憂き目に瀕していたので、会社がどう生き延びようかと必死に顧客に焦点を当てで現状を分析し、生活も含めて社員を安心させるための将来像を本気で立案し、現実との乖離をそのあとの行動で埋めていったからです。
生きるか死ぬかの瀬戸際でしたので、顧客と社員のこと以外はある意味で捨てた戦略でした。
その後の中期の戦略も会社の成長・発展に貢献する道標になったことは事実ですが、「何となく、恰好をつけている」部分が多くなってきているのが自分では分かります。銀行や投資家の外部の目などいろいろなことを気にしてドレスアップしだしたからかも知れません。
皆さんは、こうならないようにご留意ください。
3.現実的な綺麗な姿を描く
戦略の見栄えを気にしすぎて、数年後の会社の絵姿をあまりに理想形にしすぎると、どこかの本からの切り抜きではないかと思われるようなものになりかねません。私の経験では現場の知恵から乖離した博識な社員のみに戦略を策定させると、よくあることです。
戦略目標として目指すものがあまりに非現実的な目標になっていても、絵姿は人目を魅きます。本の知識を基にした思い込みが前に出て、自分の会社の諸事情を見ずに、綺麗な絵姿のみを描いているものです。イメージ先行で、現状との乖離も、描けば何とかなるだろうという安易すぎる考え方からきている場合です。
イメージだけでは決してうまく展開できません。
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