語り継ぐ経営
第240回 「考える習慣」を「仕事の仕方」に根付かせる
優秀な社員が少ない会社の生産性が低いのは、ある意味で起きるべくして起きたことです。この場合でも、仕組みの整備などで補完して生産性を一部高めることはできます。
ところが、優秀な人が沢山いても、生産性が結構低い会社をよく見かけます。何故でしょうか?
「仕事の仕方の本質的なところ」を軽んじているからです。
では、何が原因でどのような現象が起きているのでしょうか?
1. 社員は優秀だが、考える習慣が無く「仕事を捌く習慣」が根付いている
「何故忙しい?」でなく、とにかく「忙しい、忙しい」という発言が多い会社に起こりがちの現象です。
仕事量の全体が多すぎるのか、しなくても良い仕事を以前からの習慣でやっているのか、仕事の手順が下手なのか、発言の背景にはいろいろあります。
このような場合、毎日遅くまで残業し、大量の仕事をこなす人が優秀とされる傾向が強い。
あるいは、何かのトラブルや不具合が発生しても、とりあえず丸く収める調整力のある人が評価される。
果たしてこれで良いのでしょうか?
目の前の仕事を対して、如何に早く捌くかに忙殺されてしまっています。明らかに、人や組織に「何故そうなのか」の「本質的なことを考える習慣」が衰え、結果として、組織のダイナミズムが失せる傾向になってしまっています。
2. 社員は優秀だが、調整力が重視される組織になっている
こうなると、「迅速に捌く」ための組織活動に重点を置く形になってしまいます。
関係部署との無用な摩擦を回避する調整力に努力し、キチットぶつかる力が組織から吹っ飛んでしまいます。
本来組織として重要な、本質についての議論が回避されてしまっている。目標に対して価値観を共有し、その実現にむけて意見を出し合い解決策を見出すプロセスが、組織からなくなってしまっています。
3. 先入観を下に早く結論を出し、その方向にぐいぐいと部下を引っ張っていく人が評価される組織や人事になっている
過去の成功体験から、すぐ安易に結論を出してしまう癖がついている。この方法では時に間違った結論になるかもしれないのに、他の人との意見交換を怠り、一気に結論に至る。
このような組織では、何の価値を目指すために仕事をしているのか仕事の意味まで考え抜く習慣がなくなってしまっている。「はい、やります」といわれる通りの人間になってしまう。
すなわち、どんなに優秀な人でも、部下とのコミュニケーションを通じて「考える力」が弱くなっているのです。当然、新たな価値を生むことに考えが湧かなくなる。
このような組織では、逆に結果責任を重くしている傾向があります。部下からすると、上司の判断のみで初めに結論ありきでやった仕事の結果の責任を取らされるので、部下のモラールは下がって当然です。
4. 社員は優秀だが、自部門のみのエキスパート人材になっている
また、このような会社では人の育ち方がいびつになります。
一つの部門のみに長くいるほうが仕事を捌く能力が身に着きやすいので、どうしても同じ組織に居続ける。そのため、会社全体や他の部門の利益には無関心となりがちです。自部門のみに通じるエキスパートで他流試合が出来ない人材になっていることが多いです。
視野を広くして自分のミッションを考え直して、新たな視点で物事を見る癖がなくなる。
自部門のみのエキスパートが組織全体の活性化とレベルアップを完全に止めてしまう。私が組織内のローテーションの必要性を常に説いているのは、これを回避するためでもあります。
5. 社員は優秀だが、先入観ですぐ結論をだす
会社の方向性なども、環境の変化や事実関係の如実な把握から出すのでなく、ある種の「先入観」で出しやすい。
過去もこの方法で上手くいっているので、今度もこの方法で行くことが正解だと結論を導き出し、新たな発想からの議論が湧かなくなる傾向が強い。広くあまねく、良い知恵を自社の経営に生かす姿勢が欠如してしまいます。
総じて言えば、上記の現象が起きないためには、組織全体が「考える習慣」を身に着けることが肝要です。
そのためには、上に述べたことを意識して少しでも改善する努力をしなければならない。しかも、まずマネジメントの上位に位置する方々からやらなければなりません。
皆様の会社ではこのようなことが発生していないことを祈ります。
第239回 集中力 vs.「心のさ迷い散歩」
特定のことのみに考えをめぐらす
人間、一つのことに集中するのは大変です。経営上もたくさんの事案を判断しなければならない。この場合私は、諸事案の中で、重要度が高く、緊急性が高いものを選択して集中して判断する努力をしています。しかもできるだけ一つの事項に一定時間神経を傾注して、「何か特定のことのみを考える」努力をしています。
この方法を経営の場で実践して、部屋に誰か入ってきてもほとんど気にしないときもあったほどでした。
何も考えない—心のさ迷い散歩状態の発生
それでは上記と違い、「何も考えていない」時とはどういう状態でしょうか。
集中していない時です。集中していないので、心はあちらこちらに「さ迷い散歩している」と、私は思います。
心が楽しいことに配慮して散歩している状態なら良いのですが、「あれをどうしよう、これが上手くいかなかったらどうしよう」などと、思案事や心配事に心が行っていることが多いのではないでしょうか。自分の経験でもそうです。明らかに「心がさ迷っている状態」です。
これでは経営者ならずとも誰でも正常な判断はできない。
そこでどうするか。
マインドがフルの状態
よくマインドフルネスで集中できると言われます。人によって見解は違うと思いますが、私は、マインドフルネスを「Mind(心)」が「Full(満たされている)になる」ことに分解して考えています。
どうやったら心が満たされる状態にできるか。自分の体験からすると、心が満たされると集中するには好都合だと考えます。
しかし心が満たされることですぐ集中できるというより、「『心のさ迷い散歩状態』を回避して、心の安寧状態が保て、その結果、一つのことに集中しやすくなる」というのが、「マインドフルネスで集中できる」ことの私の解釈です。瞑想も一つの方法です。
すなわち、よく瞑想すると集中力が増すと言われますが、二つは直結するのでなく、心の状態を介して集中しやすくなる、という具合に考えるのが妥当だと私は思います。
そもそも瞑想は集中のためにするのでなく、心の中の雑念を払い、心を平穏な状態に保つためだからです。
瞑想による方法
瞑想する時、私が最も大事にしているのは呼吸法です。自分の意識を呼吸の流れに置く、頭から体を通して足の指先から呼吸が逃げる感じをもってやります。
最初は不自然さが残りますが、自然に身体全体に「気の流れ」を感じるようになります。そうすると、脳を通じて身体もある種の影響を受け身体の暖かさを感じる。心も何か特別な事象を全く意識しなくなる。隣が建築現場でくい打ち作業をやっていても、音は聞こえるが、まったく雑音として入らない状態になります。
脳の特定部位の反応
業績が低迷すると、経営者のストレスは尋常ではありません。
ストレスにさらされると、脳内の扁桃体が活性化されストレスホルモンが発生します。その結果、血圧上昇や急に怒り出すなど、過剰な反応を示すようになる。当然、判断力が低下し、仮に判断をしても過激になりやすい。
ところが、瞑想による方法で、この扁桃体が縮小する効果があるとのことです。
こうなると、怒りや過剰な反応に身を任せることが緩和できることになります。具体的には心が平穏な状態を保て、集中力の妨げが一部回避されてくる。
持続の努力
問題は、その状態をどれくらい持続できるかです。瞑想方法を実施していない場合よりは、実施し続けたほうが、その状態をたぶん長く維持できるのではないかと、私は思います。スティーブ・ジョブスも瞑想を実施していたといわれていますが、いずれにしろ持続する努力が必要です。
毎日、情報過多で注意力が奪われています。時間は有限で、そのうちの大半がデジタル機器に奪われ、Face to Faceで人間に接する時間が犠牲になってしまっている人が多いのではないでしょうか。デジタル機器の利用により、そこの情報に注意力が注がざるをえないとなると、その時間が多くなればなるほど、現代人は注意力の貧困を招く結果になってしまう運命にあります。
この状況を少しでも改善し、物事に集中するために「心のさ迷い散歩」状態を改善する自らの努力方法が決め手です。
第238回 社員に成長を感じさせるための上司の留意点(2)
2月2日に投稿した、第236回の続きです。
上司の留意点は?
b) 失敗を是正できる仕事場環境をつくり、部下をインスパイアする
特に挑戦的な仕事であればあるほど、その結果に100%の自信はない。しかし、皆やりたくてうずうずしている。このような社員は多いです。それを実現させる仕事場の環境の大切さが分かる上司に、皆憧れています。
・仮説に基づき、トライ・アンド・エラーの試行錯誤を許すこと
「仮設をたて、その結論に基づき、なるべく早く修正し再実行の機会を与える」ことは、彼らの成長に大変重要なことです。時間が収益を生むので、リーダーがすぐにトライ・アンド・エラーの機会を与える環境を作れるか否かがポイントです。
変化のスピードが猛烈に早い時代には、出した結果をできる限りスピードをもって実行に移し、それを検証できる環境が不可欠です。もちろん、人事施策等、後戻りできないことはしっかり考えた上での走り出しが必要ですが、大半の施策は、行動、検証分析のプロセスによってより良いものに修正可能です。スピードが無い限り、競合に先を越され負けるリスクもある。
同様に、関連する業務を担当する社員にとっても、出来たら自分も仮説の検証の現場に立ち会いたい。必要な修正を加えて再実行を試み、より良いものに仕立て上げるのに協力したい。このことが実現できる職場環境を与えることが、社員の成長と会社自体のスピード感のある変革につながるのです。リーダーとして忘れやすい部分です。
・夢や目標を自分の言葉で語り、部下の行動に火をつけること
リーダーたる人は、部下の心に火をつけ(inspire)なければなりません。火のつけ方にはいろいろある。
社員は皆、秘めたる夢をもって現場の仕事に参画しているが、挑戦的な仕事にはリスクが付きまとうので、相当のガイドを必要とします。この役目が上司の登場する場面です。挑戦的な仕事に向き合う彼らをガイドして、彼らの心に火を点ける上司に恵まれるか否か、その時、自分の成長度合いを実感していきます。
どういうタイミングで彼らの心に火を点けるか。日常の観察や彼らとの対話で、火のつけ方とタイミングを準備するしか方法はありません。ここの社員との日常的な対話が如何に重要かを思い知らされます。
更に、部下の仕事に一定の成果が出たときには、何らかの誉め言葉やそれを実証する上司としてのタイムリーな行動がポイントです。上司のその誉め言葉や行動に、部下は自分の成長を支えてくれる百万の味方を得たと自信を持つ。更に彼の心に火が点き、成長を加速することにつながります。
c) チームの力で応援し、オープンなコミュニケーション環境をつくる
・チームの連携を図ること
どんなに優れた能力を持った人でも、チームとしての結束の支えがなければ、仕事の広がりを通じて自分の成長に結びつかない。このことを、皆体験で知っています。
単独で、知恵を仕事に展開できるのは限られた業種では効果的です。しかし、ほとんどの仕事では、チームワークこそが個別の知恵を活かす上で効いてきます。仕事がバトンの伝達・連携で成立しているものが多いとすれば、個別の部品の優秀性のみならず、部品全体の優秀性とそれらのしっかりした繋ぎが、良い製品開発にとって不可欠であることと同様に、いろいろな人の知恵の集合、協力・連携があって初めて大きな成果がでるのです。
この意味で、チームワークの動きにリーダーたるもの常に気を配らなければなりません。マネジメントのイロハです。しかも、このことは言葉の響きとは裏腹に、結構泥臭い下積みな仕事です。
実は、ここがキーです。このような仕事は目立たない、表彰に値するようなことはめったにない。しかし、長い目で見れば、この下積みの努力こそが、そのリーダーのマネジメントの幅と深さに大きく影響します。彼の下、立派な部下が育ちます。双方ともこのことが分かるのは、その立場から10年後になるので、経験者の私としては、このことを若いリーダーに強調したい。地道な努力が、結果として、皆から「信頼」を勝ち取る立派な部下を育成したことになるからです。
・開かれたマネジメント環境をつくること
社員が成長を感じてやる気を出すには、円滑なコミュニケーション環境が不可欠です。
オープンにコミュニケーションできる「場」が組織内に欠落していることで、会社や社員が本来持っているエネルギーを失っている事実に遭遇することが沢山あります。
特にリーダーたる幹部社員には、「マネジメントの定石」としてオープンなコミュニケーション環境をつくる工夫を身につけることです。詳細は省きますが、これが簡単そうで、結構意識した努力を必要とします。しかし、コミュニケーションをよくしようとする本心があれば、どんなに忙しくても工夫次第で可能です。社員の成長を助ける企業風土づくりにつなげることもできます。
第237回 継続的な成長を図るために不可欠な「経営力」(2)
2017年1月26日に掲載したコラムの続きです。
「経営力」の強化のために、組織体のエネルギーを結集するためのポイントが本日のテーマです。
社員をはじめ組織体のエネルギーの結集を図る
1月26日の前号に示した「経営する力量」の6)の部分、「社内のベクトルの統一とエネルギーを結集して実績を出す」について述べます。
あなたが立派で遠大なヴィジョンを持ち、これを実現するための「経営目標」を設定して走り出したとします。そこで思い知るのが戦略や戦術を実践していくには社員や会社の関係取引先の協力が不可欠なことです。立派な戦略があっても失敗する事例が沢山あります。私自身も、社員のエネルギーを特定のベクトルに向けて結集できる力量こそ、「経営力」の肝の部分であることを、約20年の経営体験から学びました。
国のリーダーしかり、組織の長としての会社の経営者しかり。彼らが構成員の「やる気」をどう高めていくかに腐心しています。強権的に特定の方向性に向かわせることは理論的にはありです。しかし、そのやり方で「勝ち続ける」ことは至難の技です。社員の心の中に「従いたくない」負の力が常に作用しているので、彼らの自主性やモラールが低くなる。これをリーダーが「社員が悪い」と勝手に判断し突然強権的に社員を異動する、リストラを実施する。ますます負のスパイラルに入り、勝ち続けることは絶望的になってしまいます。
このような事態にならないようにするため、経営にあたって組織体のエネルギーを結集するには何がポイントでしょうか?
・まず、会社の「ヴィジョン」が社員の価値観と一致する部分が多いこと
リーダーたる人は、社員の心に火を点ける、「インスパイア」する役目があります。火のつけ方にはいろいろな方法があると思いますが、まずもって、「ヴィジョン」の中味です。経営哲学で火を点ける。
経営者の野望や夢は彼の個人的な価値観を反映したものであるとしても、ある程度の社会性を持つものが望ましい。ヴィジョンの中味に社会的に意義がある内容が多い時、価値観を共有できます。インスパイアされやる気を刺激され、初めて組織が一丸になって動き出します。
価値観の違う社員がたまたまその組織に参集して一緒に仕事をすることになる。考えてみれば、これはほとんど偶然です。彼らの価値観は多様なはずです。ここでその価値観が違うとしてもそれを変えさせるのでなく、ヴィジョンの中味自体が彼らの賛同を得るに値する内容に仕立て上げられているかがポイントです。
一丸になって取り組むことになるヴィジョンの内容に社員の価値観と重なる部分が多い時、初めて社員がその経営哲学に賛同し彼らの共感を得られ、エネルギーの結集につなげることができるからです。加えて、そのエネルギーを、「どこに向かって、いつまでに、何をやるか。それを実現したら社員にはどんなメリットがあるのか」の全体像もヴィジョンとともに示すことが肝要です。
このようなヴィジョンが策定されれば、目標に向かって戦略や戦術が効果的に実行に移せる社員のモチベーション醸成のイロハが出来たことになります。もし、経営者が自分本位で発想し自己の利益のみを考える、社員の成長やキャリア・デベロップメントをないがしろにするなどの発想があるとしたら、一般的にヴィジョンと社員の価値観の不一致部分が多すぎて、成長し続けることは困難となります。
更に、社員の心を動かすヴィジョンの伝え方も工夫が必要となります。 これは経営者に限ったことではありませんが、多数の雇用責任を負うリーダーには特に必要なことです。
いろいろな方法があると思いますが、私は、Why(何故)の部分から情報発信をする工夫をしています。Why(何故)を説き、次にそれを現実にするためのHow(実現方法)を丁寧に話す方が、理念実現のための戦略絵図と具体的作戦展開にあたり、社員に浸透しやすいからです。このWhyの部分を説く過程で社員の心に響くレベルが即分かり、共感を得るためのタイムリーな修正につなげることができるからです。
・「人づくり」の姿勢が具体的に見えること
人づくりを簡単に言えば、社員を大事にし、社員とともに経営者も会社も成長するという基本的な考えが背景にあります。逆に、社員の成長のことにあまり配慮せず、経営者のヴィジョンや夢の実現に協力しがたい雰囲気を持った経営姿勢が見え隠れする会社が、継続的に成長をしている姿を見るのは稀です。その経営姿勢が、人づくりの具体策にも現れてきます。経営側が社員の成長を組織的に図ろうとしている熱心さが、見える形になっていることが望ましい。
その時々の思い付きで「社員は大事である」旨の発言があったとしても、それを裏付ける教育・研修体制やキャリア・デベロップメントのプログラムの明示がない限り、そのうち社員はその言葉に全く反応しなくなります。むしろ、その言葉を聞くたびに、「また・・・!!」と心の中では反発を感じる社員も出てきます。
この制度の形が見え、しかも確実に実践されている証拠が必要です。いろんな会社を見ると、意外にこの部分への注力を失念しているところが多い。 この制度やプログラムは一見会社の負担増に見えますが、まったく違う。採用、訓練、退職、採用、訓練の繰り返しのコストをはるかに凌ぐほどの大きなメリットがあります。
会社のノウハウや知的財産の大部分は社員個人の頭の中に保存されている場合が多いとしたら、会社の発展は、優秀な社員の在籍期間、社員の潜在的なレベルの高さとその力を発揮できる機会の有無に左右されます。採用した社員が早期に一人前になり、更に高いレベルの仕事をできるほうが会社にとっても生産性寄与が大です。社員本人にとっても自己実現に近づく機会を得ることになり、彼らのモラールアップを通じて社員のエネルギーの結集に必ずつなげることができます。
・何か新しいことに取り組める機会があること
社員は変化を求めています。ほとんどの仕事がルーチン化されている中でも、何かの変化を探しています。
日々のルーチンの中に埋もれて流されている自分と、「これではダメだ。チャンスを見つけ更に成長したい」秘めたる意気込みを持っている自分との間にジレンマの中で葛藤しています。
事業を経営している経営者も、環境の変化に対して、既存の事業や商品だけでは先行きの成長・発展に限界を感じている。新しい取り組みをしない限り、経営目標の達成が危ぶまれる危機感を覚えている。
ここに経営側にとっても社員にとってもメリットがある双方をつなぐ一つの方法は、新規事業などの新しい取り組みです。
環境の変化に対して、会社を変革しなければならない。そのために経営者はいろいろな新機軸を考え、手を打つことになる。これは社員の立場から考えると、変革の実践過程で自分が挑戦できる機会が訪れる可能性を察知する。会社か否かがもちろんすべての社員がこの分野に参画できないかもしれない。それでもよい。いつかは自分も関係できるかもしれないという期待、そのために今のうちに自己研鑽しておこうという意気込みが湧くかが、彼らのやる気の分かれ目です。何か新しいことへの取り組みが社員のモチベーションのアップに大いに寄与し、結果、エネルギーの結集につながります。
新しいことの取り組みを続けている過程で、ゼロベースで発想し、新しいことを思考し、それが評価される企業風土が育ちます。挑戦することが尊重される企業文化です。
逆に、「それをやると、必ず失敗するので・・・」といった挑戦を排除した消極的な発想の論理思考がまかり通る場合には、それに即した企業風土となります。ここでは社員のやる気が起きません。できれば「新しいことにチャレンジしてみたい。それを上手く実行するためには、隣の部門にも是非協力をお願いしたい」との前向きな議論ができる風土をつくりたい。社員のエネルギー結集に相乗効果を発揮するからです。
・「マネジメントの仕組み」があること
社員は、「何時かは係長、課長になりたい、その立場で大きな仕事をしたい」と、思っています。営業、製造、間接部門を問わず、「いつかは自分も課長として・・・」と期待を抱いています。
「否、私は、・・・」とそのポジションに興味が無さそうな発言をする人でも、その中の50%の人は言葉とは真逆のことが多いです。もちろん、子育てやいろいろな事情で、マネジメントの立場につけない人もいるのは事実ですが、大半の人は昇進したい、マネジメントの職に就きたい願望をもっています。
しかし、いきなりなれない。最初は係長や課長たる上司に仕えることになり、そこで上司のマネジメントのやり方を見ることになります。上司が既存のマネジメントの仕組みをどのように有効に活用しているか、時代遅れの仕組みをどう変えようと努力しているかなどを、部下の立場で観察しています。すなわち、会社のマネジメントの仕組みが、自分が頭の中で描いている像かどうか、部下たる自分の成長を支えてくれるものかを見ています。
マネジメントの仕組みは、会社の経営目標を実現するため、組織の中に組み込まれています。このように本来会社側の論理でその仕組みは作られている。しかし、会社側の論理のみならず、社員の自己実現をサポートする仕組みの視点が組み込まれているか否かが、社員のモチベーションに大きく関係していることを忘れてはなりません。
その仕組みが、社員が頭の中で描いているマネジメント像の一部でも満たしてくれているか、逆に、いくら努力をしてもその努力がマネジメントサイドにネグレクトされてしまうかは、社員のエネルギーの結集に決定的な影響を及ぼすことになります。
・組織に新陳代謝を図る力があること
会社が成長していくには、脱皮が不可欠です。脱皮しても従前と同じ形で現れるのでなく、できれば過去を捨てて違う形で現れたい。過去を捨てて、新しい視点に軸足を持ってくる、新しい形をつくることで新陳代謝して欲しいと、社員は願望しています。
経営側としては、「捨てる」ものと「捨ててはいけない」ものとの峻別がまず必要となります。脱皮すべく「捨てる」には決断が必要です。
この前提で、会社の組織を見ると、結構さび付いているものが見えてきます。環境の変化に対応した新しいノウハウが蓄積されてきているか、単に古いノウハウが貯蔵されているのみか、迅速に動ける現場主導の組織の仕組みになっているか、環境変化に鈍感な運営体制のままになっていないかなどなど。このように会社全体の組織の在りようを洗濯してみると、新陳代謝を怠っているものが沢山見つかります。
これはどこの会社でもあることです。問題は、これに迅速に修正対応する力が組織としてあるか否かです。
トップダウンでこれを実行する力がある場合は問題が少ないのですが、そうでない場合どうするか。社員の有志にかかってきます。困難な事かもしれない。しかし、それでも旧態依然になっている状況を熱く議論して、一人でもたくさんの賛同者を得ることで、少しずつ新陳代謝を図る。そのうち、流れが変わります。新しいものに入れ替える努力を応援する流れが優位に立ち、じわりじわりと効果がでてくる。トップをはじめ幹部社員を動かすことに繋がります。
・オープンなコミュニケーション環境があること
限られた閉鎖的なメンバー間のコミュニケーションのみで満足している組織を時々目にします。甘えの構造がある組織です。別の言い方をすれば、既存の階層意識や村社会的環境の中での限定されたコミュニケーションをよしとして、外との開かれたコミュニケーションに消極的な組織です。ここで育った人は、逆にオープンな環境下では自分の地位の危険性を感じているのかもしれません。
問題は、そのコミュニティーから外れている社員のモチベーションです。これは推して知るべしで、その人から会社の方針を一生懸命推進していこうとする仕事の姿勢と気力が段々失せてくるのは自然の論理です。
上意下達のみでなく下意上達の双方のルートが円滑に作動するオープンな環境がある時初めて、組織にイノベーションが生まれやすい。イノベーションがあると、社員のやる気が湧く。この意味で、社員のエネルギーの結集のためにオープンなコミュニケーション環境が不可欠です。
円滑なコミュニケーション・ルートを図るに当たり、幹部社員の多忙さが時に議論される。しかし、彼らの多忙さとオ-プンなコミュニケーションができないことは無関係です。経営者をはじめ幹部社員が閉鎖的な環境を排除しオープンな環境を尊重する姿勢とそのための具体的な行動が組織に根付いているか否かが、エネルギー結集のために問われることです。
以上、このコラムでは「経営力」を高めるために、組織体のエネルギーを結集するためのポイントを列記しましたが、改めて人の上に立つ人の訓練と寺子屋的指導の重要性を痛感します。
第236回 社員に成長を感じさせるための上司の留意点(1)
社員はどのような時に十分な成長を実感出来るのか?立派なリーダーは、この点を十分意識してマネジメントを行っています。実地体験で学ぶところも多いと思います。しかし、できればその立場に就く前に、ポイントに気づき、努力をしたい。
自分の成長を感じる時とは?
人によってもちろん違いがあるが、一般的に、ビジネスマンが自分の成長を感じるのは次のような時だと思います。
- 成長に対するプレッシャーを感じつつも、挑戦的でやりたい仕事や夢に近づくと感じる仕事ができ、結果に対する成果意欲が湧く時、しかも、仕事の裁量を与えられ、以前よりレベルの高い仕事に主体的に思考し、取り組み、課題を自分で解決できた時です。
- 仮説検証の試行錯誤が許される仕事場環境があり、成長意欲を持った自分がやりたいことに上司から火を点けられ(inspire)、その成果に上司から気遣った褒め言葉や激励があった時です。
- お互いに教えあい、協力できるチームワークのある職場環境の中で、チームとしてのコミュニケーションを円滑に推進できる自信が心の中に湧いた時です。
私自身は、以上のように考えるのですが、如何でしょう。
ところで、社員自身が成長を感じる時に彼らのやる気が湧くとすると、経営者やリーダーは、日常の経営で何に配慮したらよいでしょうか?
上記の点を踏まえると、以下のヒントがでてきます。
上司の留意点は?
a)挑戦的な仕事をアサインし、裁量権を与える
自分の経験に照らしても、自分が描いている願望や将来像に向かって何かに挑戦できる仕事にアサインされた時が、一番楽しい。それは、実力を少し上まわる仕事かもしれない。大きな契約交渉の任、戦略策定の任、キャシュフローの増強交渉の任などなど、それらを任され一所懸命努力して一定の成果が見えた時の喜びは忘れることができません。自分の成長を実感した時です。
・ 多様性のあるキャリアデベロップメントの道を用意し、やりたい仕事、夢に近づく仕事をさせること
リーダーとして社員に挑戦的な仕事をアサインするには、発想の視点を、キャリアデベロップメントの選択肢を多く持ち社員の多様性を考慮した育成・成長の対応をすることに、おかなければなりません。
社員の価値観や要望は、私が経営を任されていた時代でも多様化していました。しかし現在は、さらにそのパターンが増してきているのではないでしょうか。
例えば、社員の会社への入社動機です。以前はある限られた目的を持って入社したと推測されるのに、最近は必ずしもこの前提が当たっていない。
だとするとそのような人には「十把一絡げ」的な対応では、彼らの欲求をみたせない。自分にとって挑戦的な仕事がアサインされたと受け止められず、彼らに感謝されない。個別の対応でない限り、彼らの夢に近づく仕事をアサインできず、アンマッチし、モラールの低下を招く。
マネジメントも人事施策もこの状況に追いついていかなければなりません。非常に複雑なことですが、顧客対応の多様性に応じてサービス導線が多様化する環境での個別対応と軌を一にしていると理解した方が得策です。
常に、個別の社員にそれぞれ対応する気構えが必要です。彼らの価値観や希望を全部はかなえられないとしても、少しでもそれを満足するような挑戦的な仕事で、しかも今の実力より少し上位の仕事を用意しておかなければならない。
もちろん、このことは社員を甘やかすという意味を含んではいません。彼らがモラール高く挑戦欲をもって仕事をしてもらい早く成長してもらうほうが、マネジメント側にも大きなプラスがあるからです。
・ 自分で考え、自分で裁量できる幅が広いこと
現場に近いところに権限を与えることでスピードと機敏さを大事にし、社員のやる気を起こす。難解な課題を自分で考え、なんとか自分で判断して解決した時、彼らは自分の成長を感じます。
現地現場に裁量権を与える重要性を主張しているのは、彼らが個別の判断経験を成長の土台にしていること、加えて、組織にも経営のスピード感が出るからです。彼らは新しいことを実現したくてウズウズしている。しかし、実績がない。そこで、判断経験を積ませる。自分自身で考え、判断して結果責任を負うことで、自分の成長、足りない部分をもろに実感できる。会社にとっても、このような育ち方をした人材が企業変革の牽引車の予備軍として成長します。
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