園山征夫のビジネスコラム 園山征夫のビジネスコラム 園山征夫のビジネスコラム

語り継ぐ経営

第249回 戦略の策定の大前提—環境認識(3)

Posted on 2017-08-10

(1) 今は、新しい情報産業の革命の真っただ中にいる明確な認識が不可欠です

 前回からの続きです

 

e) 情報産業の技術が生産性を上げる道具から働く人との関係を抜本的に変えるものへと変化してきた

 考えてみると、20世紀初頭までは機械は働く人が生産性を高めるための道具でした。テクノロジーの進歩で社会が繁栄し、経済の好循環をもたらしてきました。

これが1970年代から崩れ始め、バブル以降働く人の所得は減少気味になったのです。

しかし生産性は上昇し企業の内部留保も増加しても、働く人の雇用は創出されない事態が出てきているのです。

極論すると、今や機械が人間同様に働く時代、働く人そのものになってきました。機械が人間に代替するものになってきている部分があるのです。

工場のみならず、サービス部門でも機械が人間にとって代わりつつあります。一番進んでいるのは金融の分野です。現在の株式取引の主流はトレーディングアルゴリズムを組み込んだ、高速の自動化された売買取引です。また、コンピュータが自らデータを収集して、ニュース記事に仕立て上げる人工知能も誕生していると報じられています。楽曲も自動でコンピュータが作ります。AppleのSiriのような自然言語処理テクノロジーが更に進歩すれば、消費者がモバイル端末と会話をすれば買い物行為の一部が端末経由で済むようになるかもしれません。

 これらの技術革新は、道具としての技術と働く人との関係を根本的に変えるものになりつつある認識が大事ではないでしょうか。

 働く人と機械との関係が根本から変化してきている、これが情報産業、特にAI化時代の特徴です。

 

f) AI化への対応による自己変革が急務である 

 パラダイムのシフトが起き、消費者の行動まで影響を及ぼし、働く人と機械の関係が変わってくるとすると、企業のデジタル化のタイミングと戦略対応の遅れは致命的となります。

移行するのをためらっていると破壊的な敵があらわれるかもしれません。Amazon.comが良い例です。商品の選択、仕入れ、価格設定などほとんどの企業でこれまでは人間の手に委ねられていたものも機械に委ね、取扱商品数、手許に届くまでの時間、顧客満足度などかなりの部分がデジタルで管理されていると聞きます。こうなると、従来の方法では太刀打ちできません。

 この一例を紹介するまでもなく、今や世界で通用するインフラ技術をある意味で所与として自らもデジタル技術を利用した自己変革を企業内で進められるか否か、このために戦略策定上必要なことにどう手を打つかが持続的成長の決め手となるのではないでしょうか。

のために、

i) 自社のビジネスモデルを再定義しなおすこと

 ものつくりやサービス開発のビジネスモデルを、ITを活用したビジネスモデルに定義しなおすのも方法です。自社ではこれまで、代理店を通じた仕入れルートの確実性がものつくりやサービス提供のビジネスモデルの中核だった。ところが今や、沢山のサプライヤーと直接接点を持つことが可能で、しかも必要なモノを調達できる時代になってきた。こうなると、むしろ売ることが困難な時代です。仕入れルートに力点を置いたビジネスモデルから、販売の多様性、高価値性に力点を置いたものに再定義し直すのも方法です。

デジタル化をきっかけとして、自社のビジネスモデルを環境変化に対応できるものに定義し直すのも解決策です。

 上記の例では、これまで代理店が顧客だったかもしれません。しかし最終の購入者を顧客と再定義すると、彼らに、いかにして最大の付加価値を提供できるようなバリューチェーン構成をするかがポイントとなります。自社の商品やサービスの提供価値がどの顧客にどう映るのかを明確にして、どのようなクラスター別のバリューチェーンを構築するかが戦略上のポイントになるのかもしれません。

ii) 顧客の選択に値する経験(Experience)価値を提供すること

 消費者は常に新しいモノやコトを求めてきます。新たな価値の創造や流通自体がデジタル化で加速した結果、主導権が消費者に移行していることを再認識しなければなりません。

 しかも、上記d)で述べた通り、顧客は性能やサービスの良さのみでなく、彼らの選択に値する経験(Experience)という価値の観点を重要視しています。

 従って、企業側もこれまでより以上に、「快適」で「楽しい経験」価値を提供するスタンスが無ければ、消費者をひきつけられません。最近登場したYouTube動画の「PPAP」はこの例です。一気に世界中に広がりました。問題は、このような道具を利用した情報伝達である種のシャロウシンキングが蔓延する傾向が強くなることです。この場合、一部を補完すべく「口コミ」や紹介の効果が増す傾向がありますので、企業側としては何らかの「仕掛け」を必要とすることを忘れてはいけません。

iii) スピード感を持った組織体とすること

 変化の激しいこの時代です。環境の激変に対して早期にかじ取りが変更できる経営が望ましいです。何事にも時間がかかるのが当然とする経営スタンスは疑問です。商品開発、技術開発もしかり。自社開発に拘らず、外部の会社や大学との連携で積極的に早期に技術を吸収していく姿勢が組織として欲しいです。

 

g) AIで職が減るか?

 少し横道に入ります。機械が人間の仕事を奪うのではないだろうかという疑問は誰でも持っていると思います。

 どんな事業でも自動化されやすい仕事はなくなると思うのが自然で、現実に目を向けると、過去にも機械が肉体的につらい仕事を解放してきました。銀行の支店でも、かつて沢山いた窓口担当者が、業務の自動化で代替されてしまいました。

 その一方で、自動化で仕事がなくなるという考え方は誤りだとの主張もあります。自動化で生産性が上がれば仕事は減るのでなく、かえって増えるという主張です。

 甲論乙駁、いろいろな議論があるにしても、今後確実に自動化され早晩なくなると思う仕事の特徴は、誰が考えても、

 ・人との対面を必要としない仕事、

 ・定型的な内容を他の人に伝えるだけの仕事、

 ・複雑でないデータの内容を分析する仕事、

 ・ものを単純に操作する仕事、

 ・秩序だったルール(税金の確定申告書類作成など)がある仕事などです。

 上記に加えて今、新しい自動化の波が来ています。その波はAI化の波です。

 金融業界のFintechの世界では、目まぐるしい革新を遂げています。

 AI化で、機械化が難しかった銀行の融資係、クレジット・アナリシスといった比較的ノウハウを必要とする職種でも今後代替の可能性が高いのではないでしょうか。

 アメリカでは、コンピュータで人間より高いファンド資金の運用勝率の戦略を割り出し実行している会社もあると聞きます。ロボット利用による個人の資産運用を担うサービスは成績も良く、おまけに人間より手数料が安くこの仕事がロボットに奪われ始めたニュースもあるほどです。

 AI化の潮流の中で、人間の仕事をどんどんロボットが奪う傾向を強めていくかもしれません。逆にロボットに奪われない仕事の特徴は、誰が考えても次のようなものでしょう。

 ・営業、交渉、説得など人的接点が必要な仕事

 ・相手の人間の感情を理解しながらでないと成立しない仕事、

 ・微細な部品修理など、指先の器用さなどスキルが必要な仕事、

 ・芸術活動や創造的な仕事等です。

 いずれにしろ、自動化に対抗するカギは、人間が機械の能力に近づくか、機械の能力が人間に近づくか、理論的には二つしかありません。非常に悩ましく、人間の知能や感情はどうなるのか心配です。できれば、機械が人間を超えないで欲しいです。本件についてはシンギュラリティの問題などを含めて別途項を改めたいと思います。

 

h) 戦略との関係をどう見る

 以上の認識を基にして戦略絵図をどうするかです。

 情報産業の革命の時代の潮流に乗るのも戦略、乗らなくて成長策を見つけるのも戦略です。

 例えば、中世の時代に印刷技術の技術進歩で書物を発刊する容易さが到来し、沢山の人が知識習得の恩恵を受けたと本に記載してあります。ところが、今やIT技術の革新で、本や冊子というものを物理的に発刊することを必要としない時代が到来しています。読者に本の内容を読んでもらい知識を豊富にすることに貢献してきた既存の出版事業は、情報産業革命がもたらした電子化の影響で大きなパラダイムシフトのど真ん中にいます。

 この変化の中でどう生き延びるかについて各社とも真剣に戦略をたてているはずです、潮流に乗って自らIoTを駆使したビジネスに衣替えをするのも選択、IoTを駆使しなくても自らのノウハウを下に事業周辺に違うマーケットを自ら造って、そこでシェアを取る作戦を展開するのも選択です。自らの成長ドライバーがどういう効果を発揮でき戦略目標が全うできるのかは、戦略での選択次第です。

 

第248回 戦略の策定の大前提—環境認識(2)

Posted on 2017-08-03

前回からの続きです。

 

(1) 今は、新しい情報産業の革命の真っただ中にいる明確な認識が不可欠です

 私たちはこれまで歴史を学ぶ立場で、どちらかと言えば後追いで産業革命を俯瞰していました。

すなわち、18世紀後半から19世紀半ばまでの蒸気による内燃機関の発明と鉄道建設で大変革を遂げた産業革命、19世紀後半から20世紀初頭の機械や電気の利用による大量生産時代、そして20世紀半ばからコンピュータとインターネットによる大きな変革を体験してきました。

これが産業革命だったのだと、後追いでこれらの革命の位置づけを知りました。

 

a) 情報産業の革命の真っただ中にいる

 ところが今、私たちは新しい情報産業の革命の真っただ中にいます。コンピュータによるデジタル化が単に急速に変化しているというこれまでの延長線上の図式でなく、あらゆるものが変革の波に巻き込まれることを余儀なくさせるほどの「大きな潮流」が来ていると認識します。今、まったく新しい時代に突入しつつあリ、この大きな潮流が経済機構全体や事業経営に驚くほどの影響を与えつつあると、私には映ります。

 

b) IoTがビジネスを変えてしまう、パラダイムシフトをもたらす

 特に、AI技術の利用でビッグデータの処理が容易になってきたこと、IoTが更に進化することで我々のビジネスの在り方に大きな変化をもたらしてきています。

 ご存知の通りIoTとは、モノのインターネット化(Internet of Things)のことです。クラウドが導入されビッグデータが実用化され、更にあらゆるモノは利用者が意識しない間にヒトからデータが収集され、それらがインターネットで共有される環境が出来つつあります。この実現により、今までになかった新しいことやモノが誰にでも可視化されて、必要の都度利用できるようになるかもしれない時代になってきました。

 自社のビジネスとの関連で考えると、IT関連の技術進歩、特にIoTが、ビジネスにパラダイムシフトをもたらし場合によってはこれまで投資してきたビジネス資産を一気に陳腐化させる可能性すらもたらしてきています。

 ここが経営戦略上外せない環境変化のポイントです。

 自動車の自動運転技術は日常的に新聞記事になり、3Dプリンターは複雑な形状のモノまで工場でなく自宅や町工場で製造可能になる。ロボット開発の技術が劇的に進歩し、これまでなかった新素材の開発も進み、モノの世界が様変わりしていく感じを受けます。

 驚くことが起きています。このようにIoT技術が人間を製品やサービスなどと結び付けると、そのビジネスは既存のビジネス環境とは全く違うフィールドで展開することになるかもしれません。すなわち、この情報産業の革命は既存事業の在り方までも劇的に変える可能性を秘めているのです。

 例えば、データをプッシュ型の方式で収集し、それを自社の成長ドライバーとしてきた事業では、iPhone端末にアプリを載せることで、プル型で大量のデータや情報を世界中から一気に集める、全く新しい事業主の登場リスクを想定せざるを得ないことになります。

 プッシュ型の情報の収集力で勝負してきた事業主は壊滅的な痛手を被ることになります。これまでの成長ドライバーがその座を降りることになるかもしれません。データの中味に特異性やその深さに何か秘めたるものがあれば別ですが、そうでない限り、事業継続に大きな痛手を被るリスクを秘めて経営していくことになり、否応なく戦略の修正を余儀なくされます。

 フェイスブックやツイッターの普及が、伝統的なメディアから従来の役割や収益源を大きく奪い、彼らのビジネスモデルの抜本修正を迫ってきている現実を目の当たりにしていることも分かり易いい例です。

 蛇足ながら、情報産業の革命はビジネスの世界のみでなく、今や政治の世界も一変させています。

 一個人が何十万点もの政府の機密情報を持ち出した過去の有名な事件は、彼の行為の善悪は別として、従来の国家モデルの崩壊の前兆を意味することになるのではないでしょうか。国家や機密機関をはじめとした伝統的な大きい組織の根幹を揺るがすもので、ビジネスの世界のみでなく、あらゆるところに大きなパラダイムシフトをもたらしていると認識します。

 

c) 新しいサービスも生まれる

 その一方、ITを活用した新しいサービスや企業も次々と生まれています。

 企業にとっては、IoTがマイナス面のみでなく、ビジネスの態様によっては大きなチャンスをもたらすことにもなります。

 一例です。法的問題は別として、各家庭にサービスを提供しているガスや電気事業者は、センサー技術を利用してネットワーク経由で取得したデータを集積・分析することも可能になり、その家庭の人も室内の温度調節を外出先からの遠隔操作できることにもなります。「モノのインターネット化」で、新たなつながりが生まれ、新しいビジネスの芽が生まれることになります。

 

d) 顧客自身が変化・変貌してきている

 見過ごすことができないことがあります。

 このデジタル技術がその進歩と相まって、利用する顧客自身の考え方や行動へ影響を及ぼし、そこに変化が出てきていることです。

 顧客が、「所有」することより「快適」で「楽しい経験」をうることを求めるようになってきたのはその一つです。車を購入するより、乗って楽しければよい。顧客は自分の好きな車にのった経験(カスタマーエクスペリエンス)からの感動を求めています。ここでは快適性、面白さをキーワードで何かを選択する、今や「売る」側の論理より、主導権は完全に「体験する」顧客です。

 商慣習における顧客の変化も見逃せません。日本の旅館では「サービスの提供の前にお代金を頂くのは失礼」として後払いが原則でした。老舗の旅館などでは、宿のお世話になった方へのお礼も含めて後払いでした。ところが今やネット経由での申し込みが主流となり、簡単にキャンセルする顧客も増えてきました。特に、訪日外国人のやり方を見ると、後払いでは商売が成立しないことにもなりかねません。顧客行動の違う側面の変化はデジタル技術の進歩が影響した部分が多いのかもしれません。顧客のこの変化に対して、日本の旅館でも顧客への対応方法まで変化せざるを得ない状況を、今や生み出しています。

 

 

第247回 戦略の策定の大前提—環境認識(1)

Posted on 2017-07-27

環境認識とその分析の大事さ

 私は経営戦略の策定にあたり、世の中の動き、環境の変化を大変重要視しています。

 世の中の動きをどう観るか、すなわち環境認識に対する「大局観」の有無が戦略の大きさを決定づけるからです。

 このことで自社の戦略が広がりを持つことになることを知らず、すぐ自社の現状分析から始める人がいます。戦略の広がりのなさ、すなわち、環境認識の狭さが以後の成長・拡大のスピード感に大きな違いをもたらしていることを知らずに無駄に先を急ぐ経営姿勢の狭隘さを痛切に感じることが多いです。

 例えば、グローバルというよく使われる概念と自社が対象とする特定地域との関係性で自社の商売が今後不安定化しないか、違う方向へ変化していくのか、IoTなどの最新の技術革新が突然自社の従来のビジネスモデルを根本から破壊していく可能性を秘めていないか、または、その技術革新を逆手にとり自社のビジネスの今後の柱に据える戦略にならないか、自社のビジネスを取り巻く法制度の改正や規制緩和をどう捉えるか、人口構造の変化が自社のビジネスにどう作用していくのかなどなど世の中の動き、環境の変化への「読み」は、大きな戦略策定に決定的に重要な部分です。

 この環境分析は、ある意味で経営者として嫌な部分です。私自身にとっても経営者として怖い部分でした。何故なら、出来ればそのようなことは起きてほしくないことばかりだからです。

 しかし、そのような事象はどの経営者にも共通して発生することが予測されるならば、誰よりも先に、しかも誰よりも深く分析して戦略図を策定するほうが、ビジネスのゲームで勝ち続けるチャンスになることを忘れてはいけません。

 この意味で環境分析は、いろいろな変化が予測される中で、今後も自社の事業の持続性はどうやったら保たれるのかを、経営者が自分に問うことと等しいことになります。

 戦略策定にあたり、もちろん各事業特性に応じて、個別の環境変化も把握の上分析しなければなりませんが、少なくとも、以下のマクロの部分が自社のビジネス展開にどう影響するのかを深く自問自答し、できるだけ戦略の「ビッグピクチャー(大きな全体の俯瞰図)」を描くことを、私はお薦めします。

 今起きている大きな環境変化をマクロ的に読むと次の通りで、順番に取り上げます。

・今は、新しい情報産業の革命の真っただ中にいる明確な認識が不可欠

・「人口オーナス期(人口構造の変化が経済にマイナスの効果を及ぼす時期)」に突入してきている事実の認識と対応が不可欠

・世界の経済をかく乱する要因が多くなる、その中でのビジネス展開には自社のみではコントロールが難しいリスクがあるとの認識が不可欠

・富の分配と貧富の格差が世界的に拡大するという認識が不可欠

・政府は正しい事実を伝えないこともあるという認識が不可欠

・戦略の実現可能性―絵に描いた餅としない認識が不可欠

 であることを10回にわたり取り上げます。

 

第246回 戦略というストーリー(物語)を描く

Posted on 2017-04-27

 連絡事項です。この原稿は24日に仕上げ、一昨日より海外に遊びに行っており、このビジネスコラムを6月の初め頃まで原則休稿とさせていただきます。

 

 昨年末に『勝ち続ける会社の「事業計画」のつくり方』(クロスメディア・パブリッシング)を著した関係上戦略策定についての相談が多いので、皆様にもお役に立つと思い、以前取り上げたこのテーマを再度取り上げます。

 2012年に書いた『これからの社長の仕事』(ネットスクール出版)の中で「農耕型企業風土」づくりの「18の定石」の重要性についてふれました。定石を踏むことで、目指す企業風土をつくる、これを実現する過程を通じて企業の成長を早期に実現を目指すものです。

 私自身経営や戦略策定の仕事などで多少の成果をあげた実績をもとに、「仕事にストーリー(物語)性をもたせ、常にイノベーション・マインドをつくる」ことを13番目の定石としました。経営や戦略という仕事を成功裏に導くために、それらをストーリー(物語)、しかもイノベーティブなストーリー(物語)として描くことが不可欠だからです。

 「定石13」を強調した背景は、現状の延長線上で未来を予測して戦略を練り、結果として失敗したり、革新が無いだらだら経営が続いている経営者を沢山見てきたからです。また、戦略も含め魅力的なストーリー(物語)に仕立て上げないと、社員の共感を得られず、スピードが出ない経営も沢山見てきたことも背景にあります。

 未来を同一線上に予測するのでなく変化や革新を自ら洞察し、洞察したことを現状の分析を踏まえてまずキチッと物語として描き、それにマッチした戦略を策定・展開するのが成功のカギではないかと思っています。想像し洞察したことの重点内容を経営戦略として明快にストーリー(物語)として描き、戦術として計画的に遂行することが成功の近道だと感じています。

 ここでストーリー(物語)にするまでの考え方を整理してみます。私の場合、次のようなステップを踏んでいます。これを、通常、無意識にやっている経営者もいます。しかし、再度、ステップを意識して確認してみることで経営のレベルが高まります。意識して行うことをお薦めします。

 

1.経営目標を設定する

 社長のヴィジョンを全社の目標の中に整備して織り込みます。

 社長がいろいろな場面でヴィジョンを語っているはずです。しかし、その発言の文言が統一的でなく、微妙なニュアンスの違いなども含んでいるはずです。そこで一度「やりたいこと、挑戦してみたいこと」を整備してみる。

 整備した後で、自分も納得でき、社員も共感できる形にデザインした「経営目標」を設定します。

この場合、出来れば「経営目標」の中に数字や期限を織り込みたい。単純明快な言葉にまとめたい。この目標の内容に接する人に誤解を生む余地が少なく正確に理解し、自分事として捉え浸透をしやすくするためです。

 

2.課題群をつまびらかにし、重点的に取り組むテーマを設定する

 もちろん、業種や、事業の発展段階で課題の内容には違いがあります。

 顧客が偏りすぎている、エンドの顧客が見えていない、世の中の新メディアや技術に対応しきれていない、人材の育成ができていない、新しい収益モデルが見つからないなど、いろいろな課題が次から次へと見つかるかもしれません。

 私が経営責任を負った頃の或る会社も、難問山済みでありながら課題群がつまびらかにされておらず、課題間の関係も整理しきれていない状態でした。

 

余りにも沢山課題がありすぎて、課題群をパッチワークで個別に対応するより、それらの重要なものを包摂して同時並行的に解決できるものが多いことを発見しました。そこで私の場合、課題群の関係性を整理の上重点的に取り組むべきテーマとして課題群より更に上位のものを設定しました。

 今流に言えば、新しい収益モデルを見つけ、それをテーマに設定したのです。既存のモデルを継続していったのでは課題群の解決に時間がかかりすぎ、社員を含めた全員の努力の成果が予期したほどには期待できないと読んだからです。

 

3.事業展開に必要な事実情報を収集する

環境の変化の洞察

 一つは、環境の変化に関わる情報、二つは、自社の実態に関わる情報を収集分析することです。

 新しい技術が世の中の顧客の行動や一日の利用可能時間の中での利用内容を変えつつあります。

 特に、ビジネスマンの使える時間の中でスマホに費やす時間が相対的に増えています。すなわち、情報入手が簡便になった反面、スマホでの連絡で済ませ、対人の関係の物理的関係の希薄化が発生してきています。対人をベースとする商談の時間も相対的に減ってきていますので、商談のスタイルの変更を迫られています。

 過去、高齢者から若者が得ていたノウハウ的な情報も、ネットで簡単に収集でき、高齢者が尊重される場面が相対的に少なくなってきたという間接的影響も出てきました。

 スマホの利用で、一日の中で他の遊び、勉強、読書などに充てる期間が少なくなってきました。自社の商品やサービスに費やされる時間が絶対的に少なくなってきていることを意味します。これらのことは自社のビジネスの将来に甚大な影響を及ぼす環境変化です。

 片や、この反動で、古いこと、田舎の環境へのあこがれ、失せたことへの郷愁もビジネスマンの心の中で一定割合を占めてきています。これをビジネスの視点を変えるチャンスが来たと捉えるむきもあります。

 自ら関係している事業を取り巻く環境の中で、世の中で発生している政治、経済、社会など環境の変化が自社のビジネスに積極的影響や消極的影響を及ぼすことになります。このトレンドを推察することが不可欠です。

実態分析

 自社の事業の実態の分析をつまびらかにしなければなりません。

 これにはいろいろな手法がありますが、一般的にはSWOT分析やこれを修正した手法が有効に使われています。自社の相対的な強み(Strength)、弱み(Weakness)、ビジネス機会(Opportunity)、いろいろな脅威(Threat)の事実を明示的に把握するプロセスです。

 分析にあたり注意すべきことがあります。

 同じ事実がメンバーによって強みと見えたり、弱みと見えたりします。創業したころのメンバーは、強みと観る。しかし、他の企業での経験を経て入社した人は、同じ事象を弱みと観るかもしれません。

 それをすべて同じテーブル上に開示して議論することが重要です。くれぐれも職位の上下の人の強権で一義的に判断しないことです。この分析内容が以後の戦略策定の思考プロセスに大きな影響を及ぼすからです。

 

4.事業の先行きを支配しそうなドライビングフォース(原動力)を見つける

 環境分析、自社の実態分析を通じて今後も強みとして維持・強化していける因子をなんとか見つけるプロセスです。

 今はそんなに強くないが、それを今後も強化していくことで、競合他社との競争に勝てる因子を見つける、すなわち、ドライビングフォース(原動力)を見つけるのが次のステップとなります。会社の成長・発展を引っ張る力となるものです。

 ドライビングフォース候補は一つしかない見つからない場合、大小、強弱合わせて複数見つけることができる場合等いろいろあります。しかし、欲張って作戦が散漫にならないように、挙がったドライビングフォース群の中から最重要な少数のものに限定するほうが得策です。資源を集中的に有効に使えるからです。

 

5.方向性を決める

 ドライビングフォースをどのマーケットに適用していくか、フィールドの狙い目を定めます。

 マーケットの将来の成長性が高く自社の因子が上手く適用できるフィールドを探した方がよいです。華々しく見えるフィールドには沢山の潜在的競合がいるはずですので、最初の段階では実力相応のフィールドを選びます。

 それでも時には、そのドライビングフォースを使って全く新しいマーケットを造る挑戦もしたい、そこで大きなシェアをとりたい。その方向性も勿論選択できますが、勝負に本当に勝てるかの綿密なリスク分析が不可欠です。

6.成功するストーリー(物語)を戦略として描く

 ドライビングフォースを駆使して決定した方向性のフィールド上で、どうやって稼ぐかの戦略の段階に入ります。この戦略の良し悪しこそ会社の将来の成長を決定づける重要なステップです。しかも、中期的視点でストーリーを描く気持ちを持ちたいものです。

 物語に起承転結がある通り、会社の成長にも力を貯める時、その力を一気に事業拡大につなげる時などのメリハリのある物語が現実てきです。一直線で成長する物語ももちろんありです。しかし、競争激化するマーケットの中でそのような絵図を描くには相当の自信と潜在的力があることが前提です。これも分相応の作戦からの絵図を描かれることをお勧めします。

 物語全体をいわゆる戦略と称するもので、私の場合、これを「中期計画」と称していました。総論倒れにならないよう絞り込みの留意、選択した戦略のリスク分析、投資対効果を最大化できる選択にするために計数以外の項目をどう評価するか、戦略が策定された後、各年度の事業計画の中での戦術展開時、具体的なイメージが全社員に湧き、自分がその実行の主役なのだと思えるストーリー化を目指すこと、上記の1~6がストーリー(物語)全体として矛盾なく遂行できるものかなどなど、書くべきことが沢山ありますので、この詳細は別途の項に述べることにし、当方海外に視察と称した遊びに行ってきます。

 

 

第241回 「No.1戦略」で差異化を図る

Posted on 2017-03-09

 「水は上から下に流れる」。

 当たり前のことです。もし、営業部長が部員に有無を言わせず「今日、x件回商しろ。名刺をy枚もらって来い。」と竹やり戦法で営業指示をだしているとしたら、最前線の社員は「また・・・?」とマンネリを感じているか、自信をもって自社の商品や技術を売っていないのではないでしょうか。

 会社の上部構造の重要なところが定まっていない証拠です。

 私は経営コンサルティングをする時経営者に、「あなたの会社の『No.1戦略』を聞かせてください」と、質問することが多いです。

 結構これに答えられない。苦し紛れの返答が返ってくる場合も多いです。

 その背景は、自社の本当の「No. 1戦略」を経営戦略的に明確に定義、もしくは再定義していないからです。これでは、差異化が発揮できません。

 そこで、大事なことが5点あります。

 

1.「No. 1戦略」を何にするか

 「差異化」が出来ない最大の理由は、今後「自社の何をNo.1にしていくのか」の「No.1戦略」が不明確な場合です。

 商品でもよし、サービスでもよし、地域でもよし、技術でもよし、とにかくできるだけ細分化した一定のドメインで「何をNo.1に目指していくのか」を社内で徹底的に議論して明確に設定すべきです。

「水は上から下に流れる。」以上、この部分をまず押さえなければ、経営の先行きに不透明感がぬぐえません。

 

2.顧客を具体的にイメージした議論をする

 顧客に継続的に選ばれる商品でなければ長続きしません。顧客に選んでもらえるには、架空の想定顧客では不十分です。今いる人や、今ある会社顧客を具体的に想定する、そのうえで仮想敵をイメージするのです。

 自社の特定の商品や技術機能などを、

 ・ある一人の実在する人や会社が、

 ・その商品を具体的に利用するシーンを明確にし、

 ・その商品をどう使い、どこをどう評価ひてくれるのかを徹底的に議論・分析・検証する

 プロセスを経た上での「No.1戦略」としなければなりません。

 

3.「No. 1戦略」が社内の隅々まで徹底する

 経営のコンサルティングをしていると、社長の思いと末端の社員の話との間に大きなニュアンスの違いがあることに時々遭遇します。社長の思いが、全く社内に浸透していない場合です。その原因は、社長自身の思いが誰かからの受け売りもので本気でそう思っていないか、浸透のための努力を怠っているか、双方に欠落がある場合です。

 「No.1になる」には、SWOTなどの分析ツールの考え方を駆使して、将来も継続して成長していくためのドライバーを探し、その武器を使用して、特定のドメインで絶対No.1になる作戦を末端まで浸透することが不可欠です。

 もしそうでない場合には、全社員のエネルギーを違う方向に浪費させてしまいかねません。。

 

4.「何故」、それをNo.1にするのかの具体的説明が不足

 経営者や一部の幹部はアプリオリにその戦略を納得済みでも、「No.1戦略」には落とし穴がある。

 冷静に考えてみると、その商品、サービスや技術をNo.1として位置づけ、第一線の社員が日常的に競合と戦い勝つには、「何故?」に対する明確な回答と納得感があるか否かです。

 日常的に顧客を相手にしている第一線の社員からすると、ここがモラールを高く維持する入り口です。「そうだ、だからこの作戦で行こう!」とする納得感がない限り、「上からの指示なら仕方ない・・・」程度にしか受け取らず、作戦に腹落ちしていないので本気になりきれません。

 

5.自社の「強み」から「No.1戦略」につなげる

 自社の強みにテーマを絞って社内で徹底的に議論する中から「No.1戦略」につなげていくほうが確実です。何もないところから一番になることも可能ですが、成功の確率が低いからです。

 他社に負けないNo.1商品や技術、どこにもない地域で初、日本で初の商品や技術を自社の中で捜索してみることです。ある部分に関しての比類ない技術力かもしれません。心が魅かれる感動的なストーリーを体現できるモチベーベションプロセスかもしれません。社内に浸透している誇り高き「理念、哲学」かもしれません。これをもとにした「企業風土・文化」かもしれません。

 私の経営体験では、これらの候補群の中から絞り込みをすると、どの会社でも必ず「No. 1戦略」の糸口を見つけだすことが出来ます。

 一般的なコンサルテーションでは、その会社の弱点に光を当てやすい。私のアプローチは逆です。強みを更に強くすることを薦めています。特に、中小の企業では限りある資源で経営していますので、弱点だらけのはずです。その中でも相対的な強みを探し出し、これを更に強化して自社の「No.1戦略」につなげる。

 是非、皆さまの会社でもトライしてみてください。