語り継ぐ経営
プロの経営者――リーダー
私は、日本の経営者、リーダーに、もう少し訓練されたプロの経営者になってもらいたいと常日頃思っている一人です。規模の大小を問わず、もっとプロとしての修練を積んでもらいたいと思うのです。企業の成長の速さと社員の幸せのために、リーダーの果たす役割が本当に重要だからです。
リーダーの資質
まず、リーダーには基本的な資質が必要です。
資質の内容にはいろいろな意見があると思います。経営体験や世の中の優秀なリーダーを見ると、次のような資質が備わっていると、私は思います。
1.志と勇気(覚悟)があること
まず、リーダーとなる人に明確な志があり、しかも、これを実現する勇気(覚悟)が必要です。
志には、人それぞれの育った時代や環境が反映されるかもしれません。最初から高邁な志を持っている人、経験を重ねるうちにより高い志にレベルを上げていく人と多様ですが、要は、本心で何をやりたいのかが明確に頭の中に描かれていなければなりません。
加えて、それが単なる願望に留まるのでなく、果敢に実行する勇気というか覚悟が必要です。この勇気、覚悟も、起業の最初の頃は空元気的なものかもしれませんが、時間の経過で沢山の人を巻き込んで行くうちに、大きな勇気、覚悟に変質するものもあります。
2.公平な判断力があること
リーダーの仕事の大半は部下を通じて仕事をすることです。従って、結果として部下を巻き込むことになるリーダーによる沢山の判断には公平さが要求されます。100%公平さを保つのは無理としても、出来る限り私心を捨てて志を実現するために、今何をすべきかに軸足を置き、公平に判断をしなければなりません。
リーダーの判断の公平さに一番気づいているのは、実は部下です。リーダーの判断にブレがないかを知る方法として、部下からの忌憚のない意見が自由に上層部に上がってくる環境や仕掛けを組織の中に持つことが肝心です。一時的でなく、常に判断の公平性を担保できるシステムとするためです。いわゆる下意上達が実現できる民主的な組織です。上意下達に慣れ過ぎたリーダーは、判断にあたって自分こそ常に最善の判断が出来ると自己満足に陥りやすいことになるので、特にこの点に留意が必要です。
3.理論的な説明能力を持つこと
皆がリーダーの判断に納得するには、リーダーによる判断の理論的なバックグラウンドの説明が不可欠です。部下が納得できる説明力がリーダーの資質として不可欠です。そうしない限り、沢山の人を引っ張るリーダーになることは厳しいと考えます。
東日本大震災時の不幸な例を引き出して申し訳ありませんが、福島の原子力発電所での爆発事故発生時の日本政府のある政治家の説明を、皆様覚えておられると思います。あれを国民が納得して聞いたか否かです。少なくとも、私は、なんでこんな誤解や混乱を招く説明をするのかと、この国のリーダーの資質に疑問を抱いた一人です。
事故レベル4として、確か「ただちに人体に甚大な被害を及ぼす危険はありません。」と、国民に発表しましたが、何のことかさっぱり分からない。その後、事故レベルを人体に甚大な被害を及ぼす危険レベル、最高の7というに修正したのですが、修正の背景が全く分からず、我々に更に混乱を引き起こしました。
故意にわからない説明をしたとすれば、国民の生命と財産を守るべき政府のリーダーが、国民を愚弄したとしか思えません。こんな説明しかできない政治家を、我々がリーダーとして選んだのが不幸だと言われれば、それまでですが。
危機に瀕した緊急事態においてこそ、リーダーは納得のいく理論的な説明責任を果たさなければなりません。これが出来なければ、民間の企業なら即クビです。しかし、未だに、この時の政治のリーダーが誰も本当の意味で責任を取っていないと、私には映ります。世界中を捜しても、このようなリーダーは法治国家の中に見つからないのではないでしょうか。このような経営者にはなりたくない、なってもらいたくないものです。
4.優秀な部下を育てる環境づくりができること
世界で勝負できる企業が持つ企業風土に共通しているのは、自らの頭で「考える」力が社員に備わっていることです。
戦略の具体化の専門家、ITの専門家、法律の専門家、営業の専門家などなどを使ってリーダーは仕事を具体化するわけですから、彼らを育てる、または、彼らが育つ環境を与えなければなりません。沢山の考えるエンジンをリーダーの下に持つ企業ほど、環境の変化に対しても俊敏に対応できることを、私は見てきました。このような環境では、リーダーの方向性に社員が疑問を感じた場合、「考える」部下からそれなりの修正意見が出てくるはずです。そのためにも、リーダーはHow toでなく Whyで考える専門家が沢山育つ環境を整備する資質を持つことが肝要です。
リーダーとしての訓練
それでは、そのような資質も持ったリーダーをどう訓練するかです。資質には、本来、生まれながらにして持っているものと、訓練により強固になるものとがあると思いますが、先述した資質は訓練で強化できるものと、私は考えています。
経営者はリーダーです。沢山の部下の生活にも大きな影響を及ぼすことになります。このため、リーダーには競争を通じた訓練が不可欠です。訓練の過程で、いわゆるリーダー適性の「ふるい」にかけるプロセスを経ることになります。
ポジションは限られた数のシートしかありませんから、合格点以上であってもそのシートを得られるかどうかは分かりません。より優れた人がいれば、そのシートを得られない。過酷な競争のプロセスを経て、リーダー候補は、自己の資質を更に鍛えられことになります。そのシートにつけない場合は、チャンスを待って他のシートを狙うことになります。ただし、シートを得ても、約束の成果を果たせない場合には、沢山の眼がその経営者の能力を見極めることになります。
欧米など海外の大手の企業には、リサーチ会社に会社のリーダー要件を提示して、彼らにリーダー候補者を捜させる企業も見られます。この場合、リサーチ会社が入ることで、結果としてリーダーに支払う報酬が高くなり過ぎる、そのリーダーが短期的に成果を上げようとして、かえってその企業の潜在的な能力やエネルギーを毀損するリスクがあることを忘れてはなりません。
日本の経営に合致した手法は無いのでしょうか。
いろいろな組織態様があり簡単には括れませんが、子会社を利用して訓練をさせるのは一つの方法だと考えます。ただし、単なる渡り歩き的な子会社人事は全く意味を成しません。単なる出向も真剣勝負になりません。日本的な親会社を頂点とした序列で子会社の社長人事をやり、序列を笠に着るような親会社派遣の役員の配置ももってのほかです。
真剣にリーダー候補に訓練をさせるには、なるべく、尋常でない体験が待っている子会社を彼に任せるのが良いのではないでしょうか。修羅場の体験が一番リーダーとしての資質を開花させる訓練になるのは、私の経営体験でも証明済みです。親会社に頼らず独立自尊、艱難辛苦を自ら克服することが、リーダーとして胆力と競争条件で勝ち抜く力を貯えることになるからです。
皆様も、ぜひプロの経営者としての修業を積まれることを勧めます。
二宮金次郎から学ぶ
ある時、当時小学生だった孫が「おじいちゃん、変なものがあるよ。」と、彼が見つけた二宮金次郎の像をみて叫び、さらに、「何故、薪を背負って本を読んでいるの?」との質問。育った時代環境によって受け取る感じ方がこうも違うものかと驚き入ったことがありました。
出雲の田舎に残っていた像を含めて、私の住処の近辺では3体の像しか認識していなかったのに、孫が新たな4体目の像をごく近くの奥まった民家の前に見つけてくれたのです。嬉しいやら、孫の質問を聞いて愕然とするやら複雑な感じでした。
二宮金次郎から私が学んだ経営上のヒントを2点触れさせていただきます。
現場での実践力
第一に、二宮金次郎は現場感覚を非常に重視し、且つ、行動力・実践力を重んじています。
『礼節と誠実は最強のリーダーシップです。』(クロスメディア出版)の中でもふれましたが、彼が読んだ歌、「古道に積木の葉を掘り分けて天照す神の足跡を見む」の中に現場重視の実践感覚が表現されています。いろいろな思想を云々するにしても、まず、現場の事実を確かめることからはじめることを主張しています。
現場に出向いて「知る」、「見る」ことを通じた実践力を重んじる人であると、二宮金次郎の7代目子孫の中桐真里子氏がある著書で述べられている通りだと思います。行動を通じて「見る」、「知ること」からすべてが始まるので、銅像の一番大事なところは、一歩足を踏み出す姿だとも、中桐氏は述べています。
仲間の力を結集する方法
第二に、村人の力を結集することの大事さに気づき、そのための方法を取ったことです。
小田原近郊の河川の氾濫で農業災害に苦しむ農民が多かった頃、治水工事の経営指導に着手。農民が少しでも災害を回避して農業の収穫を上げられるように多大な努力をした人です。
土木工事で河の水を上手に田に引き込むことを指導した最初の頃は、彼の心の「私」が前面に出過ぎて上手くいかない。経営指導のやり方に迷い、成田山新勝寺で21日間の断食修業をし、開眼して得た部分もあると言われています。すなわち、土木工事を遂行するにあたり、農耕従事者に当然いろいろな指示を出すことになりますが、命令する上司と作業をする部下との一連の関係性の中にある極意に、修業を通じて気づいたようです。
農耕に従事する村人一人一人が主役として作業に力を発揮させるには、単に水車で水の引き込みをする作業従事者としてのみ見るのでなく、指示されなくても主体的に遂行する従事者になってもらうために、彼ら村人の心の部分、最近の言葉でいえば、モチベーションの重要性を認識していたからではないでしょうか。
村人(部下)の現場のアイデアに従わないで、主役は自分だと指示するだけの、浮き上がった自分自身の傲慢さに気づいていたからです。
世の中の経営者の中には、彼が読んだ次の歌を少し参考にした方が良い人もいるかもしれません。
うつ心 あればうたるる 世の中よ
うたぬ心に うたるるはなし
言い訳の認識ギャップ
誰にでもあります。叱られそうになった時、叱られた時に、何かと言い訳をする。このことは、ビジネスの世界でどこでも、ごく日常的に起きていることです。
世代間の違い
私が幼少の時を考えてみると、言い訳をすることは世間が余り評価しないことの範疇に入っていたはずです。
潔さが無い、日本人らしくない。言い訳をすると、人間としての品格を疑われるような雰囲気がありました。極論すれば、言い訳より謝罪が良い、文句の一つも言わず、他人の責任までもかぶって「男を上げる」という風潮があったことを覚えているのは、私だけでしょうか?
特に上下(かみしも)、上司・部下の関係の中では、言い訳がましいことを言うことを潔しとしなかったと記憶しています。
他方、現代の若者はどうでしょう。
彼らが育った環境は、私が青年時代の安保世代の環境とは格段と違います。教育現場の指導の仕方が明らかに変化しました。教育現場で生徒や保護者をお客様扱いする風潮が広がり、親のエゴ、ゴネ得が目立つようなことが発生していると、各種報道で知ることが多くなりました。
叱らない教育が主流となってきたのです。若い世代は、何かまずいことをした場合、事情をしっかり説明した方が良いという姿勢が根底にありそうです。
上司と部下の認識ギャップ
この時代のビジネスの世界で、上司が若い部下を指導する時に考えておかねばならないことは、若い世代の人が言い訳をするのは当然、という認識をもっていることです。時代の変化です。
何かの失敗に対して、上司の「何故、そうなったのだ?」という問いかけに部下が応えようとすると、「言い訳なんか、聞きたくない」「反省しろ」と、即部下の話を遮り、謝罪を求める雰囲気を上司が出す。
部下からすると、上司に理由を質問されたので、それに至った事実関係を応えようとしたのに「聞いてもらえない」、また、上司が理由を聞いておきながら自分が説明しようとすると「言い訳するな」と叱られるのを理不尽と取ります。
上司の世代では潔くない、見苦しいと取ることが、若者にとっては、育った環境背景から、そのような感受性が備わっていないのです。これが、認識ギャップです。部下からすれば、キチッと説明をするつもりなのに、それをいきなり遮られ怒鳴られたのでは、上司の態度に反発心を抱き、以後適切な説明をする気にはなりません。当然のことです。
双方の対応
どう対応すれば良いのでしょうか?
まず、上司が部下を分かってやることです。
上に述べた通り、育った環境とプロセスが違うので、若者は、何の事情説明もしないで謝罪する方がおかしいという思いが根底にあるのです。
この違いを上司たる年配者が理解して対応することです。若者は謝罪をしたくないのでなく、まずきちっと説明をしたいということです。説明のプロセスを経ていくことが若者には当たり前のことであることを、年配者の上司が理解し、その上で対応する努力が必要とされます。
次に、部下も上司を多少理解してやることです。
武士道の潔さ、不当な待遇にも耐えて生きる、理由の如何を問わず他人の責任までも自分が被っていくことで、その場を円満に収めることこそが「出来た人」との評価を得る風潮が、上司が育った時代にはあったことを若者が想像することです。ある時代までの風潮が日本人に根付き、これが、脈々と彼らの血の中に引き継がれていることを理解することです。若者サイドの想像努力も必要とされるのです。
ただし、自分の能力不足を言い訳で防衛的にカバーしようとする態度は、どの世代でも許されないことだということを、若者は肝に銘ずる必要もあります。
もともと日本人は、忍耐強さや克己心を貴ぶ傾向があります。文句も言わず真面目に仕事をする、「出来た人」という評価を得ることを尊重していた国民性があります。しかし今の時代は、言い訳せずに責任のみかぶっても、そのように評価してくれる人が傾向として少なくなりました。先ほどのような潔さの美学がどこかに消え失せたのも事実です。そこで、双方が相手のことを少しでも理解しようとする努力で認識ギャップを埋めることが、相互のコミュニケーションを良くすることに少なからず効果があると考えています。
普通のマネジャーが、優秀で評判の良いマネジャーになるには
最初から優秀との評判を得られるマネジャーは、限られた数しかいません。大多数の人々は、優秀なマネジャーになるためのいろいろな訓練や習慣づけを自らしています。
本日は、普通のマネジャーが、優秀で評判の良いマネジャーに転身するための日常の習慣づけの面から、皆様にヒントを述べます。ご参考になることを祈ります。
1.物事を単純化すること。
まず、複雑に考えないことです。複雑なことでも、意外に単純化したことの中に、エキスの部分が集約されています。
頭脳明晰な人ほど詳細なディテールに時間を使い、物事を複雑化してしまう傾向があります。理論物理学の世界では一分の矛盾もないことが不可欠で、ディテールまで詰めないとまずいでしょう。しかし、こと経営の世界では少し違います。本質は意外に単純な中に現れることを、私は自身の経営体験から知っています。
したがって頭脳明晰な人は、自分が複雑に考えることを好む性癖に早く気づいてそこから抜け出せば、違う世界が開かれます。また、これから優秀になろうとする人は、単純化を心がければ本質の世界が近づいて来ることに気づいてきます。
いずれにしろ、単純化することで本質的なことに時間を費やすことを、習慣化してください。
2.部下にやってもらうこと。
誰にでも、自分のやりたくないことが沢山あるはずです。数十年生きてきた過程で、得意、不得意がある程度明確になってきているからです。
人事考課等マネジャーの職位としてその職務を他の人に代替できないことはありますが、仕事の大部分は他の人に任せることが出来るはずです。一般的に不得意なことには、マネジャーとして極力時間をかけないで、部下にやってもらう方が自らにとっても得策です。かつ、部下も育ちます。
これは職務放棄ではありません。マネジャーとして、もっと大事なことが沢山あるはずです。それに注力するために、不得意なことは割愛し、ある意味で怠慢になって全体の効果を上げることを考えましょう。
職業軍人として名声を博したある将軍が、職業軍人として部下の将校を分類し、「勤勉で有能な将校は細部まで適切に考慮するので優秀な参謀にはなるが、最高責任者としては相応しくない。怠慢で有能な将校こそが最高責任者にふさわしい。」と、言っています。このことが、マネジャーにも当てはまると思います。自ら任せて怠慢になりましょう。
3.自由にやらせること。
マネジャーと部下の双方に必要なことは、誠実さとオープンさです。
私の『これからの課長の仕事』の中でも述べましたが、幼稚園で学んだこと、すなわち、友人として、正直に、信頼を持って、オープンに接することは、ビジネスの上でもたいへん重要なことです。
部下の想像力と創造力を開花させるには、この環境を前提として、本人のもてる能力や性格の部分を最大限稼働させ、それで成果の大半を生み出せるよう、上司として誠実に部下をサポートしなければなりません。トンガリ部分を大事にし、自由に仕事をさせることこそが、部下への最大のサポートの一つです。想像力と創造力を開花させる環境を与え、自由な活動をさせてください。
4.時間に余裕を持つこと。
部下に任せ、自由に仕事をさせると、任せた仕事のフォローは必要ですが、当然時間に余裕が出来るはずです。
その時間の使い方、これが分かれ目です。その時間を、とにかく考えることに使うことです。私はマネジメント上、行動力も大事にしますが、同様に、行動の前に考えることを重視しています。やみくもに行動を起こして、無意味な失敗をしないためです。
思考にじっくり時間を取る習慣にしてください。このことで一歩も二歩も先を読む力を養えます。
5.部下を親身になってケアーすること。
ビジネス上、人ほど大切な資源はありません。したがって、まず、その人間を理解するには、部下という人間の基本的なことを知ることから始まります。部下は自分に関心を持ってもらいたいと、誰でも思っていることです。
職場でその部下のケアーをし、時には背中を押してやるのはマネジャーしかいません。ケアーする、格好よく言えば、部下のよきメンターになることです。花形スポーツ選手が必ずしも良い監督ではないと言われることがあります。現実に、世間でそのようなことも起きていますが、メンターのやり方を知らないことが失敗の一因と考えられます。
部下のケアーにエネルギーを投入してください。方法を学んでください。数分だけでも良いです。毎日親身になって話しかけてください。
6.顧客は誰かを常に問うこと。
顧客は大事です。当然なことです。しかし、全ての顧客が大事だと思ってしまうのは、マネジメント上ある意味で不正解です。20:80の法則を思い起こしてください。この法則をマネジメント上実現するには、20の顧客の見極めが大事です。今の時点では、会社への貢献が少なくても、将来のことを考えて20の対象顧客の中に入れるべき顧客を、今いかに見極めるかです。ここに、経営者やマネジャーの洞察力が効いてきます。
理論や世の中の常識を、単純に鵜呑みにしないことです。「WHY」と常に疑問を持ち、沢山の顧客の中に、数は少ないが優良なものと多数の平凡なもの、一部は粗悪なものが隠れていることを知り、これを見極める力を養わねばなりません。これには、世の中の潮流を洞察した上で現場を知り尽くし、その顧客が将来いかに自社と関係していくのかの適正な判断をしなければなりません。
ご参考になりましたでしょうか。
ビジネスを始めるにあたって
久しぶりに会った私の友人から、新しいビジネスの開始にあたっての相談を受けました。彼らのビジネス機会を最大にするために、私はいろいろな考え方の中から次のようなアドバイス(詳細は彼らの立場を考えて省略)をし、彼らを激励しました。上手くビジネスが展開することを望みます。
1.ビジネスモデルと言えるものを持つこと
始めは幼稚そうに見えるものでも結構です。ただし、他と何か違うビジネスモデルを持つことが肝心です。そのビジネスモデルに気づくには、浮かぶアイデアなどをまず書き留めて、しばらく熟成させる必要があります。単なる思い付きに属するものが判明し、選別されるプロセスが必須だからです。
世の中、そう簡単に問屋が卸さない例えの通り、書き留めた中のほとんどが消える運命にあるかもしれません。選別され残ったものが、多分、あなたが本当にやりたいことになるかもしれません。問題は、選択して残ったビジネスモデルに現実性があるか否かです。これを第三者的な立場の人にチェックしてもらってください。先々のことを考えると、そこまで厳格に吟味する必要があります。
私も、最初に経営を任された時に、思いついた戦略的なアイデアを、とにかくPost-itに書き留めておきました。数週間してからそれを読み直すと、そのほとんどが消え失せたり、第三者との議論の過程で自分の考え方の甘さに気づいたりして、内容を修正することが多々ありました。こうして厳密に詰めた内容、換言すれば、信念を「6つの約束」として内外に明示し、背水の陣を敷いて作戦展開に没頭し成功した記憶があります。
2.ビジネスのロジックが明確であること
・誰(顧客の具体的なイメージ)を顧客に選ぶか、
・その顧客に何かを販売するか、
・その顧客に、他社の商品でなく、自社の商品を好んで選んでもらうためにどうするか。
・顧客に買い続けてもらえるためにどうするか。
すなわち、特定の顧客にとっての価値を高めるビジネスロジックを、これまた厳格に整理しなおすところから始めなければなりません。事業を始める時に、自社の論理で展開することが多く、顧客の価値が疎かになることが多いからです。
私の場合も自社が売りたい気持ちが前のめりになり、顧客がその商品やサービスの何に価値を求めているのかに関したロジックが曖昧だったことがありました。このような場合には、「こんな良い商品を、顧客が何故買わないのだろう?」と、顧客を責める気持ちが心の奥に出てきていました。
こうなると、論理がおかしくなりがちですが、この時に、ビジネスのロジックを整理しなおす必要性に気づいたのが、私にとって幸いでした。
3.競合が気づく前に一気に仕掛けること
普通のビジネスの世界では、新しいモデルが既存の業界を撃破するのに20年、30年以上かかると言われています。ネットの世界では多分これの半分以下の期間かもしれません。
いずれの分野にしろ、最初の時点では誰も新しいモデルに見向きもしない、気が付かないことが多いです。しかし、10年、若しくはネットの世界では3~5年も経過すると、新しいビジネスに一目も二目も置く、目ざとい競合がでてくるのが一般的と言われています。このように競合が気づく前に一気に仕掛けてください。
更に展開を積極的にしていくと、そのうち、競合がどうしようもない状態になったことに気づき始めます。こうなればしめたものです。競合は気づくのが遅すぎ、対応が後手に回った状態です。スピード感を持って一気にたたみかけることが重要です。
4.永くプレイヤーとして残れる持続性を持つこと
問題は、上記の1.や2.が満足していることを条件に、競合が対応に手をこまねいている期間まで、あなたの会社が生き残れるための投資負担に耐えうるか否かが、勝負の分かれ目です。つまり持続性です。
水圧で岩盤を破砕しながらガスを汚泥と一緒に抜き出すという技術開発に負うところ大なシェールガスの開発等もこの例です。もともとこの方法自体は新しくありません。1970年頃、私がアメリカにいた時、大学院の地質学の講義でシェールガスの開発技術のことをすでに話題にしていました。しかし、経済的に合理性が乏しかったため、、この当時は原油の開発のことが大きな話題を占めていました。
時が経過し、技術開発力のお蔭で、低コストで地中の岩の間からガスを抜き出すことができるようになりました。投資負担に耐えながら、持続性を持って地道に取り組んでいた人が成功したことになります。既存の原油開発の会社が、この新しいビジネスモデルの展開に気づいて中期的視点に立ち、本気で地道な対応を続けていない限り、ビジネス上後手になる憂き目が多いと考えます。
スケールや発想の大小がありますが、持続性を持った開発力がモノを言ったことになります。万一に備えて、普段から友軍を持っておくことです。このためにも、ビジネス上の信頼関係を周囲の人々と築いておく必要があります。友軍が投資負担に耐えうる力にもなりますが、加えて、簡単にあきらめない経営者の気力も問われます。
世の中チャンスだらけです。しっかりしたビジネスモデルとロジックを持ち、既存の分野に新機軸を持って密かに殴り込みをかける勇気があり、それを持続できるか否かが、経営者に問われることになります。
5.時には、相手に負けなければ良いとの柔軟な発想に切り替えること
既存のジャイアント企業を簡単には撃破できません。勝とう、勝とうという気持ちが前のめりになると、余り良い結果が出ないこともあります。精神的に視野狭窄に陥るからです。この場合には、勝たなくとも負けなければ良いくらいの柔軟な発想を時に持つと、多少気が楽になり発想が豊かにもなります。
全て上手くいくとは限りません。そのような時には、いろいろな情報を分析・駆使して、既存企業に勝てる分野を捜すか、勝てない相手とは正面戦争に入り込まないことです。消耗するだけの資源がなければ、これに挑むのは危険です。どの企業にも死角があります。勝てると思う分野に相手が準備できぬ間に、そこで勝負すればよいのです。
彼らには他にもいろいろなアドバイスをしましたが、今回は主要な点のみを書きました。
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