語り継ぐ経営
革新する
どの会社でも、トップが革新を唱えています。当然のことです。それ無くしてはその会社の存続が危うくなることもあるからです。ところが現実には、トップの言葉と裏腹に、そもそも革新が生まれる社内環境が整備されていないことが多いのです。これでは、トップの言葉が空を切る空しい状態になってしまいます。
そうならないためには何に留意すべきか、という視点から、本日は革新についてふれてみます。
私の経営体験から言えば、これに不可欠な要素は、
1.まず専門性です
今や、各分野が細分化されすぎるほど細分化が進んできました。細分化されたそれぞれの分野での専門性がますます要求されています。
従って、全くの素人が模倣品は別として革新的なことを突然打ち出すのは、万が一のレベルだと思います。それほどゼロからの革新は確率が低いことが多いからです。時に専門分野以外で突拍子もない革新的なことをする人がいますが、やはり、一つや二つの専門分野を持ち、それを生かして何か新しいことを思いつくのが一般的です。ある分野を徹底的に究明していくと、他の分野でもノウハウの活かし方のヒントが掴めるようです。
2.その上で、クリエイティブな思考を発揮させることです
革新にはクリエイティブな思考が不可欠です。この思考を発揮させるには、何といっても本人のモチベーションが重要です。実は、これが革新のための原動力だと言っても過言ではありません。外部的なモチベーションも重要ですが、その人の内部から湧きあがるモチベーションが、革新的な行為には一番効きます。しかも、経営サイドからの努力次第で、これを高められることが多いのです。
余裕と言うか遊び、情熱、目的意識など、経営サイドがコントロール可能なこともありますが、クリエイティビティーとの関連では何と言っても経営上の遊びがポイントです。社員が自由に考え、やりたいことをやれる環境、すなわち、経営上の遊びの部分を経営側が如何に用意するかです。情熱や目的意識があっても、その社員が義務感から、あるいは、仕事感からやるのでなく、本人が好きなことを自由に思考し実行できる遊び的な環境があることがクリエイティブな思考発揮に望ましいのです。
3.トンガリ社員を大事にする
イノベーションを起こす人の特徴は、彼らが常に好奇心旺盛であることです。何かに興味を覚えると、我を忘れて没頭するような資質の持ち主で、私の言葉で言えば、周囲の人と比較して、何かが「トンガッている」人です。
このようなタイプの人には周囲から誤解を受けやすい人が多いのですが、組織として革新の糸口を開く資質を持った人が多いと思います。物事を違う角度から観察でき、新しい切り口を発見できる人が多いのです。その人を誤解して組織から除外しようとすることで彼の好奇心を萎縮させるのでなく、温かく見守り好奇心を維持させて彼に次の挑戦の機会を与えることです。
4.関連付けの動きをサポートする
「トンガリ」人間が多数いたとしても、専門家がそれぞれ細分化され分離した状態では、新機軸を見出すのが難しくなっています。そこで、彼らを統合し、集団で「トンガリ」思考をサポートすることが必要です。関連付けをして考え、コラボレーションするのです。それぞれの専門家がお互いの専門分野を公開しながら、協力・サポートできる状態にすると、新しいことを見つけることにつながります。いろいろなものを関連付けて皆で全く新しいことを見つけることが出来るのです。
このためには、関連付けのコーディネートが出来る統合的思考をもった優秀な社員が必要となります。専門家のトンガリ部分を削がないで、且つ、専門家同士がけんかせず、集団で新しいことに挑める手綱さばきが上手い人です。「自分の会社にはそんな人はいない」と言いながらも、社内をよく捜せば、このような素質を持った人が数人は必ず見つかります。その人に権限と責任を持たせプロジェクトを任せることです。
5.企業風土です
制度があり、柔軟な思考の持ち主がいるとしても、その社員が何かにチャレンジでき、失敗してもまたトライできる風土、周囲もそれを暖かく見守れる企業風土が不可欠です。革新的なことに挑めば失敗はつきものです。それが一度の評価で封じ込められることなく、周囲の目も気にならない、企業全体がそのような人を応援する気風があると、社員も心置きなくチャレンジし、自分の会社に貢献しようとする意欲が湧きます。
以上、ご参考になりましたでしょうか?
燃え尽き症候群への対応
私はテレマーケティング事業の経営に長い間携わっていました。この事業は、人が財産であると同時に大きな生産手段である関係上、サービス提供に従事する社員の燃え尽き症候群は経営上大きな悩みでした。ここに燃え尽き症候群とは、気力が突然失せてしまい、仕事が手につかない状態を言います。
組織として何とかしなければと、関連分野の勉強をしました。また、専門家の意見を聞いて予防に努力をしました。この症候群に関する医学などの学術的視点はその分野の専門家に譲るとして、私の経験から言えることは、この症状は真面目な人に発生しやすいことです。働き過ぎで、何かにのめりこみやすい人が発症する傾向がありました。真面目で頑張っている人に限ってある日突然気力を失くし、仕事への熱意を失ってしまう傾向が多かったのです。
本日は、私が直接、間接体験した対応方法を数点述べさせていただきます。
社員が自分自身で努力すべきことももちろんありますが、経営側や上司が組織として配慮すべきことが大部分です。燃え尽き症候群は、個人の問題として簡単に片づけるには余りにも大きすぎる課題で、社会全体としての損失も大きすぎるというのが私の基本的な考え方です。
1.仕事に変化を持たせることです
燃え尽き症候群の事前予防のために、仕事に変化を持たせる配慮こそが上司として重要な仕事です。
いつも同じルーチンの仕事をしていると、誰でもこの症候群の入り口にいながら気づかないことが多いかもしれません。そうならないための予防としては、仕事に変化を持たせる工夫をすることです。
変化とは、ルーチンの仕事の流れを変えることです。他の仕事に配置転換する、仕事場の物理的環境を変えるなどいろいろな方法があります。そのことで本人は気分転換という大きな変化を手に入れられます。実際、この方法が事前防止のためにかなりの効果を上げることを体験しました。権限のある上司なら、努力如何で組織として予防が出来る策です。
2.人と話せる環境を用意することです
難しい仕事には、時に上手くいかない事態も発生します。この時、真面目な人には自分一人で一生懸命この事態を解決しようとする傾向があります。実は、この一人で悩むことが度を越すと、症候群の入り口に近づく人が出やすいのです。
そこで一つの方法として、他の人と話せる環境を作ってあげることです。
組織的な対応としては、真面目な人ほど一人で悩む傾向があることを事前に予知して、一定の人数に対して相談に乗ってもらえるメンター的な人をつけて対応する方法があります。メンター的な人には、相談がくるのを待っているような人でなく、場の雰囲気を察知して自らメンバーに声掛けが出来、普段から周囲への気配りが出来る能力のある人を選ぶべきです。
組織的な対応に無理がある場合は、その人のことを分かってくれ、何かの時に相談に乗ってくれる友達群を、候補として上司が常に頭の中で用意しておくのも方法です。上司は何かのサインを察知した時に友達群をすぐに動かし、彼が一人で悩まず人と話せる環境を整えてあげることができるのです。
3.褒めてあげることです
これも上司が意識すれば出来ることです。真面目な人に対して、彼のミスを叱り続けると、本人は自分を責めやすい。失地回復のために頑張りすぎて、ある日突然、いわゆる「プッツン」的現象を起こし、気力を失いやすいのです。
自分の強みに自信を持たせることです。何かが起こっても彼の普段の仕事振りを評価して、「これでよいんだよ!」と、その人を褒めることで上司がサポート出来ます。自信が本人の心の強さに通じます。
4.超多忙な状態を回避することです
これも真面目な人に起きやすいのです。言われた仕事を何としても自分で片づけたい一心で、超多忙をいとわない人が時にいます。組織に貢献したい一心での行為であったとしても、この状態を長く強いるのは、本人のためになりません。
組織としても不健康です。上司として、一刻も早く特定の人の超多忙さを解決しなければなりません。人材の補充です。組織的に他の人でも代替できるようなシステマティックな仕事のやり方を考えていくのも方法です。特定の仕事と特定の人がバンドルされた状態は、これも組織として不健康であるとの認識を持ち、解決のためのステップを即踏む必要があります。
5.組織としての気晴らし的遊びを持つことです
気晴らしや、息抜き、気分転換ができるよう仕事の中での変化を体験できるのが一番です。このためのイベントや祭りも大きな効果を上げます。
私も経営の一環として、組織としての「遊び」部分を重要視していました。合理主義の権化の視点からすると、これは問題かもしれません。しかし、人も組織も遊びが無いと長続きしません。また、「遊び」がないと全体の効率が中期的には落ちることになるのを体験しました。社員が普段のルーチンを忘れて騒げるイベントや環境を変えての朝礼等の工夫が、社員の気分を変えることにつながり、組織としての安定にもつながりました。
以上、組織の問題として対策を述べましたが、個人としても気分転換の方法を普段から考えておくことです。
瞑想で多忙から抜け出すのも方法です。個人的なことですが、自分自身もこれをやっていました。ある程度瞑想法が進むと、経営者としての心のわだかまりが消失して安堵感が深まっていく感じを個人的には体験しました。
また、一人で物事が完結するのでなく、沢山の人を巻き込んで行くことになるので、他の人のサポートに感謝をする気持ちを持つことも努めていました。自分が社長業の仕事を出来たのも、他の社員の助けがあってこそとの感謝の気持ちを持つ、この感謝の気持ちを心から感じつづけていました。
皆様、ご参考になりましたでしょうか?
会社や商品の差異化――「ウリ」を考える
真似をしたくない営業部長のセリフの一つは、「兎に角、x件回商しろ。名刺をx枚もらって来い。」の言葉と、これを実践に移した竹やり戦法的営業スタイルです。
皆様の周囲にはこのような営業部長がいないことを切に望みます。要するに、彼には「何故?」と自社の商品特徴を根源的に考える工夫が不足しているのです。
やるべきこと
その言葉を発する前に、会社の幹部たる営業部長としてやることがあるはずです。
それは、自社の営業の差異化を如何に考えるかに関係しています。別の言葉で言えば、自社の「ウリ」をどう考え、普段の営業に生かすかです。
自社の強みとなる「ウリ」を社内や部内で徹底的に深掘議論をし、顧客が選び購入する理由を探し出すことです。その「ウリ」を更に磨く工夫を、全社的に押しすすめることが営業部長の任務として先決です。自社の中・長期的成長につながる重要な事柄だからです。
「ウリ」の要因を探し出せば、顧客がその商品を選んでくれやすいので、冒頭の「兎に角、x件回商しろ。名刺をx枚もらって来い。」といった発言が、意味ある言葉として営業マンに伝わったはずです。自社の「ウリ」に気づいた営業マンが、顧客が「選ぶ理由」を得る立場から「伝える」ために回商し、名刺交換をすることにつながるからです。このことを失念している幹部がいるとすれば、部下に代わってその幹部に猛省をうながしたいです。
「ウリ」に関する質問
差異化の浸透度合いをみるために、「あなたの会社の『ウリ』を1分で述べてください」と、相談を受けた会社の営業マンに、私は必ず問うことにしています。これに即答できないのは、営業マンが自社の商品の「ウリ」を本当の物と心底思っていないか、若しくは、営業マン自身に訓練不足がある場合に発生します。
前者の場合は社内の議論が深まっていない証左で、より深刻です。結局、営業マンが自社の「ウリ」を自信を持って説明できないので、顧客獲得にあたり価格競争に陥る憂き目に会いやすくなります。
「ウリ」の深掘
それでは、「ウリ」をどう見つければ良いのでしょうか。負けない商品、サービス、技術などをどう見つけることが出来るのでしょうか。 それは、自社の強みにテーマを絞って社内で徹底的に議論する中から探し出せます。
他社に負けないNo.1商品や技術、どこにもない地域初、日本初のOnly One商品や技術を自社の中で捜索してみることです。私の経営体験では、どの会社でも必ずこれを見つけだすことが出来るはずです。普段はマンネリ的視点で内部の人が観るので、「どうせ自社には・・・」となりやすいのですが、「ウリ」は意外なところにあるのです。
それは、ある部分に関しての比類ない技術力かもしれません。心が魅かれる感動的なストーリーを体現できるモーチベションプロセスかもしれません。社内に浸透している誇り高き「理念、哲学」かもしれません。これをもとにした「企業風土・文化」かもしれません。
なんでもよいのです。議論を重ねていくと、意外や意外、「ウリ」の候補群を見つけだすことが出来ます。その中からまず二つくらいに絞り、それをある視点でマトリックス分析し、最後の一つに絞り込むのです。ここに深堀された「ウリ」を見つけだすことが出来ます。
一般的なコンサルテーションでは、その会社の弱点に光を当てやすいのですが、私のアプローチは逆です。強みを更に強くすることを薦めています。特に、中小の企業では限りある資源で経営していますので、弱点だらけのはずです。その中でも強みを探し出し、これで勝負を賭ける。そのために強みを更に強化して自社の「ウリ」につなげることで、逆に弱みの一部をカバーできることがあるからです。
「伝える」ための工夫
「ウリ」は顧客に広く伝えて初めて選んでもらえるものです。従って、顧客に選んでもらえるためには何かの工夫が必要となります。特に、会社を創業した最初の頃は、このための工夫が大事です。
それは、自社の「ウリ」の商品や機能を、
・ある一人の実在する人を思い浮かべ、
・その人がその商品をどう具体的に利用するかをイメージし、
・その人がその商品のどこをどう評価するのかを徹底的に解析する、
ところから始めなければなりません。
このようにピンポイントで考察しないと、「伝える」イメージが絞れず、まず上手く伝わらないからです。漠然と顧客をイメージしたのでは、「ウリ」の切り口自体が迫力不足になるからです。
以上に述べたことに関連する事象は、いろいろなところで発生しているはずです。皆様、自らの経営、マネジメントを今一度振り返ってみてはどうでしょうか。自社の強みや差異化に新たな気づきが生まれ、そのことで、皆様のこれまでの経営やマネジメントに変化をもたらします。
顧客サービスに関わる原則の理解(2)
前回の続きです。
3.すべての部分で最高のサービスを提供することは、経営的に無理があると理解すること
経済原則上、全ての部分で最高のサービスを提供できる会社は、世界を見渡してもごく限られています。私も経営者の頃は、可能な限りすべての部分で最高のサービスを提供しようと努力をしましたが、経済原則上無理がありました。それでも、顧客が一番重視していると思える部分のサービスの質は、コストがかかっても競合より徹底して高める努力をしてきました。他方、顧客がそれほどまでと思っていない部分においては、競合と同位の質を維持していくのが、経営上現実的解決策でした。
例えば、銀行では支店での営業時間の長さに重点を置く経営法方針を貫くとすれば、一部のコストを金利で吸収していかなければ、経営は成り立ちません。もし、銀行の窓口接客の人材の質の点を重視する経営方針を貫くとすれば、窓口現場人材のコミュニケーション能力、特に共感性に徹底的に重点を置くことに経営資源を投資することになります。
要は、最高のサービスをすべての部分で提供することが経営上厳しければ、最高のサービスを提供する部分をどこに置くかのトレードオフを、経営上事前に決定しておくことです。
4.サービスのコストを、誰かが負担しなければならないこと
事業を始めるかぎり、顧客へのサービスは継続しなければなりません。短期的に、サービスを充実することは可能です。顧客獲得のキャンペーンがこの例ですが、そのキャンペーンが終了した途端、顧客へのサービスのレベルが激変した会社の例を沢山見てきました。
そうならないため、サービスは継続されて初めて意味があることを皆が理解した上、サービスの継続のために予算自体を安定的に賄うメカニズムが仕組みの中に組み込まれなければなりません。
例えば、損害保険会社の例では、いつ発生するかわからない事故が起きた時にいち早く現場に赴くサービス体制を、関連する会社を巻き込んで構築しておくことに投資をすることになります。内部留保で賄えなければ、このことでかかるコストの一部を保険の料率に一部反映させ、消費者がコストの一部を負担する場合も発生します。この原則を、サービスの提供側の身ならず、消費者も理解しなければなりません。
5.顧客の訓練、顧客のマネジメントが重要であること
飛行機の搭乗で皆様も経験されていると思いますが、一人の顧客の遅れで全員が迷惑を蒙ることに顧客をどう訓練するかです。クイックランチの店で一人のランチ選択の遅れが、行列の後ろの人に影響を与えるとするとすれば、顧客自身を指導訓練する必要があります。この例だと、事前に、搭乗時間を守らせるいろいろな指導、顧客がメニューを選択しやすくする指導など、いろいろなマネジメントの工夫があると思います。
クレームが重大な事件に発展するのも、顧客の心理的なクセから複雑になるものは例外として、その会社が普段から顧客との良いコミュニケーションを保ち、彼らをどう訓練・マネジメントできているかに相当かかっています。これで大部分は円満に解決します。
6.顧客との長い付き合いを前提とすること
私がサービス会社の経営を託されていた頃、ある会社の経営にどうしても理解できないことがありました。
この会社では、新規の顧客獲得に沢山の投資をする割に、そこで獲得した顧客が去るのを普通の出来事のごとく、その会社の経営者が見做しているように私には映りました。データベースのメインテナンスが甘く、結果としてそうならざるを得ないところもあったかもしれません。しかし、これは、そこの経営者が経営計算をしてシステム投資と顧客獲得でのキャンペーンの投資の効果比較をすれば、すぐに分かるはずです。にもかかわらずこの会社は、事業の継続のために当然また新たな顧客獲得キャンペーンを実施する羽目になり、この連続でした。このことがどうしても私には理解不能でした。
顧客との長い付き合いに費やすコストが新規顧客獲得への投資の三分の一以下だと考えます。その顧客のファン化が出来れば収益に更に大きな貢献をし、この比率が更に改善することにもなります。コストの観点のみならず、獲得した顧客を垂れ流し状態にして、毎度新規顧客獲得のキャンペーンをやる現場の社員のモーチベーションこそが心配になりました。
こう記載すると、この原則を良く理解していると豪語する経営者が多いのですが、実態は、会社機能が細分化されデータベースに統一性が無く、現場部門間の垣根が存在することで、これに類似した事態が発生していることが多いのです。結果として、一人の顧客への継続的なサービスの提供が妨げられている現実が多くみられるのが残念です。
顧客との長い付き合いを維持するためにどうしたら良いのかを今一度考え直し、具体策を実践してみるべき時期と考えます。
以上、顧客サービスに関わる原則を6点紹介しました。
顧客サービスに関わる原則の理解(1)
先進国と言われる国々では最近、GDPに占めるサービス産業の比率が増加傾向にあります。ある報告によれば、アメリカでは広い意味でのサービス産業が80%を占めていると言われるほどです。
サービス産業の定義自体に不明確なところがありますが、今後、日本でもGDPに占めるサービス産業の比率が増大する傾向にあるのは確実です。今回は、顧客との接点を抜きにしては考えられないこのサービス産業の中で、顧客サービスについてふれてみます。
私もサービス産業の当事者の一人でした。過去にサービス関係の経営に関わっていた経験から、良いサービスを提供するには、ある種の原則があること、しかもこのことを社員全員が認識しなければならないことが良く分かりました。また、サービスを提供する側、受ける側の双方がこのことを理解して初めて良いサービスが成立することも分かりました。
サービス関連のビジネスが重視される中で、顧客サービスに関わる原則を以下紹介します。
1.エンド・ユーザーはサービスも含めた全体に対して商品・製品を評価する傾向があること
自社の商品自体の品質の優秀さのみを誇る時代は過ぎました。消費者は商品・製品自体の品質のみならず、消費者がそれを利用するにあたって関係するサービスも含めた、全体を評価している傾向が大です。
最終消費者に自社の商品・製品が届くまで、いろいろなサービスが関与するのが現実です。顧客サービス自体をメインの営業商品としていた会社の経営を託されていた私は、サービスも含めた全体のことで気づくことが多くありました。
メーカーの経営者に多いのが、自社の商品・製品に絶対的な信頼を置くことです。それは良いとしても、それに付随するサービスの部分を軽視する姿勢が言葉の端々に出てくることでした。消費者はメーカーの名前を買うのでなく、それを利用してどれだけ満足するかに評価ポイントを置いていることを忘れがちになっていることです。
何かトラブルが生じた時に、その企業がどう迅速に対応してくれるか、クレームに対して、いかに消費者の立場を尊重して対応してくれるか等の、総合的なポイントを消費者は重視しています。これらのことが、彼らの友人同士での口コミに影響を及ぼし、結局その企業のブランドを形成していくことになります。
したがって、商品・製品が生まれて、顧客の利用に供する時までの全体のシーンに、企業がいかに知恵をめぐらせ配慮するかで、顧客の評価が激変してくるという原則を、サービスの提供側がまず理解しなければなりません。
2.全体のサービス・デザインニング(設計すること)がキーであること
上記の関連で言えば、サービスも含めた全体の設計、特に、サービス・デザインニングが重要になります。サービス全体の設計です。
最終的に人が関与するとすれば、その人、顧客と接点を持つ最前線の人々の意欲や能力をどう高めるかの仕組み・仕掛けがデザインの中に組み込まれていることが肝要です。
一般にデザインと言うと、どうしても人間を排除したシステムが優先されますが、私は、人間のモラールを除くデザインニングはほとんど無意味だと思うほど、人が関与する部分を重視しています。
人のモラールを高める一つの方法として、顧客と接点を持つ現場に最大級の権限を付与して、現場社員の判断と裁量を重視することで彼らの意欲を高めることを薦めたいです。自由裁量を与えられた人々の行動パターンをつぶさに観察していくと、彼らの頭の中に知恵のカタマリがあることに気づきます。この知恵を自由に開花させる環境を与えることが、いかに企業の生産性に関係するかが良く分かりました。
ただしこの時には、裁量を与えられた現場からの報告が詳細でかつ的を射たものになるような報告書の形態を、デザイニングの中でしっかり考えること、および、報告書に基づいた会社としての迅速な対応の仕組みも、設計(サービスデザイン)の段階でしっかり押さえておく必要があります。
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