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語り継ぐ経営

人材の育成

Posted on 2014-11-20

 この数週間、海外で遊んだり、その後すぐ出雲の田舎に帰り畑仕事を手伝ったりと忙しかったので、原稿が間に合わず先週は休稿としました。連絡が遅くなり申し訳ありませんでした。

 

 本日は人材の育成について述べさせていただきます。

 つい先日も、ある会社の社長から人材の育成につての悩みを聞きました。何処の会社でも人材の育成は、企業の中・長期的な成長にとって番重要な課題の一つです。この資源なくして会社の成長は望めないからです。

 

部下育成は上司の責任

 私の経営体験から言えば、育成には経営者や上司の責任が大です。

 極論すれば、部下が育っていないのは、経営者も含めた上司に部下を育てる意思が不足しているか、その意思があっても現実に育てることを実践していないからだと考えます。

 私の場合、上司自身の分身を何人育てたかをポイントにして、これを評価の物差しの一つにしていました。逆に言えば、分身が育ってからでないとその人の昇進をためらうことが多くありました。

 この方法を取る限り、ある人の昇進に伴う混乱を回避でき、組織に継続性が保たれるメリットがありました。地道な努力が必要とされます。出来合いの人間を他社から採用しあるポジションに据えて、その任務が終わったらポイッと捨てるような経営のやり方が最近一部で見られるようになりましたが、個人的には大きな違和感を持ちます。

 

上司が伝承する

 どう部下を育てるかです。

 基本的に、人材教育は価値観の伝承だと考えます。その会社にとって最も重視したい価値観が何かを経営層が決め、それを全社員が順守すべきこととして実践し、伝承しなければなりません。

 私の場合、この価値観に「クオリティー」を置きました。その内容は今回省きますが、全社員が一番大事にすべきこと、また、部下に「クオリティーの視点でのサービスの見方、物の考え方」を「何故それが大切か」というところから現場でキチッと教え、伝承することにしていました。「見える化」のために、絵入りの小冊子にもして伝承に役立てました。

 この価値観に一切のブレを生じさせず、約18年間経営の軸を守ってきました。人材の育成とは、このような価値観の伝承スピードではないかと、最近つくづく思います。単なるハウツーでなく、視点、何故かなどの本質的なところの価値観を次の人に深く伝承していくことだと確信しています。

 

伝承できる力を評価

 従って、人事の評価に関しても、コンセプチュアルスキル(課題設定能力)、ミッションの実践力など以外に、当然のことながら、「XXナイズド・スキル」と称して、会社が目指す価値観の伝承を通じて部下の育成にどれだけ努力したかを入れ、上位に上がるに従ってこの比率を大きくしていました。どんなに優秀でも、このスキルが欠落した人には多くの部下をもつポジションは与えませんでした。

 このことは、部下に率先垂範、「俺の背中を見てろ!」と言えるくらい人の信頼関係をつくるのにも役に立つものでした。また、最強の現場力をつくるのにも役立ちました。これからのビジネスリーダーは、このような見方や考え方を持った分身たる社員を何名育成できるかではないでしょうか。

 皆様の参考になれば幸いです。

 

戦略というストーリー(物語)の描き方

Posted on 2014-11-06

 私は『これからの社長の仕事』(2012年、ネットスクール出版)の中で「農耕型企業風土」づくりの「18の定石」についてふれました。これらの定石を踏むことで、目指す企業風土づくりをより早く実現させ企業の成長を早めるためです。

 この定石の13番目に、「仕事にストーリー(物語)性をもたせ、常にイノベション・マインドをつくる」ことを述べています。経営という仕事にストーリー(物語)、しかもイノベーティブなストーリー(物語)を描くことの重要性を述べた部分です。ある会社の経営を託されていた時、経営戦略策定の仕事で実際にこの定石を適応し成果をあげた実績をもとに述べたものです。

 「定石13」を強調した背景は、現状の延長線上で未来を予測して戦略を練り、結果として失敗された経営者を沢山見てきたこと、更に、「定石13」のステップを踏まない経営戦略を策定したら、私自身も競合に負けて失敗し社員が路頭に迷う確率が高いと踏んでいたからです。

 未来を同一線上に予測するのでなく変化や革新を自ら想像し、想像したことをまずキチッと物語として描いて、それにマッチした戦略を策定・展開するのが成功のカギではないかと思っていました。想像し洞察したことの全容を経営戦略として明快にストーリー(物語)として描き、戦術として計画的に遂行することが成功の近道だと感じていました。

 ストーリー(物語)にするまでの考え方を現時点で整理してみると、私の場合、次のようなステップを踏んでいたことが分かります。これを、通常、無意識にやっていることもあります。しかし、再度、意識して皆様も確認してみてはいかがでしょうか。私の経験が参考になれば幸いです。

 

1.まず、課題をつまびらかにし、重点的に取り組む課題を設定しました。

 もちろん、業種や、事業の発展段階で課題に違いがあります。

 ある会社では、顧客が偏りすぎている、エンドの顧客が見えていない、世の中の新メディアや技術に対応しきれていない、人材の育成ができていない、革新した新しい収益モデルが見つからないなど、いろいろな課題があるかもしれません。

 私が経営責任を負った頃のその会社は、難問山済みでありながら課題がつまびらかにされておらず、整理しきれていない状態でした。そんな中でも私は、重点的に取り組むべき課題を設定しました。今流に言えば、新しい収益モデルを見つけることに設定したのです。既存のモデルを継続していったのでは、社員を含めて全員が努力したなりの成果が期待できないと読んだからです。

 

2.事業展開に必要な事実情報の収集に努めました。

 当時、自ら関係していた会社の事業を取り巻く環境の中で、世の中で発生している政治、経済、社会などの事実情報からトレンドを推量する策を講じました。あくまで推量で、最善の情報から将来の事業環境を想像する域を超えるものではありませんでした。

 しかし、それでも幸いなことに、他の競合会社も新しい収益モデルを見つけるまでには至っていないと、私には映りました。ほとんどの会社が、旧態依然としたモデルの延長線上でしか将来を予測していないと、私は観たのです。「これならこの分野での新参者の私でも勝負できる」と、確信めいたものが心に湧いたことを記憶しています。

 

3.事業の先行きを支配していそうなドライビングフォース(原動力)を見つける努力をしました。

 1987年頃は、消費者の嗜好・行動パターンの変化と技術革新などが会社の成長に大きな影響を及ぼす現象が出てきて、消費者の要求が高度化してきていました。個別対応(One-to-one対応)のサービスを実現できそうな技術革新の波も、我々の事業分野にも近づいてきていました。

 このことを背景に、常日頃重要と考えていた個別対応のコンセプトの具体化が技術革新の恩恵の取り込みなどで可能ではないかと読んだのです。これらのドライビングフォース(原動力)が新しい収益モデルと課題解決へつながるのではないかと認識したのです。

 

4.将来を左右する「分岐点」の要因を見つける努力をしました。

 皆で議論すると、上記3.で述べたドライビングフォースは大小、強弱合わせて沢山出てきました。しかし、欲張って作戦が散漫にならないように、挙がったドライビングフォースの中から最重要な少数に限定したのです。

 一つは、クォリティーの再定義に基づくサービスの個別対応、もう一つは、サービス商品のコモディティー化を回避しながら、サービス分野に工場的生産方法を導入することでした。本コラムの性格上詳細は省きますが、この二軸の作戦を会社発展の「分岐点」と見做して、一生懸命に戦略という物語を描くことに取り組みました。

 

5.成功するストーリー(物語)を描く段階に入りました。

 いわゆる戦略と言われるものですが、私の場合、これを「中期計画」と称していました。

 上記の二軸を縦横にとり、それをもとにしてマトリックスの中で長短を考え、強さを更に強化する策を練ったのです。今見直してみても、広い分野で将来を真剣に予測して物語を描いています。戦略ですので、いろいろな項目をめぐらしていましたが、あくまで経営戦略の重点は二軸に於いていました。

 

6.二軸を中心とした戦略を戦術展開におろしていきました。

 各年度の計画の中で戦術を展開する時、次のことに留意したのです。具体的なイメージが全社員に湧き、自分がその実行の主役なのだとおもえるストーリー化を出来る限り目指すことでした。

 描いていく最中に気づいたのは、短期の計画なので、二軸の戦略を上手く肉付けしないと、総論倒れに終わってしまうリスクでした。さらに短期の計画内容に肉付けすることが、二軸の戦略自体が本当に重点課題を解決するものになるかのチェック機能にもなることでした。

 すなわち、上記の1~6がストーリー(物語)全体として矛盾なく遂行できるものかが、戦術展開に具体的におろして初めて本当に明確になったことです。

 

 今、経営に携わっておられる方々は、上記のステップを参考にして、是非自社の将来の全体像たる絵を再度描きなおしてみてはいかがでしょうか。この時、私が述べた思考のステップが、参考になれば幸いです。

 いろいろな分野で成熟段階に来たとの言葉をよく聞きます。しかし、自社の事業周辺の将来を洞察して競合会社とは違った二軸の置き直し方ができるか否かで、新参者にも入り込める余地が十分ありすぎるほど、実は成熟していないのではないでしょうか?

 

 

センターの社員をやる気にさせる(2)

Posted on 2014-10-23

前回の続きです。

 

4.定石18 力量を発揮する「場」をつくる

 社員は皆、自分の実力をどこかで発揮したいと思っています。そのためには具体的な「場」が必要です。

 長と名のつく人が、前回述べた対話で部下を知ることになったとしても、部下が自己の力を発揮できる「場」を提供してあげなければ部下の喜びは半分です。しかし、この「場」が意外に少ないことを長たる人は認識すべきです。

 組織内でのフォーマルな「場」は期の始めや中間期の組織編成でかなり決まってしまいます。しかし、その制限の中でも長たる人は部下の力量を発揮させるあらゆる工夫をしなければならない立場にいます。従って、日常定められた「場」のみならず、インフォーマルな「場」でも結構ですのでとにかく「場」を用意してください。この「場」で周囲が意外と思う力量を発揮する人も出てきて、その人を見る周囲の眼も変わってきます。それがきっかけで、チームとして仕事のやり方が変わってくることがあります。

 小さなことですが、これらの積み重ねで初めてマネジメントが上手くなることにつながるのです。このことを理解しながら、長は部下が踊る「場」づくりに邁進すると、センター改善のきっかけが見えてきます。

 

5.定石7 喜びも苦しみも分かち合う「湿り気のある関係」をつくる

 センターの社員は大半がチームで仕事をしています。入社して一人前になるために、チームの上司から沢山の指導を受けます。自分の実力はチームの力を借りて初めて発揮できるようになります。

 また、長は指導した部下が成長していく姿を見て嬉しく思います。逆に指導した社員が自分のグループから抜かれていくと思う心理が蔓延しているとしたら、そのセンターは、本当の意味で助けあうチーム環境がまだ出来ていない証左です。

 改善は可能です。長たる者は、私が本の中で紹介した「湿り気のある関係」を造る努力をされることを薦めます。最初は孤軍奮闘です。しかし、このことに賛同する同志が増えることで、センターのいろいろな改革に勢いが増してきます。同じ船に乗っている感覚を社員が肌で感じるようになってきます。センターのみならず会社全体にとっても、中・長期的な利益の増大に不可欠な定石だと考えます。

 

6.入り口をしっかりすること

 当たり前のこととして、私の経営の定石の中には明示していませんが、人の採用の入り口をしっかりすることです。以後の社内教育研修で成長できる伸びしろも、人によって違いがあります。出来れば伸びしろが大きい人を採用したいものです。しっかりした人材、会社の事業内容に即した人材を入口の採用のところで見極めることです。

 人事採用にピカ一の担当者を置くのも方法です。最初の接点を持つのは、社長ではありません。採用される候補者が会社と最初のフェーストゥーフェースの接点を持つ相手は採用担当者です。採用担当者が会社のイメージを植え付けることになるのです。

 

7.定石7 社員の個性を大事にする

 社員個々人の個性を把握して、彼らが育つ環境をつくり指導することです。

 人により個性に特徴があります。学生時代の体験やその人の就業経験などから皆、違う個性を持っています。その個性は、その人が育つスタイルにも反映します。人事を担当する人に聞くと良く分かりますが、行動型や考え込む型などいろいろな人がいます。私が経営していた時も、その社員の型の特徴を把握しながら人事配置や担当を決めていました。

 この特徴を把握して、その部下が一番ヤル気を起こすスタイルを上司は用意してやるべきです。行動型の社員には、とにかく彼の欲することをすぐにもチャレンジできる出番の環境を与えることです。考え込む型の社員には、彼が考える時間と材料を沢山与えると、彼のモーチベーションが上がります。また、一つのことを集中して考え込むほどではないが、周囲や全体の観察をしないと真剣に仕事に着手しないタイプの社員もいます。このような社員には、全体像を明示して、彼が興味を覚える切り口分野での環境を用意し指導することを薦めます。このように個性を伸ばし、それを発揮させる「場」を用意するにも前回の3で述べた通り、「対話をする」という忍耐強い努力がスタートです。

 以上、ご参考になったでしょうか。

 

センターの社員をやる気にさせる(1)

Posted on 2014-10-16

 先般、ある会社のコールセンターの視察に行きました。センターの改善が主たる目的です。このセンターを改善するには、いろいろなことが必要であることが分かりました。予想通りその中で、まず現場の長の立場の人に留意してもらいたいことが鮮明に浮き彫りになりました。良く考えてみると、これらのほとんどは私が『これからの社長の仕事』の中で「農耕型企業風土造りで企業を中・長期的に発展」させるための「経営定石」に包含されていることでした。

人の上に立つ人には、共通して会得していなければならないマネジメントのイロハがあることを物語っています。

 本日は、現場の「やる気」を引き出すために、センターの長たる人がやるべきことの一部を、経営の定石との関連で述べさせていただきます。なを、定石の番号は私が本の中で付番したものです。

 

1.定石4 経営理念を明確に打ち出す

 現場の長はトップ経営者ではありません。しかし、沢山の社員の上司という立場にいます。そのセンターが何を目指しているのかを、彼の立場で現場集団に明確に示さなければなりません。

 すなわち、現場の長は目指す目標を定め、現場の社員に分かりやすい言葉で、その内容を説明開示しなければなりません。これは当たり前のことに思えますが、意外とこの最初の所が不明瞭になっていることが多いのです。特に、急成長したセンターなど、理念の整理が追いついていないところで起きやすいことです。

 目指す目標が明確に打ち出せていないと、現場の社員はそれぞれ自分が何を目指したら会社から評価されるのか、上司が自分に何を期待しているのかが分かりません。結果として、上司の指示と部下の行動に大きなズレが生じて施策が後手に回り、センターのモラール向上が期待できないことになります。

 

2.定石15 意識を変える

 長たる者は、現場に変化をもたらし、現場の社員の意識を変えることをすべきです。これはあらゆる組織に関して言えることだと考えます。現場のセンターでも、小さい規模が急激に大きくなった場合、社員や現場の責任者の意識がセンターサイズの拡大に追いついていけない現象が発生することがあります。特に、意識を変えるべき立場の長自身が変化に追いついていない場合は、事態が深刻です。詳細は省きますが、他の解決策を同時並行的に推進しないと混乱の解決に時間がかかりすぎることを付記しておきます。

 長も社員も毎日ルーチンの同じような仕事をしていると、一見みえる場合が多いのですが、実は顧客の要望は日々変わってきて、革新を求めていることに気づいていないのです。そのことに気づくのが遅れて、センター全体がマンネリ状態で走っていることによく出くわします。このようなセンターでは、意識を変えるきっかけづくりより、当面の顧客の要望対応に追われて混乱をきたし、社員からいろいろな不協和音が聞こえてくる事態になります。

 上から下までの意識を変えるきっかけが必要となりますが、一番の責任は長と名のつく人にあります。上記に記載した通り明確なセンター目標の明示を前提として、成果を上げた社員を褒めて認めてあげる、部下の仕事の内容を少し変えて、本人がより上位の仕事を要請されるようになったとの意識を持たせるのも方法です。いずれにしろ、単なる言葉のみでなく具体的な業務を通じて意識改革を図らねばなりません。

 

3.定石8 対話をする

 対話をすることは相手の考え方をしっかり把握することに通じます。一人一人の部下の特徴、強みを知らない限り、更に上位の仕事を任せる具体的イメージが長たる人に湧きません。

 上手く運営されていないセンターの最大の特徴は、上司が部下のことを意外に知らないことです。風評などで知ったつもりになっていることが多いのです。これでは、それぞれの社員が本当は何を目指して仕事をしているのか分からないので、センターの舵を取るのが難しくなってきます。

 対話には時間がかかり、しかも聞くことの忍耐も必要とします。上司が部下個人の心の中にまで入り込むことは戒めなければなりませんが、まず、その人を「知ること」です。個性も違います。何を褒めたらその人の琴線に触れるかも個人によって違います。

 まず、対話を通じて「知ること」で、長たる人に、部下をどのような指導をしたら良いかのヒントが湧いてきます。

 

企業の活動場所の選択

Posted on 2014-10-09

 日本企業が事業展開や営業活動をするにあたり、主たる舞台を国内にするか海外にも広げるかの選択についてはいろいろな議論があります。

 傾向としてグローバル化すべしとの意見が多くなってきています。他方、いろいろな事情でグローバル化の進展がはかばかしくなく、国内へ活動の一部を移転すべしとの意見もあります。

 私は、事業活動の舞台については、その企業の目的遂行に照らして最善の選択をすべきだと考えています。

 P.ドラッカー氏を持ち出すまでもなく、全ての企業は顧客の維持開拓をしなければなりません。このことは、民間企業にとって利益を出しつづけねばならないことと深く関係します。顧客開拓を進め優良な顧客を維持していくことで、結果としてその企業が中・長期的に利益を出すことになるからです。

 従って、事業や営業活動の舞台の選択にあたってのポイントは、どうやって利益を出せるかにかかっています。

 

1.まず、顧客を開拓するために、マーケットをどこに探すか

 自社の事業特徴に照らして、今後も国内で大きなマーケットが期待されるなら、その企業は国内で活躍できます。この場合、海外に進出することで新たなリスクを負う必要は無いかもしれません。新興国等海外の市場は成長が著しいことも事実ですが、国内で経験するものとは違うリスクに会うことが多く見られるからです。

 このように、あくまで自社の顧客開拓との関連で判断すべきです。それにも拘わらず、一義的に日本企業はグローバル化をすべしとの議論には賛同できません。

 

2.次に、その選択がトータルなコストの削減につながるか

 中・長期的に利益を確保するため、生産手段に関わるコストを下げるための経営努力をするのは当然のことです。材料の仕入れコスト、人件費の削減など、その企業のコストに占める割合が多い費目に注目し、これを下げるのは経営の責任です。

 しかし、考えなければならないのは、そのような個別のコスト費目の削減がトータルなコストの削減につながっているか否かです。ご存じの通り、顧客に販売する商品やサービスが顧客に届くまでにはいろいろなビジネスシーンが生じます。このシーンとの関連で言えば、顧客への商品などの提供が完了するまでのサービス・デザイニングの考え方を私は重視しています。サービスはその利用者の立場に立ってデザインされるべきだからです。顧客が利用に供するために、すべての個別の部分が繋がっており、且つ適正にデザインされて始めて顧客の評価が得られ、企業の利益に資することになると私は考えています。クォリティーも含めた全体が満足いくものでなければ、顧客は選択してくれません。ノミナルな個別費目がいくら安くても、サービスが繋がらず、クォリティーを加味した全体に顧客が満足していないのであれば、生産性を総合すると、それは低いはずです。結果として、トータルなコストの削減には至らないことになります。最近、一部の生産を海外の工場から国内にシフトする企業が増えてきたのは、この点にも一因があるものと考えます。留意したい点です。

 

3.村的なメンタリティーを全て排除してしまうか

 日本企業は村的なメンタリティーをすべて排除したほうが良いと主張される方もいます。また、村的発想を全て排除しなければ海外での競争に負けてしまうと主張する人もいます。果たして本当にそうでしょうか?

 悪い意味での排除の論理を前面に出した村的メンタリティーは、百害あって一利なしかもしれません。しかし、私は、村の特徴である、助け合うメンタリティーと風土は残すべきと考えています。日本人が誇りとする、助け合い、周囲との調和を保つ風土は、長い目で見れば国内外を問わず企業の利益を創出するためにメリットがあると考えるからです。詳細は、『これからの課長の仕事』(ネットスクール出版)に譲りますが、日本的経営の特徴とされる村的な発想やメンタリティーも十分意義があるものと考えます。

 

4.以上のことを前提として、いずれの選択をするにしても、企業が取り組むべき中心課題は、国際的に活躍できる自律した人材の育成です

 このため言語の課題もクリアすべきですが、やはりその人材の個性を重視して、しかもどこの市場でも活躍できる自律的人材の育成に主眼を置くべきです。何処にいようと自分が関与している事業への貢献は当然のこととして、それに加えて、会社全体への貢献に意欲を燃やせる人材の育成です。

 働く社員は、会社へのロイヤルティーより自分の関与している事業へのロイヤルティーを重視すべきだという考え方もあります。身近なことに全精力を注ぐのは当然のことです。しかし、それが極端になりすぎると、発生する事態からのリスクを、私は危惧します。会社や周囲の同僚よりも、自分の昇進のみを最優先し、結果として、自分のみに光が当たれば良いとの発想をする人材が増えかねないことです。ほとんどの企業では、人材層の点でも20:80の論理が当たると思います。この論理の環境下で先ほどの極端な発想をする人が増えると、20に該当する人は良いとして、80の人をどうするかの解決にはならないからです。むしろ、この80の人材層のレベルアップ、人材教育こそ重要ではないかと考えます。

しかも、人材教育の内容としては、個性豊かな自律的な人をつくることです。海外だろうが国内だろうが、今一番欠けているのは、人材の個性だと思うからです。加えて、まず日本のことを、日本の良い所を徹底的に学ぶことです。言語を先行させるより、日本の伝統、文化、技術背景、歴史等、日本を代表して物が言えるくらいの、人間としての教養と力量を備える人材教育が優先されるべきだと思います。深いレベルで相手の国との違いを明確化でき、且つ、日本的経営の良い部分を相手の国に納得して移植させる力となるはずです。単なるスキルの習得のみでは、海外だろうが国内だろうが、沢山の人の上に立つリーダーとなるのは難しいと考えるからです。

以上、ご参考になったら幸いです。