語り継ぐ経営
第208回 今、リーダーに求められている経営の視座(3)
前号の続きです。
リーダーの仕事
トップたるリーダーの仕事は沢山ありそうですが、一番大切なことは常に自社の発展の機会と策を考え続けることです。
事業の計画をいかにして達成するか、そのための商品戦略、人材戦略をどうするかなどを考え続けることです。考え続けると不思議と「知恵」が湧いてくるように思います。その知恵を紙に言葉で落として、自分自身で妥当性などを検証してみる。戦略の具体策を言葉でストーリーにして、社員に説明して彼らの共感を得られるかを試してみる。更に考え抜いた挙句、自分の言葉でビジョンを浸透させる。戦略に落としていく。
これが私自身が実践していたリーダーの仕事です。実行段階では、我慢しながらも現場のマネージャーに任せる、決して箸の上げ下ろしまでの指示をしない経営を行うことです。
リーダーの仕事で具体的なものとして特に重要な一つは人材育成です。
人材育成の例
人材育成には、基本的に本人自身の習慣づけが肝要です。それを支援するために会社や上司が何ができるかを常に考えておかなければなりません。
・良い手本に多く触れさせ、社員が自分の目を肥やす機会を与える
手本と比較して、自分がどういう状態かを正しく認識するきっかけが習慣づけの始まりです。優れた同僚や上司の中に育成したい人材を入れることです。
・上司によるレビューなどの機会を持ち、本人が真摯に振り返るプロセスを持たせる
学習する良い習慣ができたら、その習慣を定着させるために上司にできることがあります。育成のため、PDCAをしっかりまわす方法を講じることです。
育成を狙って適切な、少し実力より上の仕事を与える。失敗するまであえてやらせてみる。失敗したら、そこで初めて失敗の原因などを彼にフィードバックする。二度と同じことをしないように彼の俊敏な修正行動を意識したアドバイスを行う。自らもこのプロセスを回す癖をつけさせることです。
フィードバックの時に失敗した事実を受け入れる素直さを彼に持たせる工夫が重要です。
・効果的な育成には業務を分解して難易度に分けて実践させ、そこから学ぶ機会を増やす。
私は、成長のレベルにより質問の仕方を変えています。
ビジネスの効率化を例にとると、「ビジネスの手順が滅茶苦茶だ。どうする?」と問う方法をまずとります。
それでも難しい場合には、「顧客とのやり取り、手順が複雑すぎるかも、少しそこら辺を見てくれる?」と仮設を投げます。
それでも難しい場合には、「契約書の内容を簡便にしてくれる?」と、具体的な仕事に落とした指示を出します。
結構難しいのですが、いずれの場合も、そのレベルに合わせて、部下が成長できる機会を上司として与えるためです。今アドバイスしている企業でも、社員の成長段階に即して、同様な質問を工夫しています。
リーダーの資質
考え抜き、
それを戦略として社員に落とし込み、
具体策を彼らにゆだねるのがリーダーの大きな仕事だとすると、
リーダーの資質自体が問われることになります。
私が考える資質は:
・リーダーは、本質を見抜く洞察力が第一に要求されるとしてそれをどう育むか。
生まれながらにして本質を見抜く力を持っている人は少ない。
勉強して知識を身につけ、それを下に経験を積み重ね失敗から知恵を身に着けることです。経験を積むことで、新しい事象に対しても類似のケースをもとにした対処方法を見つけられるようになるからです。
・公と私の峻別ができ、それを実行できる人です。
特に、お金の使い方に公と私の判断基準が出てきます。この原稿を、6月11日に書いていますが、どこかの知事の金銭利用問題が報道で論じられています。個人的には、そもそもこのような人はリーダーになる資格が最初から欠如していると考えます。個人の私腹を肥やすことしか考えず、市民を幸せにする戦略など考えていない。税金、すなわち民の努力の結果の税金を勝手に私用したとしたら、政治資金規正法があろうがなかろうが、本来はいわゆる「泥棒」と同じ行為です。どんな説明をしようが、キャッシュの動きが真実を語っています。私も幹部社員で同様なことが発生したことを明確に記録に残しています。
・リーダーの仕事も第一線の社員の仕事も、こと仕事という観点から言えば、全て平等であることを前提に社員に対処することです。
よもや、社長の仕事が、第一線の社員の仕事より重要だなどとの発想を抱かないことです。社長には社長の仕事が、現場の第一線には彼の仕事があります。どの仕事が無くても事業はバランスよく成長しません。皆の仕事がかみ合って初めて、顧客に商品を提供できるからです。ベンチャー企業のリーダーには、この平等意識が欠如している人を多くみます。
・相手の立場になって考える余裕を持つことです。
『言志四録』の中で佐藤一斎が説いている「恕」です。相手の立場を慮る行動です。
仕事が人と人との人間関係を抜きにしては考えられない以上、リーダーは相手の立場、部下の立場に一度戻って考えることが必要になります。
・専門家、プロを大事にすることです。
自らが全ての分野で専門家にはなれません。リーダーもしかりです。
何でもかんでも自分でやろうとの考えは、余り生産的ではありません。しかし、少なくとも事業分野に一定の知識を持ち、経営上必要な議論が出来るくらいのレベルは必要です。部下の専門性を大事にしながらも、変化の激しい時代に対応できる経営選択肢を適格に選べる素養を持たなければなりません。
・本物志向です。
シンプルで本質的なものが誰かに選ばれやすいです。削いでいき最後の本物の部分が残ると思います。それにはリーダーが普段から本物に触れる機会を増やすことが肝要です。
・何かに遭遇したら、止まる勇気を持てるかです。
慌てない。漂流を避けるために止まってじっくり考えることです。戦略目標の実現のため暫く止まって周囲の状況を見るのが、結果として早く目標に到達できるかもしれません。
ベンチャーの経営者には逆の動きをする人を多く見かけます。バタバタ慌てて、失敗を重ね、結局資金を自ら枯渇させてしまう。止まって失敗の原因を探り、次のステップに入ればよいのに、入らずこのような不幸を自ら招く人も、残念ながらいます。
第207回 今、リーダーに求められている経営の視座(2)
前号からの続きです。
時代の変化に対応する経営の中でも重要なこと
今、ものすごい勢いで時代が変化しています。特に、技術革新のスピードがただならぬ勢いで進んでいます。この結果、産業や社会の構造自体が変革をきたしているのを、皆さま目の当たりにしておられると思います。まさに情報を中心とした新しい産業革命の真っただ中にいると、私は認識しています。
しかし、この変化の中でも、変わる経営と変わらない、若しくは、変えない所を明確にしたいのが私の持論です。
何故なら、時代の変化に対応した経営をしなければ生き残れない、しかし、変えないことこそ長く生き残る秘訣でもあるからです。
変わるもの--時代の流れ
まず、変わる部分です。情報を中心とした産業革命の主役はコンピューターとネットワークです。最新のコンピューターで人工知能まで組み込み、生産活動を自動化・AI化、IoT化を図ることで生産や流通の最適化、省力化を図る流れがすごい勢いで来ています。
ご存知の通り、生産面のネットワーク化はもともとドイツが政府主導で始め、現場をネットワークで結び国中の工場を結び付けようとしたのが始まりです。工場現場のデジタル化とスマート化を図るものでした。
ところがアメリカでは、国防省を源とするインターネット技術の促進で、更に進めて工場のみならず、産業全体をスマート化しようとする壮大な構想を実現し、今やアメリカのみならず世界を巻き込んだ取り組みが行われています。まさに産業革命真っただ中です。
この潮流は止めようがありません。それどころか、我々の生活に沢山のメリットをもたらしてくれているのも事実です。
自分独自の趣味や嗜好に合ったものを単品で速やかに届けてもらうメリットを、誰でも享受できる時代になりました。数十年前には、これを実現しようとすると大変な時間とコストがかかり、特定の人しか利用できませんでした。大規模生産の経済性からまさに多品種少量生産の中での経済性に移りつつある段階です。
しかも、このようなネットワーク化の傾向は、過去の技術の蓄積を現象的には無にすることも出てきます。卑近な例で言えば、デジタル革命により、アナログの電話網に関わる財産とそれまで蓄積してきたノウハウが、一瞬にしてその価値が失せる事態が発生してしまいました。
また、世界の工場立地や労働力供給の流れを変えてきています。安い労働力の供給源だった国が、一変してネットワークを介した知恵の供給源と化し労働力を含めた生産資源の供給源も激変することにもなります。高い技術力で世界の拠点をネットワークで連結、コントロールし、海外に進出していた工場の生産も日本国内に呼び戻す最近の傾向に拍車をかけることにもなります。単純に労働賃金の比較によるよりも、ITの技術力が世界の産業構造を変えて、しかもリードすることにつながるほどの時代になりました。このように技術の革新が生産や工場立地、雇用などを含む経営の在り方自体を変えることにつながります。
変わらないもの――モチベーションを高めること
ビジネスモデルが上記のように変わるとしても、人間が働きたくなる動機や生産性を上がるために高いモラールを如何に持続していくかなど、人間の心に関係する部分は不変だということが、実は極めて重要なことです。
私が提唱する「農耕型企業風土づくりを通じた経営モデル」の「内臓部」、すなわち、「ソフト部分」の重要さが、逆説的ですが、今後経営上かえって増すことになると確信しているほどです。
このことを考えると、経営トップ・リーダーの仕事は、IT革新の中でも、社員のモラールを高める心の部分を重視する経営をすることが重要課題であることを忘れてはなりません。そのため、ビジョンを提示し、社員を一つの方向に持っていくビジョン型の新しいリーダーシップが求められることになります。
第206回 今、リーダーに求められている経営の視座(1)
私は以前から「農耕型企業風土づくりの経営」を主張しています。人間関係も含めた日本の伝統的企業風土の良さを最大限生かすには、この経営が適しているからです。
この詳細は、『これからの課長の仕事』、『これからの社長の仕事』など私の書いた本に譲りますが、今回は少し別の視点で、この経営の良さに4~5週間かけて触れてみます。
アメリカのモチベーション重視経営
実は、アメリカでも私の主張とほぼ同様な議論があるのを見つけました。
幸福な職場では社員が最高の仕事を行っている、その環境を整えるには下記のことがポイントであると、モチベーションを専門とする社会心理学者のロン・フリーマン氏が『最高の仕事が出来る幸せな職場』の中で述べています。
内容的には、私が「農耕型企業風土づくりの経営」で主張している18の「定石」とほぼ同じです。アメリカでも社員のことを最優先して考える経営こそ、会社成長の秘訣であると正当に主張できる証左をこの本でみつけ、私の主張に意を強くしています。
その一部を紹介します。
・失敗を奨励すること。
スティーブ・ジョブスはAppleなどで多くの失敗をして、iPhoneを設計しました。グーグルの元CEOのエリック・シュミットは2010年にグーグルウェブの開発を中止した時に「私たちは失敗をたたえる。難しいことに挑戦して成功しなくても、そこから学び、新しいことに活かすことが出来ればよい」と言ったと、この本で紹介しています。
皆様がご存じの例かもしれませんが、会社内部で失敗自体を奨励しないまでも、批判しない環境の重要性について、私も同じ意見を持ちます。
・業務時間内に遊びを組み入れること。
人間は幸福の状態を維持するのが下手で、ある状態が続くとそれがすぐ当たり前になる。この順応プロセスを遅らせるために、遊びや散歩などの変化の頻度を多くすることをロン・フリーマン氏は奨励しています。リラックスした時にアイデアが生まれるからです。
しかも、変化が順応を遅らせるので、熟考するにもまして、あえて本題とは無関係な事に気を紛らわすことも奨励しています。
私が、経営の中に遊びを持ち込み、イベント、配置転換などで変化を経営上重視していることとほぼ同じ内容です。
・社員同士が親密な関係を築くことを助けること。
仕事場のコミュニケーションをよくするために、誕生日会、昇進を祝う会などのイベントを薦めています。
・自主性を与え、内発的動機づけを促すこと。
意思決定の権限を与え、学会やセミナーへの出席を促進する、時には、褒章として旅行切符を手渡す方法などで社員の内面的な動機づけを重んじています。
まさに現場に最大限の権限を付与し、現場社員が自主的に行動する経営が大事だと、私が主張していることと同じ内容です。社員の自主性はモチベーションに極めて重要なことです。
・効果的なフィードバックを行うこと。
必要な指摘や指導を、同僚の前で発生の時に行う。
著者の主張は上記の通りですが、私が述べる「農耕型企業風土づくりの経営」でビジネスを成長させることと同じ主張です。
私のポイントを、経営の「フォーミュラ(公式)」や「定石」として以下の通り整理しました。
「農耕型企業風土づくりの経営」の「フォーミュラ」
この「フォーミュラ」は、
「いろいろな経営施策を通じて社員を幸せにすると、本人(社員)の心理と脳の特定の働きかけにより社員のモチベーション、創造性、革新性が高まり、経営のイノベーションに積極的な影響を及ぼし、本人と会社双方の成長を導く」というものです。
このフォーミュラを分解すると、
1.「対話をする」、「場を作る」、「現場に任せる」などのいろいろな「定石」と私が呼ぶステップを踏んで、経営側が社員を幸せにする努力をすること、
2.社員を幸せにする経営側などの諸々のステップが社員の心理と脳の特定の働きかけにより社員のモチベーション、創造性、革新性を高め、経営にイノベーションをもたらすほどの影響をもたらすこと、
3.社員個々人の心を「わくわく元気」にすることが、チームプレーや人間関係を重視する環境と相俟って、社員個人の成長のみならず組織集団のパワーアップをもたらし会社の成長につなげていく、
ものです。
この「フォーミュラ」は、いろいろな施策や仕掛けを通じて社員の幸せ感を維持する経営側の努力こそが、会社の成長につながるという流れを、強調しているものです。
極論すれば、会社の成長こそが社員に幸せをもたらすとの世の中の一般的な主張を、余り積極的に考えないことを強調したものです。
会社の構成員たる社員の自由闊達な発想と行動力こそが会社成長の原動力であるとの考えに基づいた経営です。
経営の骨格部と内臓部と私が位置付ける18の「定石」を上手く運用して、「農耕型企業風土づくりの経営」を通じて企業の中・長期的な成長・発展を図ります(参、『これからの課長の仕事』、『これからの社長の仕事』、ネットスクール出版)。
過去20年の経営体験のみならず、最近若い経営者の経営指導を行う中でも、上記の経営がいかに大事かを、私は私は身をもって体験しています。会社がベンチャー的な経営体であろうが、伝統的な経営体であろうが、この重要性にあまり大きな差異がないと感じています。
権限を現場に与え、現場のメンバーが自律的に動いてスピードをもって対応する、これを私は20年前から実行してきました。働く目的や意義をビジョンの中に織り込み、これを噛み砕いて伝え、メンバーが腹落ちした段階で、この内容をチームで具体化すべく彼らが自律的に作動する環境を作る。上司の指示待ちでなく、マニュアルから離れ自分の意思と判断で行動する経営環境を作って経営しました。
第202回 自分の購買行動の検証
物質的に豊かになった今の日本では、大半の商品の購買は、食料品などを除き、いわゆる衝動購入ではないかと思います。私自身も自分の消費行動を振り返ると、ほぼ衝動買いが先行していることに気づきます。
衝動買い
家内と食料品などの必需品の売り場に行き、その選択を見ると実に合理的な購買行動を示しています。教科書で教えている通りの消費行動を示しているのを見ます。
ところが、装飾品などそれ以外の商品では、本当に合理的な購入行動をしているかについては、少し疑問です。強いて言えば、衝動買い、計画外の購入、生活の中の楽しみの一つということになります。
しかも、この衝動買いの購買は合理的でないが故に、私に言わせれば非常に人間味のある行動です。脳で購入するのでなく感覚で購入するからです。また、本人の満足感も残るので、これは尊重すべき行動パターンではないでしょうか。
ECサイトの意図を知りながら
最近はECサイトの発達で、この衝動買いが意図して作られていること自体は誰でも知っています。しかし、それでもこの購入パターンは消えない。
先般も私はサイトでゴルフクラブを衝動的に購入してしまいました。先週初打ちをしたとき、カバーのフィルムすらはがしておらず同伴者に笑われてしまうハップニングはありましたが、この衝動買い自体は、私にとって当たりでした。楽しい購買行動となりお蔭でまたクラブが増えてしまいました。
翻って、消費者に計画外のものを売る立場からすると、どう映るのでしょうか。
まず、消費者にその意図を気づかれながらも特定の商品の良い部分を強調して、消費者の購買意欲にまず火をつけなければならない。
これにはプロセスが不可欠です。私が引っ掛かった(笑)レスポンス広告などで、「今、欲しいな!」と思わせたこと、やり方は別として、どの企業でも意図していることです。「明日からワンクラブ飛びが違います!」という広告の文言に反応してしまいました。
コミュニケーション ― 合理的理由づけ
次に、消費者が納得して購入できるようにすることが肝心です。そのためには売る側のコミュニケーション方法の良し悪しが決め手となることが多いです。このことは、B-to-CのみならずB-to-Bでも、また、リアルかネットかを問わず言えると考えます。
「あなたはこの商品を購入しても大丈夫ですよ。絶対役にたちますよ!」と、安心して購入できる理由を合理的に説明、表現するコミュニケーション力、あるいは、購入すると「得をするよ!」というメッセージ力です。
このため、コミュニケーションをする時に:
・重視する伝えたい要素の数を限定、できれば、2つ位にとどめ、
・そこに割くスペースを比較的多く取ること、
・一番伝えたいことを正直に、しかも真っ先に出すこと、
・絵やグラフ、写真、購入済みの方の意見などをいれて真実性を増すやり方を選ぶこと、
が重要ではないかと思います。
事業計画を説明する時と同じ方法です。「そうだ! それをやらねば!」と、社員が納得して行動に移せる、その心に火をつける工夫です。彼らが納得して実行する合理的理由を見いだせるように、説明方法、コミュニケーションのやり方を工夫することにつながるものです。
検証すること
実は、売る側が上記の方法の重要性を分かっていても、アプリオリにベストな方法を見つけるのは至難の業です。私の経営体験からすると以下の方法で努力をするのが良いのではないかと考えます。
・どの情報に関して、どの角度から消費者が足を止めるか、
・購買意欲を一番そそるのはどの情報か、
・買い手の決め手の情報は何か、
・どの情報があれば潜在的な買い手が、その場から逃げないか
などの情報の蓄積が大切になります。
ネットなどでよく実施するのは、仮説をたてて、検索されて最初にたどり着く情報と角度をランディングページで比較検証することです。
ネットなら上記の検証をするための制作コストも安い、レイアウトも自由に変更できるので、検証がやりやすいのです。キーワードと必要な課題との関係性を分析することも可能です。
自分で楽しくやってみる
皆様も普通の消費者の一人として自分の消費行動を分析してみて見ると面白いです。なぜ購入したか、ネットのページ情報の何に反応したか等を調べてみるのも興味深いことです。普通の消費者の消費行動が如実に推量できるはずだからです。消費行動がたとえ衝動買いであろうと、自分の行動が実に楽しく人間味のある行動だと気づくはずです。
実は、それが企業の販売戦略に役立つことにもなるのではないでしょうか。
第201回 話し方の教室
先般、興味深いことがありました。
以前私が経営を任されていた会社の幹部社員が、退職の挨拶にきた時の話です。長く営業をやっており実績を挙げてきた彼が、同業種の管理職や営業職でなく、今後ボイストレーニングの修業をして出来れば将来独立をしたい動機を話してくれました。
会社の経営上はデジタル面とアナログ面の両者を充実しないと上手くいかないことが多いが、その中でも「最後の決め手はアナログ面だ」と、過去に私が強調していたことを彼が鮮明に記憶しており、それがきっかけでこれからをアナログ面の仕事に賭けたいとのことでした。
私も、この元部下の選択にもろ手を挙げて賛成し、併せて、そのようなきっかけをつくったことに嬉しくもなりました。医者、弁護士、ビジネスマン等顧客を相手にする仕事では、自信に満ちた話し方が重要で、その訓練の需要が多くなるとの彼の説明です。
そういう私自身のことを思い起こしてみると、ボイストレーニングというより話し方自体についても正式な訓練は受けてはいません。
顧客対応の改善のためにいろいろな本からも少しは学びました。しかし、大部分は仕事の過程で逆に部下から教えていただきました。経営戦略や経営方針が少しでも早く部下に浸透するにはどうしたら良いか、部下の反応を見ながら学び、自分で工夫する中かから習得したことになります。その一部を今回述べさせていただきます。
1.最初の30秒で勝負が決まる。
話は出だしの30秒で勝負が決まります。
顧客対応の商売をして気づいたのは、クレームになりやすい応対は最初の出だしが上手くいっていないからです。受け側と相手の話がかみ合わない。
話す側が会話を主導出来る場合には、良い出だしに気を付けることが肝要です。一つか二つの短い文で、言いたいこと、その切り札を素早く切る工夫をすることです。長い文は相手に響きにくいからです。
出来れば、その文が聞く側の好奇心をそそるハラハラさせるようなものが最初に欲しい。「今まで聞いたことがない!」と思わせるような文を出だしに持ってくれば、話の入り口はまず上手くいくはずです。上記のようなトラブルになる確率はうんと減ります。
2.信念をもって「気」を入れて話す。
実は、これが一番大切なことです。話し方の技法以前に、信念をもって伝えることです。事業戦略を社員に説き、彼らに共感をもってもらうためにいろいろな工夫をしましたが、結局このことの大事さを痛感しました。
物の本などから仕入れた情報を戦略に焼き直しても、本心で自分が思っていない場合、「気」が入らない話し方になってしまう。美辞麗句が無くても本心で思っていることに信念をもって「気」をいれて説くことの重要性を体験しました。
特に、「ある意味・・・」や「・・・と思います」等丁寧だが自信がなさそうな言い回しは、このような場合には止める方が良いことにも気づきました。
自信たっぷりで、この情報は皆にとって、また、会社の発展のために価値があることだとの熱い思いがほとばしり出るような話し方こそ、相手の心に響きます。
3.話の内容を少しずつ濃くすること。
実はこれも戦略や方針を浸透させる過程で気づいたことです。
一度話しても簡単には浸透をしない。同じことを何度も煮詰めるごとく話す。
このために10%新しい視点での話を挿入して、内容を煮詰める努力をしました。そのたびに話す内容の風味が強くなる感じが相手に伝わっていくのが、話す自分自身でも分かります。
前回話した内容を、さらに練り上げて違う角度から話し込む。最初は少し懐疑的に聴いていた社員も内容が腹の底に落ちてくる瞬間がどこかで来る。話す私がその時を感覚的に分かるのは、私にとって最高の幸せ感を抱く時でした。
4.テーマをてんこ盛りにしないこと。
話すテーマは絞ることです。
話す側は沢山の情報を提供したい思いがある。これをやると話が早口で、内容が薄くなりがちで、むしろ意図とは逆になります。
そこを我慢すること。主たる話題はせいぜい2点くらいに絞る。一般的な話の受け手側にとって脳の片隅に印象に残せるのは、せいぜい2点くらいです。
5.自分事としてイメージできるエピソードを話の中で工夫すること。
伝えたいメッセージをエピソードの形にすると、意外に浸透しやすい。
聴く人が自分事に思えるように仕立てる。想像力が豊かに巡らせるエピソードを入れ込む工夫が効果的です。優れた小説などは、この手法を上手く使っているのではないかと推察します。
鴨長明の「方丈記」など、個人的には想像力が豊かになる秀例だと思います。
古の京都の町で大火災が起きた状況などを、ルポルタージュ的に文章で表現している下りがありますが、読む人がその火災の凄まじさと世のはかなさを、あたかも自分事として捉えられる工夫が施してあるのではないかと思わせるストーリー仕立てになっています。相手の想像力をかりたてる工夫が仕掛けてあるのではないかと思うほどです。
6.計画的にスピードを遅らせること。
早口は聞き手を眠くしてしまう。失言の可能性もあります。重要な場面では話すペースを落とす。
これも沢山の人が集まる社内研修の場などでやりました。話す側は眠くならない。しかし、聞く方は、自分の興味をそそらない部分が長々続くと、つい眠くなるのが当たり前です。
ここで故意に、話すペースを乱す。車の運転で急に速度を変えると隣の助手席の人の目が覚めるのに似ています。
話すスピードの緩急は、話す側がコントロールできる部分です。始めから計画してこれを演出することです。
7.上手く話題を変えること。
また、話題を上手く変えるのも工夫の一つです。
これには一定の訓練が必要です。
経営をしていると沢山の情報が入ります。その中から重要と思える情報以外は、個人的には捨てる工夫をしていました。捨てた情報を基に議論が進展する場合も出てきます。しかしそれは経営上重要ではないので、相手のメンツを潰さずにいかに話題を早く本論に戻すかの工夫の一環でこれをやりました。
重要でない話題などでは、さりげなく話題を変えて、会議での会話の主導権を自分が握る工夫です。
8.話すより聴くこと。
双方の会話では、聴くことこそが重要です。
相手への関心を示すことは、まず聴くことから始まります。この重要性を皆分かっていても、意外に出来ていないリーダーを見ることが多いです。これについては、別途日を改めて述べさせて頂きます。
連休も後半となりました。是非、楽しんでください。
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