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語り継ぐ経営

第229回 事業の優位性を取り戻す

Posted on 2016-12-08

 今苦戦している企業はどうするか。過去実績を出していた頃の優位性を取り戻すには、これまでの考え方を捨てて、自社が抱えている課題をあぶりだし、これを解決しなければなりません。

 残念ながらそのような企業は、以下のような課題を抱えているのではないでしょうか。

 

1.自社の商品や事業価値を顧客に明確に示せていない

 自社の「売り」たるノウハウが社内で整理不十分か明文化されていないので、商品や事業の価値を明確に顧客に示せていない。商品や事業の特色がだせていないのではないでしょうか。

顧客からすれば、その商品と他の会社の商品との差異をほとんど感じておらず、この会社も全体の中の一つくらいの位置づけにしか映らない場合が多いです。

 

2.マーケットの変化を統合的に把握する情報収集力に弱くなっている

 今マーケットの中での自社が置かれている現状と、顧客の支持を得ていない事業のリスクの全体像をまとめて把握しきれていない。そのリスクを早期に解消、もしくは、分散する役割を果たす情報収集力が弱まっているはずです。情報を収集しているつもりになっているのではないでしょうか。

 会社が小規模な場合は、この役目を社長が担っていることが多いのですが、事業の拡大に伴い情報を統合的に把握してリスク管理をする機能が組織として衰えていると思います。

 従って、競合の進出に対しても感度が鈍って、対応が後手になってしまいます。

 

3.自前主義の事業展開に固執している

 自社の技術や製品の性能に自信があると、どうしてもそこにのみ目が行きやすく、顧客を忘れがちになってしまっています。

 すなわち、顧客にとっての価値は何かに気づけば、それを自社の力のみでは機動的に充実できず、他の会社との協力関係(パートナーシップ)を築く必要性が分かるはずですが、これをしない。

 マーケットは、その製品の性能のみならず、その製品の保守、運用サービスなどの全体を評価する傾向にあります。そのサービスを機動的に充実するためには、他社との協力関係やアライアンスを築く必要があるにも拘わらず、それに気づくのが遅く、結果として、顧客の支持を逃してしまっているはずです。

 

4.リスクの回避、もしくは、分散する戦略修正や重要な意思決定のスピードが遅い

 マーケットの変化に対する感度が鈍くなっていると、戦略の修正などの意思決定が当然遅くなってしまいます。

 俊敏性が劣っている。しかも、それに気づいた時には、競合にマーケットを食われている。そうならないためにも、「まずやってみろ」という企業風土が必要です。

 やりたい人に、集団を形成してもらいやってもらう、組織も垂直型でなく、ネットワーク型でその案件に適した人がリーダーになる。皆、平等で革新に邁進する部隊がどこにも見当たらない状況にあるのではないでしょうか。

 

5.人材の育成が遅れている

 差異化を図る担当者、情報を分析して作戦展開に活かす担当者、世の中の広い知識やノウハウと協力する幅広い人脈を築く担当者、戦略策定の担当者、意思決定を速やかにできる組織の運営担当者などの人材がいそうで意外にいない。育成されていないからです。

 特に、ミドルの人材が育成されておらず、トップと現場の担当者のみで会社が回っている。不安定で複雑な環境の変化に対する俊敏な対応の警鐘を鳴らし、機動的に行動に移せる人材が育成されていないのです。

 

6.マーケットの不安定さ、複雑さが常態化している今の環境下での対応

 まず、顧客価値を本気で訴求し、自社の製品やサービスと市場ニーズを速やかに結びつける対策を練ることです。

 これが絵に描いた餅にならないように、製品が工場から出て、消費者が手に取るまでのシーンを再度描きなおしてみる、顧客がどこに価値を感じているのかを明確にして、それに対応する商品・製品仕立てに修正する。不足資源はパートナーの力を借りてでも早期に対応する。

 この場合、製品のハードのみならず保守サービスなどのソフトもまとめた顧客価値を洗いざらい追求しなおすことになります。

 他社との比較もでき、収益獲得のビジネスモデルの修正を速やかに構築する力が試されることになります。製品の魅力を単品で出すのでなく、保守サービスなどの運用技術など、他の切り口との組み合わせた事業開発や展開を試みては如何でしょう。

 次に、自社が目指すターゲット市場の近場で研究開発投資を旺盛にして、市場を自ら創造していく戦略展開を試みる。

 顧客が望んでいる便益(ベネフィット)と自社の商品価値がどう関係しているかを明確化することから始めることになりますが、情報の収集力、自前主義からの脱却、意思決定のスピードアップなどこれまでの課題に挑む企業風土改革につながります。

 さらに、組織の敏捷性、機動力を高める努力をすることです。

 意思決定権を分散し、例えば、仕入れ権限を本社レベルでなく現場のリーダーに発注権をあたえるなどです。

どこの会社でも創業時には持っていた、並外れた敏捷性、柔軟性、創造性を取り戻すことです。実践や行動を重視し、「まずやってみろ」という基本スタンスで新しいことに挑戦させる組織にすることです。

 時間軸を短期で遂行する部隊と、長い時間で収益を上げるモデルを構築する人材に分けるとすれば、後者の育成することが肝心です。

 日時の収益のみでなく、ある程度中期的なスパンでの収益の源泉に手を打つ人材の育成と、彼らが思い切って革新的なことに挑戦できる環境作りが急務となります。

 このためには、既存の階層的組織の枠を超えたネットワーク形成型の組織の方が大きい効果を出せると考えます。

 情報の価値を重んじ、俊敏に動ける体制の強化を図ることです。今や「知」の時代です。シグナルを感知し、素早く適応する。「知」と情報が上手くリンクするときに事業戦略としての差が出てきて、あなたの会社も往年の優位性を取り戻せると確信しています。

 

第228回 退職しそうな人の心の置き方

Posted on 2016-12-01

 退職しそうな社員の説得を、私は何十回と繰り返しました。

 何とか、会社内で頑張ってほしい、この一心で説得を繰り返しましたが、上手くいかないことも多くありました。

 今自分流に納得することは、結局その人を取り巻く人間関係などがきっかけとなって退職に至る場合がとびぬけて多かったということです。その社員のポジションによっては、社長の立場では状況が把握しにくいがため、本人が人間関係に苦労していることに気づくのが遅すぎたことが、上手く説得できない主たる理由でした。

 

経営側の責任

 それでも会社の経営者として、いろいろなことに努力をしなければなりません。

 下意上達のコミュニケーション環境を改善する、戦略の魅力を増す、給料を上げる、仕事に面白さを出す、キャリアアップのプランや筋道を示す、自己実現を目指す機会を与えるなどなど。

親の会社を引き継ぐなどの特別な場合は別として、これら以外に退職を引き留めるため経営側として本当に重要なことは、できる限り良好な人間関係が蔓延する企業風土をつくることだと考えます。私もこのことに気づき、早くからこの対策に腐心し企業風土で差異化を図りました。

 

退職しそうな人の心の持ち方

 上記のように、退職防止には会社として経営側の責任が当然大きい。

 しかし、今回は、もう片方、退職を希望する側の社員個人として何かできることがないかに焦点を当ててみます。経営側が重要と思う企業風土づくりに参加する社員側の退職しそうな時の心の置き方の部分です。

 ほとんどの社員が、人間関係が悪くなると心が不安定になる。仕事ぶりにも表れます。退職を考えている頃は、なんとなく投げやりな仕事の仕方になります。

 心の不安定な兆候は、週間報告書(週報)など一週間の仕事の内容を本人が上司へ報告する書類の書き方にも表れます。会社や部門の欠点、改善点をすごく詳細に並べ立てて一見改革に資する内容に見えるところが多いが、問題は本人がその景色の外にいる内容であることです。それでも、何かを訴えるものが多く見られる。

 ここで上司が異変を察知すれば退職を食い止められますが、それを過ぎると、本人の決意が固くほぼ無理だということを、私も長年部下からの週間報告書を読み続け、そのパタ-ンに気づきました。

 退職を考えている本人は、自分の退職のきっかけや原因を当然探す、しかも、自分でなく他の人に原因を探すくせがあります。心の持ち方が完全に片方にブレてくる傾向が出てきます。

 冷静に考えると、彼が原因を外に探すよりも、自己の目標実現に向かって人間関係を良くするためには何か自分に出来ることがないかを探すのがポイントなのに、なかなかこれに着目しないのが一般的です。

 上司との相談では格好良い説明をしても、本心では、他の人に原因を探してしまいがちです。

 

より上位の軸での行動を起こさない

 誰でも、自己実現や自己のレベルのアップなど何かの目標をもって仕事をしているはずです。したがって、本人にとって最も重要なことは、本来その目標の実現にあるはず。目標の追求のための努力以外のことは、よりレベルが下位の存在のはずです。

 ところが、心が揺れていると、そこの軸に焦点を当てないで、相手が悪いという下位の軸で物事を考えやすくなります。

 相手が悪い、誰がどうした云々よりも、本来目指す目標に向かって自分の心を変えることで人間関係が改善され、より良い人生を歩めることに気づいていません。行動に反映されません。

 もちろんこれを超えるような不満が会社の経営自体にある時は例外ですが、これに努力する方が本人も組織にとっても遥かに有益であるのに、そのような行動に移すことをしないのです。

 

究極は、自分の心の置き方を変え、行動する

 何かの行動をする時には、誰でも自分で暗黙裡に判断の選択をしています。こと人間関係に関して言えば、自分が置かれている状態に満足しているかが判断の基準になると思います。

 満足しているとすれば、通常、本人は良しとして、退職の文字が頭の中で重要な位置を占めるようなことはないと思います。

 もし、その状態に不満である場合は、退職のルートに行かない最善の方法は、目標を実現するために自分で良い人間関係を維持できる方法をまず考え、次にこれまでとは違う別の行動を自ら起こすことです。これしか、究極の解決策はありません。

 すなわち、自分の心の置き方を変えることだと考えます。自分に正直に向き合い自分をごまかさず、在りのままの自分をまず客観視する。そうすると周囲の人が違う見え方をします。彼らは必ずしもあなたに敵対的ではない、彼らも自分の目標を実現するために周囲と良い人間関係が築けないかの努力をしている。彼らの良い点が少しずつ見えて本人の人間関係も改善してきます。

 彼らの良い点を評価し周囲の人を信頼して、自分がその人の仕事目標追求に役立つことは何かに気を配る行動を起こしては如何でしょうか。心の持ち方と考え方に余裕が出てきます。

 判断の軸として自分を正直に見つめるところに置く。それから他の人の課題の解決に役立つ自分の役割を見つけ行動するところから始めることになります。

 

会社を自滅に導かないために

 会社での議論もこの心の置き方が参考になります。自分の仕事が上手くいかないと、必ずこれを外の理由からアプローチする人がいます。このような人は実は成長が遅い。もっと課題を自分自身の中に見つけて、自らの心の持ち方を変える勇気が必要です。

 私もこのようなタイプの経営者を知っています。経営が上手くいかない。それを、部下の社員や資金を供給してくれている株主の介入のせいにする。結局、経営につまずくことになります。自分を客観視する姿勢が欠如し、すべての原因を自分以外の他の人のせいにすることで、最後は自滅状態。

 こうならないようにするために、少しはヒントになったでしょうか。

 

第227回 経営者にとって事業計画、事業戦略の本質的捉え方

Posted on 2016-11-24

 経営をするにあたり他の会社と異質なことをやって会社を成長させたい。経営者なら皆、発想することです。

 そのためには「何をどうしたら良いのだろう」。このような相談を受けることが沢山あります。

 今回は、これについて本質的なことのみを簡潔に取り上げ、その相談・質問への解答とします。

 

基礎設計と動機付け

 経営者の仕事をごく単純化すると、(1)戦略や事業計画を立てるアーキテクト(基礎設計)部分と、(2)特定の方向に社員を向かわせるモーチベート(動機付け)の部分があります。双方ともないがしろにできない重要な仕事です。

 この中で、多くの会社の経営者は、どちらかと言えば戦略や計画策定の部分が不得手とみます。それでも以下のことに注力すれば、もっと経営を上手く差配できるのではないでしょうか。

 たまたま今、「事業計画」のつくり方の本、『成長し続ける会社の事業計画のつくり方』(12月に直接販売で刊行予定)の中でもふれていますので、今回はこのテーマを取り上げることにします。なお、ここに言う「事業計画」とは経営戦略の策定から毎期の年度計画の策定までをも包含した概念です。

 

アーキテクト(基礎設計)のデザイニング

 経営者の仕事の第一番目です。

 会社の将来像をどうデザインするか、戦略策定や計画策定の中でもキー要素、これが仕事です。

 アーキテクトの基礎設計部分で、このデザインの大きさ、堅牢さ、優越性が会社の将来の成長拡大の路線と範囲を規定するといえるほど重要な要素です。

 したがって経営者は、自分が描くヴィジョンの実現にむけて、この部分を最重要視して取り組まなければなりません。

 日本の経営者の一部が前任者やこれまでのやり方を踏襲して、新規性のあるイノベーティブなアーキテクトのザインを株主や社員に呈示できていない、そのような訓練を受けていないために、海外の企業に比して経営的に後れを取っている部分があるのではないかと、私は憂慮しています。

 この背景としては、基本設計のデザインの質の差、更に結果をもたらす視点やその能力に差があると思います。当然このアーキテクトのデザイン仕様が、戦略や計画に反映されることになるので、経営力の差が益々大きくなります。

 

優れたアーキテクト(基礎設計)にするには

 そのために経営者にとって重要なことが三つあります。

・第一に良いデザインをアーキテクトするには、一見バラバラに起きている諸事象を統合して把握する能力が経営層にあるか否かが、問われます。複雑な現象をどう統合して捉えるか。それらの諸事象が自社の経営にとってどう影響を及ぼしそうか、ヴィジョンに描く姿と統合した事象が価値的にどうつながるかを感じる能力です。「一を見て十を知る」センスを加味した能力が不可欠です。

・第二に、先読みができる予測能力が必要となります。いろいろな技法で環境や現状分析をする。それらの分析から将来起きそうな事態をどう予測して自らの事業をどう方向づけるかは、優れて、経営者の先読み力にかかっています。

 先を予測して、競争を優位に引っ張るドライバーを選定して、これを戦略や計画の中に活かす。これが優れたアーキテクトで勝負に挑む近道です。

・第三に、これを株主や社員に説く能力です。これは冒頭、経営者の仕事の(2)と関係しますが、戦略や計画の浸透の幅と深さ、スピードに関係します。戦略や計画実現の裏方を握ることになります。

 

統合力と予測力を磨く

 上記の能力は経営者万人には備わっていないかもしれません。それでも、少しでもこれらの力に近づくことができます。第一と第二の能力に近づくにはどうすれば良いか。

 このためにはまず、物事の因果関係を正確に把握することが必要です。

 詳細は省きますが、成長率が鈍化したことの事実の背後には、そうなる因果関係が必ずあります。原因があり、結果があるのです。その関係性の中から太い線を引けるものを見つけて、素早く手を打つための分析をする。

 原因と結果の関係を逆に捉えて満足する経営者が時々いますが、その後のその会社の盛衰は推して知るべしです。

 次に、「何故そうなったか」を徹底して何故、何故と考え続けることです。原因は統合する程度が低かったからか、予測のレベルが低かったからか、予測の範囲が狭すぎたかなどなど、何故を考える。これを習慣づけする。このことがなされていない経営を意外に多く見ます。一足飛びに結論に導き失敗する例です。

 「何故、何故」は、結果の良い時には実行の効果が大きいのですが、ほとんどの会社では、悪い結果の時にしかこれを実践しません。また、結論を急ぐために「臭いものには蓋をしたい」一心で、全うな「何故」ができずに、残念ながらまた同じ事態の発生を見てしまいます。

 因果関係と何故を含めて考える。以上の二つに留意して統合力と予測力に近づいてください。このところができれば経営の50%は上手くいくことになります。

 以上参考になりましたでしょうか。

 残りの比率は、経営者の第二番目の仕事、(2)モーチベートする策をどうするかにかかっていますが、これに関しては別の機会にふれることにします。

 

第226回 トランプ大統領のアメリカ雑感

Posted on 2016-11-17

 米国の大統領候補トランプ氏がなぜアメリカで旋風や雑音を巻き起こしているのか、日本への影響はと、いろいろなところで議論されています。

 私は彼の出番の根源には、これまでのアメリカの政治、これまでのオバマ大統領やクリントン氏の政治に対する根強い不満があると考えます。

 政治は専門家でないので、この問題を今回私流の経営的視点を絡めて雑感的に見てみます。

 

既成の政治への不満――建国の精神

 オバマ大統領は、保険政策に代表される福祉政策を推し進め、共和党の反対を押し切って大統領特別権限で法律を通してしまいました。また、詳細は確認していませんが、連邦準備制度理事会の理事全員を大統領が属する民主党系にしてしまったようです。彼は独善的な政治をしてきた、大方はこのように見ているのではないでしょうか。

 経営者の経営のかじ取りとの関係で興味がある部分です。

 アメリカ独立以来、移民を主体とする彼らは,どちらかと言えばリベラルな考え方を尊重し、議論を戦わせて最後は結論に従う。このような良きリベラル像を抱き、この層が政治的にも大きな集団を形成してきました。私がアメリカに留学していたころ、リベラル層の絶頂期であったと思います。ところが、民主党のオバマ政権になってから、アメリカのこの基盤になる思想が失われ、リベラルから逆回転しつつある。

 仕事をする上で、自由な環境が経営にイノベーションをもたらすという視点とオーバーラップさせながら、アメリカの政治の変調を見ています。

 

実績と主義主張の一貫性

 民主党候補のクリントン氏の支持率は高かったと思います。初の女性の大統領候補という引きもあったのでしょう。しかし、彼女は国務長官時代に何の実績を残していないというのが一般的な見方です。近隣の国から多くの献金をもらって外交に偏りがでるとの危惧を抱いていたアメリカの知識人も多くいたようです。

 万一、彼女が大統領になったらオバマ政権のやり方を引き継ぐだけで、「彼女には哲学も思想もない」とも言われていました。もともと彼女は自由貿易主義者だったのに、労働組合などの政治票を気にしてキャンペーン中にTPPに反対の立場に宗旨替えをしていることが、この見方の証左です。

 経営者としての実績のなさと主義主張のブレが招く危険性との関連で彼女のリーダーとしての資質を見ています。

 

国民感情の発露

 トランプ氏の人気の背景には、オバマ氏とクリントン氏の二人に代表される、米国民の現政治への不満があると見ています。

 メキシコとの間に彼らの費用で壁を作り不法移民を排除するという発言は、アメリカ自体が移民の国で成り立っていることを考えれば、これも常識的にはおかしい。しかし、アメリカ人の仕事を彼らに奪われていると誰もが思っている。正しいか、正しくないかは別にして、建前が蔓延るアメリカでも、ここには米国民感情の本音が出ていると感じます。

 また、かつて世界の覇権国家を築いたと自負する大多数のアメリカ人は、中東戦略で全く成果を上げていないことでオバマ氏の外交政策に「何故そうなんだ」といらだっていたとも捉えられます。本音は分かりませんが、ISを徹底的につぶして「シリアを石器時代に戻す」というトランプ氏の過激な発言も、この背景が言わせたものとみることができます。

 この意味でトランプの登場を促してしまったのは、オバマ氏に代表される既成の政治集団の責任であるとも言えます。

 結果、オバマ氏はアメリカ国内に政治的な対立のみならず、既成の政治に飽き飽きしていた国民の間に、今度は深刻な分裂までももたらしてしまいました。

 経営的視点では、戦略の間違いで取り返しがつかないことになる、この重要性と関係して見ています。

 

国民の分裂と世界のリーダーシッの欠如

 アメリカの国内分裂はもっと重要な影響を及ぼします。アメリカのリーダーシップの欠如、すなわち、世界の民主的秩序維持の戦略に黄色信号を点したことになるからです。

 アメリカは第二次世界大戦後、IMFの世界金融体制づくり、NATOの軍事同盟の結成、日本との関係では日米安保条約の締結など、世界の民主的秩序維持に努力してきました。価値観は別としても、誰がなんと言おうがこのことはアメリカの世界への貢献だったと思います。

 しかし、ソ連との冷戦が終わってからは、世界のリーダーとしてのアメリカは、新しい世界情勢に対する戦略や組織作りに顕著なものがみられません。特に最近は、台頭する中国やロシアを相手にして、世界戦略を展開する能力がないのではないかと思われる国家に成り下がってしまっているとも捉えられます。

 このような状況下で、世界の覇権を維持する極と国内の政治に専念する極とのにらみ合いの中で、我が国近隣のアジアや中近東、東欧での政治、軍事の対応が遅れてしまわないか。これまでの構造を前提とする日本の安全保障どころの騒ぎではなくなるのではないか。このような危惧が日本で現実のものとなることを予測し、平和ボケの安眠から覚めて、国家の安全保障に対して政治の場でもっと現実的な議論をやってもらいたい。こう思うのは私だけでしょうか。

 経営者に対する不満は、結局組織に内部対立を引き起こして会社のエネルギーを削ぐ、新規事業への取り組みが遅れる、結果としてリーダーシップをとれなくなり、会社としてのあるべき組織をすべてぶち壊してしまう危険性に極似していると見ます。

 

第225回 後世になにを引き継ぐべきか

Posted on 2016-11-03

 戦争や大震災などの自然災害によって、人間の一生は予測のつかないことだらけです。人は誰でも、最後には人生の幕を閉じることになりますが、その時間の長さは神のみぞ知ること。そんな中でも、人間は精一杯の努力を重ねて生きています。歴史や記録に残る人もいます。小さいことでも良いので、この世に自分が生きた証の記念碑を残したいと願うのは、人のエゴの部分を除けば、人間として尊い行いではないでしょうか。

 

何を残すか

 内村鑑三は彼の講演、「後世への最大遺物」の中で、後世に残すものとして、遺産を家族や子供のみでなく、社会の遺すという意味で、まず「金」を挙げ、金を貯められない者は、労力を使って金に転換させる「事業」を、更に、「金」も「事業」も残せない場合は「思想」を残しなさいと、説いています。自身の思想を本(Essay of Human Understanding)にして、後世に思想も残しているとも書いてあります。ルソーやモンテスキューを通じてフランス革命に影響を与えたジョン・ロック等思想を残した例のようです。

 これら三つを遺せない人は、「勇ましい高尚なる生涯」を遺せると言っています。その内容は人により大きく違いがあるとしても、これは誰でも残せる遺物です。

 内村鑑三の言わんとすることは、私もその通りだと思います。努力をしたなりの成果や成果物が、社会で公平に評価される限りにおいてです。

 しかるに、今の世の中、必ずしもそうはなっていないのではないかと思います。だとすると、彼の言う順序を逆にして考えてはいかがかというのが私の考えです。

 

私流の残し方

 私流に言えば、「礼節を重んじ誠実で立派な生涯」を遺すことを第一義と考えたい。

 『礼節と誠実は最強のリーダーシップです。』(クロスメディア・パブリッシング)の中でもビジネスマンの事例を紹介しながら、このことについて述べました。

 次に遺したいのは、やはり「思想」です。

 著述や講演などで、若い人々に思想を注ぎ込むことです。私自身、「農耕型企業風土づくり」を通じて、企業を中・長期的に成長、発展させるための「フォーミュラ」と経営の「公式」を若手の経営層に説いています。ビジネスコラムも毎週アップしていますが、これを心待ちにされている方々がいると聞き、嬉しい限りです。若干なりとも思想に影響を及ぼしているかもしれません。

 約20年間の経営者としての実績で「事業」の礎を若干遺すことが出来ましたが、お金は遺せませんでした。しかし、「礼節を重んじ誠実に生きた生涯」と少しの思想を遺せるのは幸せです。

 最後に金を残す。それを転換して事業として発展させる。これは若手の経営者層にお任せするのが順番かなと、今では思います。是非、若手の方々、新しいことに挑戦して、「勇ましい高尚なる生涯」、「思想」、「事業」、「金」を残してください。順番は問いません。