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語り継ぐ経営

第235回 継続的な成長を図るために不可欠な「経営力」(1)

Posted on 2017-01-26

 会社の成長拡大のためには、勝ち続けなければならない。個別の勝負で一回勝つことは簡単だが、勝ち続けるのは大変です。しかし、勝ち続ける時に初めて、会社が成長拡大するのも現実です。

 

勝ち続ける決め手

 それでは、勝ち続ける決め手は何でしょうか?ズバリ列記すると、

   a) 社長の覚悟に裏付けられた経営力の大きさ
   b) 壮大で、綿密な事業計画
   c) 組織の運営力
   d) 企業風土・企業文化

と考えます。

 しかも、これらの4要素が複雑に絡み合うことを考慮の上で、それぞれの要素を上手く展開しなければならない。そう指摘すると、スーパーマンでないと経営は上手くいかないのではないかと誤解する人がいます。決してそうではありません。これらの4要素の内容をしっかり把握しながら、少しでも理想形に近づく経営努力の過程こそが、結果として、「勝ち続ける決め手」を経営者が会得することになるのです。これが、経営の醍醐味です。

 

経営力とは

 まず、上記a)の「経営力」の部分について述べます。低成長時代になり競争激化の環境下でこそ真の経営力が試されると、言われます。

 ここに、経営力とは何でしょう。

 経営力とは、「経営する力量」です。具体的には、

   1) 将来の経営目標(灯台)に向かって確実に近づく意思をもち、
   2) 現状の分析などから他社との差異化を図れるドライバーを探し、
   3) 自社の強みを活かしたドメインと経営の方向性を決め、
   4) 経営目標など将来の姿を実現可能な戦略群と武器群に優先順位付けをして、
   5) そこに経営資源を集中的に配分する。
   6) 社内のベクトルの統一とエネルギーを結集して実績を出す

 力であると、私は主張します。

 

経営ヴィジョンを実現していく覚悟

 上記のうち、2)~5)に関しては、別途「事業計画」の戦略にふれる箇所で言及ことになりますので、ここでは、特に1)と5)について触れます。

 まず1) の部分、すなわち、経営目標に向かってそれを実現する意思に関する部分です。

 会社を起業した時、または、家業の状態から公の企業として脱皮をしたいと思う時に、経営者が必ず遭遇することがあります。そもそも「自分は経営で何をやりたいのか?」、「社員の力を結集できるのだろうか?」と悩みます。

 起業の時や、次の飛躍のために経営を抜本的に改革したい時、最初のポイントとなるのは、経営者がどんなヴィジョンを掲げ、将来何を目指そうとしているのかです。

 これに関して、現在若手の経営者層の経営指導を通じて私がいつも感じることがあります。

 「ヴィジョンが不足している」か、その「ヴィジョンに壮大さが不足しているな」と思う経営者が多いことです。ヴィジョンの大きさが会社の将来のスケールを決定する大きな要因だと考えている私からすると、この点は非常に残念です。現にこのことは日本のみならず、アメリカでも起きていると聞きます。MBAの学生では起業すること自体が目的化しており、将来何を目指して、どう社会での存在価値を訴えて貢献していきたいかの価値観が起業に当たって不足していると。

 他の国でも起きている現象かもしれませんが、我が国から立派な経営者が育ち、イノベーションを起こしていただきたい。

 経営者自身がやりたいことは、最初は野望や夢と呼ばれるものかもしれない。また、最初はまとまった言葉になっていないかもしれない。それを文字で書き落としていくうちに、少し洗練された言葉や内容ととなり、世の中で一般的にヴィジョンと呼ばれるものとしてまとまるものですが、問題は、それを実現していく覚悟です。

 ヴィジョンを実現するために、「経営目標」、すなわち、「x年でxxをやりたい」などの具体的な目標設定が重要です。しかも、その目標は、「何故(Why)」、「どのような方法(How)で」などの肉付けされたものでなければ組織体の多数の賛同を得られません。

 私は「経営目標」を灯台の火に見立てて話す場合が多いですが、大海の荒波の中で会社という船をどうやって限られた時間内に灯台に到着させられるか、経営者として不退転の覚悟がなければなりません。世の中の優秀な経営者をみると、皆覚悟が違います。艱難辛苦に遭遇しても、いろいろな脅威や苦しい環境を克服する心の強さを備えています。

 すぐひるむ、すぐ目標を変更するような度胸のない経営者では、経営力の入り口のところで失格となります。

 「経営目標」の具体的な内容については、個々の経営者の価値観によるので千差万別ですが、社会の変革に寄与するような目標は貴重です。経営者本人がやりたい、実現したいそのヴィジョンを数字目標も加味した「経営目標」として設定した以上は、これをやり抜く覚悟を持つことが、「経営力」の入り口と考え、勝ち続けるために不可欠な要素です。

 

第234回 消費者行動の変化

Posted on 2017-01-19

 デジタル技術の進歩と相まって、商品やサービスを利用する顧客自身の考え方や行動も変化してきています。

 そこで今の時代の消費者の行動にどう対応していくかは、どの会社にとっても悩みの種です。企業のブランドやロイヤルティーなどの構築の仕方が大きな影響を受けてきています。

 これまでのマーケティングの常識的方法をどう修正していくか?消費者の行動の変化を見ていきます。

 

1.自分の価値観に基づく判断・選択をする

 消費者は過去、どちらかと言えば価格の相対比較で製品やサービスを判断・選択してきました。今でも一部の消費者はこれに依存した判断や行動をしているかもしれませんが、全体の趨勢としては商品やサービスが自分の価値観に照らした質(クオリティ)を満たしているかが、消費者の選択のキーになってきています。

 いろいろな販売統計資料を見て驚きます。我々が日常目にするブランド名の商品でなく無名の商品が、はるかに販売上位に来ている。単に私がその名前を知らないというより、明らかに消費者の価値観に照らして彼らの質(クオリティ)を満たすことに専念している開発商品が上位に来ているのです。

 

2.彼らの価値観は、体験で感動することで大きな影響を受ける

 消費者は、「快適」で「楽しい経験」、通称、カストマーエクスペリエンスをうることを求めるようになってきています。経験からの感動を求め、これを選択基準に置いています。従って、企業が提供する商品やサービスには快適性、面白さがなければ、顧客に選択されません。

 となると、今やマーケティングの主導権は完全に顧客にあるといっても過言ではありません。私が『勝ち続ける会社の「事業計画」のつくり方』の中で、企業が成長・拡大する戦略の一つに「顧客第一主義」を位置づけるのはこのためです。

 

3.身近な記事情報、友人などの意見を尊重する

 今の消費者は、自分が信頼する身近な記事情報や友人の意見を入れて消費者行動を起こすことが多い。ブランド名より、いろいろなレビュー情報から質(クオリティ)の良し悪しを自分なりに評価しています。その結果、ブランド自体が消費者にとっての「品質のシグナル」としての役割を今や失いつつあるといっても過言ではないのかもしれません。

 情報量が多くなった中で、消費者が情報処理をするは大変だという意見もあります。しかし、彼らがほとんど問題なく対応できているのは、信頼できるレビュー情報や友人からの情報を基に、賢く自分自身で判断・選択しているからです。

 

4.ブランドのスイッチを簡単にする

 消費者はそれまでのブランド体験を参考にして、新たな商品を選択する傾向がこれまでありました。それは質(クオリティ)の根拠を、手っ取り早く過去のパターンに置いていたからです。

 ところが今は、デジタル化の恩恵を受けて、その気になれば質(クオリティ)の良い情報がほとんど無料で手に入る時代です。過去の体験パターンを全くゼロクリアして、毎回一から最善の選択をすることができる時代です。

 企業から観ると、顧客のブランドスイッチ、中期的な関係性の維持が気になるかもしれませんが、これが現実です。しかも、この行為に消費者がうしろめたさを感じることは全くありません。

 

5.押しつけがましい売り込みや宣伝を嫌がる

 今や、消費者は企業のマーケターを内心ではほとんど信用していません。ましてや、押しつけがましい売り込み方法、宣伝媒体の内容を嫌がり、そのような方法をとる会社からは顧客が離反しかねない時代になってきています。

 彼らは上記の1~4の消費行動の実践を反映する企業風土を持った会社と付き合いたい心理が働くようです。また、1~4への消費者の行動依存度が高くなればなるほど、企業のマーケターからの情報の必要性が低くなるという面白い現象が、今の時代に発生してきています。

 企業経営にとっては、このような消費者の行動変化に則した対応が不可欠となります。「顧客第一主義の本質」を一度考え直してみるよい時期かもしれません。

 

第233回 何故、我が社が伸びないか?

Posted on 2017-01-12

 新年からいきなり「ひどいテーマ」と、思われるかもしれません。

 しかし、私のようなプロの経営者から特定の会社の経営を観ると、「そうだな、これでは会社が伸びないな」と思うことがよくあります。経営のエキスに照らして、特定の経営の仕方について思い当たる節があるからです。

 会社が伸びない要素は沢山あります。

 それを要約すると、

 (1)経営者の力量の問題、

 (2)組織の運用力の問題、

 (3)ストーリー(物語)になった綿密な「事業計画」や経営計画がない問題

 の3つです。

 これら3つの要素が多層的に重なり合って生じる諸問題が、「何故会社が伸びないか?」の答えとなりますが、今回は、この三番目、綿密な「事業計画」や経営計画の部分に焦点を当てたテーマを取り上げることにします。

 

綿密に練られた事業計画

 もちろん、経営者の勘と才覚である程度は伸びる会社もあります。しかし、それでもある段階から自社の成長・発展に壁を感じてくるはずです。「何故もっと自社が伸びないんだろう?」と誰にも言えない悩みを、経営者は抱くはずです。

 私自身も、ベルシステム24の経営を託された最初の段階でこれと同様な感じを抱いたことがあるので、その気持ちがよく分かります。これを感じない幸せな経営者も世の中にいるかもしれませんが、その経営の行く末は予想がつきますので、ここでは取り上げません。

 全ての事業の先行きは不確定要素だらけです。しかし、それでも経営者は経営のかじ取りをしなければならない。環境の変化に合わせて臨機応変に対応できる天才的経営者もいるのですが、それは少ない。だとすると、一定5年後の読みや洞察を組み込んだ将来に向けての事業計画(この策定の仕方は別稿の予定)が必要になります。

 これが必要ないという議論も、もちろんあります。しかし、日夜競争で戦う社員すべてがベテランで優秀な粒ぞろいである場合は、これが是でしょうが、一般的には、そうならない。それでも競争で勝ち続けるには、やはり綿密に練られた「事業計画」が大きな助けになることを、私も体験して知っています。

 

経営のスピードが違う

 頭ではそのことを分かっていても、それを重視しない経営者が結構多いことを最近感じています。一定の中期的スパンで捉えると、「事業計画」が策定されない場合、経営のスピードで損をしていると私は捉えます。経営にとって重要な潮流の変化への、会社全体の対応に遅れが生じているはずです。

 経営の軸が定まっていないことからそうなります。これを「事業計画」の中で明示していくべきなのですが、それがない。事業計画の中で、自社は「x年後に、こういう姿でありたい。そのためにこんな戦略を実践したい。第1年目にはこの戦略を重点的に展開したい。・・・」と、数年後の自社の理想的姿と各年度の事業計画をデザインし、その実現を目指したストーリー(物語)を描いていないからです。

 これを描くことは、会社の「仕組み」を整備することになるはずで、これも経営のスピードを上げる大きな要因となります。万一自社の計画の実現が危ぶまれると察知した時には、その原因、環境の変化と経営計画での作戦との対比で、軸のブレ度合いをチェックでき、速やかに軌道修正がとれる。このことが、結果として、「経営のスピード」を増すことにつながります。すなわち、「事業計画」こそ、会社が伸びる大きな要素をはらんでいるのです。

 

事業計画の策定をさせない誘因

 この事業計策定を積極的に後押しさせない誘因は何でしょうか?

 ・事業計画自体に対する経営者の無知による

 この場合は、経営者本人が無知であるだけで、その解決は容易です。経営者に経営指導することで解決できます。

 ・経営者の自信過剰に起因する

 これは少し厄介なところがありますが、これも指導が可能です。

 ただし、経営者自身に相当の覚悟が必要となります。本人の自信の鼻を時にへし折られるような経営指導内容が発生するかもしれない。しかし、それでへこたれるような経営者は、元々プロの経営者になる資格の入り口で不合格になるか、普通の経営者で終わる運命にあると考えます。

 ・「まだ大丈夫・・・」と現状把握の弱さに起因し、計画行動を先延ばしする

 これは沢山の経営者に見られる現象です。経営計画を早く策定すれば、それだけ、エネルギーロスが少なくて済むはずなのに、経営者が環境変化への洞察や作戦の着地が遅れ、結果として、事態の急変を知り、慌てて突然降ってわいたように社員に無計画に仕事を落とすことにもなりかねないのです。経営の混乱をきたします。

 創業時の仲間意識を引っ張る経営者に時々見られる現象で、「まだ大丈夫」と、仲間意識で物事を見る従前の癖がこびりついてしまっている場合です。時代の変化のスピードが経営者を始め創業時の仲間の成長のスピードよりはるかに超えていることに気づかない、もしくは、気づきたくないケースです。

 この場合も、現状認識を再認識させるための少し荒療治が必要ですが、経営指導で何とかリカバー可能です。

 ・古い体質を引っ張る現場の抵抗に抗しきれない

 現場に環境の変化を察知する能力が欠けているか、変化に対して現場が毛嫌いする社風が全社の隅々にこびりついている場合です。加えて、現場の長に無言の力がある場合、これはさらに大変です。現場の長の成長が会社の成長の器に入りきれない場合です。

 このように現場の指導者の意識変化ができない場合には、たとえ創業時からのメンバーでも、「泣いて馬謖を斬る」くらいの経営者の決断が不可欠となります。

 学ぶこと、挑戦すること、環境の変化を先取りするマネジメントをすること、などの体質を植え付け、常に自らを変革する社風を創る努力を普段から浸透させておかなければなりません。

 これも少し荒療治になりますが、解決可能です。逆の事象でないのがむしろ幸いです。現場が変化したいのに、経営者がそれを洞察しない、適切な行動を起こさない、これらを事業計画として反映させない場合は、かなり問題が複雑で解決に時間を要します。主要人事も含めた対応が不可欠となります。

 ・経営に本気度が欠如している

 実は、経営者自身が会社の成長・発展へどの程度の本気度があるかが最後の大きな問題です。しかも、経営者が会社の成長・発展と社員の自己実現をどれだけリンクさせた発想を持った上での本気度か否かが問題です。

 いろいろな障害があっても、描いた経営目標を達成しようとする「気魄」が経営者にあるか否かが、このことと関係すると考えます。

 「気魄」の「気」は経営活動や生命を維持するエネルギーです。この文字は、旧字体では「米」の分解文字をもっており、お米を炊いた時にわき上がる湯気、上流へ気が流れる様子とも考えられ、「魄」の文字も脈打っている状態を表しています。すなわち、上流に向かう脈打つエネルギーです。

 健康な経営を全うするには、経営者自身が事業計画の内容を一定期間かけてやり遂げようとするこの「気魄」が無くてはダメです。しかもこの「気魄」が日常的に行動で表現さればなりません。社員を沢山雇用し、その社員を巻き込んで経営目標を実現したいのであれば、目指す目標、戦略内容、資源の補充も含めて事業の計画の中で具体的に明示しなければ、社員のベクトルは合いません。エネルギーは結集できません。

 是非、「事業計画」を綿密に策定するところから始め、必ず自社が成長する筋道を見つけてください。

 

第231回 経営判断時の留意

Posted on 2016-12-22

 私も経営判断に迷うことが多くありました。重い経営責任を負っているから当然のことですが、特に、大きな事案だと、トップの判断における悩みは尋常ではありません。

 そのような判断時、どうしたらよいのでしようか。

 このビジネスコラムの第216回、「不合理な判断のクセ」でも書きましたが、今回は経営判断に焦点を当ててみます。

 経営の判断では、次のポイントに留意したものです。

 

評価軸のぶれ

 何かの経営選択をする時のために、経営者は常に自分の評価軸を持っておくべきです。

 大きな経営判断の時に、この評価軸が支えになります。それに照らして判断すればよいのですが、普通の人はどうしても、その都度発生する事象に対して、個人的な思い入れに影響され、評価軸が無意識にブレ易いことを意識してください。

 勿論、時の経過で評価軸自体を見つめなおすことも必要です。会社の規模の拡大、業態の変貌などに伴い、軸の構成要素を一部変えなければならないこともあります。このことを前提としても、判断軸をブラさないためには、多少抽象的でも良いので、判断の軸を公言・表明しておくのが一番よいです。

 本日出版予定の『勝ち続ける会社の「事業計画」のつくり方』にも書きましたが、経営者として誰でも認める評価軸は、「経営哲学」や「経営理念」になるはずです。

 

「競合相手ならどうする?」、「尊敬するx氏ならどう判断する?」の視点を常に持つ

 どうして経営判断が独りよがりになります。一定のマーケットシェアを握れる自信を持った場合など特に、施策に傲慢さも出て、自己本位な発想と判断が頭をもたげてきます。

 そこで、一息入れることです。「もし自分が競合会社の経営者だったら、どうでる?」という視点を判断の中に入れることです。競合会社に成りすました第三者から客観的なアドバイスをもらうのも手です。

 自分が師と仰ぐ人をイメージして、「x氏ならこの場合どう判断するのだろうか?」、「何故、そう判断するのだろうか?」と一息入れて自分の判断を客観視するのも手です。私も大きな判断の時には、これを習慣づけてずいぶん助かりました。いずれにしろ、自分の傲慢さを少しでも客観視する視点を持ちたいです。

 

「ためにした情報」を排除する

 新聞、テレビ、人の意見など、全てその情報の中に、それぞれの立場がもたらすバイアスがあることを念頭に入れなければなりません。「ためにする」情報が氾濫しています。

 情報の震源地を見極めること、その情報が何故その時に発信されたのかなど、情報をできるだけ客観的見るクセをつけることです。情報の信ぴょう性に疑念を抱く、できれば情報の震源地や原本に行き着いて判断をするクセを持つと、情報のバイアスを取り除くことにつながります。

 

私的感情を制御する

 友人や知人と一緒に会社を興した経営者に多くみられる現象です。判断をする際に、そのような友人や知人への思いから私的感情が合理的な判断の邪魔をしやすい。これが度を越すと、結局、会社の経営を誤った方向に導くことにもなりかねません。友人との絆が良い方向に展開すれば結構な判断になるのですが、そうならないこともありうることを認識すべきです。

 もっと広い視点で本当に適正な判断かをチェックしてもらうため、第三者の意見を取り入れる余地を残すのも手です。

 

「思い込み」を戒める

 どの経営者も自分で考えた施策や選択には自信があります。まだ自分の考えが、他の人の考えより優れていると思いたいのです。

 しかし、それは「思い込み」に過ぎないことを忘れてはなりません。自分の発想自体に、何かの「ゆがみ」があることに気づかない場合があるのです。

 大きな戦略判断では、「思い込み」からでる経営判断の「ゆがみ」が、会社の成長スピードを落とすことにもなりかねません。

 

本質が影響されることを認識

 判断する場合、選択肢の中から綺麗にまとめられたもの、きらびやかなプレゼンテーションに、事の本質を奪われてしまうことに留意すべきです。

 私は経営をしていた時、これに気を付けていました。プレゼンテーションが実にうまい。図式やチャートをちりばめて資料がきれいに仕立てあがっている。しかし、良く読み吟味すると本質を外している。それを多数決で選択させると、どうしてもそれに票が多くなる傾向がある。

 この「型」を見破り、本質に行き着く努力を重ねて経営判断の良いクセをつけるとプロの経営に近づけます。

 

 

第230回 聴く、そして、質問をする

Posted on 2016-12-15

 私のビジネスコラムの中で、以前ふれたことがあるテーマです。「聴く、そして、質問をする」ことが本当に下手な経営者に最近会い、このことを思い出しました。重要なことと思いますので、再度取り上げます。

 相手の話を聴いて、それをもとにして「質問する、問いかけることをすれば、本当の情報が沢山集まり建設的な議論ができ、もっと会社が成長するのに」と、感じた次第です。優秀な経営者の一人ですが、とにかく、一方的に話し続ける、自分の主張しかしないタイプの人です。

 

ある体験

 アメリカのある苦情処理のコンサルタント会社の会長と交渉をしていた時にも同様なことがあったことを、思い起こします。

 その会長は弁護士であったせいもありますが、とにかく、しゃべり続ける人でした。自分の知識の豊富さを披瀝したいのではないかと思うほど、しゃべり続ける人で、こちらが興味を持っていることに、ずばりと答えてくれる人ではありませんでした。

 延々と周辺の知識から話し出す。間合いがないので、音声が私の耳を通るだけ。本論の所に行く時点では、私の興味度が全く薄れてしまっており、当方の聞く姿勢も中途半端になってしまいました。

 聴かない当方にも責めがありますが、数時間を費やして論点を明確にできないまま交渉が時間切れという情けない光景だったことを、今も思い出します。幸い、パートナーの社長がカバーしてくれて、交渉は成功裏にできましたが、精神的に嫌な体験でした。

 

社会構造の変化

 確かにこの社会は、競い合い、知識などをもとに課題を解決するために主張することが評価されるようになってきたことも事実です。そうである限り、自分が知っていることを相手に積極的に話す方向に向いがちです。

 ましてや、知っているのに謙虚さから知識を披瀝しないことが低い評価につながる、アメリカ的価値観が大手を振るっている社会では、聴いていることに我慢がならなくなる背景も分かります。個人の権利が極めて尊重され、保護されるべきだとの発想が根底にあり、謙虚さを持って聴き、質問をする発想と行動が乏しくなっている社会構造があるのも分かります。

 

何が長い目で得か

 しかし、考えてみれば、そのような社会だからこそいろいろな潜在的な問題を抱えていると、私は思います。個人にストレスが溜まる。心の病気になる人が多くなる。結果として、組織にストレスが溜まり、生産性が落ちる。誰も得をしていません。

 それより、良好な人間関係を築いて、その中で一緒に解決策を見つけようと発想する風土や文化の方が、より健全な社会を築くことにつながるのではないでしょうか。

 問いかけ質問をする。このことは、相手の言うことに耳を傾けている証拠です。相手側に話の主導権があることを認めていることになり、同じ目線で会話がスムーズに出来、良い人間関係も作れることになるのです。

 

聴く習慣

 この例は、会社の中、家庭の中、どこでも発生しているはずです。冷静に考えてみれば、どちらの方が長い目で見ればよかったのかは自明なはず。

 どこかの大統領候補が、相手国の主張や過去の経緯を聞く前に、持論をまず主張し続ける。これに相手国が反応し、即反論する。外交関係がぎくしゃくする。誰も得をしていない関係をどう見るのでしょうか。

 聴くこと、その後に本質的なことを婉曲的に質問する。このことは、我々日本人の誇るべき資質のはずです。なんでも主張し続ける文化を良しとするような最近の社会風潮に、我々から警鐘を鳴らしたいものです。

 対話(ダイアログ)とはそもそも聴いて、質問することから成り立つものだと考えているからです。このことを、冒頭の経営者にいつか示唆してあげたいと考えています