人事
人間性と運
会社の成長に従い、いろいろな人材を採用していました。印象に残ることが沢山あります。
採用での差別
以前の会社で培った経験を生かしてもらうために採用した彼らを「キャリア」と呼んでいました。それまでのキャリアを新たに入社した会社で発揮してもらう趣旨です。一般的に呼ばれる「中途採用」という用語は一切使用禁止としました。皆しばらく戸惑っていましたが1年くらいでこの言葉が完全に定着し、以前にいる社員と何のハンヂキャップもなく貢献してくれたのが嬉しい思いでした。一般的に「中途採用」と言うとなんとなく新卒組と対比させる言葉の響きを持ち、採用される側にとっても良い印象を与えないと考えたからです。このキャリア採用組に会社の発展を助けてもらいました。
人間性をみる
採用にあたっては能力に加えて、その人の人間性をできるだけ見ることにしていました。それでも、追って私のメガネ違いとわかる幹部社員も採用してしまったことが残念で仕方ありません。
物事は考えようです。私が騙さなくて「そういう人に騙される側でよかった」と。そう言うと、ある人に「それでは、中国全体を統一したほどの英雄にはなれない」と言われたことがあります。つまり腹黒さ、ツラの皮の厚さが足りないことを言っているのだと思います。それでも、「騙される側でよかった」との思いは変わりありません。長い人生の過程で本人のその時の行為がどういうことだったかを、どこかで本人がわかる時が来ると思うからです。
キャリア採用で「この人は採用してよかった」と思ったのは、今は日産系の関係会社で役員をしている山田清君です。彼のような真面目な人は能力があっても「うまく泳がないと出世できない、官僚的な組織では無理だろうな」と、面接時すぐ分かりました。でも、私は彼の裏表に差がない性格が好きでした。この人なら法務関係すべてを任せられる人物と見たのです。入社後の彼の能力は抜群で、しかもこれはという社員からの好かれ方は私の想像したとおりでした。
「運がない人」を採用していませんか?
雑誌プレジデントの今井副編集長と話す機会がありました。私のビジネスコラムで一度取り上げたことがあると思いますが、再述します。 その際、嶋口充輝先生(慶応義塾大学名誉教授、公益社団法人日本マーケティング協会理事長)から聞いた原因と結果をつなぐ「因縁」について話した折に、彼女から藤井聡京都大学院工学研究科教授の記事、『解明!運がない人は、なぜ運がないのか』(プレジデント、2011.8.15)を紹介されました。
この記事の中に「『姑息なヤツ』は潜在意識の配慮範囲が狭い」として「認知的焦点化理論」のチャートが載っており、運が悪い人は認知の焦点が他人より自分へ、社会の将来より現在へむいて狭まっていくと読めます。逆に、「運が良い人は相手の利益を考え、裏切ることもない人と一緒にいると得なので誰もその人と一緒にいたくなる」ので真の友人やビジネスパートナーができやすいようです。
私は、採用面接時に留意していたことがあります。面接に来られる人の履歴書を見て倒産した会社ばかりが列記されている人には注意していました。人事部門にも、よほどの事がない限りこのような人を採用しないように指示していました。倒産しそうな会社を選択する本人の判断力の悪さと同時に、本人がその会社にネガティブな運を運ぶ力が、なにかしら作用したのではないかと思うからです。いろいろな事情説明があっても、本人の認識の焦点がどんどん「自分」と「現在」に狭く固まっていく傾向のある人かもしれません。このような人は、良い運を運ぶ力が弱いと私は確信しています。
藤井教授の記事の通り、「運がない人」は、良い「因縁」をもたらさないように思います。認識が自分のみに向かう自己本位の利己的な人です。その人の周囲には人が集まりにくい。他人や社員を助け、チームで大きな仕事を成就して皆でワイワイ騒ぎ喜ぶこともない。周囲の皆や社員の将来を考えて何かの行動を起こす考えが少ないので、将来の絵姿を一緒に作り上げるチャンスにも恵まれない、というように、「因縁」の回転が何か変な所に引っ張られてしまう感じがします。誠に不幸なことですが、世の中にはこのような人がいるのが現実です。
間違っていると私が考える人事をどう考えますか?
今回は、社員が「わくわく元気」になれないケースを紹介します。若い経営者諸君、他山の石として下さい。
人材たる社員の心のキズ
これはある会社で実際に発生した、又、発生していると聞いたことです。ある人事責任者の存在が関係する人事の影響についてです。外野からですが、何故会社がある一路をたどり元気がなくなっていくと皆が感じるかの一側面を、実例として見る感じです。
ある人が人事の責任者に就いてからというもの、その会社では人材の流出、特に優秀な若手人材の流出がすさまじいことは、兼ねてから耳にしていました。先日も、ある会合で会ったその会社の現役若手社員が、状況を次のように吐露していました。
「人件費を削減し短期的に利益を出すために打ち出したリストラ策はひどい結果でした。人事の責任者の好き嫌いで人事や評価をやっています。主要なポストには、その人の息のかかった人を配置するので、結局、その人事に不満な人が会社を去って行きます。しかも、残って会社を支えてほしいと思う人材は、将来展望の無さと情実人事に嫌気がさして先に去ってしまい、残っている人は、どちらかと言えば骨抜きにされた人だけです。その結果として、我々に負担がかかってきて残業ばかり、もう限界です。好き嫌いで人事をやっているようなこの会社の将来が不安です。私も近々辞めます」。
又、その人事責任者に対する競合各社の評判も同様のようで、競合各社にとって嬉しい限りとのことです。
人材こそ会社の財産という意識
この人事責任者は、一般論でいうと株主にとってはすこぶる都合のよい人かもしれませんが、これでは人材が財産である会社が全く人材無しの状態になり下がってしまいます。かつては、競合会社がこの会社の方策の一挙手一投足を気にしながら経営をしていたものでしたが、今では見る影もなしと、先述会合でお会いした皆さんが無念がっていました。
「その人事の責任者の保身のための好き嫌いと見える人事を何故会社が許し、社員を『おもちゃ』的に扱うことを黙認しているのか不思議なんです。『会社を駄目にしている』と皆が言うその人の存在に、何故株主は気がつかないのでしょうか、あるいは、あからさまに言えない他の事情があるのでしょうか」と、皆さん憤慨していました。
このことがもし事実だとしたら、内部で働く社員が可哀そうです。社員の心のキズが心配です。社会的に存在意義のあったその会社が人材という財産を棄損し、いとも簡単にある一途をたどるのを見るのは彼らにとって忍びがたいことでしょう。
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