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折々の言葉

第280回 マインドの問題

Posted on 2018-04-26

 ビジネスマンの世界で「結果を重視せよ!」という指示が飛ぶのをよく見ます。しかし、経営上それが本当に得かを考えてみた上のことでしょうか?

 確かに「結果は行動で決まる」という経営の考え方もあります。これを強調するあまり、特定の人物の行動パターンを見習えといったやり方を押し付けるなど、極端な経営者も稀にいます。

 

マインドセットが行動に影響する

 しかし、それでは上手くいかないケースを沢山の経営者が体験してきています。何故でしょうか?

 結果には行動でなく、社員のマインドセットが大きく影響することが原因です。

 私もこのことを、経営上体験してきました。

 疲弊しきった社員の心に結果のみ押し付けても上手くいかない。むしろ、行動に反映できない心の部分に何か問題が潜んでいる、このことを経営側が分かって社員に手を差し伸べる手段を講ずるほうが行動に影響を及ぼし、経営上はるかに良い結果につながることを、学びました。

 社員のマインドを変えない限り、事象が一瞬良くなったとしても、マインドが定まっていないので行動パターンは一般的には長続きしない。カンフル的措置で一瞬経営回復したように見えても、中期的には成長軌道に乗らない会社を多く見るのはこれが一因です。

 戦略の妥当性などを除けば、経営が上手くいかないのは大半社員のマインドが原因です。マインドの持ち方が正常にセットされていない社員で構成されているからです。その背景にはいろいろな事情や壁があります。

 職場の人間関係などの壁もこの一例です。行動の変化を双方に指導しても効果がでない。良くなったようにカモフラージュして双方一時避難する。双方のマインドの部分に原因があるので、行動より更に深いところで人間関係がギクシャクしているので、解決しません。

 双方の一方的な思いの部分を変えてもらわない限り、カモフラージュが剥がれ心理的対立が残ったままになり、組織の効果的運営に支障をきたすことになります。

 

マインドセット—心の持ちよう

 ここにマインドセットとは、心の持ちようです。「志」、「信条」、物事をどう観るかの「捉え方」、「視点」ということ、人や周囲との関りでの人間関係、直面する課題、環境、チャンス、責任などをどう捉えるかの心の姿勢です。

 従って、本来は個人の問題です。

 ところが、集団で仕事をする、集団で何かを追求する場合、個々人のマインドが上手くセットされていないと集団がまず機能しない。同じ目標に向かって一致団結してその目標を達成しようとするマインドが少ないと、たとえ優秀な社員を揃えても、組織としてのエネルギーが高揚されません。

 

入り口の重要性

 ビジネスマンのマインドを形成するためには、ビジネスマンとしての入り口が大切です。

 入社時の研修は、たとえ上手くなくてもとにかく自社で対応する。自社の社員の中で鏡と見做す人が運営すべきことを、私が主張するのは、入り口のところで良いマインドをセットさせるためです。

 ビジネスの世界で一番重要なことは社員が最初に入社した時の環境、最初の上司です。新しい世界に入った時の第一印象が、ビジネスマンとしてのマインド形成の入り口です。

 従って、会社内のピカ一の人を上司として当てる。マインドのレベルが低い人は絶対に充てない方針を貫いています。

 

自分事の視点で捉えるマインドをセットする

 マインドのセットで最初に重要なことは、人の働く環境、直面している問題を、自分事の視点で捉えられる姿勢を植え付けることです。

 研修などでビジネスマンに最初に基本的なことは教え込む。咀嚼した段階で評論家風でなく自分事として捉えるマインドを植え付ける。知識を植え付けるステージから物事を真剣に自分事として捉え、その課題をどう解決するかのマインドをワークショップなどの体験を通じて会得させる事が肝要です。

 

組織を経営できるため周囲の環境を察知して対応するマインドをセットする

 次に、「自分のために」を優先するのでなく、集団の成果につなげるにはどうするかの視点を身に着けさせることが重要です。組織を経営するには必要不可欠なマインドです。

 私は、経営のために必要なマインドをセットさせる一環で、会社のマネジメント方法にグループ制を薦めています。組織を小グループに分けて、一定の範囲内で本人に経営を任せマネジメントさせる方法です。グループをまとめて経営する体験から、自分の立ち位置と周囲の目標との関係を考えることにより、経営にとって必要なマインドセットの仕方を学ばせるためです。

 自分のグループのことのみを考え、自分のグループのための利益のみを考えるマインドでは、追って行き詰ることを、グループ経営の体験で学びます。

 修正するための術も身に付いてきます。隣の部門や相手のニーズ、目的、課題にしっかりと目を向け、自分の仕事が相手に与える結果を想定し、隣の部門にも役に立つように自ら努力する術です。

 例えば、全社のコスト削減の指示が出たとします。これに対して自グループのことのみ考慮した策を講じたとすると、他のグループや会社の事業全体のエキスの部分に損害を与えることにもなりえない。部門の機能は皆つながっているからです。結果、全社の人的資源の一律カットのところまで行きついたとしたら、自分のグループは生き残れたとしても会社全体がおかしくなり、自グループの存在も危うくなります。当然、皆が損をすることも分かります。

 相手の仕事を知らないと組織の経営できなくなる、互いに相手の仕事内容を知ることでそれぞれが相手の仕事と自分の仕事のつながりをよく理解できるようになり、全体効果を上げるために、自分に何ができるかを考える習慣がグループ制下で芽生え、セットされていきます。

 逆に、壁の厚い組織では、これが出来ていません。隣の部門がどのような仕事をして、今何に困っているかを知ろうとしません。これでは組織全体は効率的に回るはずもありません。自分のグループのことだけを考えて、結局自分が損をすることになります。マインドが関係します。

 詳細は省きますが、私自身この弊害を除去するために、「農耕型企業風土つくり」の経営と称して、この経営手法を提唱しています。この経営を進めると、隣の部門の苦痛を肌感覚で察し、必要なタイミングで隣の部門に手を差し伸べる互助のマインドが醸成されます。結果、組織の経営にも役立ちます。

 債権回収の仕事で実績を上げる社員が相手が何に困っているのかを察知し、それをサポートする姿勢と具体策を通じて自社の債権の早期回収に成功するパターンとよく似ています。

 

マインドセットで変わること

 最初の入り口で、良いマインドをセットする。経営的マインドをセットさせる。このような社員の塊が増えると、マネジメントのやり方さえ軌道に乗せれば、管理をしなくてもよい職場になりやすいです。マインドセットが変わると社員がおのずと行動を起こすようになるので、「行動を変えろ」と指示する必要はなくなります。こういう社風の職場をつくると企業の成長が早いのではないでしょうか。

 

 

 

第279回 価値の評価とリスク

Posted on 2018-04-19

 経営者ならずとも、我々は毎日、人生でいろいろの判断を下しています。この判断は、事象に対して、なんらかの価値の評価をしていることになります。だとすると、判断にするに当たっては、できる限り本当の価値を基に適切な評価したいと思うのは私だけでしょうか。

 企業の経営においていろいろな事業候補群のどれを選択するか、これも評価の範疇にはいります。特に、新規事業の成否は戦略判断に関係しますが、そこにおいてそれぞれの戦略オプションの評価がベースとなります。ある意味で「値打ち」を正しく評価する、見抜く力です。

 

評価の基準と価値

 問題はこの評価の基準です。

 いろいろな評価基準があり、単純ではありません。

 我々が買い物などで商品を購入する場合は、評価の大切な基準として価格を選択しているのではないでしょうか?

 ところが真面目に考えてみると、これは本当に適切な方法か疑問です。価格は売る側の事情で付けたもの、売る側の原価や競合各社の値段などを参考にしてつけたもので、購入する人にとっての価値とは直接関係ないこともありうるからです。

 購入商品の値付けに、価値という考え方が明確な比較基準として織り込まれていない、若しくは、不足している考え方です。選択肢の評価基準の中で、価値に重点を置いた位置付けも考慮すべきではないかと思います。

 

評価の方法

 次に問題となるのは、価値の評価の方法です。

 企業の内部でよく議論になるところです。

 価値の評価方法として、原価からアプローチする方法や取引事例比較による方法があります。価格に価値が表現されている前提です。

 原価ベースの方法は、原価を算出し、一定のマージン率を加算して価格とする方法です。この方法のメリットは、もしその通りの値付けが通れば一定の利益を企業として確保できることです。しかし、競争要因が働く場合は、その限りではありません。

 一方、取引事例比較のやり方は、競合に対して勝つことはできても、自社の一定の利益の確保は概念上、担保されない欠点を持っています。

 会社内で、この二つの議論が行われて営業部門と他の部門でもめることがよくあります。先述の通り、これらはあくまで価格と価格の比較です。しかし、価値を前面にして考えると、価値の源泉は、人間や機械のコストも大事な因子だが、目に見えないもの、顧客がベネフィットを感じるものも考慮しなければならないのではないということになります。

 そこで、もう一つの評価方法は、顧客にとって役立つことを評価する方法です。「役立つこと」とは、「価格意外のモノ」も加味して表現されることもあります。

 ビジネスのプロセスから顧客が得るメリット、ブランド、優れた人材による対応、集客力、雰囲気などなどが顧客にいかに評価されるかなど、目に見えないモノも含めた総体です。蛇足ですが、アンケート調査などを行う本来の趣旨は、顧客が自社の何を評価しているかを知ること、それを価値に引き直す作業に活かすためです。

 ここでいろいろな価値をお金に換算しなおす作業が必要となります。この価値を生み出すお金の総量で決めることになります。利益が増えてもキャッシュフローが増えないと、会社の価値は増えない。値引きで直近の売り上げがたっても将来のキャッシュフローを見ると大きくならない場合、この判断は間違いとなります。

 このアプローチは将来の稼ぎも現時点に割り戻して計算しますので、金利がポイントです。

 金利とはリスクへの見返りです。投資判断の計算では内部収益率(IRR)に相当します。

 ここで評価とリスクとの関係が出てきます。

 

リスク

 どの判断方法をとるにしても、リスクを伴います。

 ここでいうリスクとは、危険のことではありません。金利はリスクへの見返りですが、一般の議論で勘違いがあります。事象の変動が不確実なことをリスクといいます。

 危険が起こる可能性を指しているわけではないことです。この可能性に対して最大限事前に防止策をとっても、前提の事象が変動するかわからないことを言います。したがって、望ましいリスク(アップサイド)や望ましくないリスク(ダウンサイド)もあることを勘案して選択しなければなりません。経営戦略上の投資評価でアップサイドとダウンサイドを必ず吟味するのはこのためです。

 参考になりましたでしょうか。

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第278回 マーケティング上のインサイトについて

Posted on 2018-04-05

 そもそもインサイトという言葉は、マーケティング上の言葉というより心理学上の言葉だと思います。それを証拠に、この定義は、「人を動かす隠れた心理」と言われます。

 定義上から明らかな通り、

(1)本人も通常意識していない隠れたもの、

(2)それが本人を動かしているというポイントです。

 隠れた心理のところに、隠れた不満、欲求などがあります。商売上は、できればこれを察知してその不満を解決し、欲求を満足させるような企画やアイデアを出すことにつながります。

 

インサイトの中味

 いろいろな教科書で説明されていますが、インサイトの中味を解析すると、一般的に次の要素から構成されています。これらは、

・まず、その人の「感情が生まれた場面や、行動」です。

 例えば、1か月前から体の調子が悪い。普段目にしている疾患関連の症状に似ている。

このような場面です。これは本人もインサイトと認識していないかもしれません。

日時や場所、どんな時かなどの情報が絡んでいます。

 

・次に、ドライバーというか、上記の「感情を生み出す基となった要因」です。

 例えば、診療機関での検査値が異常だった。

 これは事実として隠しようもないことですが、その人は、それ以外の診療所では違う検査値を得たとすると、益々不安の感情が拡大することになります。

 

・さらに、「感情や気持ち、情緒」が要素となります。

 例えば、先の例で言えば、万一、入院となったら生計をどう営もう、就業や就職は大丈夫だろうか、自分がやりたいことが出来なくなるなどと、普通の人は感情が高ぶります。

 

・最後に、不満や充足されない「背景」です。

 自分が万一入院したら、家族が大変だ。何としても早く治療を受けて回復したい。それにはどうしたら良いかと、また新たな未充足な状態が発生する、という循環も普通に見られる背景です。

 

インサイトを探し出す方法

 このインサイトは、本人も明白には分かっていない。

 それを第三者がどう見つけるか、事業を営む企業のマーケティング担当者としては何とかしたいところです。

 本人自身にも隠れていますので、インサイトの発見方法は、そう簡単なことではありません。

 現在、行われている一般的な方法は、文章に穴をあけ、それを埋めさせる文章完成法とパネル参加者の行動を観察する行動観察法です。

 前者は、例えば、「もし、私が入院したら・・・が心配です」の「・・・」に何を入れるか。それによって、隠れた不満や欲求が表現され、インサイトが顕示的に表現されると見る方法です。

 後者は、パネラーの行動を観察することで、その人の一挙手一投足の非言語的情報から、その人の隠れた不満や欲求を察知する方法です。

 どちらが良い悪いということでなく、むしろそこからの情報をどう読み取るかが問われることになります。参加する人の声(ヴォイス)とインサイトの4要素をどう組み合わせ(コンバイン)て、隠れた部分をいかに解読するかです。

 

ひとつのヒント

 全体を先ほどの例で言えば、

 最近体の調子が悪い「状況」がある。

 そこで診療をうけたら、ある検査値が異常であることが明確になる「ドライバー」により、

 自分が入院することになるのだろうかという「感情や情緒」の不安が生じている、

 その背景は、入院や手術代の経済負担に自分が耐えられないのではないか、なんとしても治療を成功裡に終えることのできるドクターや薬を探したい。そこまで分かれば大躍進です。

 このような筋書きになるとすれば、その人のインサイトがなんとなく浮き彫りとなり、企業として新しいアイデアや企画、新規事業のヒントになる。

 それがうまく実現すれば、その企業にとっての救世主となるかもしれないので、世のマーケティング関係者が血眼でインサイトを探し求めているのがお分かりになると思います。

 世の悩めるマーケティング担当者の方々、4つの要素に分解して考え直すと、企画やアイデア出しが少しは前進するかもしれません。乞う、朗報。

 

第277回 戦略の転換点を乗り越える

Posted on 2018-03-29

 会社の命運を左右するひとつのポイントは、いかに「戦略の転換点」を察知し、それを超える作戦を打ち出すか、若しくは、その脅威から逃れる手を打てるかです。私自身も経営者として、過去に嫌というほどこの重要性を思い知る体験しました。

 

一生懸命経営しても報われないこともある

 経営は、普通一所懸命に努力をしていれば、その努力なりに報われる確率が高いです。

 しかし、通常の経営努力をしても、その努力が正当に報われなくなる時期があります。現実にこの局面に悩んでいる会社の社長の話を聴くにつけ、「何故、先を見誤ったのか?」と悔やまれることがあります。その回復のための適切な経営指導はもちろん怠りませんが、そうなった時点での策は相当限定されてしまいます。もっと早く戦略の転換点を見つけて対応してくれていたなら、いろいろな選択肢もあったのにと残念に思うことが多いです。

 そこで今回はこのテーマを取り上げました。

 

戦略の転換点とは

 一般的に戦略の転換点とは、企業を経営する過程において経営をゆるがす根本的な環境変化が起こる時点を言います。変化の内容は後述の通りでいろいろです。この転換点を境にして、自社の事業構造やポジション等が大きく変化してしまう時点なるが故に、これを見誤ると経営にとって大変なことになります。

 どの企業も競争の過程で様々な変化に直面します。

 仕入れルートを変えざるを得なくなってきた、下請け注文が以前のルートから入らなくなった、供給先や顧客筋が変わってきたなどです。

 これらの変化は本来自社のビジネスに大きく影響を与える要素のはずです。しかし、もしその変化の大きさが10のx倍レベルだとしたら、自社にとって劇的すぎる変化です。実は、戦略の転換点はこの「10のx倍」レベルの力によって生じるものなのです。

 先ほど述べた変化のどれか一つ、もしくは、複数要素に同時に「10のx倍」レベルの変化がもたらされたとしたら自社の命運はどうなるか、考えただけで恐ろしい。しかし、現実にこのような転換点が到来するのです。

 例えば出版業界では、若年人口が活字離れ、紙離れしてしまう。また、デジタル化により、知識・情報の入手が本、雑誌でなく情報通信機器を通じて簡単にできるようになる。結果、限られた財布から紙媒体に出費する金額が相対的に少なくなる。

 出版業界自体の境界が不明確になるほどの状態です。周辺の技術革新が、明らかに戦略の転換点をもたらしてきています。

 また、コンピュータ業界ではマイクロプロセッサーの登場が10のx倍の力となったのは、皆さまご存知の通りです。これを機にこの業界自体が縦割りから横割り型に変化しました。

 すなわち、インテル社がチップを作る企業に、IBMや旧コンパック社がコンピュータ本体を作る企業に、マイクロソフト社などがOSを開発する企業にと、横割り型の業界に再編成されたのは記憶に新しいと思います。蛇足ですがチップの分野で言えば、東芝がパソコンやスマートフォンの大半に使用されているNANDメモリーの供給先として世界第2位でした。これを、ベインキャピタルを中心としたグループに約2兆円で売却してしまった。国家的損失です。

 いずれにしろ、コンピュータ業界では従来の企業は衰退して新興企業が伸びてくる新陳代謝以上のことが起きました。また、従来は多数のチップで構成されていたものが一つのチップに集約できるようになり、このことで大多数の消費者や企業が多くのメリットを受けることになりました。まさに劇的な大変化です。一大戦略の転換点でした。かなりの企業が、自社の経営戦略の見直しをせざるをえなかったほどの劇的な影響力でした。

 

戦略の転換点を如何に察知するか

 優秀な経営者は戦略の転換点を洞察する力をもっています。そうではない経営者がこれを認識するにはどうしたら良いのでしょうか。

・ひとつの兆候は、主要ライバル企業が新興企業の傘下に突然入るというような事象が発生した時です。競合分析対象としてカバーしていたその会社が、まったく予想もしていなかった異業種と提携する、その会社と合併するなどの場合です。

・次に上記に似ていますが、自らが競争している会社群のマーケティグポジションの劇的な入れ替えが発生した場合です。ポジション5番目の会社が、いきなり2番目に来る。当然彼らの経営戦略の中味も全く自社の範疇を超える要素を入れてきているはずです。その会社は転換点を見つけて、着実に手を打っていたのです。

・営業など顧客との直接接点を持っている部門から業界の新たな動きに対する警鐘がなる場合です。これを経営陣が営業力の弱さと勘違いするケースがよくありますが、マーケット環境の劇的な変化を、営業が肌感覚で察知していた場合です。

・自社のノウハウと思っていたことが新参入者の新しい技術により覆されてしまうか、その兆候が出ている場合です。新技術が登場し自社のオペレーション方法が一気に凌駕される。従来のやり方が一気に崩れ、遥かに安価で効率的なオペレーションが技術の力を借りてできるようになる。

 しかし、この兆候を察知するのは、なかなか難しい。技術の全体の普及によるインパクトと、自分の商売がその技術に直接食われる可能性とを同じテーブルで議論しにくい、若しくは、議論したくない状況が多くの会社で発生しやすいからです。

 「それは初期バージョンだ。今後のエンジニアリングの洗礼を受けるはずなので、まだ大丈夫だ」と、たかをくくっている間に自社のマーケットポジションが新興企業に食われていく、このパターンが多いです。

 当然、自社の商品に勢いもなくなってきているはずです。

 勿論、こうなる前に正常な会社なら何らかの手を打っているはずです。しかし、私が見る限り、必ずしもそれが事実でないのが不幸なことです。

 

いかに戦略の転換点を超えるか

 劇的変化を洞察した時、戦略の転換点を乗り越えるためにすべきことはどんなことでしょうか。

・あらゆる関係者を集めて戦略的な議論をする。常に、戦略の転換点が来る恐怖感をもってことに当たる。特に経営者の姿勢が何より肝心です。

 当然、戦略を練り直す。目指す方向性を再チェックする。5年後、戦略が成功した暁に自社がどんな企業でありたいかの新たな将来像を明示することです。標榜するキーワードを厳選の上、自社のドメインを再定義することにもなります。

・経営陣は一般的に古いものに執着しすぎるきらいがあるので、果敢に新規領域に踏み込む。

 環境の激変に対応するために、リスク計算の上、新しい方針に合わせて経営資源を集中投下するのもひとつの方法です。

・上記にもましてトップの果敢な決断が必要です。

 躊躇する間に戦略の転換点のタイミングを失し、経営の舵を切るタイミングが過ぎ去ってしまうからです。「Too Late」となり、マーケット・デストラクターに食われてしまう前に、決断と実行が不可欠です。

 残念なことに、多くの企業が戦略の転換点を迎えた時に衰退しているのです。これも競争社会での新陳代謝として仕方ないことだとの見方も、一部の識者にはあります。

 妥当な考えだとも思います。しかし、衰退の理由が戦略の転換点に気づきながら決断を躊躇してじっと立ち尽したからだとすると、「そうだね」と片づけるわけにはいきません。対局として、病的なまでに心配性たるパラノイア的経営をしなければならないとすると、これはこれで問題です。

 後者のような経営者だけが生き残るような世の中にはなりたくない。戦略の転換点を早い段階で見つけ、早く手を打つ経営が標準的にできるよう経営指導の努力をしていくつもりです。

 

第276回 私が考えるリーダーの仕事の仕方

Posted on 2018-03-22

 会社に優秀な人が沢山いても、生産性は結構低いのをよく見かけます。

 何故か?仕事の仕方を軽んじているからです。リーダー層に私が強調したい仕事の仕方を、以下に悪い例を挙げて浮き彫りにします。

 

1.リーダーに「考える」習慣が少なく、仕事を捌く姿勢が見られる

 「考える」習慣が衰え、目の前の課題に対して「如何に早く捌くか」に忙殺されてしまう傾向が強くなる。

 その結果、毎日遅くまで残業し、大量の仕事をこなす人が優秀とされたり、結論が早く、自分が決めた方向にぐいぐいと部下を引っ張っていく人が評価される傾向が強くなります。

 加えて、何か不具合が起きても、根源のところを議論するよりも、とりあえず早く丸く収める調整力のある人が評価されることになります。

 結果として、新たな価値を生むことにリーダーの考えが至らなくなってしまいます。

 その仕事の意味や、仕事を通じてどんな価値を目指すかなど課題の本質まで考え抜く習慣がなくなってしまう。そうなると、ますます「考える力」が弱くなる悪循環が日常的に発生し、「はい、わかりました」と言われる通りの行動をする人間が多数派になってしまいます。

 そうなると、企業風土として、新規性、革新という言葉があったとしても、実態を伴わない上滑りのモノとして形骸化してしまう傾向が強くなります。

 

2.リーダーが、先入観ですぐに結論を出す姿勢が見られる

 過去の成功体験ですぐ安易に結論を出してしまう癖がついてしまう。

 このやり方だと、環境が変化している場合などには間違った結論になるかもしれない。また、部下との意見の交換を怠ることになり部下と一緒に答えをつくらないので、リーダーが結果責任のみを部下に押し付ける傾向がでてきて、組織のモラールを著しく下げてしまいかねない。

 今度もこの方法で行くことが正解であるかの議論が組織の中に蔓延ってしまう傾向が見られます。

 本来は、部下とのコミュニケーションを大事にし、答えを押し付けるのではなく、一緒に考える習慣をつけるべきです。しかも、事実やデータに基づいた結論を出すべきです。

 

3.リーダーが自部門のみのエキスパートになりやすい

 一つの部門に長くいすぎると、会社全体や他の部門の利益に無関心となりやすい。視野を広くして自分のミッションを再定義し、新たな視点で物事を見る癖がなくなってしまう。

 自部門のみのエキスパートのみになると、かえって組織が不活発になりやすい。

 従って、リーダーにも異部門へのローテーションが必要です。専門家になる以前に、いろいろな部門を経験して、全社的視点で物事を見られる人材に育てていく方が、会社全体としてもはるかに有益です。

 

4.リーダーが調整力のみが巧みな人になりやすい

 関係部署との無用な摩擦を回避することに努力をする人が多くなる。これでは問題の隠蔽や先送りにつながる可能性を秘めている。いずれ不正や不祥事となって現れる。

 リーダーはきちっと事実にぶつかる力を身につけなければならない。革新的なことにも挑戦して、全社として目指すものを実現させる先兵となるくらいの気概を持たなければならない。

 勿論、多くの人と意見を出し合い、議論して解決策を導き出す必要があるが、単に調整力のみに巧みな人材層だけでは、その会社の先行きが心配になります。

 以上、リーダーとしての仕事の仕方で真似をしたくない例を4点あげました。ご参考まで。

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