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折々の言葉

第205回 EUの課題から学ぶ

Posted on 2016-06-02

 G7サミットが先週伊勢志摩で開催されました。当然のことながら報道からしか情報はありませんが、やはり各国の選挙事情を抱えてか総論は賛同しながら考え方や意見スタンスに微妙なズレを感じるのは私だけでしょうか。

 G7国ではないので全体写真には勿論写りませんが、EUからはドナルド・トゥスク大統領が出席。世界の経済や諸問題の解決を引っ張る役目の一部をEUも背負っていますが、いろいろ課題があり難しいかじ取りを要求されます。

 

いろいろな意見

 ところで、海外でEUのことについて質問しても、それぞれの国の置かれた立場によりさまざまな意見が返ってきたことを、私は経験しました。

 ドイツが強くなり過ぎることを曲がりなりにも防止できているという意見、次の戦争のきっかけをヨーロッパから作らせないことに成功しているという意見、形の上では欧州人という認識でヨーロッパが一枚岩になっているという意見などなど、政治面では一定の評価をする人が多いと感じます。過去の戦争体験から次の世界大戦だけは起こしたくないとの強烈な政治姿勢は、加盟各国に見られると個人的には思います。

 政治的な面に関しては、EUが連帯して諸課題を解決していこうとする姿が前面に出ており、ある意味でこれには満足する意見が多いかもしれません。

 

経済・金融の諸課題

 ところが、経済・金融的にはどうでしょうか。

 前身である欧州共同体、EC発足後の20年間は創設国全体の経済成長率は高く、平均で約5%でした。しかし、その後の20年間に関しては、イギリスや米国などの成長率を下回っています。ドイツは1~2%、フランスは2%~2.5%位と低い成長率です。

 日本のGDPの成長率よりは良いでしょうが、最近の低成長率は顕著で、加盟国の国民は満足していません。イギリスでは、EU加盟国として残るか離脱するかをこの6月に国民投票で決定するほど国民の重大関心事になっています。

 何故こうなったかです。日本が今後学ぶべきところかもしれません。基本的には(1)「統一のルール」では各国の経済政策が難しい状況下にあること、(2)EU職員の意識に集約されます。

 

ルール統一の難しさ

 第一に、労働者間の軋轢がどんどん増していることです。

 元々その地域にいる労働者とその地域に移民として入ってきた労働者間の軋轢です。新聞報道などでこの一部はご存じのことだと思います。しかも、このような現象はどこの国でもある程度発生することです。しかし、EUの場合、この軋轢が大きくこのことからそれぞれの国にいろいろな不安定要素を持ち込んできています。

 EU内では統一ルールにより、域内の労働の移動は原則自由で、より労働条件の良い場所での雇用を捜して労働者が国を移動しています。個々人では理論的に妥当な行動で、このことで本来その国の経済活動上貢献しているはずですが、全体で考えると、労働者間の軋轢を経由して不安定要素を各国で生み出しています。

 日本でも労働人口の絶対数および生産人口数の減少を補うために移民の緩和が議論されています。政治的問題は別としても、経済的面からもEUのような様々な課題が生じる可能性を深く吟味した上で、政府は一番適した判断をすべきだと思います。

 第二に、EU域内にEU共通の労働関連法規を統一的に適用することで労働市場が窮屈になっていることです。一国の中での東京と地方の差とは全く異質な問題です。

 それぞれの国の生成過程が違えば、労働や雇用環境の違いもある。そこに共通の労働ルールを持ち込むことで、労働時間、マイノリティー対策、雇用環境の整備などで一部の国にとってはEU加盟後に窮屈な点が多くなったと言われています。労働関連法規などが整備され、労働や雇用条件が進んでいる国が相対的に有利に働くことになります。

 日本でも、規制緩和の名の下に労働や雇用関連の条件が最近大きく変わってきました。日本独自の労働慣習などをすべて欧米基準のルールに合わせることが本当に日本にとって良いことか、今一度考え直すべき時かもしれません。強者が強いるルールは基本的には強者のためにあると考えるべきです。

 第三に、EU域外の国との各国の貿易は「共通のルール」に従わなければならないことです。国によっては独自のルールでの貿易の方が有利だったのに、EU内での共通のルールに従うことで本来のチャンスを失うことが出てきているようです。自国のルールで積極的に貿易を促進できる機会を失ってしま結果として経済的に打撃を蒙っている国もあります。競争環境が乏しくなって活力が失われている国も出てきました。強い国の一人勝ちです。競争でなく共通のルールを強いてEU内の調和と統合に力点を押し過ぎた結果ではないでしょうか。

 ところで、各国の議会の承認を得られれば、TPPの非関税域の拡大が現実のものとなります。一般的には、強い通貨の国が貿易では有利に作用します。弱い産業は他国からの輸入に代替されます。このために日本では、関税の撤廃でも他の国に対抗できるよう国内の産業の抜本的強化に早期に取り組まなければ非関税域ないでの貿易メリットを活かせなくなります。

 第四に、統一通貨も問題を秘めています。

 1999年のユーロ発足当時は大成功でした。ECBが低い金利を設定してくれました。お蔭で加盟各国は比較的贅沢な暮らしが出来た良き時代でした。ところが、問題が発生。経済原則通り、生産性の低い周辺国ではドイツより早いペースでコストと価格が上がりインフレ傾向が出始めました。このため、ドイツの周辺国では競争力が失われ、輸入が増えて巨額の経常赤字を計上する国が増えてしまいました。

 国によっては、自国の生産性から算出した購買力平価と統一された共通の通貨の価値とがかい離してしまっています。2012年にはギリシャをはじめ数か国が離脱をするのではないかとEUの危機が訪れたことは記憶に新しいです。現在もイギリスがEUから離脱をするかで国民投票を行う段階になっているほどです。

 EUも経済情勢を打開するために、資金の量を増やす方法もあります。世にいう量的緩和です。米国もやりました。日本もやりました。これをEUもやろうとしていますが、これまでドイツやイギリスは反対でした。今回のG7サミットでも日本の財政出動に、ドイツは本心では反対です。同様にEU内の議論でもドイツは積極的ではありませんでした。EU加盟の他の国の負担をドイツの自国民がカバーすることになるからです。それでもやるとすれば、ドイツの納税者からの大反対に会うのは必須で、これぞ、EUの結束を損なう大きな問題です。

 日本でも、現状を打開して世界の契機を引っ張るため、金利、通貨の発行量、財政赤字の解消など識者の知恵を取り入れて最適な政策選択を、タイミングを逸しないでやるべき時ではないでしょうか。

 

EU職員の意識

 第五に、EUの公務員の給与の高さです。

 公務員数の多さはギリシャなど個別の国であることですが、ブリュッセルを中心としたEUの官僚などの意識と給与の高さに加盟各国の不満が募っています。良く調べていませんが、国連の職員の給与以上かもしれません。欧州委員会の委員長の給与は、ドイツの首相やフランスの大統領の給与より大幅に多いのは確実です。

 日本の公務員でなく民間企業日産のゴーン社長の報酬がどこかで報道されていましたが、このような報酬体系や経営者意識が日本の産業で本当に妥当なのかについて、今一度考える好機かもしれません。

 

他山の石

 EUはどうすれば良いか。早く経済的な課題を解決しなければEUは厳しい状況になると、個人的には見ます。政治的な面のみを前面に出して乗り切ろうとすればするほどおかしくなるとの意見もあります。

 政治上の理由のみで経済課題が先送りされないようEUで発生している諸課題を、日本も他山の石とすべきところが多くあるのではないでしょうか。

 

第204回 原油市場の影響を概観

Posted on 2016-05-26

 最近はあまり話題に上りませんが、個人的には原油市場の及ぼす影響に目が離せません。

 原油市場は産油大国の供給側の思惑で動いていると言っても過言ではありません。特に、最近は供給国のサウジアラビアと米国の動きが気になる所です。

 一時ほどOPECの団結が無くなった今、原油の供給のためのバルブの締め具合と政治のカードが複雑に絡み合い、各国が自国の安全保障と経済的利益を増すために虚々実々の演出をしているように見えます。

 

原油価格の下落

 2014年6月イスラム国が国の樹立を宣言しました。この直後です、原油の供給の不安定さが今後生じるのではないかと市場が受け取り、原油価格に混乱が生じました。この動きを鎮静化させるためにサウジアラビアが原油の日量生産量を大幅に増産、この動きに追随してイラクとシリアも増産しました。結果として、原油価格は1バレルあたり105ドルから93ドルに下落。2015年には一時50ドルまで下がりました。

 このことに加えて、後で述べるシェールオイルの商業生産を経済的に可能とする技術がアメリカで開発されたことで、原油価格は一時30ドルを切る所まで下落してしまいました。

 

技術開発

 シェールオイル・ガスからの石油抽出に成功した米国では、原油の増産に走るのは当然の帰結でした。この結果、傾向としてOPECから原油生産のシェアを奪いつつあります。シェールオイル(頁岩)は供給源としては以前から分かっていたことでしたが、これまでは、頁岩や頁岩の間からオイルやオイルガスを抽出するコストが高すぎて商業生産に至らなかった。そこに技術が開発され経済性が出てきた背景があります。技術開発が商品価格の低落を招くと言う経済原則通りの動きとなってしまいました。

 

産油国地図の変貌

 シェールオイル企業の投資の限界費用は現在の所、20ドルほどと言われています。全ての生産コストをリカバーするにはまだ50ドル必要とも言われていますので、原油価格は、理論的には当面20~50ドルの範囲何に推移することになります。

 なんとシェールオイル技術による商業生産のお蔭で、2008年にアメリカの日量500万バレルだった原油生産が、2000年頃には900万バレルになったと報じられています。増産量のほとんどがシェールオイル・ガスを言われているほどです。

 これまでも原油の潜在的埋蔵量は実質世界一と言われながら、自国の安全保障のために米国は原油を地下にため込んでいます。ところが、シェールオイル・ガスの開発で原油供給に更に余力が出てきたことやロシアなどへの政治的動きの一環として、米国は今や日本にも原油を輸出するほどに政策転換してきました。私は大きな転換点と見ています。米国が今後世界最大の産油国になる可能性を秘めているともいえるのではないかと考えます。

 

原油価格の下落による諸問題

 ところが、原油価格の下落で問題はいろいろあります。

 原油価格の急落による油関連企業が発行している債券で信用度が低い、いわゆるジャンク債が心配だという議論が以前からあります。今のところは問題が顕在化していませんが、原油価格低落により原油関連企業の収益の悪化を招き債務返済が不能となり、経営が破たんし、世界の経済が大きく影響を受ける経済的影響の問題です。

 また、政治的にも問題が出てきました。産油大国のサウジアラビアと米国との関係がギクシャクし始めています。

 OPECの代表選手であったサウジアラビアの石油の権益を米国は第一次世界大戦前から死守していましたが、このスタンスが最近変化してきています。米国での国防費の削減が必要なこと、米国の外交が内向きになり世界の警察官を放棄し、中東地域の安定が米国の外交の基本政策でなくなってきたことが主な理由と見ます。

 こうなると、世界の政治的、また軍事的地図がややこしくなってきています。アジアの隣国がアメリカの代替役を引き受ける名目で旧帝国主義的な動きを加速しかねない懸念が現実に増大してきます。中国の人民解放軍はインド洋に軍艦の配備などを拡大すると発表し、インド洋は中国が守ると言い出しかねない状況です。

 そうなると、日本に原油を運ぶインド洋の海上ルートの確保がどうなるかです。日本の資源確保の意味でも、マラッカ海峡のみならず、インドは決定的に重要な役割を持つことになります。

 米国内では外国産の原油の需要が減る一方、原油需要面でみると経済の成長に伴って中国が今後のアジア最大の輸入国となります。資源の確保に積極的な方法を講じてくるのは当然です。他方、日本の原油資源の需要が減らないことは当然のこととして、発展するアジア諸国での原油需要も増大します。

 結果として、各国商業用船の航行の自由にとりシーレーンの確保が極めて重要になり、対立関係が極めて如実に出てきます。自国の権益を守る名目で弾道ミサイル搭載の原子力潜水艦を配備などの軍事的な手段が前面に出て、第二次世界大戦のきっかけと同様な構図にならないことを望むだけです。

 資源という原油の市場の影響を概観してみました。

 

第203回 国の情報戦略という諜報活動をどう考えるか

Posted on 2016-05-19

国による情報検索

 私の友人の或るアメリカ人曰く、「アメリカでは個人の情報は全て監視されている」と。

 多少の誇張があるとしても、ほぼこの通りかもしれません。いろいろな報道を通じて知る限り、我々と価値観を異にする国家体制下で、国家が個人をいろいろな方法で監視していることはほぼ常識の域だと思いますが、自由主義体制の代表選手のアメリカでも、マイクロソフトやグーグルなどインターネット企業のサーバーに蓄積されたデータに、国家機関がアクセスして、常に監視していると思われます。

 彼の話によれば、光ファイバー網を通過する情報をも収集していると言われているほどです。対象としたい特定個人のパソコンに「xxウェア」なるソフトを忍び込ませて監視をしていることが、その分野の専門家の間ではよく言われているとのことです。真偽のほどは分かりませんが、そのような評判が出ること自体、何か背景があると思うのが自然です。個人情報の秘匿云々の大きな建前は、国家の前では全く踏みにじられていると言っても過言ではありません。安全保障上とはいえ、国家によるある種の諜報活動です。

 数年前、ヨーロッパの複数の首脳の会話をアメリカの機関が盗聴していたというニュースが流れたのをご記憶だと思います。

 この例で分かる通り、今や世界の国々でお互いにいろいろなレベルの情報を盗んでいるのはほぼ常識的理解です。あらゆる手段を使って、敵や同盟国の情報を盗み自国の安全保障のために活用しています。

 方法として一番力を入れているのが、サイバー・インテリジェンスと言われています。すなわち、インターネットを活用して情報を収集して、自らの国に有利、敵に不利な状況を作り出す諜報活動、いわば、国家ぐるみのスパイ活動です。自国の安全保障上必要とされる情報を収集して分析の上、相手の国との関係で自国に有利に対応する活動です。

 

個人を特定される情報網

 ご承知の通り、インターネットは元々軍事目的のために開発されたもので、その設計概念上から、どこの誰からの情報か、個人が特定される情報網です。特定情報を個人と紐付をすることが情報戦略の肝であることを考えると、世界の標準となっているインターネット網の、サイバー上の情報はまさに宝です。情報の収集が個人若しくは個人の情報端末と直結しているので、それにアクセスできれば諜報活動が最も効果的に出来るからです。

 このことが個人情報との関連でいろいろな議論を呼ぶことになりますが、残念ながら個人が特定されないインターネットに代替する情報網は、現在の所世界の標準となっていません。世界の知恵者が将来インターネットに代わる網を構築できれば、日本からそれを世界中に広めるものが出てくればと、私は夢を見ています。

 

インテリジェンスに関わる法規制

 国際法上の法規の中にはインテリジェンスに関わる活動の制限規定が現在はないようです。戦争では守るべき義務が明文化され、それを順守しないと軍事裁判にかけられます。ところが、サイバー上の情報戦争では今のところそれを縛る直接的な規定がない状況のようです。

 実際、アメリカのオバマ大統領と中国の習近平主席がアメリカで対談した折、アメリカ側が中国のサイバー上の諜報活動を強硬に非難したことに対して、双方の応酬が続いたという報道があったのは記憶に新しいのですが、報道を見る限り、双方の言い合いに終わったのが事実ではないでしょうか。本当は誰が自国のシステムに攻撃を加えたのかを明確に立証することが難しい、若しくは、お互い様だからです。各国が被害を受けても外交上の問題に発展するくらいで、為すすべがないのが現実のようです。

 

サイバー攻撃でのアメリカの悩み

 諜報活動は自国にとり有効だとしても、アメリカをはじめ先進国で悩みが深刻なのは、サイバー攻撃で相手から戦争を仕掛けられた時です。特に、インターネットを社会基盤のベースとしていち早く実用化したアメリカでは、サイバー攻撃を受けるとたちまち大きな被害が発生することになります。国家の機密情報まで外部に漏えいし、国家的な安全保障に関わることになります。

 エドワード・スノーデンというNSAの技術者がアメリカの国家の機密情報を外部に漏えいしたことは記憶に新しいと思います。外部には絶対漏らしてはならないものが「国家機密」情報であるのに、これが特定の職員から簡単に外に漏れてしまった。アメリカの悩みは深刻です。

 また、中国からの情報攻撃に対して業を煮やしたアメリカが、2015年5月に中国人民解放軍の5人を名指しし、産業スパイ容疑で訴追したことは、アメリカでのサイバー攻撃被害の深刻さを如実に示していると考えます。

 

インテリジェンス活動に強い国が新しいルールを作る

 インテリジェンス活動の行く先の視点に目を移すと、サイバー・インテリジェンスが度を過ぎるといろいろな問題が発生してくるように見えます。アメリカや他の強い国主体で、既存のルールを簡単に変えることが可能になりそうだからです。

 パキスタンに潜伏中のオサマ・ビン・ラディンが、特殊部隊により殺害された事実と作戦の概略が報道されましたが、パキスタンという国家の主権があるのに、その国家に何の断りもなく侵入し、彼や家族を殺害したと要約されます。オサマ・ビン・ラディンは例外的だと言ったとしても、この報道内容を一般論として引き直すと奇異に捉えられないでしょうか。「テロは犯罪でなく戦争だ」という新しいルールをつくったことになります。

 パキスタンで起きたような極端な例以外のサイバー・インテリジェンス活動でも新しいルールが強い国から設定され、それを他の国が事実上受け入れざるを得ないことが今後どんどん起きそうに危惧するのは、私の考えすぎでしょうか。

 

第202回 自分の購買行動の検証

Posted on 2016-05-12

 物質的に豊かになった今の日本では、大半の商品の購買は、食料品などを除き、いわゆる衝動購入ではないかと思います。私自身も自分の消費行動を振り返ると、ほぼ衝動買いが先行していることに気づきます。

 

衝動買い

 家内と食料品などの必需品の売り場に行き、その選択を見ると実に合理的な購買行動を示しています。教科書で教えている通りの消費行動を示しているのを見ます。

 ところが、装飾品などそれ以外の商品では、本当に合理的な購入行動をしているかについては、少し疑問です。強いて言えば、衝動買い、計画外の購入、生活の中の楽しみの一つということになります。

 しかも、この衝動買いの購買は合理的でないが故に、私に言わせれば非常に人間味のある行動です。脳で購入するのでなく感覚で購入するからです。また、本人の満足感も残るので、これは尊重すべき行動パターンではないでしょうか。

 

ECサイトの意図を知りながら

 最近はECサイトの発達で、この衝動買いが意図して作られていること自体は誰でも知っています。しかし、それでもこの購入パターンは消えない。

 先般も私はサイトでゴルフクラブを衝動的に購入してしまいました。先週初打ちをしたとき、カバーのフィルムすらはがしておらず同伴者に笑われてしまうハップニングはありましたが、この衝動買い自体は、私にとって当たりでした。楽しい購買行動となりお蔭でまたクラブが増えてしまいました。

 翻って、消費者に計画外のものを売る立場からすると、どう映るのでしょうか。

 まず、消費者にその意図を気づかれながらも特定の商品の良い部分を強調して、消費者の購買意欲にまず火をつけなければならない。

 これにはプロセスが不可欠です。私が引っ掛かった(笑)レスポンス広告などで、「今、欲しいな!」と思わせたこと、やり方は別として、どの企業でも意図していることです。「明日からワンクラブ飛びが違います!」という広告の文言に反応してしまいました。

 

コミュニケーション ― 合理的理由づけ

 次に、消費者が納得して購入できるようにすることが肝心です。そのためには売る側のコミュニケーション方法の良し悪しが決め手となることが多いです。このことは、B-to-CのみならずB-to-Bでも、また、リアルかネットかを問わず言えると考えます。

 「あなたはこの商品を購入しても大丈夫ですよ。絶対役にたちますよ!」と、安心して購入できる理由を合理的に説明、表現するコミュニケーション力、あるいは、購入すると「得をするよ!」というメッセージ力です。

このため、コミュニケーションをする時に:

・重視する伝えたい要素の数を限定、できれば、2つ位にとどめ、

・そこに割くスペースを比較的多く取ること、

・一番伝えたいことを正直に、しかも真っ先に出すこと、

絵やグラフ、写真、購入済みの方の意見などをいれて真実性を増すやり方を選ぶこと、

が重要ではないかと思います。

 事業計画を説明する時と同じ方法です。「そうだ! それをやらねば!」と、社員が納得して行動に移せる、その心に火をつける工夫です。彼らが納得して実行する合理的理由を見いだせるように、説明方法、コミュニケーションのやり方を工夫することにつながるものです。

 

検証すること

 実は、売る側が上記の方法の重要性を分かっていても、アプリオリにベストな方法を見つけるのは至難の業です。私の経営体験からすると以下の方法で努力をするのが良いのではないかと考えます。

・どの情報に関して、どの角度から消費者が足を止めるか、

・購買意欲を一番そそるのはどの情報か、

・買い手の決め手の情報は何か、

・どの情報があれば潜在的な買い手が、その場から逃げないか

などの情報の蓄積が大切になります。

 ネットなどでよく実施するのは、仮説をたてて、検索されて最初にたどり着く情報と角度をランディングページで比較検証することです。

 ネットなら上記の検証をするための制作コストも安い、レイアウトも自由に変更できるので、検証がやりやすいのです。キーワードと必要な課題との関係性を分析することも可能です。

 

自分で楽しくやってみる

 皆様も普通の消費者の一人として自分の消費行動を分析してみて見ると面白いです。なぜ購入したか、ネットのページ情報の何に反応したか等を調べてみるのも興味深いことです。普通の消費者の消費行動が如実に推量できるはずだからです。消費行動がたとえ衝動買いであろうと、自分の行動が実に楽しく人間味のある行動だと気づくはずです。

 実は、それが企業の販売戦略に役立つことにもなるのではないでしょうか。

 

第201回 話し方の教室

Posted on 2016-05-05

 先般、興味深いことがありました。

 以前私が経営を任されていた会社の幹部社員が、退職の挨拶にきた時の話です。長く営業をやっており実績を挙げてきた彼が、同業種の管理職や営業職でなく、今後ボイストレーニングの修業をして出来れば将来独立をしたい動機を話してくれました。

 会社の経営上はデジタル面アナログ面の両者を充実しないと上手くいかないことが多いが、その中でも「最後の決め手はアナログ面だ」と、過去に私が強調していたことを彼が鮮明に記憶しており、それがきっかけでこれからをアナログ面の仕事に賭けたいとのことでした。

 私も、この元部下の選択にもろ手を挙げて賛成し、併せて、そのようなきっかけをつくったことに嬉しくもなりました。医者、弁護士、ビジネスマン等顧客を相手にする仕事では、自信に満ちた話し方が重要で、その訓練の需要が多くなるとの彼の説明です。

 そういう私自身のことを思い起こしてみると、ボイストレーニングというより話し方自体についても正式な訓練は受けてはいません。

 顧客対応の改善のためにいろいろな本からも少しは学びました。しかし、大部分は仕事の過程で逆に部下から教えていただきました。経営戦略や経営方針が少しでも早く部下に浸透するにはどうしたら良いか、部下の反応を見ながら学び、自分で工夫する中かから習得したことになります。その一部を今回述べさせていただきます。

 

1.最初の30秒で勝負が決まる。

 話は出だしの30秒で勝負が決まります。

 顧客対応の商売をして気づいたのは、クレームになりやすい応対は最初の出だしが上手くいっていないからです。受け側と相手の話がかみ合わない。

 話す側が会話を主導出来る場合には、良い出だしに気を付けることが肝要です。一つか二つの短い文で、言いたいこと、その切り札を素早く切る工夫をすることです。長い文は相手に響きにくいからです。

 出来れば、その文が聞く側の好奇心をそそるハラハラさせるようなものが最初に欲しい。「今まで聞いたことがない!」と思わせるような文を出だしに持ってくれば、話の入り口はまず上手くいくはずです。上記のようなトラブルになる確率はうんと減ります。

 

2.信念をもって「気」を入れて話す。

 実は、これが一番大切なことです。話し方の技法以前に、信念をもって伝えることです。事業戦略を社員に説き、彼らに共感をもってもらうためにいろいろな工夫をしましたが、結局このことの大事さを痛感しました。

 物の本などから仕入れた情報を戦略に焼き直しても、本心で自分が思っていない場合、「気」が入らない話し方になってしまう。美辞麗句が無くても本心で思っていることに信念をもって「気」をいれて説くことの重要性を体験しました。

 特に、「ある意味・・・」や「・・・と思います」等丁寧だが自信がなさそうな言い回しは、このような場合には止める方が良いことにも気づきました。

 自信たっぷりで、この情報は皆にとって、また、会社の発展のために価値があることだとの熱い思いがほとばしり出るような話し方こそ、相手の心に響きます。

 

3.話の内容を少しずつ濃くすること。

 実はこれも戦略や方針を浸透させる過程で気づいたことです。

 一度話しても簡単には浸透をしない。同じことを何度も煮詰めるごとく話す。

 このために10%新しい視点での話を挿入して、内容を煮詰める努力をしました。そのたびに話す内容の風味が強くなる感じが相手に伝わっていくのが、話す自分自身でも分かります。

 前回話した内容を、さらに練り上げて違う角度から話し込む。最初は少し懐疑的に聴いていた社員も内容が腹の底に落ちてくる瞬間がどこかで来る。話す私がその時を感覚的に分かるのは、私にとって最高の幸せ感を抱く時でした。

 

4.テーマをてんこ盛りにしないこと。

 話すテーマは絞ることです。

 話す側は沢山の情報を提供したい思いがある。これをやると話が早口で、内容が薄くなりがちで、むしろ意図とは逆になります。

 そこを我慢すること。主たる話題はせいぜい2くらいに絞る。一般的な話の受け手側にとって脳の片隅に印象に残せるのは、せいぜい2点くらいです。

 

5.自分事としてイメージできるエピソードを話の中で工夫すること。

 伝えたいメッセージをエピソードの形にすると、意外に浸透しやすい。

 聴く人が自分事に思えるように仕立てる。想像力が豊かに巡らせるエピソードを入れ込む工夫が効果的です。優れた小説などは、この手法を上手く使っているのではないかと推察します。

鴨長明の「方丈記」など、個人的には想像力が豊かになる秀例だと思います。

 古の京都の町で大火災が起きた状況などを、ルポルタージュ的に文章で表現している下りがありますが、読む人がその火災の凄まじさと世のはかなさを、あたかも自分事として捉えられる工夫が施してあるのではないかと思わせるストーリー仕立てになっています。相手の想像力をかりたてる工夫が仕掛けてあるのではないかと思うほどです。

 

6.計画的にスピードを遅らせること。

 早口は聞き手を眠くしてしまう。失言の可能性もあります。重要な場面では話すペースを落とす。

 これも沢山の人が集まる社内研修の場などでやりました。話す側は眠くならない。しかし、聞く方は、自分の興味をそそらない部分が長々続くと、つい眠くなるのが当たり前です。

 ここで故意に、話すペースを乱す。車の運転で急に速度を変えると隣の助手席の人の目が覚めるのに似ています。

 話すスピードの緩急は、話す側がコントロールできる部分です。始めから計画してこれを演出することです。

 

7.上手く話題を変えること。

 また、話題を上手く変えるのも工夫の一つです。

 これには一定の訓練が必要です。

 経営をしていると沢山の情報が入ります。その中から重要と思える情報以外は、個人的には捨てる工夫をしていました。捨てた情報を基に議論が進展する場合も出てきます。しかしそれは経営上重要ではないので、相手のメンツを潰さずにいかに話題を早く本論に戻すかの工夫の一環でこれをやりました。

 重要でない話題などでは、さりげなく話題を変えて、会議での会話の主導権を自分が握る工夫です。

 

8.話すより聴くこと。

 双方の会話では、聴くことこそが重要です。

 相手への関心を示すことは、まず聴くことから始まります。この重要性を皆分かっていても、意外に出来ていないリーダーを見ることが多いです。これについては、別途日を改めて述べさせて頂きます。

 

 連休も後半となりました。是非、楽しんでください。