園山征夫のビジネスコラム 園山征夫のビジネスコラム 園山征夫のビジネスコラム

折々の言葉

第210回 今、リーダーに求められている経営の視座(5)

Posted on 2016-07-14

前回の続きです。

 

一番重要な組織の風土改革

 会社の成長・発展のためには、まずリーダーと同様に社員全員が自分で考える習慣づけが必要です。

 処理型ではなく、考えるタイプです。中・長期的に会社を成長・発展させるには、社員の力がポイントだからです。いわゆる「人材力」です。

 このため仕事の意味、目的、価値を社員自ら問う訓練を奨励しています。仮に週単位でのマネジメント習慣がある会社では、「週間報告書(週報)」での本人の記載内容にコメントを返して、紙面でも社員が「考えること」を鍛えることにしています。

 効果は覿面で、1年くらいで相当よい考える習慣づけが出てきます。

 

現場が「考える」ことの具体例

「まず、適正に仕事をする」意味を皆で議論

 頑張っているのに、成果が出ない、あるいは、トラブルが多いのは「仕事の進め方」に原因があります。そこで、「まず、適性に仕事をする」意味を具体化することを薦めます。

 仕事のミスをなくすには、単なる「心掛け」ではなく科学的に仕事の進め方を捉える必要があるからです。私の言葉では、「まず、適性に仕事をする」こと(詳細は本に記載)を現場で議論し、「考える」、仕事のプロセスを適正に自己完結させるレベルにもっていくことです。

このポイントは、

・チームの仕事のゴールや目的をきちんと設定し、これを意識する。

・最終的なアウトプットイメージを明確に描き、チームの上司と部下の間でこれを共有する

・仕事のプロセス、手順を分解し書き出す。これで重要な手順を明確化する。次のプロセス、手順に進んでよいかを判断する判断基準をチームで決める。

・プロセス、手順毎に、正しい結果を導き出すために「必要なこと」を、チームでもれなくピックアップする。

・仕事の結果をチームで議論し改善策を書き残す。知見を共有化することです。

 これで全体最適な判断が出来、上司とのコミュニケーションも深まります。情報の共有が進むので会議が減ります。作り直しやミスが減り生産性が上がります。モチベーションが上がることにつながりますが、まさに、「まず、適性に仕事をする」意味をチーム全員で考え実行することにつながります。

 次に、社員の帰属意識、会社への関心を抱かせ、なんでも言える企業風土を持つ会社にすることです。この風土づくりの詳細は『これからの課長の仕事』、『これからの社長の仕事』に譲りますが、18の「定石」を踏んで経営することです。

リーダーに関わることを、一部をここに紹介すると、

・会社のビジョンと目指す方向性を共有する普段の努力をする、

・その方向性に向かって戦略を策定し、その意義を説き、社員とともに実践に移す、

・常に誠実に経営し、社員を大事にすることで、社員の帰属意識を醸成する、

・物事を事実・実態に即して捉え、課題を皆で解決し修正行動に移す、

・仕事の結果としての報酬の分配を事前に開示し、これを誠実に実行する

などなどです。

 なお、社員の研修目的のためにこの経営方法を詳しく知りたい方は、『礼節と誠実は最強のリーダーシップです。』(クロスメディア・パブリッシング)をご参照いただければ幸いです。

 社員の幸せを目指す経営をすることが、その企業の成長に如何に重要かが分かります。

 

第209回 今、リーダーに求められている経営の視座(4)

Posted on 2016-07-07

前回の続きです。

前回リーダーの資質などについて述べましたが、そのリーダーにも沢山の艱難が待っています。

 

困難へのリーダーの対処

 ビジネス上、沢山のトラブルや困難が一度に舞い込んでくる時があります。この時も、トップは我慢しなければなりません。特にベンチャー的な発展段階ではしかりです。

 いろいろなことが同時に発生し、その解決も単純ではありません。それでも、自分の仕事を投げ出さずに我慢して課題を解決しなければなりません。この時、リーダーはどう対処したらよいでしょうか。

・普段から情報開示を旨とし、常に開かれたコミュニケーションルートを経営上目指すことが大事です。

 自由に意見を言えない、何か発生しても隠す風土があるとしたら、これがリーダーの姿勢から発生していることが多いです。

 何かの事態が発生しても、リーダーは状況を隠さずありのままに開示して、全員が共通の理解の上で課題を解決する方向に持っていきたい。

・リーダーが自分の心理をコントロールする。

 実は、このことがリーダーとして非常に重要なことです。

 不安定な心理状態は、すぐ社員に伝わります。「何かあったのか?」、「自分の仕事はどうなるのだろう?」など不要な不安を社内にまき散らす原因となります。

 友達に相談することも方法です。また、自分の悩み事を何かに書き留めて問題を整理することも方法です。やたら不安を社内で掻き立てないことです。

・社員、商・製品、利益のうち、社員を最も大切にする。

 働きやすい環境を作ることにリーダーが努力をしていれば、社員という仲間がいるので、困難に直面してもリーダー一人で悩み背負い込むことがなくなります。

・社員への教育を重視することです。

 社員への教育投資を惜しまない。

 社員が辞める理由は、上司が嫌い、何も教えてもらえない、教えて育てる環境がない場合が大半ですが、もし社員への教育のなさをなげいているとすれば、そのような状態では生産性が下がるのも当たり前です。

 にもかかわらず、リーダーがこのことを認識していない場合が多いのは残念です。

・社内の政治力学に押されない経営をすることです。

 実績評価や給与査定のルールを厳格にやり、政治力学が作動しにくい仕組みとするのも方法です。リーダー自身も注意しなければなりません。よく相談に来る人をリーダーは評価しがちになります。これでは、リーダー自らが社内政治を作り出す原因になっているかもしれません。

 私の体験では、会社の成功を第一に考え、その副産物として自分の成功を考える人を採用したつもりでも、優秀な人材は最悪な社員になりうることも留意必要です。リーダーもしかりです。

 

心の習慣を変えるストレス・マネジメント

 今やリーダーはじめ世のビジネスマンにストレスに対する対策が不可欠になってきました。

 企業のリストラ、年功序列もなし、一定年齢になると給与がカットされるなどストレスが溜まるモノばかりです。ビジネスマン自身が限界感を感じてしまいます。

 特に、団塊の世代の人々は、仕事上、特定の居場所に上り詰めることに全力を注いできたからです。居心地が悪くなると酒、たばこに走る。しかし、それでは今の時代を乗り切れないのが今の世界です。

 しかし、人間にはこのようなストレスから回復する能力を元来備えもっていると言われています。へこんでも回復する力を持っています。

 笑いも良いでしょう。私の友人が「笑いの場」を設けて参加者を喜ばせています。心の生活習慣を変えることになります。

 深呼吸、体を動かす運動、睡眠、仲間や家族、自然との触れ合い等いろいろな方法があります。これらを実践すれば、ストレスからの回復力が増します。私もこれらのことを意識しています。

 人間性格があります。これをチェックするパーソナリティー指標も勿論あります。理想が高く厳格な人、受容的で思いやり豊かな人、客観的な人、自由で明るく行動的な人、自分の気持ちを抑えて周りに合わせる人等タイプがあります。

 自分の性格を知った上で、不足分を補う努力がストレスを予防できる方法です。決めたことをやらないと気が済まない性格の人もいますが、環境の変化に適合させて柔軟になるのも一つの方法です。

 ストレスからの回復力を高める資質の一つは、気楽に考える習慣です。辛いことがあっても「こういうことは起こり得ることだ。しかし自分は何とかやっていけるはずだ、大変でも意味がある」と思い、乗り切っていける資質です。

 リーダーはこうありたい。

 最後の方法として、とりあえず休むのも方法です。立ち止まり考えることです。焦ることは禁物です。

 

組織を動かすルール

 困難への対処も全てある目的に向かって組織を動かすためです。

 リーダーの統率する組織自体は複雑です。今、ますます複雑になってきているので、対処すべきことが多くあるように見えますが、「組織を動かすルール」は意外に単純です。

 私が「定石」と称することと重なるものです。

・組織をうまく動かすために、私は人間としての社員個人を、彼の行動を「知る」ことを重視していました。

 社員個々人を理解することと言いかえることもできます。今、何を望んでいるか、何をしているか、そのことで彼がどう満足をしているか等、とにかくその人を知ることです。

・社員、特に中間管理職の権限と自由に判断できる総量を増やすことにしています。

 社員個人に裁量を与えると、個人の行動を変えることにつながり、組織の動きが活発になるからです。

・助け合う環境を重視します。

 チーム自体が自立しながら協業する、チームワークを常に意識をすることです。集団で目指すアウトプットの共通理解がある前提です。対チームワークをよくして共同で何かの目標を達成する。このために対話の努力が必要となります。

・結果を共有することです。

 中間期、期末に目指した目標に対しての成果と反省を社員全員で共有することです。場合によりお祝いをする。

 助け合った人々に対して報いることです。しかもこれを単に金銭的なもので無く表彰など全員の前に彼の成果を示せる方法も得策です。

・組織を動かすために、もう一つ肝要なことは、対話力です。

 あらゆる仕事で、対話やコミュニケーションの取り方が重要です。商談、会議、報告会などビジネスマンならずとも、あらゆる人にとり仕事の重要な要素です。

 対話には言葉のメッセージによる対話と、ボディランゲージなど言葉以外のメッセージによるものとがありますが、リーダーにも双方が必要です。

 リーダーが「すみません、すみません」と公約を実現できなかったことを何回も社員に謝罪しながら、表情や体の動きから「本心が違うのでは?」と、我々には分かることがあります。ビジネスマンならず、だれでもこの違いを察知する能力を持っています。ところが、リーダーという立場になったとたんに、このことを忘れてしまう人もいます。時には、対話に於いて言葉より以上にリーダーの組織を動かす仕事に大きく影響を及ぼすことを忘れてはなりません。

 

第208回 今、リーダーに求められている経営の視座(3)

Posted on 2016-06-30

前号の続きです。

リーダーの仕事

 トップたるリーダーの仕事は沢山ありそうですが、一番大切なことは常に自社の発展の機会と策を考え続けることです。

 事業の計画をいかにして達成するか、そのための商品戦略、人材戦略をどうするかなどを考え続けることです。考え続けると不思議と「知恵」が湧いてくるように思います。その知恵を紙に言葉で落として、自分自身で妥当性などを検証してみる。戦略の具体策を言葉でストーリーにして、社員に説明して彼らの共感を得られるかを試してみる。更に考え抜いた挙句、自分の言葉でビジョンを浸透させる。戦略に落としていく。

 これが私自身が実践していたリーダーの仕事です。実行段階では、我慢しながらも現場のマネージャーに任せる、決して箸の上げ下ろしまでの指示をしない経営を行うことです。

 リーダーの仕事で具体的なものとして特に重要な一つは人材育成です。

 

人材育成の例

 人材育成には、基本的に本人自身の習慣づけが肝要です。それを支援するために会社や上司が何ができるかを常に考えておかなければなりません。

・良い手本に多く触れさせ、社員が自分の目を肥やす機会を与える

 手本と比較して、自分がどういう状態かを正しく認識するきっかけが習慣づけの始まりです。優れた同僚や上司の中に育成したい人材を入れることです。

・上司によるレビューなどの機会を持ち、本人が真摯に振り返るプロセスを持たせる

 学習する良い習慣ができたら、その習慣を定着させるために上司にできることがあります。育成のため、PDCAをしっかりまわす方法を講じることです。

 育成を狙って適切な、少し実力より上の仕事を与える。失敗するまであえてやらせてみる。失敗したら、そこで初めて失敗の原因などを彼にフィードバックする。二度と同じことをしないように彼の俊敏な修正行動を意識したアドバイスを行う。自らもこのプロセスを回す癖をつけさせることです。

 フィードバックの時に失敗した事実を受け入れる素直さを彼に持たせる工夫が重要です。

・効果的な育成には業務を分解して難易度に分けて実践させ、そこから学ぶ機会を増やす。

 私は、成長のレベルにより質問の仕方を変えています。

 ビジネスの効率化を例にとると、「ビジネスの手順が滅茶苦茶だ。どうする?」と問う方法をまずとります。

 それでも難しい場合には、「顧客とのやり取り、手順が複雑すぎるかも、少しそこら辺を見てくれる?」と仮設を投げます。

 それでも難しい場合には、「契約書の内容を簡便にしてくれる?」と、具体的な仕事に落とした指示を出します。

 結構難しいのですが、いずれの場合も、そのレベルに合わせて、部下が成長できる機会を上司として与えるためです。今アドバイスしている企業でも、社員の成長段階に即して、同様な質問を工夫しています。

 

リーダーの資質

 考え抜き、

 それを戦略として社員に落とし込み、

 具体策を彼らにゆだねるのがリーダーの大きな仕事だとすると、

 リーダーの資質自体が問われることになります。

 

私が考える資質は:

・リーダーは、本質を見抜く洞察力が第一に要求されるとしてそれをどう育むか。

 生まれながらにして本質を見抜く力を持っている人は少ない。

 勉強して知識を身につけ、それを下に経験を積み重ね失敗から知恵を身に着けることです。経験を積むことで、新しい事象に対しても類似のケースをもとにした対処方法を見つけられるようになるからです。

・公と私の峻別ができ、それを実行できる人です。

 特に、お金の使い方に公と私の判断基準が出てきます。この原稿を、6月11日に書いていますが、どこかの知事の金銭利用問題が報道で論じられています。個人的には、そもそもこのような人はリーダーになる資格が最初から欠如していると考えます。個人の私腹を肥やすことしか考えず、市民を幸せにする戦略など考えていない。税金、すなわち民の努力の結果の税金を勝手に私用したとしたら、政治資金規正法があろうがなかろうが、本来はいわゆる「泥棒」と同じ行為です。どんな説明をしようが、キャッシュの動きが真実を語っています。私も幹部社員で同様なことが発生したことを明確に記録に残しています。

・リーダーの仕事も第一線の社員の仕事も、こと仕事という観点から言えば、全て平等であることを前提に社員に対処することです。

 よもや、社長の仕事が、第一線の社員の仕事より重要だなどとの発想を抱かないことです。社長には社長の仕事が、現場の第一線には彼の仕事があります。どの仕事が無くても事業はバランスよく成長しません。皆の仕事がかみ合って初めて、顧客に商品を提供できるからです。ベンチャー企業のリーダーには、この平等意識が欠如している人を多くみます。

・相手の立場になって考える余裕を持つことです。

 『言志四録』の中で佐藤一斎が説いている「恕」です。相手の立場を慮る行動です。

 仕事が人と人との人間関係を抜きにしては考えられない以上、リーダーは相手の立場、部下の立場に一度戻って考えることが必要になります。

・専門家、プロを大事にすることです。

 自らが全ての分野で専門家にはなれません。リーダーもしかりです。

 何でもかんでも自分でやろうとの考えは、余り生産的ではありません。しかし、少なくとも事業分野に一定の知識を持ち、経営上必要な議論が出来るくらいのレベルは必要です。部下の専門性を大事にしながらも、変化の激しい時代に対応できる経営選択肢を適格に選べる素養を持たなければなりません。

・本物志向です。

 シンプルで本質的なものが誰かに選ばれやすいです。削いでいき最後の本物の部分が残ると思います。それにはリーダーが普段から本物に触れる機会を増やすことが肝要です。

・何かに遭遇したら、止まる勇気を持てるかです。

 慌てない。漂流を避けるために止まってじっくり考えることです。戦略目標の実現のため暫く止まって周囲の状況を見るのが、結果として早く目標に到達できるかもしれません。

 ベンチャーの経営者には逆の動きをする人を多く見かけます。バタバタ慌てて、失敗を重ね、結局資金を自ら枯渇させてしまう。止まって失敗の原因を探り、次のステップに入ればよいのに、入らずこのような不幸を自ら招く人も、残念ながらいます。

 

第207回 今、リーダーに求められている経営の視座(2)

Posted on 2016-06-23

前号からの続きです。

時代の変化に対応する経営の中でも重要なこと

 今、ものすごい勢いで時代が変化しています。特に、技術革新のスピードがただならぬ勢いで進んでいます。この結果、産業や社会の構造自体が変革をきたしているのを、皆さま目の当たりにしておられると思います。まさに情報を中心とした新しい産業革命の真っただ中にいると、私は認識しています。

 しかし、この変化の中でも、変わる経営と変わらない、若しくは、変えない所を明確にしたいのが私の持論です。

 何故なら、時代の変化に対応した経営をしなければ生き残れない、しかし、変えないことこそ長く生き残る秘訣でもあるからです。

 

変わるもの--時代の流れ

 まず、変わる部分です。情報を中心とした産業革命の主役はコンピューターとネットワークです。最新のコンピューターで人工知能まで組み込み、生産活動を自動化・AI化、IoT化を図ることで生産や流通の最適化、省力化を図る流れがすごい勢いで来ています。

 ご存知の通り、生産面のネットワーク化はもともとドイツが政府主導で始め、現場をネットワークで結び国中の工場を結び付けようとしたのが始まりです。工場現場のデジタル化とスマート化を図るものでした。

 ところがアメリカでは、国防省を源とするインターネット技術の促進で、更に進めて工場のみならず、産業全体をスマート化しようとする壮大な構想を実現し、今やアメリカのみならず世界を巻き込んだ取り組みが行われています。まさに産業革命真っただ中です。

 この潮流は止めようがありません。それどころか、我々の生活に沢山のメリットをもたらしてくれているのも事実です。

 自分独自の趣味や嗜好に合ったものを単品で速やかに届けてもらうメリットを、誰でも享受できる時代になりました。数十年前には、これを実現しようとすると大変な時間とコストがかかり、特定の人しか利用できませんでした。大規模生産の経済性からまさに多品種少量生産の中での経済性に移りつつある段階です。

 しかも、このようなネットワーク化の傾向は、過去の技術の蓄積を現象的には無にすることも出てきます。卑近な例で言えば、デジタル革命により、アナログの電話網に関わる財産とそれまで蓄積してきたノウハウが、一瞬にしてその価値が失せる事態が発生してしまいました。

 また、世界の工場立地や労働力供給の流れを変えてきています。安い労働力の供給源だった国が、一変してネットワークを介した知恵の供給源と化し労働力を含めた生産資源の供給源も激変することにもなります。高い技術力で世界の拠点をネットワークで連結、コントロールし、海外に進出していた工場の生産も日本国内に呼び戻す最近の傾向に拍車をかけることにもなります。単純に労働賃金の比較によるよりも、ITの技術力が世界の産業構造を変えて、しかもリードすることにつながるほどの時代になりました。このように技術の革新が生産や工場立地、雇用などを含む経営の在り方自体を変えることにつながります。

 

変わらないもの――モチベーションを高めること

 ビジネスモデルが上記のように変わるとしても、人間が働きたくなる動機や生産性を上がるために高いモラールを如何に持続していくかなど、人間の心に関係する部分は不変だということが、実は極めて重要なことです。

 私が提唱する「農耕型企業風土づくりを通じた経営モデル」の「内臓部」、すなわち、「ソフト部分」の重要さが、逆説的ですが、今後経営上かえって増すことになると確信しているほどです。

 このことを考えると、経営トップ・リーダーの仕事は、IT革新の中でも、社員のモラールを高める心の部分を重視する経営をすることが重要課題であることを忘れてはなりません。そのため、ビジョンを提示し、社員を一つの方向に持っていくビジョン型の新しいリーダーシップが求められることになります。

 

第206回 今、リーダーに求められている経営の視座(1)

Posted on 2016-06-16

 私は以前から「農耕型企業風土づくりの経営」を主張しています。人間関係も含めた日本の伝統的企業風土の良さを最大限生かすには、この経営が適しているからです。

 この詳細は、『これからの課長の仕事』、『これからの社長の仕事』など私の書いた本に譲りますが、今回は少し別の視点で、この経営の良さに4~5週間かけて触れてみます。

 

アメリカのモチベーション重視経営

 実は、アメリカでも私の主張とほぼ同様な議論があるのを見つけました。

 幸福な職場では社員が最高の仕事を行っている、その環境を整えるには下記のことがポイントであると、モチベーションを専門とする社会心理学者のロン・フリーマン氏が『最高の仕事が出来る幸せな職場』の中で述べています。

 内容的には、私が「農耕型企業風土づくりの経営」で主張している18の「定石」とほぼ同じです。アメリカでも社員のことを最優先して考える経営こそ、会社成長の秘訣であると正当に主張できる証左をこの本でみつけ、私の主張に意を強くしています。

 その一部を紹介します。

・失敗を奨励すること。

 スティーブ・ジョブスはAppleなどで多くの失敗をして、iPhoneを設計しました。グーグルの元CEOのエリック・シュミットは2010年にグーグルウェブの開発を中止した時に「私たちは失敗をたたえる。難しいことに挑戦して成功しなくても、そこから学び、新しいことに活かすことが出来ればよい」と言ったと、この本で紹介しています。

 皆様がご存じの例かもしれませんが、会社内部で失敗自体を奨励しないまでも、批判しない環境の重要性について、私も同じ意見を持ちます。

・業務時間内に遊びを組み入れること。

 人間は幸福の状態を維持するのが下手で、ある状態が続くとそれがすぐ当たり前になる。この順応プロセスを遅らせるために、遊びや散歩などの変化の頻度を多くすることをロン・フリーマン氏は奨励しています。リラックスした時にアイデアが生まれるからです。

 しかも、変化が順応を遅らせるので、熟考するにもまして、あえて本題とは無関係な事に気を紛らわすことも奨励しています。

 私が、経営の中に遊びを持ち込み、イベント、配置転換などで変化を経営上重視していることとほぼ同じ内容です。

・社員同士が親密な関係を築くことを助けること。

 仕事場のコミュニケーションをよくするために、誕生日会、昇進を祝う会などのイベントを薦めています。

・自主性を与え、内発的動機づけを促すこと。

 意思決定の権限を与え、学会やセミナーへの出席を促進する、時には、褒章として旅行切符を手渡す方法などで社員の内面的な動機づけを重んじています。

 まさに現場に最大限の権限を付与し、現場社員が自主的に行動する経営が大事だと、私が主張していることと同じ内容です。社員の自主性はモチベーションに極めて重要なことです。

・効果的なフィードバックを行うこと。

 必要な指摘や指導を、同僚の前で発生の時に行う。

 著者の主張は上記の通りですが、私が述べる「農耕型企業風土づくりの経営」でビジネスを成長させることと同じ主張です。

 私のポイントを、経営の「フォーミュラ(公式)」や「定石」として以下の通り整理しました。

 

「農耕型企業風土づくりの経営」の「フォーミュラ」

 この「フォーミュラ」は、

 「いろいろな経営施策を通じて社員を幸せにすると、本人(社員)の心理と脳の特定の働きかけにより社員のモチベーション、創造性、革新性が高まり、経営のイノベーションに積極的な影響を及ぼし、本人と会社双方の成長を導く」というものです。

 このフォーミュラを分解すると、

1.「対話をする」、「場を作る」、「現場に任せる」などのいろいろな「定石」と私が呼ぶステップを踏んで、経営側が社員を幸せにする努力をすること、

2.社員を幸せにする経営側などの諸々のステップが社員の心理と脳の特定の働きかけにより社員のモチベーション、創造性、革新性を高め、経営にイノベーションをもたらすほどの影響をもたらすこと、

3.社員個々人の心を「わくわく元気」にすることが、チームプレーや人間関係を重視する環境と相俟って、社員個人の成長のみならず組織集団のパワーアップをもたらし会社の成長につなげていく、

ものです。

 この「フォーミュラ」は、いろいろな施策や仕掛けを通じて社員の幸せ感を維持する経営側の努力こそが、会社の成長につながるという流れを、強調しているものです。

 極論すれば、会社の成長こそが社員に幸せをもたらすとの世の中の一般的な主張を、余り積極的に考えないことを強調したものです。

 会社の構成員たる社員の自由闊達な発想と行動力こそが会社成長の原動力であるとの考えに基づいた経営です。

 経営の骨格部と内臓部と私が位置付ける18の「定石」を上手く運用して、「農耕型企業風土づくりの経営」を通じて企業の中・長期的な成長・発展を図ります(参、『これからの課長の仕事』、『これからの社長の仕事』、ネットスクール出版)。

 過去20年の経営体験のみならず、最近若い経営者の経営指導を行う中でも、上記の経営がいかに大事かを、私は私は身をもって体験しています。会社がベンチャー的な経営体であろうが、伝統的な経営体であろうが、この重要性にあまり大きな差異がないと感じています。

 権限を現場に与え、現場のメンバーが自律的に動いてスピードをもって対応する、これを私は20年前から実行してきました。働く目的や意義をビジョンの中に織り込み、これを噛み砕いて伝え、メンバーが腹落ちした段階で、この内容をチームで具体化すべく彼らが自律的に作動する環境を作る。上司の指示待ちでなく、マニュアルから離れ自分の意思と判断で行動する経営環境を作って経営しました。