「農耕型企業風土」づくり
第152回 「農耕型企業風土」づくりの経営でのマネジメント
私が主張する「農耕型企業風土」づくりの経営とは、簡単に言えば、「「いろいろな施策で社員を幸せにすると、本人(社員)の心理と脳の特定の働きかけにより社員のモチベーション、創造性、革新性が高まってイノベーションをもたらし、本人と会社を成長に導く。」経営をすることです。
「農耕型企業風土」づくりを通じて会社を成長させるこの「フォーミュラ」を分解すると、
1.「対話をする」、「場をつくる」などのいろいろなステップを踏んで社員を幸せにする努力をします。
2.この社員を幸せにするステップが本人の心理と脳の特定の働きかけにより、社員のモチベーション、創造性、革新性を高め、イノベーションをもたらします。
3.このように個々人の社員の心を「わくわく元気」にすることが、チームプレーや人間関係を重視する環境と相まって個人の成長のみならず、組織集団のパワーアップをもたらし会社の成長に繋げていきます。
となります。
この経営は私が主張している経営です。詳細は、『これからの課長の仕事』や『これからの社長の仕事』に譲りますが、この経営の中でキーとなるのはマネージャー層のリーダーシップです。
今回は、このリーダーシップ発揮の特色を、キーワードに表現していきます。
これらのキーワードを毎日意識して仕事の中で実践に移すことが、上手なマネジメントの極意と思います。
・夢を熱っぽく語る
・具体的な方向を時限で指し示す
・チームプレーでの役割を全うする
・仕事の意味を明確にする
・バリュー(価値)を生む
・仕事に自由度を与える
・時間(任期内)の発想を常に持ち、実践にスピード感を
・コンセプチュアル・スキル力と行動力を身に着ける
・経営の遊び、余裕度を持つ
・対話と共感度をつける忍耐力をつける
・情報と言葉の意味を共有する
・賑わいの演出役となる
・育ってもらう「場」を設定する
・個々人の成長曲線を描く
・チャレンジの機会を万人に与える姿勢をもつ
・変化と変革の旗振り役となる
・拡大と絞り込みのタイミングをはかる
・行くか退くかの指示を明確にする
・「計画は達成するもの」との認識をもつ
・道程を時間で示す
・達成した感謝のため祭り(イベント)を催す
キーワードの詳細を、敢て、今回は説明しませんが、 これらのキーワードを見て、その意味することが経営との関連でピーンと来るようになれば、立派なマネジメントが出来る人と保証します。上記の本などをご覧いただければ幸いです。
第151回 「農耕型企業風土」づくりを通じた経営構造を考えるにあたり取った思考方法
今回は、物事の本質のエキスの部分をどう整理してモデル化するかについて、私の実体験を通じて紹介します。
私は過去に経営を委託されていた会社を、幸いにして優良会社に成長させることが出来ましたが、あるファンドから彼らの意にそぐわないとの理由で、社長職を突然実質解任された経験があります。
その後、ある会社の社長から「園山の経営」を是非、本に著わしたいとの意向を受けて、初めて畑違いの筆をとることになりました。最初に中堅管理者向けの『これからの課長の仕事』を、直後に、社長職にある人向けに『これからの社長の仕事』を書きました。
本を書く過程で、私が主張する「農耕型経営風土」づくりを通じて会社を中・長期的に発展させる経営をモデル化し、この経営のフォーミュラを抽出、経営の「公式」を整理することができました。
今回は、この整理の過程で私がとった実際の方法を披露しながら、物事の本質、エキスをいかにして見つけるかに関して述べ、皆様の参考にしたいと考えます。
何故なら、過去私が執行した経営を深く考え、体系的に整理した同じ手法が、一般のビジネスマンが物事の課題設定をしたり、それについての本質的な解決策を探る手法に類似した思考をすることになると思うからです。
1.キーワード抽出
経営していた頃、私が手書きをして社員向けに話した講話、研修、戦略などの内容が『折々の記』と題した6冊の本に整理してあります。
この中から、私が目指す経営に関して重要だと考えるキーワードを沢山抽出して列記しました。例として、対話、聴く、賑わい、感性、行動、自由などなどです。
2.キーワードと経営目標間の因果関係図
次に、経営の目指すビジョンや中期目標と上記のキーワード群との因果関係を推定し、それらを図式として整理しました。この段階では、余りに沢山の因果の関係図が出来て、自分でも迷うくらいの大きな図式となりました。
3.図式の整理とモデル化
更にこの図式を経営するという視点で整理していくと、ある単純な「経営モデル」となりました。
沢山の事象と関係線の中から、物事(現象)の表面のみならずその裏側に潜む経営要素が表わす構造を単純なものにモデル化しました。私が目指す経営の本質を自分にも「見える化」して経営構造を再現したのです。
この時、表面の現象だけに拘り整理すると、数字などの結果のみに拘り過ぎ、それを引き起こした原因分析が疎かになることが非常によく分かり、経営に関する枝葉末節を省き、幹のみを抽出することに成功しました。
4.影響度の長・短
このモデルから短期的に因果の影響を及ぼすものと、中・長期的に影響を及ぼすものに区分分けしました。
それを人間に例えると、骨格部分とそれを動かす内臓部分の一枚の図式に整理できました。内臓を楕円で、骨格と四角で表現し、それらと目標への因果を矢印で表現しました。
いろいろな因果関係があり複雑で未だ完全とは言えませんが、このような整理が、物事の動態的な因果の流れを明確にし、他のビジネス課題の解決にも十分使える思考方法だと自信を持った次第です。
5.フォーミュラ(公式)
この過程で、私の目指す経営の「フォーミュラ」を考えました。「公式」と呼ぶものです。
課題解決(目標の達成)に一番大きな影響を及ぼすものを捜していくと、その関係が、経営の本質を凝縮した「フォーミュラ」として整理できたのです。経営の筋の理想形が見えてきたのです。「農耕型経営風土」づくりです。経営に一番大きな影響を及ぼすポイントとなる因子です。
ファンドの世界ではよくレバレッジという言葉を使います。何かに投資をする時に一番効果的な方法を言います。このレバレッジを見つけました。要するに梃子(テコ)です。何か重いものを持ち上げる時に、梃子の原理を利用して省力するように、目標実現に一番に効く作動支点を見つけることと同じです。
社員が一生懸命に仕事をすれば会社の成果が上がるといった短絡的なことではなく、実は、その間に企業風土という経営構造全体に大きな影響を及ぼすものが、作動支点になる「フォーミュラ」を見つけることができました。
6.モデルの検証作業
ほぼ概念図の本質が整理できましたが、そのモデルを動かしたら、実際にどうなるかを見る必要があります。現実の経営にフィードバックしなければなりませんが、私の場合幸いなことに、過去の実績とその時に採用した諸施策が『折々の記』に整理されて書かれています。それを年代順に遡っていくと、あたかも現実の経営に適用して検証できることになりました。
経営記録に照らしてモデルの諸因子の効果を試すことにもなったのです。最初に考えたモデルに修正を及ぼす因子が本当に無いのかを探るプロセスとなりました。
以上、私が経営を整理する時に使った方法を概略述べましたが、この方法はもろもろのビジネス課題を解決するにあって皆様も使えるのではないかと思った次第です。
企業風土こそ重要との海外での主張(2)
前号の続きです。
何をどうすれば良いか?
内容に賛同されたら、そのような企業風土をどう作れば良いのかとの疑問がわくのが当然です。私の場合は全体を体系化して、それを人間で言えば骨格の部分と内臓に相当する部分に分けて、「農耕型企業風土づくり」の方法とステップを明示しました。現場を巻き込みこれを一体として取り組まなければなりませんが、ここで『一緒に仕事をしてよかった』からの内容を紹介します。
社員が支持する強い企業文化
この本の中で、社員が支持する強い企業文化を気づくには、以下の7点が必要であると記載されています。
1.危機を定義する。
リーダーはミッションを明確に定義し、そこに危機感を吹き込まなければならないとしています。
これは私の体験から実に重要な点だと思っています。特に私が任された会社は実質倒産状態でしたから、一生懸命会社の将来の方向性を考え、皆にミッションを与え、そのミッションを皆で達成しなければ会社の存在自体が確実に危うくなる危機を定義し、説明していましたが、彼らの主張とピッタリです。
2.顧客に焦点をあわせる。
社員がその時点で正しい決断をし、自主的に動くには顧客に焦点をあわせることとしています。
この点も私の経営体験と全体体系図どおりです。会社の施策や組織を顧客に焦点を与えたものに徹底し、現場に権限を持たせて現場の社員が自主性を持って動ける環境が大切です。
3.俊敏になる。
変化への対応力が高いこと、将来を見据えてマネジャーは動くことと主張しています。
私の場合、最初はなかったのですが、経営していた途中で気づいたことがありました。「あなたの会社の企業風土は?」と採用などのときに聞かれることが多かったのです。そこで、社員が皆同様な内容を答えるようにと、それまでいろいろな方針説明で説いていたことを整理しました。企業風土としては「SOSFCCQ」と整理しました。このうちのSは俊敏性のSpeedで、もう一つがSimpleでした。ものごと、100%はわからないが、動くべき時に動くという企業風土を目指してこれを構築していきました。
4.すべてを共有する。
厳しい事実でも社員に伝え、議論することで信頼関係が育ち、開かれた企業文化が築かれますと説明されています。
私は、「価値の共有」という表現をしています。情報は基本的に全て開示し、判断にいたるプロセスも開示する方針を貫いていました。秘密主義から良い企業風土は生まれないとの確たる信念があったからです。
5.部下の才能を見出す。
マネージャーは社員を真のパートナーとして扱い彼らに成長の機会を与える。
社員をどう育成するかです。場を与え機会を与え経験をさせる。そのための方向性のガイドラインを与え、その範囲内で自由闊達にマネジメントする機会をマネジャーに与えることで、社員の隠された才能も開花し、早く育つのを見てきました。
6.互いに応援し合う。
同僚同士がお礼を言い合うことで団結心と正しい行動を実践する一途さが育まれるとしています。
私は、いい仕事をするには、より良い人間関係が決め手だと思っています。これに気づくには、チームの中で自分の主張をしながらも全体最適に自分がどう振る舞うべきかを自ずと学ぶことです。「対話」の重要性も強調しています。
7.責任を明確化する。
社員が目標を達成するには、責任と手段、成功した時の見返りを与えるとしています。
何をしたらどうなるかについて、出たとこ勝負でなくあらかじめ約束事として皆に明示することにしていました。特に皆で稼いだ利益の分配については、ある段階からあらかじめ分配ルールを決め、社員がメリットを享受するようにしていました。
上記の7点に加えて、社員が喜んで全力を果たす組織を作る方法として、社員の思考を刺激する質問をすることとの記述もありますが、これも私が全体構造の内臓に相当する部分で「適切な質問をする」ことの重要性に触れ、自ら考える風土作りを目指すと主張していることに通じます。
企業風土を造るには相当な努力が必要です。しかも、経営層は当然として、全社員を巻き込み、たゆまぬ努力をすることが必要です。それでもある段階で所定の企業風土らしきものができてからの経営は、非常に楽しいものです。社員の幸せのために行う施策が、結果として顧客、株主、金融機関の利益にも通じるものになるのです。皆が得をする「三方一両得」の経営になるのです。
これまで『一緒に仕事をしてよかった』の本を引用しながら、良い企業風土づくりに必要なポイントやその造り方の要点を述べてきました。 ここで忘れてはならないことがあります。信頼ということです。組織の中のあらゆるところで信頼関係は不可欠です。口だけでなく本心からの信頼関係が樹立できれば、企業風土は確固たるものになります。
私の著書、『これからの課長の仕事』でも述べましたが、私も経営者として社員との信頼関係が「できた」と思った瞬間を明確に記憶しています。一生懸命経営をして社員の幸福のために努力をしていたら、社員がそれを認めてくれた瞬間です。基礎ができたので、それ以後の経営は上モノをどんどん建てても決して崩れない磐石なものになりました。
「園山征夫のビジネスコラム」の中でも、信頼関係の重要性についてくどいくらい触れています。これさえあれば、大抵のことは成就できると思うからです。『一緒に仕事をしてよかった』の本の著者が一番主張したかったことは、信頼関係ではなかったかと思うので、今回はそれを紹介します。
著者は、第1章の冒頭にある事例をあげています。
1959年6月30日、2万5000人の観客が見守る中、フランス人の軽業師「偉大なブロンヂン」(ジャン・フランソワ・グラフレ氏)が、ナイアガラ瀑布に張った直径8センチのロープの綱渡りに成功した記憶に残る一日のことを記述しています。
何回も成功するうちに、軽業師が「手押し車を押して綱渡りをしたいのですが、どなたか乗りませんか?」と、半ば冗談で質問したところ、場が静まりかえりました。命知らずの綱渡り、しかも、ナイアガラ瀑布、さらに、手押し車に乗せられては成功の確率は疑問なることは誰にもわかります。従って、静寂。その時、軽業師のエージェントの男が名乗りをあげたとの内容が記載されています。口先だけでなく、本心から信頼を寄せてくれる人がいたのです。軽業師は深い感銘を受けたと書かれています。
本当の信頼とはどういうものかを非常に端的に表現しています。しょっちゅう違うことを発言しているようでは信頼の序の口以前です。1000回の浮ついた言葉より、たった一言で人間の心が動かされる瞬間を見る感じがします。
企業風土こそ重要との海外での主張(1)
ここ数カ月あまり生産的でない事件のために浮かない日々が続いていました。ところがある日、中央林間のある本屋さんで私にとって決定的な本に出会いました。それ以来毎日「わくわく元気」な日々を送っています。是非、この事実と本の内容を「園山征夫のビジネスコラム」の読者の方々にお伝えしようとはしゃいでいる次第です。
ある出会い
『一緒に仕事をしてよかった』という奇妙なタイトルの本を見つけました。2013年8月のある日です。
日本経済新聞社から2013年5月に発刊(匝瑳玲子氏が翻訳)されたもので、Adrian GostickとChester Eltonの共著です。彼らはカルチャー・ワークスの創業者であると巻末の著者紹介に記載されている如く、職場環境をテーマにした本を多数出している方々だそうです。私がはしゃいでいる理由は簡単です。その本が『これからの課長の仕事』(2011年9月)『これからの社長の仕事』(2012年1月)(両著はネットスクール出版)の中で私が主張している経営手法と実質同じことを述べているからです。
多少の違いはあっても、経営の、人の心の琴線に触れる部分が如何に重要であるかについては本質的な違いがないことを、この本からも確信しました。あわせてこの本の内容が期せずして、『「農耕型企業風土づくり」を通じて企業を中・長期的に発展させる経営手法こそが今求められている』こという私の主張を、海のむこうから側面サポートをしてくれる資料的役割を果たしてくれていることに感謝します。
実に嬉しいことす。海外で主張されていることを鼻高々で日本に導入する学者もいますが、私としては、私が日本での経営について全く独立に主張していたことと同じ主張をする人が、期せずして海外にもいたことが素直に嬉しいのです。しかも相当のデータも補助資料として開示されています。私の主張全体を理論的背景としながら、個別のフェーズに関して各種コンサルティングやコーチングなどで活用するバックボーンにするための有益な援軍となる本だと勝手に位置づけしています。
好業績をあげる企業文化のポイント
ここで『一緒に仕事をしてよかった』で記載されているポイントを皆さんとシェアしましょう。この本のポイントは、好業績をあげるカギは、リーダーやマネジャーの努力以外に何かあるはずだ。それは企業文化にあるというものです。
彼らは企業文化と翻訳しています。私の言う企業風土は多少東洋的ですがほぼ同じと考えて結構です。これこそ企業が競争優位に立つための「最大の差別化」になるという私の主張と同じことを述べていると思います。
引用しますと、「ゴールドマン・サックスのジョン・F・ロジャーズ主席顧問は、企業文化のきわめて重要な役割についてこう述べている。『わが社の社員は競合他社の社員と同じ飛行機に乗って移動します。宿も同じですし、クライアントも重なっている場合が多い。だとすれば、仕事ぶりと企業文化を連動させて競合他社と差別化を図るしかない。だからこそ、わが社独自の企業文化が必要なのです。企業文化こそが、私たちを結びつけるものなのですから』。私たちは彼の言葉に感動した――企業文化こそが他社と差別化し、私たちを結びつけるものなのだ。」
好業績をあげる企業文化には以下の3つの要素が揃っていると、かれらはその著書で主張しています。
まず、第一に「愛着心」です。愛着心を持った社員は自発的に努力をする意思を持っており彼らは組織のミッションと価値観を重視すると。
第二に、「活躍の支援」と表現するものです。社員が活躍するには、障害を乗り越える上で必要な情報、適切な備品や設備を与える必要があると。
第三に、「活気づけ」です。会社から活気づけられることで、社員は自分が高く評価されていると感じ、やる気になるというものです。
私の主張との類似
言葉は少し違いますが、『一緒に仕事をしてよかった』の中での主張の内容は、「農耕型企業風土づくり」で企業を中・長期的に成長発展させる「フォーミュラ」や「定石」などで私が主張していることとほぼ同じです。
第一の「愛着心」ですが、私は愛着心を持つために、喜びも苦しみも分かち合う「湿り気のある人間関係」をつくる(定石 7)ことを強調しました。「湿り気のある関係」が米国人にどう理解されるかを彼らと一度議論してみようと個人的にワクワクしています。
第二の「活躍の支援」です。私は「『場』をあたえる」(定石18)ことを重視しています。社員が活躍できるようにシステム化すること生産性アップを援護するのは当然として、彼らが持てる才能をふんだんに発揮出来る「場」を用意することがポントと見ました。私の本の中にいろいろな事例を記載しています。
第三の、「活気づけ」ですが、これをいろいろな形で実現しようと私は主張しています。経営理念の浸透を惜しまず(定石6)、経営者と社員、社員間の信頼関係をつくり(定石3)ながら、いろいろな仕掛けを使って社員をわくわく元気にするものです。
結論から言えば、「社員が幸せになる」ように各種施策を実行することで、経営理念への本心からの賛同や、良き人間関係を通じて社員の愛着心につながり、彼らが会社内で自己実現を出来るような支援を施し、各種「仕掛け」を通じて社員を活気づけてモラールアップさせる方式です。表現の違いはあるにせよ実質同じ内容です。信頼関係を基礎としたオープンな企業風土を造ることです。
データでの証明
『一緒に仕事をしてよかった』の本の中に面白い情報が開示されています。私はこの本を読むまでその調査がなされたことを知りませんでした。
アメリカ国内とは言え、経験値のみでなくこのようなデータがあることに、実は武者震いしました。日本国内でこのようなデータを集めようと考えていた矢先だったからです。実証実験をして、いろいろなワークショップでの議論に役立てたいと考えていたからです。
その調査とは、タワーズワトソンによる大規模調査です。「好業績企業の内部は如何に機能しているか」に関わるワークフォーススタディーの調査です。私自身まだ調査の実際の内容を見ていませんが、是非、内容を吟味してみたいと考えています。
調査は2009年から2010年の2年間かけて700社、約800万人分のデータを集積し、好業績を誇る25社(社員約30万3000人)を抽出したと記載されています。「その25社の財務成績は競合他社より2~3倍の差をつけており、世界でひとにぎりしか存在しない高業績企業の中でもトップレベルである」とも記載されています。
この調査から「以下のような大きな発見があった」とこれまでの主張を調査分析で裏付けています。要約しますと、
1.企業文化が、会社へのコミットメントとさらなる努力をさせる高いレベルの社員の愛着心を創出していた。
2.企業文化が、生産性と職務遂行をサポートする環境を整え、社員が活躍を支援されていると思えるようにしていた。
3.企業文化が、社員が仕事を通じて幸福感とやる気を感じられるように活気づけていた。
上記の内容は私の経営経験ではごく当然なことですが、これが信頼性のあるデータで裏付けられていたことに本当に身震いがしました。
今後、日本でもこれに関連するデータを集積の上、本質的なものを抽出していく予定です。ぜひ、皆様のお力をお借りしたいとお願いします。
日本文化と自然環境
私はこの分野の専門家ではありません。ただ、経営をしていく過程で「日本的」な企業風土の重要性に気づき、これを推進するには少しでも日本文化のことを理解しようという思いで勉強しました。そして日本文化を議論する時に、どうも根底では自然環境が大きく左右するのではないかとの結論にいたりました。
島国と大陸
古い時代には、島国である日本に海外からくるのは大変だったはずです。1万年前に日本列島が大陸から分離されてから、日本にくるにはまず船をつくらねばなりません。そのための造船の才能や風にのる工夫、船の中での沢山の人の統率など組織を動かす才能のある人々が日本に流れ着いたと想定されます。
自然環境が異なると人間観も異なると思われます。著書、「これからの課長の仕事」の本の中の、「農耕型企業風土」関連で一部このことに触れました。
大陸を考えてみましょう。そこでは大移動をしてより環境の良い洞窟を発見し、その中で生活を守る、敵から家族を守ることが必要です。以前アメリカの西部で原住民の洞窟遺跡を見ましたが、そこを中心にして一族の安全を守り生活を営んでいたことが容易に想像されました。古代ローマ人のケルト人やゲルマン民族の侵略は有名な事実ですが、強者は大移動を重ねて侵略の歴史を綴っています。
大移動や食料を求めた侵略については、司馬遼太郎著の「項羽と劉邦」を読んだときに「食料を求めて何故こうも侵略と大移動を繰り返さなければならないのか」と最初はストーリー展開に違和感を覚えたほどでした。勉強するうちに大陸の自然環境の悪さを前提として、このストーリー展開を理解できるようになった次第です。
誰が誰を侵略してどの地域の食料庫を確保して優位に立ったか、食料庫を取られて味方が離散してしまったか等の記述の連続です。これらのことは、争いに備えることを人間観の根底に置くことにつながります。戦争や闘争が常態化し、民族の遺伝子の中にこれが刷り込まれているのではないかと思うほどです。
日本の自然環境
ところが日本では、水や森が近くにあり、川で水をくみ、森で木の実をとる。あまり遠くに移動をする必要がありません。自然に営まれ、狩猟、採取、漁労を皆でする習慣になり、争う生き方が前面には出ません。誇るべき人間性にあふれた幸福な文化ではないでしょうか。
西洋では争いごとをどう処理するかで民族主義や哲学が早くから発達しました。キリスト教、新約聖書にはモラルや道徳が書かれていますが、日本ではある段階までこのようなことは必要ありませんでした。604年になってやっと「十七条憲法」として最初に道徳規範が聖徳太子により打ち出されたほどです。 その根底には神道の自然崇拝、「大和こころ」と呼ばれるこの言葉が人々の生き方や道徳をまとめています。災害も含めて自然に任せればよいと我々日本人は自然を受け入れて得きました。
先般皇居の中を散策してみました。広すぎて一部しか見ていません。迷子になりそうなほどの広さです。日本の首都のど真ん中にほぼ原生林に近い皇居があり、そのことに誰も違和感を覚えないのが日本人です。海外に行くと、都市の中心に長方形の広場と教会があるのが一般的な風景です。われわれは西洋の最初に神ありきでなく、混沌とした自然があることを前提にしています。言葉の文化の前に自然の営みがあることです
富士山
葛飾北斎の「富嶽三十六景」(実際は46景)の半分が富士山をモチーフにした作品です。江戸が富士に守られているそのテーマが、セザンヌ、モネ、ゴッホに衝撃を与えたのでしょう。自らそのまま自然を受け入れるこの姿勢こそ「大和こころ」につうじることです。関東大震災の不幸も日本人の秩序正しい行動や忍耐強さが日本人を取り巻く自然と無関係ではないと考えます。
日本人が生きて生活している自然環境の経営への間接的影響を確信している次第です。
最近のコメント