顧客主義
マーケテイングの概念を少しでも先取りしていますか?
私が推進してきた経営をマーケテイングの潮流と重ねあわせてみると、ある意味で1990年代のマーケテイングの流れを、上手く先取りしていたことに気づきます。経営に携わる方々はご自身の経営の参考になれば幸いです。
人間臭い経営とマーケテイング潮流の変化への洞察
1980年代に入り、マイケル・ポーターなどによって競争戦略が経営的マーケテイングとして主張されだし、ROI(投下資本利益率)の尺度やミドル層のマネジメント技法が盛んに議論され始めました。
私も、経営をするために「4P」の原則やマイケル・ポーターの競争戦略を勉強しました。新しいマーケテイングの概念をタイムリーに勉強することができました。
しかし、何となくこれらの論理に馴染みませんでした。経営している企業の発展のためには、これらの理論が少し実態にそぐわないと感じたのです。
数字先行のテクニカルな議論に終始し、社員という人間の「心の部分」を忘れている印象を何となく持ったのです。私自身は社員の心や顧客の心をどう掴み、彼らと一緒に成長することが経営上必要で、それがマーケットの流れの変化であると感じていました。
ちょうどこの頃、私はある会社の経営を託されました。
実質倒産状態の会社を建て直すために志をたて、これを経営理念に定め、関係するあらゆる対境者を顧客とみなし、顧客とのより良い関係性をいかに実現するかの視点で、顧客のファン化のため「人間臭い経営」を意図的に進めていきました。
具体的には、事業のコンセプトの「軸」をぶらすことなく、賑わいの「場」をつくり、社員との垣根のない良好な「湿り気のある人間関係」をつくる一方、中・長期的な利益をあげることを目指しました。特に経営上、私は「社員をどう幸せにするか」を最優先に発想していました。社会の構成員としての義務を全うし、会社の品格を磨く努力をした結果、世間から一定の評価を得る会社になることができました。
マーケットの変化をいかに洞察するかは経営のセンスによるところが多いとは思いますが、懸命に生き残る、競争に勝つことを考えれば、自ずとその方向性を見いだせるものと思います。
顧客の声を聴くこと
1989年にアメリカは、自国の企業の優位性を保持するため、「マルコム・ボールドリッジ賞」という国家的制度を制定しました。
私は、顧客に焦点をあてた「マルコム・ボールドリッジ賞」のコンセプトがより体系的であることに気づき、当時幹部社員であった江頭さんとともに、とにかくその内容について勉強しました。米国で行われたセミナーに出席し、あるいは、デイスカッションに参加し、われわれ日本流の経営手法を紹介する機会も持ちました。
このマーケテイングの流れが、私の経営の流れと上手く同期していたのです。
ビジョナリーカンパニーの概念もこの頃言い出されてきましたが、ある意味で、既に私はこのような考え方を会社経営に取り入れていましたので、私にとっては特に目新しい考え方ではありませんでした。ハリーハンセンも顧客主義の重要性を主張してきましが、それまで私が経営上最重要と考えていた、「顧客の声を聞け」とほぼ同一の考え方であると自信をもちました。
当時私は既に、年令や性別などといった人口統計的特性で「売りたい人」を特定化してターゲットを想定するよりも、顧客の考え方や価値観から「買いたい人」が「その商品やサービスの何に魅かれているか」の「顧客の声」を大事にした施策を打ち出していました。
このようにみると、マーケテイングの流れを先取りしていたことになるかもしれません。
その結果として顧客主義を日本的に独自に展開し、「農耕型企業風土」づくりを徹底して進めたことが、以後の会社の成功につながった一つの要因だと今でも考えています。
その後、「1:1マーケテイング」(個別対応)が重要視されてき、これに対応すべく組織も「小さな商店とその経営者」の発想を取り入れ、少しでも個別対応を目指そうといろいろな方策もうちだしました。
マーケテイングの流れを少し先読みして経営を展開することがいかに企業の成長につながるかを実体験した次第です。
望ましいロイヤルティー・マネジメントをする部門を新設してみませんか?
皆さまの企業に、過去のアカが貯まっているとしたら、今こそ新しい企業像を新機軸として打ち出していく必要があると感じていませんか?社長の経営哲学にもとづき確実にスピードをもってその考えを実践に移していける部門を新設しては如何でしょうか?
新機軸の打ち出し
顧客のロイヤルティーをマネジメントすることを薦めたいので、一例として「○×CRMサービス部門」とでも仮称してみましょう。私はこの分野を専門に経営していました。その中で気づきました。
部門の社員が自立的に『わくわく元気』に仕事をしていく社風がまず大前提になります。この時はじめて顧客との良好な関係性(リレーション)を継続的に保て、顧客のロイヤルテイー化を進める土壌ができるからです。このような部門は顧客の願望・要望をキチツとキャッチして顧客が望むサービス・デザインを具体的に実現していかなければなりません。多様な要望に応える「仕組み」が必要となります。
しかも、顧客が「訪問してみたい」と思う千客万来賑わう「場」をつくり多様な情報が集まりやすくします。結果として、その部門自体がマーケッテイング機能を組み込んだものとなるのです。
社長が考える新機軸として、CRM関連の新しい部門を新設するにあたり、2、3留意すべきことを念押しします。
経営理念の明文化
第一に、その部門として会社全体の経営理念と相反しない範囲で部門の理念に相当するものを明文化することです。部門の運営理念には、部門の将来の絵姿が部員全員に分かりやすく伝わる力を持った簡潔明瞭な形で欲しいです。
企業風土をコアコンピタンスに
第二に、これから部門の責任者がつくっていくコアコンピタンスは、彼の志と裏腹の関係にあるものですが、頭でっかちに考えず、ユーザーのニーズから出発したほうが得策です。コアコンピタンスは分解すると何かの強さにいきつくものではありません。
前法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科教授の嶋口先生は、これを『ビューテイフルカンパニー—市場発の経営戦略』の中で、玉ねぎのごとくという表現をされています。「皮をむいても、むいても何か核がでてくるものでなく、玉ねぎが丸ごとあるのです」と。
私流に言えば、企業(部門)風土などがこれに相当します。
財産価値として数字では表しにくい企業(部門)風土ですが、これこそがコアコンピタンスになるものと信じています。顧客が千客万来訪問し、全員がクオリティーの向上に責任を持つ風土、顧客からの信頼をベースとして、顧客がサービスから常に一定の成果を期待できる安心感のある風土が欲しいです。
暫くは、小部隊で思い描くことと現実の部門風土とのかい離の大きさを甘受しながら、それでも志を貫いて頂きたいと思います。新設なるが故の悲哀を味わうこともあるかもしれません。
仕組みのユニーク性の主張
第三に、顧客のロイヤルティー・マネジメントのため、部門の仕組みにユニークさを持たなければなりません。
他社のベストプラクティスを勉強してください。はじめは、顧客固定化のため点の競争になるかもしれませんが、組織能力をベースとした競争にビジネスモデル自体に仕立て上げることが、私の経験でも近道です。このために社内外の知恵を結集することです。
新設部門がこのビジネスモデルを突破口としてつくるにはユニークであることが欠かせない条件となります。
どうしても既存の部門を真似したくなります。是非、ゼロベースで考えてください。既存の部門のモデルを打ち破り、マーケテイングの新しい流れをキャッチして未来をゼロベースで切り拓く執念が部門責任者に必要とされます。入り口の顧客が出口でフローの利益をもたらし、同時に、この「仕組」のノウハウや風土がストックとなるように組み立てることです。
生活者の声、顧客の声を鋭敏に汲める組織や体制になっていますか?プロの働き方をしていますか?
情報共有の時代の統治方法
いろいろな情報機器という武器を使って地球上どこの地域の情報でもどんどん公開される時代になってきました。世界が確実にグローバル化に向かっています。
この様な時代には、興味がある人々が自由な発想で世界中の知恵を結集して何か新しいことにチャレンジできる環境をつくることこそ社会全体の繁栄に繋がる、との考えを私は持っています。
このような人々が個人の個別の要望・願望に合わせ自由な発想で何かを造っていくエネルギーに期待する環境をつくる施策を打ちだすことこそが社会全体にとって肝要なことだと思います。
逆に、今の政治の世界で全体を「十把一絡げ」にした方法や行政施策がはびこっているとすれば、その効果には大きな疑問を覚えます。
例えば国民全体を対象にしたマクロの産業政策や、中央官庁主導の縦割りの政策等で有効需要を喚起したりする考えは、中期的な視点に立てばまず上手く行かないのではないかと思います。
新しい情報機器や端末で沢山の個別情報を既に手に入れている生活者や顧客という需要側自体が、既存の政治統治組織や体制にパラダイムのシフトを求めているからです。このことを政治の仕事をしている人々に本気で肌で感じ、分かってもらわねばなりません。
この意味では、大阪をはじめとする地方自治体が適正な財源をもとに自分たちの好きなように行政をやらせてくれと要望するのも、個別の意図は別にして、当然の流れと見ます。
現地現場での課題解決力
私自身、政治とは別の経営の世界でこの流れに気づいていました。会社の経営で、本社より現地現場に裁量権をうんと持たせ、自由闊達に運営させる必要性をいち早く感じていたのです。
顧客が困っていることの問題を明確にし、その解決方法を提案するといういわゆるソリューション型(課題解決型)のマーケットの要請をひしひしと感じていました。
企業としてこれに応え速やかに課題を解決するためには、組織形態もピラミッド型組織からフラット型の組織に変えて、そこに権限を与える方が効果があると考え、「小グループ」の長にプレイングマネジャー的責任をもってもらうことにしました。自分でリスクを管理し、多様な人間関係を開放型に持ち、すぐ対応してもらえるプロの人材集団の育成を望んでいたからです。
そのために「小グループ」制をとり、社員のイノベーティブマインドを鼓舞して社員と会社全体の活性化は実現できました。現場個別の事情を配慮せず、強力な本社が会社全体のマクロ施策を組織の縦割的に現場に打ち出す弊害を、私は時代遅れと見ていました。
私には、本来、汗を流している現場の人々が一番マーケットの流れを知っているとの思いがあり、そのために必要な組織制度をつくり、現場のプロの人材に任せるべきであるとの考えが強かったからです。
「はやぶさ」のエンジン設計者のプロ魂こそ見本
2012年春、飛行機内でたまたま映画、「はやぶさ」を観ていたことを思い出します。
2003年5月に打ち上げられた「はやぶさ」が2005年夏に地球から60億キロ以上離れた小惑星「イトカワ」に到着しました。この探査機が空気の噴射でアート的に実施する姿勢制御機能を失うという事態に見舞われるのですが、宇宙開発機構(相模原センター)から1.5か月間に数万回電波を送り続けていたところ、ある技術者の設計変更のおかげで衛星が微弱電波に反応を示し、偶然、制御が可能となったのです。
設計仕様段階ではこうなっていなかったようですが、設計技術者が自己判断で工場に設計仕様を依頼していたおかげで、補助イオンエンジンとの迂回ルートを利用してエンジンを作動させることができたのです。エンジンが再起動でき7年ぶりの2010年6月にオーストラリアの砂漠に落下、カプセルを回収できました。
まさに、何かの時のリスクを想定し、その課題を解決する策を自分で打つというプレイングマネジャー的現場のプロの技術者の働き方です。
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