閑話休題
第285回 閑話休題—脳に良いこと
最近、以前より物忘れがひどくなったように思い、脳の活力を取り戻すにはどうしたら良いのかを、素人ながら勉強をしています。
認知症
ご存知の通り、うつ病、認知症は誰でも一定年齢からその兆候が進みます。加えて、集中力の欠如等も年齢を重ねるごとに出てきます。
このような症状を脳の面から研究する報告書も沢山発表されています。あくまで拾い読みですが、大変参考になります。
いろいろな情報を総合して、現段階での私の結論は次の通りです。
すなわち、自分自身が脳に悪影響を及ぼすような生活をしているのではないか、それらが生活の習慣になってしまっているのではないかという反省から出発しなければ解決しないということです。
脳では約20種類の脳内物質が分泌しており、脳内化学物質がつくられていると知りました。活力や集中力を保つのに必要なドーパミン、セロトニンなどの「脳内化学物質」が脳で十分に作れていないので、脳内化学物質のバランスを崩し精神的タフさも無くしてしまうのではないかと、考えるに至りました。
自分の結論を踏まえて、脳の活性化のために脳内化学物質のバランスを整えるには生活のいろいろな習慣を改善し、脳に良いことをする必要があると、にわか仕込みの情報を基に只今個人的に努力中です。
脳に良いこと
「脳に良いこと」は、まず、食生活です。
皆さんもご存知のことばかりですが、健康にとり重要なことと、自分自身に注意を喚起させていることです。
・血糖値を大幅に上昇させる「高GI食品」(GIとはグリセミック指数をいいます)の摂取をなるべく制限することにしています。
精製の白いパン、白い米等美味しいものを意識的に避けています。ご存知の通りインスリンは血液中のブドウ糖を全身の細胞に供給し、細胞はそれをエネルギーとして利用していますが、上のような高GIを食べ過ぎるとインスリンが反応しなくなると、いろいろな文献に記載されています。
ビタミンB類がアミノ酸を脳内化学物質に変える作用を持つようで、こうならないように、これを含む食品を沢山取り込む必要があります。
・また、脂肪は脳の健康改善に欠かせない栄養素ですので、ヘルシーな脂肪食品をと、以前はそんなに好きではなかったオリーブオイルを利用した食事を意識しています。
ましてや、変な油を利用していそうな食事は美味しそうでも、可能な限り避けています。
・出雲の田舎では、東京風の納豆を食べる習慣は数十年前には無かったので、納豆はあまり好きではありませんでした。ところが脳を活性化する効果があると聞き、発酵させた大豆である納豆を努力して食べるうちに嫌いのカテゴリーから外れるようになりました。これも生活の習慣でしょうか。
・緑の葉野菜は大好きです。フルーツも好きなものを適量食べています。
次に、「脳に良いこと」は、定期的な運動をすることです。
継続性が大事であるとのことで、有酸素運動をもくろんで、朝の体操、下手なゴルフを続けています。ゴルフでは汗を流し会話を楽しんでいます。心拍数と呼吸回数が上がるように、なるべくカートには載らないよう留意していますが、効果の方はどうでしょうか。また、気分も快適です。明確な根拠は不明ながらも、運動は脳内化学物質を増やし認知機能を改善するのに効果があると思い込んでやっています。
更に、十分な睡眠をとる必要性も感じています。
人間の小脳には1000億個、脳全体では数千億個ものニューロン(神経細胞)が存在し、これが電子信号のネットワークを形成していることで脳が機能しています。
睡眠中は脳のこのニューロン菅の隙間にリンパ液のような無色透明な弱アルカリ性の脳せき髄液が入り込み、アルツハイマーの元となる老廃物を洗い流す効果を果たしているとの研究があると知りました。睡眠中に脳の洗浄をしてくれるようです。
どうも最近睡眠の質が落ちたと感じていますが、仕事のストレスからでしょうか。
社会的なつながりが認知力の低下を抑えると聞き、若手の経営者の育成に尽力しているつもりですが、あれもこれも片づけないといけないと、タスクが並行して走るのが、この背景かもしれないとの反省もあり、マインドフルネスと称して少しは息抜きの瞑想や散歩の時間をもち、睡眠の質を上げる努力もしているところです。
私にとって「脳に良いこと」が、皆様の参考になるのかが心配です。本日の閑話休題を笑って閉じさせていただきます。
第224回 閑話休題--あるパーティー
先週の金曜日、10月21日に東京で「わくわく同窓会」を開催しました。同窓ではないが、関係者も多数参加して、盛大に、しかも、楽しく終わりました。
集まった人々のパワーに、皆改めて感激でした。とにかく凄い。これなら何のビジネスをやってもある程度いける感じです。昨日お会いしたある社長も、本人も同窓会に参加して、「自分の会社の社員を是非あのような場に参加させたい」と述べていたほどパワーみなぎる集団の集まりでした。
何故こうもパワーがみなぎる人々ができたかを、帰路つらつら考えてみました。最初からパワーみなぎる人だけではありません。それでも組織としてこうなる。その背景は・・・。
1.会社が向かう「方向性」や「ヴィジョン」を明確にして、社員のベクトルを結集できたから
これは大きな要素だと思います。なぜなら、普通の人が自分の持てる能力を集中して一気にその方向に向けて出せるからです。エネルギーが散漫にならない。そのうちに、その行動パターンが当たり前になり、自分自身の体質となるからではないでしょうか。
2.「異質」な人間集団の集まりが構成できたから
ある意味で意図的に異質な人材、異能な人材を採用していました。これは、旧態が蔓延しやすい通常の組織の体質を防御するため、さらに、組織に新機軸をもたらすためでした。今回参集した人々を見ると、改めて、異能・異才の集団になっていました。会社の成長を支えてくれた人材集団です。
さらに、組織の一体感を意識的に作るために、彼らを上手く「ピラフ」でなく「おにぎり状態」にして仕事をしてもらったので、全員がより高い意識レベルの人々に引っ張られて、このようなパワーある集団に作り上げられたのではないかとも思います。
3.「現場に最大の裁量権」を与えて、任せたこと
「現地・現場・現物第一主義」を本気で実践したので、自分の裁量で何事も判断できた。彼らが自ら知恵を働かせて「事業計画」目標を達成するマインドを持ち、それを達成するための手段と決断に自由裁量権を持つ。それが結果として本人の自信とパワーになったのではないかと思います。多分、ほとんどの人が自らの力の何割か増しの力で貢献してくれたと思います。
4.何か「新しいことにチャレンジ」してもらったこと
組織の内外を問わず、自らのチャネルを増やして情報を集め、自分なりに構成しなおして新しい何かを作り上げる、これを奨励したことも一因があると考えます。何かを創造するには、自分一人の考えにだけに凝り固まらず、他の人の知恵を組み合わせる必要がある。この苦労を皆に奨励していたことが、このような人材が育った一因かも。
5.結局、「企業風土づくり」に成功したこと
経営目標に向かって「事業計画」を達成する。このために自らの力と知恵を働かせ、結果を出し適正な報酬をうる。何か新しいことを組織に持ち込む。チャレンジして失敗しても、捲土重来巻き返しのチャンスがある。枠をはみ出しても叱責されるどころか、それを奨励され、自らの把握分野を拡大した新のことに挑戦できる。このような企業風土を経営上意識的に作ってきたことが、彼らのパワー発揮を後押しできたのではないでしょうか。
パワーみなぎる彼らのこれからの挑戦が楽しみです。
第205回 EUの課題から学ぶ
G7サミットが先週伊勢志摩で開催されました。当然のことながら報道からしか情報はありませんが、やはり各国の選挙事情を抱えてか総論は賛同しながら考え方や意見スタンスに微妙なズレを感じるのは私だけでしょうか。
G7国ではないので全体写真には勿論写りませんが、EUからはドナルド・トゥスク大統領が出席。世界の経済や諸問題の解決を引っ張る役目の一部をEUも背負っていますが、いろいろ課題があり難しいかじ取りを要求されます。
いろいろな意見
ところで、海外でEUのことについて質問しても、それぞれの国の置かれた立場によりさまざまな意見が返ってきたことを、私は経験しました。
ドイツが強くなり過ぎることを曲がりなりにも防止できているという意見、次の戦争のきっかけをヨーロッパから作らせないことに成功しているという意見、形の上では欧州人という認識でヨーロッパが一枚岩になっているという意見などなど、政治面では一定の評価をする人が多いと感じます。過去の戦争体験から次の世界大戦だけは起こしたくないとの強烈な政治姿勢は、加盟各国に見られると個人的には思います。
政治的な面に関しては、EUが連帯して諸課題を解決していこうとする姿が前面に出ており、ある意味でこれには満足する意見が多いかもしれません。
経済・金融の諸課題
ところが、経済・金融的にはどうでしょうか。
前身である欧州共同体、EC発足後の20年間は創設国全体の経済成長率は高く、平均で約5%でした。しかし、その後の20年間に関しては、イギリスや米国などの成長率を下回っています。ドイツは1~2%、フランスは2%~2.5%位と低い成長率です。
日本のGDPの成長率よりは良いでしょうが、最近の低成長率は顕著で、加盟国の国民は満足していません。イギリスでは、EU加盟国として残るか離脱するかをこの6月に国民投票で決定するほど国民の重大関心事になっています。
何故こうなったかです。日本が今後学ぶべきところかもしれません。基本的には(1)「統一のルール」では各国の経済政策が難しい状況下にあること、(2)EU職員の意識に集約されます。
ルール統一の難しさ
第一に、労働者間の軋轢がどんどん増していることです。
元々その地域にいる労働者とその地域に移民として入ってきた労働者間の軋轢です。新聞報道などでこの一部はご存じのことだと思います。しかも、このような現象はどこの国でもある程度発生することです。しかし、EUの場合、この軋轢が大きくこのことからそれぞれの国にいろいろな不安定要素を持ち込んできています。
EU内では統一ルールにより、域内の労働の移動は原則自由で、より労働条件の良い場所での雇用を捜して労働者が国を移動しています。個々人では理論的に妥当な行動で、このことで本来その国の経済活動上貢献しているはずですが、全体で考えると、労働者間の軋轢を経由して不安定要素を各国で生み出しています。
日本でも労働人口の絶対数および生産人口数の減少を補うために移民の緩和が議論されています。政治的問題は別としても、経済的面からもEUのような様々な課題が生じる可能性を深く吟味した上で、政府は一番適した判断をすべきだと思います。
第二に、EU域内にEU共通の労働関連法規を統一的に適用することで労働市場が窮屈になっていることです。一国の中での東京と地方の差とは全く異質な問題です。
それぞれの国の生成過程が違えば、労働や雇用環境の違いもある。そこに共通の労働ルールを持ち込むことで、労働時間、マイノリティー対策、雇用環境の整備などで一部の国にとってはEU加盟後に窮屈な点が多くなったと言われています。労働関連法規などが整備され、労働や雇用条件が進んでいる国が相対的に有利に働くことになります。
日本でも、規制緩和の名の下に労働や雇用関連の条件が最近大きく変わってきました。日本独自の労働慣習などをすべて欧米基準のルールに合わせることが本当に日本にとって良いことか、今一度考え直すべき時かもしれません。強者が強いるルールは基本的には強者のためにあると考えるべきです。
第三に、EU域外の国との各国の貿易は「共通のルール」に従わなければならないことです。国によっては独自のルールでの貿易の方が有利だったのに、EU内での共通のルールに従うことで本来のチャンスを失うことが出てきているようです。自国のルールで積極的に貿易を促進できる機会を失ってしま結果として経済的に打撃を蒙っている国もあります。競争環境が乏しくなって活力が失われている国も出てきました。強い国の一人勝ちです。競争でなく共通のルールを強いてEU内の調和と統合に力点を押し過ぎた結果ではないでしょうか。
ところで、各国の議会の承認を得られれば、TPPの非関税域の拡大が現実のものとなります。一般的には、強い通貨の国が貿易では有利に作用します。弱い産業は他国からの輸入に代替されます。このために日本では、関税の撤廃でも他の国に対抗できるよう国内の産業の抜本的強化に早期に取り組まなければ非関税域ないでの貿易メリットを活かせなくなります。
第四に、統一通貨も問題を秘めています。
1999年のユーロ発足当時は大成功でした。ECBが低い金利を設定してくれました。お蔭で加盟各国は比較的贅沢な暮らしが出来た良き時代でした。ところが、問題が発生。経済原則通り、生産性の低い周辺国ではドイツより早いペースでコストと価格が上がりインフレ傾向が出始めました。このため、ドイツの周辺国では競争力が失われ、輸入が増えて巨額の経常赤字を計上する国が増えてしまいました。
国によっては、自国の生産性から算出した購買力平価と統一された共通の通貨の価値とがかい離してしまっています。2012年にはギリシャをはじめ数か国が離脱をするのではないかとEUの危機が訪れたことは記憶に新しいです。現在もイギリスがEUから離脱をするかで国民投票を行う段階になっているほどです。
EUも経済情勢を打開するために、資金の量を増やす方法もあります。世にいう量的緩和です。米国もやりました。日本もやりました。これをEUもやろうとしていますが、これまでドイツやイギリスは反対でした。今回のG7サミットでも日本の財政出動に、ドイツは本心では反対です。同様にEU内の議論でもドイツは積極的ではありませんでした。EU加盟の他の国の負担をドイツの自国民がカバーすることになるからです。それでもやるとすれば、ドイツの納税者からの大反対に会うのは必須で、これぞ、EUの結束を損なう大きな問題です。
日本でも、現状を打開して世界の契機を引っ張るため、金利、通貨の発行量、財政赤字の解消など識者の知恵を取り入れて最適な政策選択を、タイミングを逸しないでやるべき時ではないでしょうか。
EU職員の意識
第五に、EUの公務員の給与の高さです。
公務員数の多さはギリシャなど個別の国であることですが、ブリュッセルを中心としたEUの官僚などの意識と給与の高さに加盟各国の不満が募っています。良く調べていませんが、国連の職員の給与以上かもしれません。欧州委員会の委員長の給与は、ドイツの首相やフランスの大統領の給与より大幅に多いのは確実です。
日本の公務員でなく民間企業日産のゴーン社長の報酬がどこかで報道されていましたが、このような報酬体系や経営者意識が日本の産業で本当に妥当なのかについて、今一度考える好機かもしれません。
他山の石
EUはどうすれば良いか。早く経済的な課題を解決しなければEUは厳しい状況になると、個人的には見ます。政治的な面のみを前面に出して乗り切ろうとすればするほどおかしくなるとの意見もあります。
政治上の理由のみで経済課題が先送りされないようEUで発生している諸課題を、日本も他山の石とすべきところが多くあるのではないでしょうか。
第204回 原油市場の影響を概観
最近はあまり話題に上りませんが、個人的には原油市場の及ぼす影響に目が離せません。
原油市場は産油大国の供給側の思惑で動いていると言っても過言ではありません。特に、最近は供給国のサウジアラビアと米国の動きが気になる所です。
一時ほどOPECの団結が無くなった今、原油の供給のためのバルブの締め具合と政治のカードが複雑に絡み合い、各国が自国の安全保障と経済的利益を増すために虚々実々の演出をしているように見えます。
原油価格の下落
2014年6月イスラム国が国の樹立を宣言しました。この直後です、原油の供給の不安定さが今後生じるのではないかと市場が受け取り、原油価格に混乱が生じました。この動きを鎮静化させるためにサウジアラビアが原油の日量生産量を大幅に増産、この動きに追随してイラクとシリアも増産しました。結果として、原油価格は1バレルあたり105ドルから93ドルに下落。2015年には一時50ドルまで下がりました。
このことに加えて、後で述べるシェールオイルの商業生産を経済的に可能とする技術がアメリカで開発されたことで、原油価格は一時30ドルを切る所まで下落してしまいました。
技術開発
シェールオイル・ガスからの石油抽出に成功した米国では、原油の増産に走るのは当然の帰結でした。この結果、傾向としてOPECから原油生産のシェアを奪いつつあります。シェールオイル(頁岩)は供給源としては以前から分かっていたことでしたが、これまでは、頁岩や頁岩の間からオイルやオイルガスを抽出するコストが高すぎて商業生産に至らなかった。そこに技術が開発され経済性が出てきた背景があります。技術開発が商品価格の低落を招くと言う経済原則通りの動きとなってしまいました。
産油国地図の変貌
シェールオイル企業の投資の限界費用は現在の所、20ドルほどと言われています。全ての生産コストをリカバーするにはまだ50ドル必要とも言われていますので、原油価格は、理論的には当面20~50ドルの範囲何に推移することになります。
なんとシェールオイル技術による商業生産のお蔭で、2008年にアメリカの日量500万バレルだった原油生産が、2000年頃には900万バレルになったと報じられています。増産量のほとんどがシェールオイル・ガスを言われているほどです。
これまでも原油の潜在的埋蔵量は実質世界一と言われながら、自国の安全保障のために米国は原油を地下にため込んでいます。ところが、シェールオイル・ガスの開発で原油供給に更に余力が出てきたことやロシアなどへの政治的動きの一環として、米国は今や日本にも原油を輸出するほどに政策転換してきました。私は大きな転換点と見ています。米国が今後世界最大の産油国になる可能性を秘めているともいえるのではないかと考えます。
原油価格の下落による諸問題
ところが、原油価格の下落で問題はいろいろあります。
原油価格の急落による油関連企業が発行している債券で信用度が低い、いわゆるジャンク債が心配だという議論が以前からあります。今のところは問題が顕在化していませんが、原油価格低落により原油関連企業の収益の悪化を招き債務返済が不能となり、経営が破たんし、世界の経済が大きく影響を受ける経済的影響の問題です。
また、政治的にも問題が出てきました。産油大国のサウジアラビアと米国との関係がギクシャクし始めています。
OPECの代表選手であったサウジアラビアの石油の権益を米国は第一次世界大戦前から死守していましたが、このスタンスが最近変化してきています。米国での国防費の削減が必要なこと、米国の外交が内向きになり世界の警察官を放棄し、中東地域の安定が米国の外交の基本政策でなくなってきたことが主な理由と見ます。
こうなると、世界の政治的、また軍事的地図がややこしくなってきています。アジアの隣国がアメリカの代替役を引き受ける名目で旧帝国主義的な動きを加速しかねない懸念が現実に増大してきます。中国の人民解放軍はインド洋に軍艦の配備などを拡大すると発表し、インド洋は中国が守ると言い出しかねない状況です。
そうなると、日本に原油を運ぶインド洋の海上ルートの確保がどうなるかです。日本の資源確保の意味でも、マラッカ海峡のみならず、インドは決定的に重要な役割を持つことになります。
米国内では外国産の原油の需要が減る一方、原油需要面でみると経済の成長に伴って中国が今後のアジア最大の輸入国となります。資源の確保に積極的な方法を講じてくるのは当然です。他方、日本の原油資源の需要が減らないことは当然のこととして、発展するアジア諸国での原油需要も増大します。
結果として、各国商業用船の航行の自由にとりシーレーンの確保が極めて重要になり、対立関係が極めて如実に出てきます。自国の権益を守る名目で弾道ミサイル搭載の原子力潜水艦を配備などの軍事的な手段が前面に出て、第二次世界大戦のきっかけと同様な構図にならないことを望むだけです。
資源という原油の市場の影響を概観してみました。
第203回 国の情報戦略という諜報活動をどう考えるか
国による情報検索
私の友人の或るアメリカ人曰く、「アメリカでは個人の情報は全て監視されている」と。
多少の誇張があるとしても、ほぼこの通りかもしれません。いろいろな報道を通じて知る限り、我々と価値観を異にする国家体制下で、国家が個人をいろいろな方法で監視していることはほぼ常識の域だと思いますが、自由主義体制の代表選手のアメリカでも、マイクロソフトやグーグルなどインターネット企業のサーバーに蓄積されたデータに、国家機関がアクセスして、常に監視していると思われます。
彼の話によれば、光ファイバー網を通過する情報をも収集していると言われているほどです。対象としたい特定個人のパソコンに「xxウェア」なるソフトを忍び込ませて監視をしていることが、その分野の専門家の間ではよく言われているとのことです。真偽のほどは分かりませんが、そのような評判が出ること自体、何か背景があると思うのが自然です。個人情報の秘匿云々の大きな建前は、国家の前では全く踏みにじられていると言っても過言ではありません。安全保障上とはいえ、国家によるある種の諜報活動です。
数年前、ヨーロッパの複数の首脳の会話をアメリカの機関が盗聴していたというニュースが流れたのをご記憶だと思います。
この例で分かる通り、今や世界の国々でお互いにいろいろなレベルの情報を盗んでいるのはほぼ常識的理解です。あらゆる手段を使って、敵や同盟国の情報を盗み自国の安全保障のために活用しています。
方法として一番力を入れているのが、サイバー・インテリジェンスと言われています。すなわち、インターネットを活用して情報を収集して、自らの国に有利、敵に不利な状況を作り出す諜報活動、いわば、国家ぐるみのスパイ活動です。自国の安全保障上必要とされる情報を収集して分析の上、相手の国との関係で自国に有利に対応する活動です。
個人を特定される情報網
ご承知の通り、インターネットは元々軍事目的のために開発されたもので、その設計概念上から、どこの誰からの情報か、個人が特定される情報網です。特定情報を個人と紐付をすることが情報戦略の肝であることを考えると、世界の標準となっているインターネット網の、サイバー上の情報はまさに宝です。情報の収集が個人若しくは個人の情報端末と直結しているので、それにアクセスできれば諜報活動が最も効果的に出来るからです。
このことが個人情報との関連でいろいろな議論を呼ぶことになりますが、残念ながら個人が特定されないインターネットに代替する情報網は、現在の所世界の標準となっていません。世界の知恵者が将来インターネットに代わる網を構築できれば、日本からそれを世界中に広めるものが出てくればと、私は夢を見ています。
インテリジェンスに関わる法規制
国際法上の法規の中にはインテリジェンスに関わる活動の制限規定が現在はないようです。戦争では守るべき義務が明文化され、それを順守しないと軍事裁判にかけられます。ところが、サイバー上の情報戦争では今のところそれを縛る直接的な規定がない状況のようです。
実際、アメリカのオバマ大統領と中国の習近平主席がアメリカで対談した折、アメリカ側が中国のサイバー上の諜報活動を強硬に非難したことに対して、双方の応酬が続いたという報道があったのは記憶に新しいのですが、報道を見る限り、双方の言い合いに終わったのが事実ではないでしょうか。本当は誰が自国のシステムに攻撃を加えたのかを明確に立証することが難しい、若しくは、お互い様だからです。各国が被害を受けても外交上の問題に発展するくらいで、為すすべがないのが現実のようです。
サイバー攻撃でのアメリカの悩み
諜報活動は自国にとり有効だとしても、アメリカをはじめ先進国で悩みが深刻なのは、サイバー攻撃で相手から戦争を仕掛けられた時です。特に、インターネットを社会基盤のベースとしていち早く実用化したアメリカでは、サイバー攻撃を受けるとたちまち大きな被害が発生することになります。国家の機密情報まで外部に漏えいし、国家的な安全保障に関わることになります。
エドワード・スノーデンというNSAの技術者がアメリカの国家の機密情報を外部に漏えいしたことは記憶に新しいと思います。外部には絶対漏らしてはならないものが「国家機密」情報であるのに、これが特定の職員から簡単に外に漏れてしまった。アメリカの悩みは深刻です。
また、中国からの情報攻撃に対して業を煮やしたアメリカが、2015年5月に中国人民解放軍の5人を名指しし、産業スパイ容疑で訴追したことは、アメリカでのサイバー攻撃被害の深刻さを如実に示していると考えます。
インテリジェンス活動に強い国が新しいルールを作る
インテリジェンス活動の行く先の視点に目を移すと、サイバー・インテリジェンスが度を過ぎるといろいろな問題が発生してくるように見えます。アメリカや他の強い国主体で、既存のルールを簡単に変えることが可能になりそうだからです。
パキスタンに潜伏中のオサマ・ビン・ラディンが、特殊部隊により殺害された事実と作戦の概略が報道されましたが、パキスタンという国家の主権があるのに、その国家に何の断りもなく侵入し、彼や家族を殺害したと要約されます。オサマ・ビン・ラディンは例外的だと言ったとしても、この報道内容を一般論として引き直すと奇異に捉えられないでしょうか。「テロは犯罪でなく戦争だ」という新しいルールをつくったことになります。
パキスタンで起きたような極端な例以外のサイバー・インテリジェンス活動でも新しいルールが強い国から設定され、それを他の国が事実上受け入れざるを得ないことが今後どんどん起きそうに危惧するのは、私の考えすぎでしょうか。
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