採用
人材採用の視点
経営上の人材採用の意味は「皆が一緒に働く会社に永く付加価値をもたらしてもらう」ことにあると考えます。人材こそ財産だからです。
この「ビジネスコラム」の「人間性と運」(2013年9月26日)でも採用について一部述べましたが、経営上非常に重要なことと考えますのでここに再度述べさせていただきます。
2013年10月に、偶然元の部下が飲み会に誘ってくれました。この席でいろいろな企画や話題が出ました。採用の極意も話題の一つで、ある立場になると皆悩んでいることがわかります。少しでも皆さまのお役に立てば幸いと、私が彼らに話した内容をここに披露します。
経営側の要請に応えるべく各社の採用担当者も知恵を絞っておられると思います。かく言う私も、かつて経営を委託された最初の時点では、採用には悩みました。悩みぬいた末、あるヒント、すなわち、視点が何となく目の前に開いてきたのを覚えています。以後はその視点で設定した採用ガイドラインを下に良い人材をたくさん採用できたことを幸せに思っています。
また、経営側の基本的要請を誠実に実践してもらい、かつ、彼らの知恵を絞ってもらうべく最も優秀で信頼の置ける人間味の豊かな人材を採用のグループに配置することを毎年の人事で行っていました。それほど「経営の入口」のところである採用視点を重要視していたからです。
採用視点
この時の視点を整理してみると、
1.人材のトンガリ度、
2.人間性(オープンで素直さ)
3.良い運の持ち合わせ
4.公やチームに貢献する力
を持っているか否かを判断のポイントとしていました。個人の高い能力以外に、上記のような人材の採用視点を採用部門に指示していました。
人材のトンガリ度
第一に、その人のトンガリ度です。
ここにトンガリ度とは何か特定の分野や能力において他の人に比べて極めて秀でたものを持っている度合いを言います。
見方によっては、多少、オタクっぽいところがあるかもしれません。しかし、特定のことを徹底して追求して来た結果本人のドンガリ度が研ぎ澄まされているわけで、オタクっぽさとは別に、何かを徹底して極める姿勢こそ人間として大切で、その後の成長の可能性も秘めていると考えていたからです。
特定のことに徹底して努力する姿勢を買いました。その過程で会社の新機軸を打ち立てるのに大いに貢献してくれるはずです。私が経営していた頃のこの会社の人材が、他社の人材に比較してとにかく「何か違っていた」と評価を受けるのも、この視点背景とそれを基にした企業風土と無縁ではないかもしれません。今回会った元部下の彼らもトンガっています。
ヒューマン・スキル度
第二に、人間性です。
「ヒューマン・スキル」とも呼んでいました。
一生懸命に仕事をし、これを通じて自らを鍛え、能力を高め、結果として自己の人間性を高める度合いです。誰からも好かれる人間味のある人です。しかも本人の生い立ちによるのみでなく、仕事を通じて醸成した人間味のある人です。仕事を通じて醸成した人間性と言うと最近の人には嫌われるかもしれませんが、働くということを人間性と関係性を持たせて考えることができれば、本人にとっても一番幸せなことではないでしょうか。
採用担当者が個別の面接でこの人間性の豊かさを見抜くには、一定のスキルが要請されます。採用担当者である彼らも、部下を持って育成する立場になればなるほど、この人間性が効いてくることを、一番身にしみて感じていますので、彼らなりに様々な努力をしています。
今回飲んだ元の部下には、人間性を見分ける私流の簡単なヒントを伝授しておきました。才能の非凡さを自らひけらかし誇るような人には、部下の成長を期して彼らの面倒を見てくれることを期待するのは無理かもしれません。これが分かる簡単な質問をすることです。
「後足で砂をかける」、「後ろからいきなり切りつける」と称されるような人材は、ある段階までこの会社にまずいなかったのは、この会社と当時の社員全員が一番幸せに思った点ではないでしょうか。人間性、ヒューマン・スキル度の視点を重視しての採用と無関係ではないはずです。
良い運を運ぶ人
第三に、運の持ち合わせです。
9月26日の「ビジネスコラム」でも書きましたが、入社した会社が倒産の憂き目に遭う、その人が入る度にまた次の会社が倒産するというような悲惨な経歴を持った人が時々入社を希望してきました。残念ながら、私はそのような人はどんなに優秀で、他の採用視点には合致していても採用を諦めることにしていました。どうも良い運を運んでくれないからです。逆に、悪い運をその人が運んで来るので次の会社が倒産するのではないかと思うくらいです。理論的背景は不明ですが、社員全員が不幸にならないためにこの視点も大事にしていました。
公やチームに貢献する姿勢
第四に、自分より公やチームへの貢献に力点を置ける人材か否かです。
自分の仕事と他人の仕事の距離を少なくし、公やチームに関心がない限り、ほとんどの会社では自分の仕事と全体の仕事効率が下がるはずです。こうならないためには、私は仕事というボールの受け渡しを考えながら自分の仕事をする必要性を社員に口を酸っぱく説いていました。このことが、結果として、周囲の人間から認められ「公の心」「チーム力」も向上させることになるからです。
仕事と家庭の関係も重要です。トップのポジションを目指す人は、少なくとも、「公の心」を最大限優先しなければならないと、私自身は考えそのように努力をしてきました。
CSK(現SCSK)の故大川会長からある会社の経営を引き受けるときに、最初に言われたのがこのアドバイスでした。今も鮮明にこの時のやり取りを覚えています(詳細は、「これからの課長の仕事」をご参考にしてください)。リーダーが、私欲でなく明けても暮れても公のこと、会社のこと、社員の幸せを最優先で考えない限り、その会社は競合に比して社会的影響力が明らかに劣る存在になり下がると今でも思うからです。
全国のたくさんの採用関係者の方々、少しは参考になりましたでしょうか。経営層がどのような採用視点を打ち出すかは、コントロールできない部分がありますが、人材の入口をどのように考えるのか、経営層もふくめて関係者全員で議論してみると、双方の視点の一致がさらに多く見られるようになると思います。結果として、その企業の「企業風土」づくりと関係してくるかもしれません。
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