折々の言葉 / 語り継ぐ経営
第208回 今、リーダーに求められている経営の視座(3)
前号の続きです。
リーダーの仕事
トップたるリーダーの仕事は沢山ありそうですが、一番大切なことは常に自社の発展の機会と策を考え続けることです。
事業の計画をいかにして達成するか、そのための商品戦略、人材戦略をどうするかなどを考え続けることです。考え続けると不思議と「知恵」が湧いてくるように思います。その知恵を紙に言葉で落として、自分自身で妥当性などを検証してみる。戦略の具体策を言葉でストーリーにして、社員に説明して彼らの共感を得られるかを試してみる。更に考え抜いた挙句、自分の言葉でビジョンを浸透させる。戦略に落としていく。
これが私自身が実践していたリーダーの仕事です。実行段階では、我慢しながらも現場のマネージャーに任せる、決して箸の上げ下ろしまでの指示をしない経営を行うことです。
リーダーの仕事で具体的なものとして特に重要な一つは人材育成です。
人材育成の例
人材育成には、基本的に本人自身の習慣づけが肝要です。それを支援するために会社や上司が何ができるかを常に考えておかなければなりません。
・良い手本に多く触れさせ、社員が自分の目を肥やす機会を与える
手本と比較して、自分がどういう状態かを正しく認識するきっかけが習慣づけの始まりです。優れた同僚や上司の中に育成したい人材を入れることです。
・上司によるレビューなどの機会を持ち、本人が真摯に振り返るプロセスを持たせる
学習する良い習慣ができたら、その習慣を定着させるために上司にできることがあります。育成のため、PDCAをしっかりまわす方法を講じることです。
育成を狙って適切な、少し実力より上の仕事を与える。失敗するまであえてやらせてみる。失敗したら、そこで初めて失敗の原因などを彼にフィードバックする。二度と同じことをしないように彼の俊敏な修正行動を意識したアドバイスを行う。自らもこのプロセスを回す癖をつけさせることです。
フィードバックの時に失敗した事実を受け入れる素直さを彼に持たせる工夫が重要です。
・効果的な育成には業務を分解して難易度に分けて実践させ、そこから学ぶ機会を増やす。
私は、成長のレベルにより質問の仕方を変えています。
ビジネスの効率化を例にとると、「ビジネスの手順が滅茶苦茶だ。どうする?」と問う方法をまずとります。
それでも難しい場合には、「顧客とのやり取り、手順が複雑すぎるかも、少しそこら辺を見てくれる?」と仮設を投げます。
それでも難しい場合には、「契約書の内容を簡便にしてくれる?」と、具体的な仕事に落とした指示を出します。
結構難しいのですが、いずれの場合も、そのレベルに合わせて、部下が成長できる機会を上司として与えるためです。今アドバイスしている企業でも、社員の成長段階に即して、同様な質問を工夫しています。
リーダーの資質
考え抜き、
それを戦略として社員に落とし込み、
具体策を彼らにゆだねるのがリーダーの大きな仕事だとすると、
リーダーの資質自体が問われることになります。
私が考える資質は:
・リーダーは、本質を見抜く洞察力が第一に要求されるとしてそれをどう育むか。
生まれながらにして本質を見抜く力を持っている人は少ない。
勉強して知識を身につけ、それを下に経験を積み重ね失敗から知恵を身に着けることです。経験を積むことで、新しい事象に対しても類似のケースをもとにした対処方法を見つけられるようになるからです。
・公と私の峻別ができ、それを実行できる人です。
特に、お金の使い方に公と私の判断基準が出てきます。この原稿を、6月11日に書いていますが、どこかの知事の金銭利用問題が報道で論じられています。個人的には、そもそもこのような人はリーダーになる資格が最初から欠如していると考えます。個人の私腹を肥やすことしか考えず、市民を幸せにする戦略など考えていない。税金、すなわち民の努力の結果の税金を勝手に私用したとしたら、政治資金規正法があろうがなかろうが、本来はいわゆる「泥棒」と同じ行為です。どんな説明をしようが、キャッシュの動きが真実を語っています。私も幹部社員で同様なことが発生したことを明確に記録に残しています。
・リーダーの仕事も第一線の社員の仕事も、こと仕事という観点から言えば、全て平等であることを前提に社員に対処することです。
よもや、社長の仕事が、第一線の社員の仕事より重要だなどとの発想を抱かないことです。社長には社長の仕事が、現場の第一線には彼の仕事があります。どの仕事が無くても事業はバランスよく成長しません。皆の仕事がかみ合って初めて、顧客に商品を提供できるからです。ベンチャー企業のリーダーには、この平等意識が欠如している人を多くみます。
・相手の立場になって考える余裕を持つことです。
『言志四録』の中で佐藤一斎が説いている「恕」です。相手の立場を慮る行動です。
仕事が人と人との人間関係を抜きにしては考えられない以上、リーダーは相手の立場、部下の立場に一度戻って考えることが必要になります。
・専門家、プロを大事にすることです。
自らが全ての分野で専門家にはなれません。リーダーもしかりです。
何でもかんでも自分でやろうとの考えは、余り生産的ではありません。しかし、少なくとも事業分野に一定の知識を持ち、経営上必要な議論が出来るくらいのレベルは必要です。部下の専門性を大事にしながらも、変化の激しい時代に対応できる経営選択肢を適格に選べる素養を持たなければなりません。
・本物志向です。
シンプルで本質的なものが誰かに選ばれやすいです。削いでいき最後の本物の部分が残ると思います。それにはリーダーが普段から本物に触れる機会を増やすことが肝要です。
・何かに遭遇したら、止まる勇気を持てるかです。
慌てない。漂流を避けるために止まってじっくり考えることです。戦略目標の実現のため暫く止まって周囲の状況を見るのが、結果として早く目標に到達できるかもしれません。
ベンチャーの経営者には逆の動きをする人を多く見かけます。バタバタ慌てて、失敗を重ね、結局資金を自ら枯渇させてしまう。止まって失敗の原因を探り、次のステップに入ればよいのに、入らずこのような不幸を自ら招く人も、残念ながらいます。
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