折々の言葉 / 語り継ぐ経営
第253回 戦略の策定の大前提—環境認識(7)
前回からの続きです。
(3) 世界の経済をかく乱する要因が多くなる、その中でのビジネス展開には、自社のみではコントロールが難しいリスクがあるとの認識が不可欠です
このように成長が予想される中国やインドなどが世界経済を引っ張っていけるのでしょうか?そこでのビジネスのリスクはないのでしょうか?
c) 中国でのビジネスの難しさとリスクをどう見る
企業の経営者なら、大きなマーケットたる中国などへ進出しようという戦略上の選択肢は当然出てきます。このマーケットが大きな潜在的収益源になりうるからです。
既に日本から中国に進出している経営者達に伺う機会がありました。成功している人、当初の目論見通りにはいかなかった人と、いろいろでした。以前よりは改善したとしても、中国でビジネスを展開するリスクは、聞けば聞くほど悩ましく映ります。
本来、地勢的リスクはどの国へ進出しようがあるものです。しかし、他の国でのビジネス展開の時のリスクとは異質なものがもしあるとしたら、それは事前に詰めて適正な戦略判断をしばなりません。
中国は日本の25倍の面積を持ち10倍の人口を擁しています。この国を、わずか7人の中国共産党中央政治局常務委員が動かしている中央政府を考えると、果たして政府が適正な政策判断をできるのか、中央政府の強権をもってしても、国の隅々まで政策が正確に浸透していくのかを、まず疑問に思います。地方政府の腐敗などの撲滅を必死に叫んでいるのを新聞などで読むにつけて、これが止まらない証左かもしれません。
統治力の問題は別としても、進出企業にとって技術が盗まれることは最大のリスクです。私的財産の保護が極めて緩く、先進国から最新の技術を盗むほうが安上がりという慣習が未だに改善されていない状態では企業は安心できません。また、事業進出にあたり関係機関に提出する技術に関するデータや書類の守秘も安全なのかが心配になるとの話を聞きました。
最近では品質の管理に力を入れる企業が多くなったとはいえ、元来中央の計画に従って一定量の製品を作ることこそを目的にした国なので、どちらかと言えば、品質より生産のほうが優先するのが一般的とのことです。
また、ビジネスが上手くいかず何らかの事情で撤退を決断しても、それが容易ではないと聞きます。中国との合弁事業の解消自体が関係する役人にとっては自分の将来の出世に明らかに不利になるので、解消を簡単には認可しない。結局、設備などを捨てるか、時には支払いまでして逃げ出すしかない状態もあると聞きます。これでは、進出をためらう要因になってしまいます。
更に困るのは、中国政府の反日政策です。国内の不満がある一点を超えると、そのはけ口を外交に求める。特に、これまで日本は、直接反論せず時間の経過で何とか収まるのを待つ姿勢を示してきました。これが彼らにとってはくみしやすい国ととらえられ、国民の不満のはけ口のために日本や日本の企業が標的になるというビジネス活動上極めて大きなリスクを抱えています。
d) 個人主義というより自分主義にどう対応する?
中国でのマネジメントも大変と聞いています。
もともと中国人は集団より自分を中心に考え、非常に現実主義のようです。自己主張や自己弁護が上手い国民で、本音と建前の使い分けが上手で、臨機応変に言い方も変えてくる国民のようです。
その一例が、政治の世界での尖閣諸島の問題です。
尖閣諸島は、魚釣島、北小島・南小島などの島々でなりたっていますが、日本国への帰属に関していろいろな本やサイトから得た情報を私なりに整理すると、1885年、福岡の実業家、古賀辰四郎氏の開拓許可申請を機に、日本は1895年にこの諸島がどの国も支配していない無人島であることを確認して閣議決定により日本の領土に編入し、翌年から、民間人に島の土地を貸与、民間人が鰹節工場などを営み、一時は人口が約250人いました(その痕跡の写真もあり)が、1940年に工場を閉鎖、無人島になり現在に至っています。
1968年、国連アジア極東経済委員会(ECAFE)による「尖閣諸島周辺海域に石油埋蔵の可能性あり」の報告発表(この前年に日本、台湾、韓国の専門家らが実施した学術調査の報告書を基にしたもの)後、中国が領有権を主張し始めたということです。それ以前の1920年には、遭難した中国人を救助した日本人への当時の中華民国駐長崎総領事からの感謝状には、遭難した福建省の漁民が漂着した場所として「日本帝国沖縄県八重山郡尖閣列島」と明記されているとのことです。また、1953年1月8日付の人民日報には、「琉球諸島は・・・尖閣諸島、先島諸島・・・の7組の島嶼からなる」の記述もあると、ある本に記載されていました。
要は、石油の埋蔵の可能性を知った頃から、尖閣諸島の帰属についてのそれまでの主張をがらりと変えて臨機応変に自分の主張をしてきているとみえるのです。証拠が出てきてもこのような対応をする人です。同様な姿勢は働く人々にもあるようで、反日教育を受けて育った自己主張の強い人をマネジメントする苦労も並大抵ではないことも聞きます。
リスクを冒さなければ、メリットを享受できないのも事実です。しかし、そのリスクが事業主体としてコントロール可能な領域がどれほど大きいかが戦略上非常に重要な部分と考えます。政変などで事業の継続自体が突然困難になると、それまで築いた現地マーケットでの信用も一気に吹っ飛んでしまうほどのリスクかもしれません。新たに進出、現事業の維持・拡大、または、売却・縮小等いろいろな戦略のどれを選択するか慎重な分析を必要とします。
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