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折々の言葉 / 語り継ぐ経営

第250回 戦略の策定の大前提—環境認識(4)

Posted on 2017-08-17

前回からの続きです。

(2) 「人口オーナス期(人口構造の変化が経済にマイナスの効果を及ぼす時期)」に突入してきている事実を認識し、その対応が不可欠です 

 日本の人口の推定では、2010年には1.43億人の人口が2014年は1.26億人に減少しました。さらに、今後100年で人口が三分の一に激減するという計算もあります。

 2025年頃には65才以上の人が人口の3割以上を占める時代です。

 このデータを見る限り、よほどの抜本策が講じられない限り、若手の労働者が生産性を上げて潤っていたボーナス期のような経済成長期は、今の日本の人口構造においてはもう期待できないのではないでしょうか。

 その一方で、経済成長率は労働力人口の増加率だけでは決まらない、経済成長と人口はほとんど関係がないという議論もあります。

 労働生産性を上昇させる最大の要因は、新しい設備などを投入する「資本蓄積」と「技術進歩(イノベーション)」であるとの論理が背景にあるものと思われます。これは私が学生時代に学んだレオンチェフなどの「経済成長論」のモデルの通りです。特にイノベーションによって一人当たりが生産するモノが増えるという論理です。もちろん技術進歩にはハードの進歩のみでなく、ノウハウなどのソフトの技術も含まれると見るのが妥当です。

 確かに日本のような高度に発展した国では、人口のみではなくイノベーション技術 (技術進歩)の力が大きく経済の成長に影響を及ぼすことは正しいかもしれません。

 しかし、あくまで私見ですが、この議論は過去の産業革命時の成長パターンの議論かもしれません。かつては肉体的につらい仕事を機械が代替してくれ、電力エネルギーや新しい機械が生産力をあげてきましたが、今のAI化の時代では、少し違うパターンを示す感じがします。

 特に、人口オーナス期においては、若手の労働力の減少がイノベーションのもたらす生産性向上を凌駕して、全体として生産性は低下傾向になるのではないでしょうか。

 こうなるとこの時代、労働集約型の事業は難しくなります。人間が個々の家庭に宅配する事業は、消費者には便利としても配送担当者の不足などから事業の難しさはすでに報道などでご存知の通りです。

 また、対象とするマーケットが若者向きだとすると、競争が激しくなり、新商品が売れにくくなる傾向がでてきます。

 ところが逆に、高齢者を対象とするビジネス展開では、戦略さえしっかりしていればチャンスは拡大することになります。介護関係、高齢や生活習慣病医療、がんなどの患者視点を重視したヘルスケアの必要性が大となることが予想されます。

 このように、人口オーナス期において、ビジネスのチャンスが広がる事業と縮小を余儀なくされる事業が明確になります。このことを経営戦略の絵図の中にしっかり明示して今後の事業の集中・取捨選択に役立てなければなりません。

 

a) これまでの収益のソースが細る事業が出てくるはず。これを炙り出す

 「人口オーナス期」に突入した途端、これまで成長を支えてきた事業が、今後も「金のなる木」であり続ける保証が希薄になり、事業の取捨選択の決断を促すことになります。

 部門売却という冷徹な判断をせざるを得ない場面が登場してきます。

 環境の変化が味方をしてくれないと読んだ場合、トップの肝いりで長年続けてきた事業でも収益率が下がり会社全体の足を引っ張る前に、「捨てる」決断をする。このための冷徹な環境分析で妥当な根拠を見つけることが経営戦略上不可欠です。

 好き嫌いで事業の取捨選択をするのでなく、環境分析による当然の結果として、その事業がより活かせる会社に売却するのも、選択肢として出てきます。

 世の中いろいろな考え方をしている人がいるので、Due Diligenceの結果次第ですが、その部門に関連する社員もろとも引き受けてくれる売却ディールが成立する可能性もあります。自社にとっては「捨てる」ビジネスですが、他社にとっては、違う見方をすることもあるのです。

 

b) 敵の進出を研究した上での集中と分散を図る。複数の収益ソースを持つ

 事業を集中する時の決断で重要なことは、競合も含めたマーケット全体の流れ、特に、技術革新がもたらす影響です。昨日まで優位な事業でも、同一商品機能を劇的に安価な方法で作る技術を持った会社が、突然出てこない保証はありません。

 シャープの『亀山モデル』の例です。

 シャープはブラウン管に代替する液晶テレビに代表される独自技術で「オンリーワン企業」を目指すべく2000年ごろ頃「AQUOS」を市場に出し、これに集中して売上を劇的に伸ばし「亀山モデル」としてMBAの大事にも取り上げられたのは皆さんもご記憶の通りです。

 ところが、シャープが選択と集中を進めていた2009年頃に東京のベンチャー企業がファブレス方式で激安の液晶テレビを開発したのです。ディスプレイにはサムスン製品の液晶パネルを使い、他の部品を組み合わせて、ある会社の流通チャネルを通じて5万円台の液晶テレビを売り出しました。

 この結果、競合しないとみていたシャープの顧客が激安テレビに流れてしまったという、悪夢のようなことが突然発生したのです。少し後付けの説明になりますが、『亀山モデル』への集中の失敗です。このことがシャープの屋台骨を揺るがす原因になったのです。

 これまで競合とみなされなかったところから、まったく新しいビジネスモデルで攻撃してくるかも分かりません。屋台骨の収益ソースが一気に細るリスクもあります。集中と選択は非常に重要ですが、リスクに備えて収益の柱を複数持つことの重要性もこの例が教えてくれます。

 

 

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