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折々の言葉 / 語り継ぐ経営

第249回 戦略の策定の大前提—環境認識(3)

Posted on 2017-08-10

(1) 今は、新しい情報産業の革命の真っただ中にいる明確な認識が不可欠です

 前回からの続きです

 

e) 情報産業の技術が生産性を上げる道具から働く人との関係を抜本的に変えるものへと変化してきた

 考えてみると、20世紀初頭までは機械は働く人が生産性を高めるための道具でした。テクノロジーの進歩で社会が繁栄し、経済の好循環をもたらしてきました。

これが1970年代から崩れ始め、バブル以降働く人の所得は減少気味になったのです。

しかし生産性は上昇し企業の内部留保も増加しても、働く人の雇用は創出されない事態が出てきているのです。

極論すると、今や機械が人間同様に働く時代、働く人そのものになってきました。機械が人間に代替するものになってきている部分があるのです。

工場のみならず、サービス部門でも機械が人間にとって代わりつつあります。一番進んでいるのは金融の分野です。現在の株式取引の主流はトレーディングアルゴリズムを組み込んだ、高速の自動化された売買取引です。また、コンピュータが自らデータを収集して、ニュース記事に仕立て上げる人工知能も誕生していると報じられています。楽曲も自動でコンピュータが作ります。AppleのSiriのような自然言語処理テクノロジーが更に進歩すれば、消費者がモバイル端末と会話をすれば買い物行為の一部が端末経由で済むようになるかもしれません。

 これらの技術革新は、道具としての技術と働く人との関係を根本的に変えるものになりつつある認識が大事ではないでしょうか。

 働く人と機械との関係が根本から変化してきている、これが情報産業、特にAI化時代の特徴です。

 

f) AI化への対応による自己変革が急務である 

 パラダイムのシフトが起き、消費者の行動まで影響を及ぼし、働く人と機械の関係が変わってくるとすると、企業のデジタル化のタイミングと戦略対応の遅れは致命的となります。

移行するのをためらっていると破壊的な敵があらわれるかもしれません。Amazon.comが良い例です。商品の選択、仕入れ、価格設定などほとんどの企業でこれまでは人間の手に委ねられていたものも機械に委ね、取扱商品数、手許に届くまでの時間、顧客満足度などかなりの部分がデジタルで管理されていると聞きます。こうなると、従来の方法では太刀打ちできません。

 この一例を紹介するまでもなく、今や世界で通用するインフラ技術をある意味で所与として自らもデジタル技術を利用した自己変革を企業内で進められるか否か、このために戦略策定上必要なことにどう手を打つかが持続的成長の決め手となるのではないでしょうか。

のために、

i) 自社のビジネスモデルを再定義しなおすこと

 ものつくりやサービス開発のビジネスモデルを、ITを活用したビジネスモデルに定義しなおすのも方法です。自社ではこれまで、代理店を通じた仕入れルートの確実性がものつくりやサービス提供のビジネスモデルの中核だった。ところが今や、沢山のサプライヤーと直接接点を持つことが可能で、しかも必要なモノを調達できる時代になってきた。こうなると、むしろ売ることが困難な時代です。仕入れルートに力点を置いたビジネスモデルから、販売の多様性、高価値性に力点を置いたものに再定義し直すのも方法です。

デジタル化をきっかけとして、自社のビジネスモデルを環境変化に対応できるものに定義し直すのも解決策です。

 上記の例では、これまで代理店が顧客だったかもしれません。しかし最終の購入者を顧客と再定義すると、彼らに、いかにして最大の付加価値を提供できるようなバリューチェーン構成をするかがポイントとなります。自社の商品やサービスの提供価値がどの顧客にどう映るのかを明確にして、どのようなクラスター別のバリューチェーンを構築するかが戦略上のポイントになるのかもしれません。

ii) 顧客の選択に値する経験(Experience)価値を提供すること

 消費者は常に新しいモノやコトを求めてきます。新たな価値の創造や流通自体がデジタル化で加速した結果、主導権が消費者に移行していることを再認識しなければなりません。

 しかも、上記d)で述べた通り、顧客は性能やサービスの良さのみでなく、彼らの選択に値する経験(Experience)という価値の観点を重要視しています。

 従って、企業側もこれまでより以上に、「快適」で「楽しい経験」価値を提供するスタンスが無ければ、消費者をひきつけられません。最近登場したYouTube動画の「PPAP」はこの例です。一気に世界中に広がりました。問題は、このような道具を利用した情報伝達である種のシャロウシンキングが蔓延する傾向が強くなることです。この場合、一部を補完すべく「口コミ」や紹介の効果が増す傾向がありますので、企業側としては何らかの「仕掛け」を必要とすることを忘れてはいけません。

iii) スピード感を持った組織体とすること

 変化の激しいこの時代です。環境の激変に対して早期にかじ取りが変更できる経営が望ましいです。何事にも時間がかかるのが当然とする経営スタンスは疑問です。商品開発、技術開発もしかり。自社開発に拘らず、外部の会社や大学との連携で積極的に早期に技術を吸収していく姿勢が組織として欲しいです。

 

g) AIで職が減るか?

 少し横道に入ります。機械が人間の仕事を奪うのではないだろうかという疑問は誰でも持っていると思います。

 どんな事業でも自動化されやすい仕事はなくなると思うのが自然で、現実に目を向けると、過去にも機械が肉体的につらい仕事を解放してきました。銀行の支店でも、かつて沢山いた窓口担当者が、業務の自動化で代替されてしまいました。

 その一方で、自動化で仕事がなくなるという考え方は誤りだとの主張もあります。自動化で生産性が上がれば仕事は減るのでなく、かえって増えるという主張です。

 甲論乙駁、いろいろな議論があるにしても、今後確実に自動化され早晩なくなると思う仕事の特徴は、誰が考えても、

 ・人との対面を必要としない仕事、

 ・定型的な内容を他の人に伝えるだけの仕事、

 ・複雑でないデータの内容を分析する仕事、

 ・ものを単純に操作する仕事、

 ・秩序だったルール(税金の確定申告書類作成など)がある仕事などです。

 上記に加えて今、新しい自動化の波が来ています。その波はAI化の波です。

 金融業界のFintechの世界では、目まぐるしい革新を遂げています。

 AI化で、機械化が難しかった銀行の融資係、クレジット・アナリシスといった比較的ノウハウを必要とする職種でも今後代替の可能性が高いのではないでしょうか。

 アメリカでは、コンピュータで人間より高いファンド資金の運用勝率の戦略を割り出し実行している会社もあると聞きます。ロボット利用による個人の資産運用を担うサービスは成績も良く、おまけに人間より手数料が安くこの仕事がロボットに奪われ始めたニュースもあるほどです。

 AI化の潮流の中で、人間の仕事をどんどんロボットが奪う傾向を強めていくかもしれません。逆にロボットに奪われない仕事の特徴は、誰が考えても次のようなものでしょう。

 ・営業、交渉、説得など人的接点が必要な仕事

 ・相手の人間の感情を理解しながらでないと成立しない仕事、

 ・微細な部品修理など、指先の器用さなどスキルが必要な仕事、

 ・芸術活動や創造的な仕事等です。

 いずれにしろ、自動化に対抗するカギは、人間が機械の能力に近づくか、機械の能力が人間に近づくか、理論的には二つしかありません。非常に悩ましく、人間の知能や感情はどうなるのか心配です。できれば、機械が人間を超えないで欲しいです。本件についてはシンギュラリティの問題などを含めて別途項を改めたいと思います。

 

h) 戦略との関係をどう見る

 以上の認識を基にして戦略絵図をどうするかです。

 情報産業の革命の時代の潮流に乗るのも戦略、乗らなくて成長策を見つけるのも戦略です。

 例えば、中世の時代に印刷技術の技術進歩で書物を発刊する容易さが到来し、沢山の人が知識習得の恩恵を受けたと本に記載してあります。ところが、今やIT技術の革新で、本や冊子というものを物理的に発刊することを必要としない時代が到来しています。読者に本の内容を読んでもらい知識を豊富にすることに貢献してきた既存の出版事業は、情報産業革命がもたらした電子化の影響で大きなパラダイムシフトのど真ん中にいます。

 この変化の中でどう生き延びるかについて各社とも真剣に戦略をたてているはずです、潮流に乗って自らIoTを駆使したビジネスに衣替えをするのも選択、IoTを駆使しなくても自らのノウハウを下に事業周辺に違うマーケットを自ら造って、そこでシェアを取る作戦を展開するのも選択です。自らの成長ドライバーがどういう効果を発揮でき戦略目標が全うできるのかは、戦略での選択次第です。

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