折々の言葉 / 語り継ぐ経営
第233回 何故、我が社が伸びないか?
新年からいきなり「ひどいテーマ」と、思われるかもしれません。
しかし、私のようなプロの経営者から特定の会社の経営を観ると、「そうだな、これでは会社が伸びないな」と思うことがよくあります。経営のエキスに照らして、特定の経営の仕方について思い当たる節があるからです。
会社が伸びない要素は沢山あります。
それを要約すると、
(1)経営者の力量の問題、
(2)組織の運用力の問題、
(3)ストーリー(物語)になった綿密な「事業計画」や経営計画がない問題
の3つです。
これら3つの要素が多層的に重なり合って生じる諸問題が、「何故会社が伸びないか?」の答えとなりますが、今回は、この三番目、綿密な「事業計画」や経営計画の部分に焦点を当てたテーマを取り上げることにします。
綿密に練られた事業計画
もちろん、経営者の勘と才覚である程度は伸びる会社もあります。しかし、それでもある段階から自社の成長・発展に壁を感じてくるはずです。「何故もっと自社が伸びないんだろう?」と誰にも言えない悩みを、経営者は抱くはずです。
私自身も、ベルシステム24の経営を託された最初の段階でこれと同様な感じを抱いたことがあるので、その気持ちがよく分かります。これを感じない幸せな経営者も世の中にいるかもしれませんが、その経営の行く末は予想がつきますので、ここでは取り上げません。
全ての事業の先行きは不確定要素だらけです。しかし、それでも経営者は経営のかじ取りをしなければならない。環境の変化に合わせて臨機応変に対応できる天才的経営者もいるのですが、それは少ない。だとすると、一定5年後の読みや洞察を組み込んだ将来に向けての事業計画(この策定の仕方は別稿の予定)が必要になります。
これが必要ないという議論も、もちろんあります。しかし、日夜競争で戦う社員すべてがベテランで優秀な粒ぞろいである場合は、これが是でしょうが、一般的には、そうならない。それでも競争で勝ち続けるには、やはり綿密に練られた「事業計画」が大きな助けになることを、私も体験して知っています。
経営のスピードが違う
頭ではそのことを分かっていても、それを重視しない経営者が結構多いことを最近感じています。一定の中期的スパンで捉えると、「事業計画」が策定されない場合、経営のスピードで損をしていると私は捉えます。経営にとって重要な潮流の変化への、会社全体の対応に遅れが生じているはずです。
経営の軸が定まっていないことからそうなります。これを「事業計画」の中で明示していくべきなのですが、それがない。事業計画の中で、自社は「x年後に、こういう姿でありたい。そのためにこんな戦略を実践したい。第1年目にはこの戦略を重点的に展開したい。・・・」と、数年後の自社の理想的姿と各年度の事業計画をデザインし、その実現を目指したストーリー(物語)を描いていないからです。
これを描くことは、会社の「仕組み」を整備することになるはずで、これも経営のスピードを上げる大きな要因となります。万一自社の計画の実現が危ぶまれると察知した時には、その原因、環境の変化と経営計画での作戦との対比で、軸のブレ度合いをチェックでき、速やかに軌道修正がとれる。このことが、結果として、「経営のスピード」を増すことにつながります。すなわち、「事業計画」こそ、会社が伸びる大きな要素をはらんでいるのです。
事業計画の策定をさせない誘因
この事業計策定を積極的に後押しさせない誘因は何でしょうか?
・事業計画自体に対する経営者の無知による
この場合は、経営者本人が無知であるだけで、その解決は容易です。経営者に経営指導することで解決できます。
・経営者の自信過剰に起因する
これは少し厄介なところがありますが、これも指導が可能です。
ただし、経営者自身に相当の覚悟が必要となります。本人の自信の鼻を時にへし折られるような経営指導内容が発生するかもしれない。しかし、それでへこたれるような経営者は、元々プロの経営者になる資格の入り口で不合格になるか、普通の経営者で終わる運命にあると考えます。
・「まだ大丈夫・・・」と現状把握の弱さに起因し、計画行動を先延ばしする
これは沢山の経営者に見られる現象です。経営計画を早く策定すれば、それだけ、エネルギーロスが少なくて済むはずなのに、経営者が環境変化への洞察や作戦の着地が遅れ、結果として、事態の急変を知り、慌てて突然降ってわいたように社員に無計画に仕事を落とすことにもなりかねないのです。経営の混乱をきたします。
創業時の仲間意識を引っ張る経営者に時々見られる現象で、「まだ大丈夫」と、仲間意識で物事を見る従前の癖がこびりついてしまっている場合です。時代の変化のスピードが経営者を始め創業時の仲間の成長のスピードよりはるかに超えていることに気づかない、もしくは、気づきたくないケースです。
この場合も、現状認識を再認識させるための少し荒療治が必要ですが、経営指導で何とかリカバー可能です。
・古い体質を引っ張る現場の抵抗に抗しきれない
現場に環境の変化を察知する能力が欠けているか、変化に対して現場が毛嫌いする社風が全社の隅々にこびりついている場合です。加えて、現場の長に無言の力がある場合、これはさらに大変です。現場の長の成長が会社の成長の器に入りきれない場合です。
このように現場の指導者の意識変化ができない場合には、たとえ創業時からのメンバーでも、「泣いて馬謖を斬る」くらいの経営者の決断が不可欠となります。
学ぶこと、挑戦すること、環境の変化を先取りするマネジメントをすること、などの体質を植え付け、常に自らを変革する社風を創る努力を普段から浸透させておかなければなりません。
これも少し荒療治になりますが、解決可能です。逆の事象でないのがむしろ幸いです。現場が変化したいのに、経営者がそれを洞察しない、適切な行動を起こさない、これらを事業計画として反映させない場合は、かなり問題が複雑で解決に時間を要します。主要人事も含めた対応が不可欠となります。
・経営に本気度が欠如している
実は、経営者自身が会社の成長・発展へどの程度の本気度があるかが最後の大きな問題です。しかも、経営者が会社の成長・発展と社員の自己実現をどれだけリンクさせた発想を持った上での本気度か否かが問題です。
いろいろな障害があっても、描いた経営目標を達成しようとする「気魄」が経営者にあるか否かが、このことと関係すると考えます。
「気魄」の「気」は経営活動や生命を維持するエネルギーです。この文字は、旧字体では「米」の分解文字をもっており、お米を炊いた時にわき上がる湯気、上流へ気が流れる様子とも考えられ、「魄」の文字も脈打っている状態を表しています。すなわち、上流に向かう脈打つエネルギーです。
健康な経営を全うするには、経営者自身が事業計画の内容を一定期間かけてやり遂げようとするこの「気魄」が無くてはダメです。しかもこの「気魄」が日常的に行動で表現さればなりません。社員を沢山雇用し、その社員を巻き込んで経営目標を実現したいのであれば、目指す目標、戦略内容、資源の補充も含めて事業の計画の中で具体的に明示しなければ、社員のベクトルは合いません。エネルギーは結集できません。
是非、「事業計画」を綿密に策定するところから始め、必ず自社が成長する筋道を見つけてください。
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