折々の言葉 / 語り継ぐ経営
第223回 思考の仕方
人間誰でも最善の判断をしたいと望む。しかし、いろいろな要因でできないことが多いのが実態です。そこで少しでもそれに近づくために、何を留意したら良いか。
人の性格にもよるところ大です。何事も気にしない人、なんでも気にしすぎる人。ただし共通な点もありそうなので、そこを浮き彫りにします。
1.誰でも自分にとって都合の悪そうな情報は軽視しがちです。
これは戦略を立てる時によくわかります。今後確実に発生が予想される事態を軽く見る。自社には影響が少ないと勝手に推論してしまう。人口の減少、高齢化で自社の商品動向への影響をつぶさに検討せず、先に戦略展開をしてしまう思考の仕方の過ちを犯しやすいです。
2.銘柄で判断しやすい。実質的な内容へ行く前に、そこで判断の吟味を遮断しやすい。
これも戦略策定で気づきます。誰か著名な人が述べている見解を重んじる傾向が強い。その人は自分の立場でものを言っている場合が多いのに、その立場のところを無視して、その人の一般的な銘柄を尊重して、その人の言うことをうのみにしてしまう傾向があります。
商品開発などしかり。著名な人が特定の状況でその商品を推薦していることを、「あの人が言うような商品を・・・」と、自社の「強み」や「弱み」の分析を飛ばして、一足飛びに結論に行きやすい。自社の置かれている事情をつぶさに分析したうえで、銘柄著名人の意見を参考にした戦略を練る。これが最も良い解決策です。
3.自分の不安に同情か賛同する人の意見を入れやすい。
経営をしているとたくさんの不確定事象が発生するので、経営者は不安になりがちです。その不安を誰かに話したくなる。この相手がポイント。自分の不安に対して「それは違うんではない?」と、反論する人の意見を聞こうとしない傾向が強い。同情する人、賛成する人を探しがちになる。
戦略論でこれが最大の問題です。長年経営をしていると、先が見える感じがする。片方で、先行き不安が募る。この場合も他の事象についての検討を怠り、本人の意見に沿うような戦略になりやすい。これでは失敗の確率が高い。また、その経営者の不安の根源の前提が動かしがたいものか、あるいは、他の方法で前提を排除できないかも吟味しないで、いきなり結論に達している場合が多い。客観的な事実と前提要件を詰めながら対応する度量を持ちたい。
4.「自分の考えこそ・・・」と自分を過大評価しやすい。
これは誰にでもある傾向です。逆にこれがないと自身のプライドが保てないのも事実です。しかし、一歩下がって、自分の考えが本当に周囲から正当な評価を受けるものかを立ち止まって見直す勇気を持ちたい。困ったことは、このような人は自分の考えに凝り固まり、しかも、誰が見てもその人は自分の能力を過大評価しているとしか思えないタイプの人です。これはなかなか治療法がない。自己反省の機会を作るより方法がありません。
戦略の策定の時には、このような人をメンバーに加えないのが最善です。
少し横道に入りますが、私の事例です。ある中堅の人材を自社で引き受けた。前の組織では鼻持ちならない存在なので人事部のトップが何とか他への移籍をできないかと考えていた矢先に、当方が頭に浮かんだ。背景を説明後、「何とかこの人を引き受けてくれないか?」との懇願に当方も一応受諾。そのトップから「前の組織では彼を不要としているからとも言えない。そこで彼のような人材を必要としているので是非、移籍をお願いしたい」と、当方からの要請の形にしてくれとの依頼。引き受けるからには、社交辞令も時には必要。ところが、彼が自社内で多々問題を発生させるので、他の人との接点の少ない部門に配置転換したところ、これが不満で本人は他の人に「請われてきてやったのに・・・」と減らず口をたたく。挙句の果てに、他の不満分子と一緒に当方に嫌がらせの工作をするという極めて残念な結果になったことがあります。今でも、本人の置かれた事情を分からずに組織の中で多々迷惑をかけているのではないかと残念で仕方がない。自分のみを過大評価する。国家試験などに何回も失敗し、方向転換せざるを得なかったような人に多く見受けられる現象です。自己評価が高く、世の中を斜めに見やすいタイプです。
これは極端な例ですが、皆多かれ少なかれこのような傾向を持っていることを忘れずに、自分と他者との関係を冷静に見る癖をつけなければなりません。ましてや、中期的な経営の在り方を決定する戦略などでは特に重要なことです。
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