折々の言葉 / 政治と国民
第172回 多極化時代の世界とアメリカの現状から学ぶこと(2)
前回の続きです。
アメリカの変貌
前回のコラムで世界が多極化時代になって、アメリカが自由主義陣営の盟主の座を降りてしまったことにふれましたが、私は、アメリカが今大きく変わりつつあると認識します。
すなわち、
・国際政治力が低下しています。
・一見経済は成長しているように見えますが、内部でいろいろな問題を抱えています。
・所得格差が拡大し、貧困が構造化してきています。
・中間層が崩壊しています。
・財政赤字により軍事費が削減されてきています。
国際政治力の低下
政治の世界でアメリカの力の相対的低下がみられます。これを決定づけたのは、2年前の2013年だと思います。
2013年9月10日、オバマアメリカ大統領がシリア問題に絡んで、「アメリカはもはや世界の警察官ではない」と述べたのがきっかけです。世界の人びとが、アメリカが西側世界や自由主義陣営の盟主の座を降りた発言と捉えた旨報じられました。この発言には、私も心底驚きました。「あのアメリカが?」との思いでした。
2013年にシリアのアサド政権が、化学兵器を使用したとした調査報告国連に提出され、その年の8月、「首都ダマスカス周辺で化学兵器が使用され、大量の犠牲者が出た」というニュースが流れました。
アメリカが、国際法違反のみでなくアメリカの核心的利益(ある国がよく使う言葉です)に関わるとして、同盟国も含めてシリアへの介入を真剣に計画していたのは、記憶に新しいと思います。
ところが、イギリスのキャメロン首相が議会の反対にあって共同介入から脱落し、結果としてアメリカは正面切った介入を差し控えました。ある意味この落胆が、オバマ大統領の先の発言の背景にあったかもしれません。それだとしても、この演説内容には本当に驚きました。
今振り返ってみれば、サミュエル・P・ハンティントン氏の言う多極化時代の幕開けを彷彿させる出来事だったのではないでしょうか。
中東などでの混乱
これ以降です。中東のシリアや欧州のウクライナなどで、国際社会のルールを無視したあからさまな行動を起こす集団や国が出てきました。言葉は悪いですが、ある意味でやりたい放題になってしまいました。南シナ海では中国がベトナムやフィリピンと、東シナ海では尖閣諸島をめぐり、中国が日本に対する挑発としていろいろな行動を起こしています。イランでもスンニ派アラブ諸国が歴史的に優位を占めてきた均衡を崩壊させ、隣接諸国を通じてシーア派勢力圏の拡大の行動を起こしてきました。
アメリカの力の低下の隙に、ロシア、中国、イランは勢力圏・支配権を拡大しようといろいろな行動を起こしています。この隙に乗じてそれ以前の世界の秩序を壊しつつあります。これら一部の地域で発生している政治不安が、今日ヨーロッパに押し寄せている難民問題につながっているとみます。
その意味で、アメリカが自由主義陣営の盟主の座を降りたことで、多極化時代に伴う文明間の衝突を増長するきっかけをつくったことにならないでしょうか。
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