「農耕型企業風土」づくり / 折々の言葉
第159回 日本人の精神性(1)
只今、家内と共にオーストリアにいます。
今回の旅行にあたり、ゴルフ仲間の椿さん、五味さんから、「ハプスブルグ王朝の歴訪ですか」と半分揶揄されていますが、ある意味で当たり、中東欧州の歴史を現場研修するつもりです。彼らの歴史や文化との比較において、日本人の精神性を一度振り返ろうと思います。そのため高校時代に受験のために学んだ世界史を、再度少し予備学習してきました。
以前、このコラムで日本人の精神性について触れたことがありますが、今回は、日本人の精神性を表わす特色について数回に渡り述べさせていただきます。
1.和の心
今回はまず、「和の心」について述べます。
自分のことは後回しで、他の人のために働く
東京オリンピックの誘致の時、日本人が持つ「おもてなし」のサービス精神を、誘致委員会が世界に打ち出し成功しました。
私は、日本人が古来持ち続けている大事な精神性の一つとして、「和の心」があると考えますが、これは「おもてなし」をも包含するものと思っています。
和とは自分のことは後回しとしてまず仲間のことを考える、仲間のために働こう、サービス(おもてなし)しようということではないでしょうか。私の母や家内を見ても、何も考えずに家族や友人のために、その通りの行動をしている様子を見るにつけて、これぞ日本人の持っている優れた精神性の一つだと誇りに感じます。
また、このことを日本人は正しい生き方と信じていると思います。
闘争の歴史
オーストリアの隣国の東欧スラブ系の国々や西欧ゲルマン系の国々でも、地域によっては「和の心」と同様な精神性を持っているかもしれません。しかし、総じて言えば、やはり、日本人の持っている精神性はヨーロッパの国々に比して特色あるものだと思います。
この和の心と対照的なのは、ヨーロッパの中世の歴史、特に12世紀以降の歴史、領主や支配者たちの闘争の歴史です。それは、彼らの風土や歴史の産物とも言えるところがありますが、ある意味でアメリカ人やロシア人にも共通します。
痩せた土地、平坦で長い河が流れ交通に便利な地形。したがって、食料や良い場所を求めて民族が移動して激しい闘争が発生し、結果としての併合、分割が起こりました。イギリスとフランスなどでは1339年から1453年までフランスのカペー朝の王位承継でもめ、100年間戦争をした歴史さえあるほどです。このような闘争環境下で数千年生きて鍛えられると、マキャベリが『君子論』を著わした時代ほどではなくとも、今もヨーロッパの人びとの人間性には、自分のことを優先して考える心が活きている部分が多いと思います。
災害に直面して
翻って、日本での出来事を思い起こしてみます。
東日本大震災のあと天皇皇后陛下が避難民を訪問された映像を、私は鮮明に覚えています。確か、皇后陛下が「生きてくれてありがとう」と、お声をかけられたシーンでした。
親族間で投げかける身内の言葉です。自分のことより、まず仲間のことを最優先に考えるこの発想は、皇室のみならず一般の日本人にも古来引き継がれている「和の心」を象徴しているのではないでしょうか。
また、東日本大震災や先の伊豆大島の不幸な災害を映像で見るに、他の国で発生したこのような事態での映像と明らかに違いがあることに気づきます。日本では、このような大変な事態に直面しても、自分より他人や仲間のことを心配している映像を見ます。しかも、それが何か特別なことをしているという感じが全くなく、自然に出ている姿です。
自分より仲間のことを考える、この心こそ日本人の精神性の一つです。
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